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えいゆうたん‼︎  作者: 湾虎
序章『Preludio - 前奏曲 -』
8/10

序章 第8話「雨あがりの逃避行」

「僕は、父のような冒険者に、なりたいんです」


 レノの言葉に、マイアは目を伏せた。

 そして、長い沈黙ののちにレノへ視線を向ける。


「レノ君……」

 その瞳はひどく辛そうで。


「レノくんのやりたいことがあるなら、本当は応援してあげたいの。

今まで何も我儘を言われたことがないから、あなたに夢や目標ができたのなら、支えてあげたいの。お金の心配だってしなくていい。確かにレノくんが頑張ってくれている方が助かるのは事実だけど、それが無くたって家計はなんとかなるわ。それでもね……それでも、冒険者は、駄目なの」


 レノを突き刺すマイアの言葉はひどく鋭利で。けれど、それを放つ彼女の瞳もまた震えていて。


 未だに弱まる気配を見せない雨音が響く部屋の中、レノの心を支配したのは「混乱」だった。

 意志を支持されなかったことに対するものではない。むしろ、支持されなくて当然のものだと、頭は理解している。


 だがしかし、レノの胸の奥に、湧き起こる感情があった。それはひどく荒々しく、巨大な渦を巻いて、レノを飲み込もうとする。

 レノは、それに近づくことに恐怖を感じた。荒れた海のような道の感情の大波。それに触れると、自分が自分で無くなってしまうような気がした。

 視界に、マイアの姿が写り込んだ。視線を落とし、丸い体を小さくしてうなだれる叔母の姿が目に映った。


 瞬間、レノは弾かれたように逃げ出した。


「レノくん−−−?︎」

 レノの唐突な挙動に、マイアが驚いてこちらを見た。レノ自身も、自らの行動に困惑した。


 突然動き出した体は、脳内の混乱とは裏腹に、やたらてきぱきと動く。

 家事代行のアルバイトで稼いで貯めたお金を入れた瓶を掴み、数枚の衣類とともに鞄に詰め込む。

 なぜこんなことをしているのか、自分でも分からない。


 体はそのまま玄関へと足を向け、

「ちょっと、レノくん−−−⁈」

 背中に投げつけられた叔母の声を意に介さず、家を飛び出した。


 それは幸か、はたまた不幸故か−−−。

 知らぬ間に雨は上がり、レノの行く手を阻むものは、そこになかった。

 浮遊感と幼稚な全能感に麻痺した脳は、この逃避行の後先など、全く考えていないようだった。



 これが少年の、生まれて初めての家出だった。

読んでいただきありがとうございます。


長かった序章が終わり、ようやく本編へ突入します。

レノの冒険と成長に、乞うご期待。


よろしければ感想、レビュー、評価などもよろしくお願いします。

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