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愛される王女の物語  作者: ててて
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レオン・クラン・カスティリア

レオン視点です。

私が初めてあの人に...ドミニカ様に出会ったのはちょうど5歳になったばかりの頃だった。

私の今は亡き毋に連れられ後宮に御挨拶に行ったのだ。


母上とは違う紫色の髪と瞳で、煌びやか...いや、その派手過ぎる装いに苦手な人だと感じてしまったのは今でも変わらない。


「お初にお目にかかります。レオン・クラン・カスティリアと申します。以後、お見知り置きを。」


そうしてまだ、少し慣れない不格好な礼をした。

そうするとドミニカ様は目を優しそうに細め、口をにこやかにした。


「これはこれは、レオン様。ご丁寧にどうもありがとうございます。

私はドミニカですわ。どうぞ、第二の母だと思って下さいませ。」


見た目よりも遥かに優しそうな物腰に私は少し警戒心を解いてしまっていた。

ああ、この方は見た目よりも穏やかな人なのではと。

だが、その勝手な想像は直ぐに打ち砕かれる。


「ああ、そうだわ。アリナ様もいらっしゃっていたわね。あまりにも質素な装いだから気付かなかったわ。

ごめんなさいね...?」


そういい扇で隠す口元は見なくても分かるほど歪んでいるだろうと感じた。



母上はその物言いに不機嫌を示すように眉を寄せたが、直ぐに戻す。


「いいえ…お気になさらないでくださいまし。今日はこの子の挨拶で来たのですから。」


そう言って、軽く流していた。

そんな安い喧嘩を受けるほど頭も弱くないのだ。さっさと挨拶を済ませ、帰るつもりでいた。


「…そうですわね。あぁ、そうだわ!せっかくなのですからお茶会なんていかがかしら?私、もっとよくレオン様とお話したいのです。」


ドミニカ様はこれはいい案だとばかりに先に決め、近くのメイドに指示をした。


母上はあまり変えない顔を少ししかめ、忌々しそうにドミニカ様を見つめていた。


断ってもよかったのだが、あまりこの人に悪い印象を与えるべきではないと判断し参加することになった。


母上はとても嫌そうだったがさっさと終わらせて帰るわよと目が語っていた。


席につき、お茶会が始まる。

時間のほとんどをドミニカ様がお話になり、ご自分の得意なこと、好きなこと、趣味や何故かお父様についても多く語っていた。


ドミニカ様のお生まれは隣国のアスクエート帝国で第3皇女だったそうだ。

アスクエート帝国は海に面しており、貿易が盛んだった。それに目をつけた父上…国王陛下はアスクエート帝国とカスティリア王国に協定を結んだ。


陸地での貿易行路でカスティリア王国の領土を渡る代わりに、アスクエート帝国の海路の貿易航路を確保した。そんな協定だ。

そして、その協定をより強固にするためにドミニカ様との政略結婚が決まったのだ。


だが、お父様は元々結婚だなんだという話は

苦手で、母上との結婚も国王という地位に収まるためだけのものだったらしい。

そして、今回も国の実益のためだ。


結婚だなんて名ばかりで、ドミニカ様を早々に後宮に放り込み放置しているというのが今の現状だ。


まぁ、お父様が物凄くドミニカ様を嫌っているというのもあるのだが…



ふと、耳を済ませると女の子の泣き声が聞こえる。


「あら、ラベンナが泣いていますわ。私に会いたくなったのかしら…?」


そう思うのであれば、早く会いに行けば良いものを。


「私のラベンナは、それはそれは可愛いのですわ。私に似たのかしら…ふふ。この前もね…」



そうして、また話が始まる。

私は最早遠い目をして、これはいつ終わるのだろうか。と感じていた。


ふと、母上を見ると顔色が少し悪く感じる。

近くに控えていたメイドを呼び、支えられるように立ちながらも母上はこちらを見やった。


「ごめんなさい…少し気分が優れないみたいで……そろそろおいとましましょうか。」


はい、と立ち上がろうとすると私の手をドミニカ様が掴んだ。


「お待ちになって。レオン様、まだ私とお話しましょう?私、まだまだ話し足りないのですわ。アリナ様、ご気分が優れないのでしたら直ぐに医務室に行かれた方が良いのではなくて?」


私はその一瞬、この人が何を言ったのか分からなかった。


何を言っているんだこの人は?

母上は正妃、貴方よりも地位は上だ。その方にその言いざまはなにか?


頭に血が登り始め、掴まれた腕を振りほどこうとした。が、その前に母上が弱々しい声で話し出す。


「……何を言って………。うっ…」


益々、顔色が悪くなっていく。そんな母上が心配になり、気づいたら声を出していた。


「母上、私は大丈夫です。ドミニカ様とお茶会を続けますので、早く王宮にお戻りください。私は、大丈夫ですので。」


そう強く見つめ、母上に伝える。

母上は酷く眉間にシワを寄せていたが、暫くして頷き、メイドに支えられるようにして王宮に戻って行った。


「…ふふ、それではお茶会に戻りましょう。」


そうして何事もなかったかのように椅子に座りティーカップを傾ける姿を見て、私は信じられなかった。


その心に不服は募るものの、大人しく座り彼女の出方を待った。


「アリナ様は相変わらず、お身体が弱いですわね。心配ですわ。公務など務まるのかしら。」


そんな、安すぎる心配要らないのだが。

公務ができない貴方が言うか。

お父様がドミニカ様には任せられないと判断し公務を一切任せていない。それを本人は私が特別だからと勘違いしているようだが。

全く、その自信は何処からくるのやら。


「それに、ソフィア様も部屋から出てこないし…レオン様は大丈夫ですか?」


「…大丈夫とは何がでしょうか?」


「ほら、お寂しく感じませんこと?そうですわね…私のことを母と思い、その寂しさを埋めても良いのですよ?どうぞ、遠慮なさらないでくださいまし。」


いえ、どちらかと言うと貴方を穴に埋めたいと思っておりますので遠慮しておきます。


「…お優しいですね。ご配慮ありがとうございます。」


ニコニコと貼り付けた笑顔のまま答え、早くこのお茶会という名の無駄な時間を終わらせようと思っていた。


そこに1人の少女が近づいてくる。


「おかあさま~!!!」


淑女とは到底思えない程の大声をあげ、ドタドタと走ってきている。

ピンク色の髪にピンクの瞳で少しふくよかな少女はそのまま思い切り、ドミニカ様に抱きついた。


「あら、ラベンナ。王子様の前ですよ。もっと着飾って来なきゃだめでしょう?」


注意するところはそこではない。と思ったのは私だけでは無いはずだ。



というか…本当にこの子が…?

このドミニカ様に抱きついたあと、こちらを見てキラキラとピンク色の目を光らしているこの子が第1王女のラベンナ王女?


初めて見たが……なぜ……?


彼女の顔をじっと見ても答えが出ない。

帰ったら父上に聞いてみなければ…



なんとなく察しているだろうが、私は今日初めて後宮に立ち寄った。

今まで父上と母上に絶対に近づくなと言われていたが、今日ばかりは仕方がない。


今日は、私の社交デビューの日なのだ。

まぁ、社交デビューと言ってもまだ5歳なのでまともなことはしないだが、仮にも第1王子なので皆の見本に立たなければならない。


なので、例えどんなに嫌でも建前だけ、後宮に足を運ばなければならない理由があったのだ。

双方、ふたつのピンクの瞳がこちらを見て離さない。

ここまで見られるのもどうなんだろう…

失礼とか考えないのかな。


外面はしっかりしとこうとニコッと笑っておく。すると、ラベンナ王女はみるみるに顔が笑顔になっていった。


そして、私の椅子の隣に立つと腕にしがみついてくる。


「このひと!わたくしのおうじさまですわね!わたくしがけっこんしてあげますわ!

しあわせにしてくださいな!」


そうニコニコと笑う姿は一見、小さいこながらの可愛らしさがあるかもしれない。が、

いくら私と一つ年下の4歳だからといって、ここまで教育がなされていないのはどうなんだろうか。


この子、仮にも私の妹で王女なんだよね?


人の服をグイグイ引っ張るなんて言語道断。しかも、王族がそんな軽々しく結婚だなんて……どこか上から目線だし。


どんな教育をしているんだ。とドミニカ様に視線を向ければ、ドミニカ様は口を歪め笑っていた。


「あらまぁ、ラベンナ。大胆ね……。でも、結婚だなんて…素敵ね。」


思わず、背中に悪寒が走った。


「そうですわよね!おかあさま!

さぁ、おうじさま。わたくしをしあわせにするとちかってくださいませ!

まえに、おかあさまからききましたわ!

ちかいをするとぜったいにまもってくれるんですわ!」


そういって無邪気に笑いながら私の腕を引っ張るこの子に私は驚きが隠せなかった。


今、なんて言った…?

誓いだって?


確かに、この国には婚約者になる人、自分にとって何者にも変えられない大切な人、または恋人に永遠の思いや幸せにすることを伝える『誓い』がある。それは王族だって同じで、むしろ、王族はそれが撤回できない。


一度やったらそれが決まりだ。

法律と同じように規範で決まっており、破れないのだ。


それをまだおよそ4歳の少女が知っている。

確かに、女性は憧れるだろう。だが、4歳児が結婚なんて考えるものなのか?


私はその瞬間、あるひとつの疑問が浮上した。


ラベンナは言ったのだ。()()()()()()()()と。


ドミニカ様は、私とこの子(ラベンナ)を結婚させようとでも考えているんだろうか。


まさか…そんな……ね?





そのあと、どうにか『誓い』はできない。とラベンナ王女に伝え、その後散々泣きじゃくられた。

そうして、ラベンナ王女が落ち着いたと思ったら、そこからドミニカ様とラベンナ様の他愛もない(どうでもいい)話が始まる。



私が王宮に帰れたのは日が大分傾いた時だった。




私はその日1日が一番長く感じた。

ラベンナ王女は落ち着きがなく、気品もなかった。後宮でどれほど甘やかされたのかよく分かった。


ドミニカ様は……時折、特にラベンナ王女が私に抱きついたり引っ付いたりと、スキンシップが激しい時のあの歪んだ笑い口。

そして、卑しいほどの目。



私は忘れられなかった。



その日以降、私は父上と母上の言いつけなど関係なく後宮に自分から近づこうとは一切しなかった。





「レオン。…どうだった、後宮は。」


あれから数日が経ち、今は歴史を学んでいるときだった。


父上が勉学の時間に私の部屋に来るなんて初めてのことだった。

きっと、やっと空いた時間にわざわざいらっしゃったのだろう。呼んでくれれば私が足を運ぶのに。


家庭教師は恐れおののき、挨拶をして部屋からさがる。



「そうですね…」


あの日、ドミニカ様と会って話したこと、聞いた事。そして、見た物を丁寧に伝えた。


父上は椅子に座り腕を組みそれを静かに聞いていた。その目には何が映っているのか。



「そうか。レオン、アイツの娘には会ったか?」



「はい。出会いましたが……あの子は本当に王族ですか?」


私はずっと不信感を抱いていた。あの無邪気に笑うピンクの瞳。あれはカスティリア王族であればありえないことだ。

我々、カスティリア王族には代々続く瞳の色がある。それは透き通るような青色。


王族特有のもので、象徴とも言える。


父上も、もちろん私もその青の瞳だ。

だが、彼女はピンク色だった。先祖返りか…そんなことがありえるのか。



「…私は、あの女を抱いた…いや、あの女と子作りした覚えはないぞ。だから、お前の想像通りだ。」




やはり、そうか。

ということは、あの子は王族でもなんでもないんだな。


そう思うと良かったと安心してしまう自分がいた。それほど、私はあの子もあの人も苦手になっていたんだな…



「そのままでいいのですか?…いくらこちらが放置しているとはいってもそんな不貞は許されないのでは?」


「いや、面倒だ。なにより俺はあの女も、あの女が勝手に作った子供も大嫌いだ。関わりたくもない。金はやっている。後は、好きにすればいい。…何も無ければ、このままさ。」


「…わかりました。」


父上はそう返事する私に、少し口角を上げ適当に頭を撫でる。


この人は世間では恐ろしいといわれ、他国では魔王とも呼ばれているような人だ。


だが、私はとても優しい人なのだと思う。




そして、数ヶ月後、私の母上は呆気なく亡くなってしまったのだ。


病で。




レオンの過去編でした。

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