崩壊
「早く私のもとへ連れて来いって言ってるのよ、この役立たず!
あの女の娘をどこへ隠したのよ!早く言わないと殴るわよ」
そう言いつつドミニカ様は私の胸ぐらを痛いほど掴んでいた。
これほどご立腹なのは言うまでもない、シルフィオーネ様の姿が見えないからだ。
昨日、ドミニカ様の命令で庭に放り出されたシルフィオーネ様は、姿を消していた。
それは最早、私達使用人が夜になり姿を探した時には居なかったのだ。
心配した私を始め、他のメイドや料理人までもが一緒になり探した。
そんな中、悲しくも日は昇ってしまい、ドミニカ様に事のことがバレたのだ。
そして、シルフィオーネ様を私たちが隠したと思っているこの方はそうそうメイド達を問い詰めはじめた。
その最初の餌食になったのは、私だった。
「ほら!言いなさい、ミーナ! あなた、知っているんでしょう?早く言わないと後悔するわよ・・・!」
そういいつつ、片手を大きく後ろに振りかぶる。
―――私だって、シルフィオーネ様がどこにいるのか知りたいわ!
そう叫びそうなのを必死に我慢して目をつむる。
ああ、心配でたまらない。この後宮を出たこともないあのお方が無事なのか。真っ暗な夜に一人ぼっちになってしまったあの方が生きているのか。
そうしてドミニカ様のお手が大きくて風を斬ったその時、私の体がこわばった。
パアンと音はなったが、一向に痛みはやって来ず恐る恐る目を開けると男性がドミニカ様のお手を受け止めていた。
この後宮に、男性が立ち寄ることは一応禁止されている。
なので、その男性を見た私も、周りにいたメイドも、あまつさえドミニカ様さえも驚きを隠せないでいた。
「あら・・・貴方は誰かしら?」
何事も無かったように猫を被るドミニカ様は
あぁ、この人も一応は貴族の娘なんだなと感じる様だった。
「失礼いたしました。私は、カスティリア王国国軍第一部隊隊長ハンスと申します。
国王様直々の命により、何名かの使用人を王宮に移動させて頂きます。
ご了承ください。」
そう言い、突然入ってきたハンス様は次々に使用人達に指示を出し始めた。それもシルフィオーネ様をお慕いする者達ばかりに。
指示を出された使用人達は何もわからず、だがハンス様の方が当然身分が上なのでその通りに動き始めた。
そうしてやっと、呆けていたドミニカ様が覚醒し怒鳴り始めた。
「何を勝手なことをしているんです!!!
貴方、私の使用人に勝手に命令して許されると思っているの!?
不敬罪よ、不敬罪!!ここは私の後宮なのだから!!!」
そう叫び出すドミニカ様を見て、ハンス様は静かに溜息をついたように見えた。
「これは、国王陛下のご命令です。貴方様がそれを覆す言われはございません。
・・・あと、もう一つ陛下からのご命令です。2日後、王宮の謁見の間に来るようにと。」
その言葉を聞いたドミニカ様は、先ほどの態度が嘘かのように笑顔になった。
「あらあらあら、やっと・・・やっとなのね!!
やっと、私を正妃に迎えると決めたんだわ!こうしてはいられないわね。エステに新しいドレスも用意しなくては・・あと、宝石も・・・あ!ラベンナもおめかしをしなきゃ・・・」
そう言ってドミニカ様は慌ただしく部屋を出て行かれた。
「シルフィオーネ様は王宮にいらっしゃる。」
そのハンス様の言葉を聞いて私たちがどれほど安堵したものか。
ああ、やっとあのかたが救われる。
やっとあの方のお誕生日を普通に祝える。
そうはじめは喜んだ。だが、よく考えてみると、王宮?
なぜ今更?なぜ今まで助けてくださらなかったの?なぜ・・?
そんな怒りがふつふつと湧いてきた。
私たちにそんなことを言える資格がないのは重々承知だ。
一番シルフィオーネ様の近くにいたくせして、身分のせいで助けることもできなければ
恐れて口を出すこともできなかった。
そして私たちよりも幼い少女に守られるという情けに姿だ。
だけど、陛下なら、王子様なら…
シルフィオーネ様をお救い出来たはずだ。
なぜ、今になってシルフィオーネ様をようやくお救いしてくださるの?
何かにシルフィオーネ様を利用するの?
シルフィオーネ様を何か危険な目に遭わせるの?
シルフィオーネ様は王宮でも居場所がないの?
そんな不安に駆られ、良くない考えが頭を巡ってしまう。
あぁ、どうか、シルフィオーネ様。
ご無事でいてください。
私達は、優しくて、美しくて、可愛らしい貴方が大好きなのです。こんな役立たずの私達ですが、貴方を今度こそは、今度こそは守ります。
『誓い』をたてましょう。
例え、陛下が相手でも守ってみせると。




