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4 城下案内


ユリアンナは、スコーピアと共に、これから寝泊まりするであろう兵舎の一室に通された。


「いらっしゃいユリアンナ! 今日から此所が貴女の家です! …なんて大それたことが言えるほど豪華な場所じゃないけど。取り敢えず個人用の寝台と衣服入れと机はあるわよ。それと、小さいけどお風呂もね。貴重品、お金とかの保管は机の上に箱があるからそれを使って。鍵と錠は中に入ってるから、今の内に入れちゃってね」

「分かりました」

「時間に関しては、起床時間も睡眠時間も特に決まってないし…、作戦と訓練に遅れなければ、基本自由にしていて構わないわよ。……ただまぁ、あんまり生活習慣が悪いと怒られちゃうけどね」

「食事の時間が決まっていたりもしないんですね」

「そういう国もあるだろうけど…、此所では特に決まってないわ、食事は余裕を持ってゆっくり食べるものだからね。皆は大体出来立てが食べたくてその時間を見計らって食堂に集まるから、人と話したいならそれに合わせて行けば良いし、人混みが嫌ならちょっと時間をずらして行くと多少マシよ。…訓練と作戦には、遅れないように動かなきゃだけど。まぁ、その辺の事はまた後で教えられるだろうから、今はあんまり気にしなくて大丈夫。……で、次に最重要!」

「っ、はい!」

「枕は自分に合ったものをすぐに見つけること!」

「……はい?」

「冗談じゃないわよ? 睡眠の質は全てを決めるわ。枕だけじゃなく、自分の睡眠環境に関するものは全て整えておくことね。取り敢えず今日寝てみて、違和感があったらすぐに買いに行った方が良いわね」

「そっか…、確かに睡眠は大事ですよね。心得ておきます」

「よし、それじゃあこんなものかな! 取り敢えず部屋の案内は終わったけど…、何か質問はある?」

「…一つあります。聞いていると、思っていたより時間に縛られている範囲がとても少ないんですけど、どうしてですか?」

「あー……、確かによく言われるわね、「兵士らしくない」って。…ユリアンナは、獣って知ってる?」

「はい、知ってます。ここに来る途中にも遭遇しましたし、どんな存在なのか察しもつきました」

「そう、なら話が早いわね。…奴等、どんどん勢力を広げてきてる。一匹一匹はそうでもないかもしれないけど、数に限りがないの。あれだけ狂暴なのが無限に襲ってくるのよ? それに対応し続けるんだから士気も何もあったもんじゃない。だからせめて、戦いから戻った後自分の好きなことが出来るように、つまりは、士気を維持するために自由な時間を多目に取っているってわけ。…あっ、でも反撃を諦めている訳じゃないわよ? 今は"傭兵"の時代なのよ」

「傭兵…、さっきも何度か聞きましたけど、どういう人達なんですか?」

「傭兵は、大分昔にミルズアース王国が設置した"傭兵組合"に所属する戦士でね。国や個人の依頼を受けて、獣の討伐や素材の採集に向かう勇者の集まりなのよ。彼等の中には、自分達の事を気取って"冒険者"と呼んだりする人も居るわね。私達とは違って国の訓練を受けてない人が多いからちょっと危なっかしいんだけど…、でもその代わり、彼等には獣を退ける確かな意志と力があるわ。言わば、私達兵士は人々を守る"剣"、そして彼ら傭兵は獣を退ける"盾"って事よ!」

「……やっぱり私、兵士になって良かったです。……ん? 私達が"剣"で、傭兵の方達が"盾"なんですか? 逆ではなく?」

「えっ、逆? …あー、そっか! そうよね、普通逆よね!? ごめんごめん、この班の戦い方がそうなもんだから。…えーっと、うん、逆ね。私達が"盾"で、彼等が"剣"よ」


「スコーピア、そろそろ良いか?」


「…っと、班長がお呼びね。行きましょユリアンナ」


ユリアンナは、スコーピアに連れられて、兵舎を出た。


「どうだったユリアンナ、部屋の居心地は?」

「今はまだなんとも…、でも不自由はしなさそうです」

「スコーピア、枕の話はちゃんとしました?」

「勿論よ、忘れるわけないわ。この班で一番睡眠に気を遣ってるのは私なんだから」

「なら安心しました。じゃあどうです班長、この後食堂の案内ついでに歓迎会っていうのは?」

「確かにこの後食堂には行くが…、一通り案内を終わらせてからだな。ユリアンナはこの街について何も知らない。周りの環境が分かってからでも良いだろう。…まぁユリアンナが構わないなら今でも良いが」

「いえ、案内が終わってからの方が良いです。そもそも、歓迎会なんて開いていただかなくても──」

「遠慮なんて必要ないですよユリアンナ、歓迎会は開きます。まぁ…本当に嫌なら強制はしませんが。この国の料理の味、知っておいて損はないですよ?」

「そんなこと言って、貴方は自分が食べたいだけでしょ」

「バレました? でも美味しいのは本当ですから」

「…ありがとうございます。じゃあ、楽しみにさせていただきますね」

「そうと決まれば、会場の下見も兼ねて食堂に行くか。案内しよう」


班長サイウスが食堂への方向を示し、第1小隊 3班はそれに従い歩き出した。


「……そういえばユリアンナ、何か趣味とかあります?」

「趣味…ですか?」

「ええ、うちの軍は自由時間が多いですから、暇を潰すものがないと逆に疲れますよ」

「趣味……趣味…、考えたことも無かったです」

「ええっ? それじゃあ暇なときは何をして過ごしてたんです?」

「…単語を暗記したり、課題を片付けたり……、でしょうか。後は必要な資料を作ったりもしてました」

「それじゃ趣味じゃなくて仕事ですよユリアンナ。…ていうか結構な働き者だったんですね、志願する訳だ…。そうではなくて、"ちょっと好き"程度でも良いですから」

「そんなことを言われても……、あっ、友達と一緒に出掛けること…は、違うか…あれは灯華だからだし…」

「……本当に無いんですか?」

「まぁ、ユリアンナにとっては仕事が趣味なのかもしれないな。それはもう兵士の才能と呼んでも良さそうだ」

「そんな人実在するんですね。…あー、班長も似たようなものか」

「あっ、じゃあユリアンナが良ければ、私、文字を教えるわよ! 読めないんじゃ不便だもの」

「良い考えですね。確かに指令書も読めないんじゃ話になりませんし」

「ユリアンナもそれで良い?」

「はい、是非! 覚えなくてはと思っていたので…」

「決まりね! 教材は何が良いかしら…、書店行って聞いてこないとな…。あっ食堂着いたわよユリアンナ」


ユリアンナはスコーピアに導かれ、前方に意識を向ける。食堂は広く、大きな机が幾つかと、それに沿うように多くの椅子が用意されている。何個かの空席が身を寄せあっていたり、同じ方向へ向いているところを見ると、この場所がどれだけ人で賑わっていたのかが分かった。だが、今は賑わっていないのかと問われればそうでもない。遅めの昼食か、今でも何人かの兵士達で席が埋まっていた。あるのは机と椅子だけではなく、誰が何を披露するのか簡易的な舞台があり、何を競わせるのかごく小さい闘技場もあり、その他諸々。ただ単に食事をするためだけの部屋ではなく、それは兵士達の総合的な憩いの場としての役割もあるようだ。


「此所が食堂です、飯時になると更に賑わうんですよ。多分、僕達王国兵が一番お世話になる場所だと思います」


「サイウス!」


と、ハールダンの声を遮って、少し遠くに居た真面目そうな黒髪の兵士が近付いてきた。


「三人とも戻って来てたのか。あの子の様子はどうだった? ちゃんと家に返せたのか?」

「やぁリーネバイド、彼女なら無事だ。無事なんだが…、兵士に志願してな。俺達の班に編入されることになった」

「…何だって? それは一体……」

「丁度良い。ユリアンナ、彼を紹介しよう。第17小隊 1班所属、名前はリーネバイド。倒れていた君を見つけ出した監視兵が彼だ」


監視兵リーネバイド。彼は誰が見ても堅苦しい印象を持つだろう。そしてそれは決して間違ってはいない。無駄無く整えられた短髪と群青色の瞳は厳格な雰囲気を宿しており、彼の仕事への姿勢が充分に伝わってくる。


「貴方が…! その節は本当にありがとうございました! 今日から第1小隊 3班に配属となりました、ユリアンナです。これからよろしくお願いします、リーネバイドさん」

「あ、ああよろしく。……ではなくて、どうしてこんなことになっているんだサイウス。経緯は?」

「彼女の護送中に獣と遭遇したんだが、どうやらその時の俺達の戦いに感銘を受けたらしい」

「そうだったのか…、てっきりそういう人は傭兵になるんじゃないかと思っていたよ、意外だ」

「私には、きっと兵士の方が性に合ってますから」

「成る程な…、私は第17小隊だから一緒に仕事をする機会は少ないかも知れないが、その時はよろしく頼むよ」

「ふふっ、後輩が増えて良かったじゃない。リーネバイド」

「よしてくれスコーピア。私は視力の良さ以外にこれと言って取り柄のない男だ。先輩らしいことは出来ないさ。…それじゃあ私は仕事に戻るよ、休憩中だったんだ。サイウス、しっかり案内してやれよ」

「ああ、任せておけ。お前も、異変を見逃すなよ」

「私を誰だと思っているんだ? 徹底するさ。それじゃあな」


監視兵リーネバイドは、手をはためかせながら食堂を後にした。


「さてと……、料理長! 居ますかー!」


ハールダンが、厨房の奥に向かって声を張り上げた。程なくして、調理服に身を包む茶髪の男性が現れる。


「はいはーい、…おっ、ハールダンか。なんだい?」

「豚串二つお願いします。塩とタレで」

「はいよ。……で、用は? 注文のために俺を呼んだ訳じゃないよな?」

「ええ、勿論。今日から僕達の班に編入された新兵の紹介をしたくて」

「おお、新顔か。この時期にゃ珍しいね?」

「ユリアンナです、よろしくお願いします」

「ユリアンナか、良い名だね。俺はサイカット、この食堂の料理長をやってる。この軍の士気、その大部分を俺達が支えていると言っても過言じゃないだろうね。これは俺の持論だが、「2倍旨い飯が食えれば士気も2倍」ってね。まぁ、よろしく頼むよ」


料理長サイカット。朗らかな印象が深い彼は、常に食事の質、その向上について思索している。研究者と言っても良いだろう。彼は戦いの秘訣は食にあると考え、料理に情熱を注いできた。輝きを宿した橙色の瞳は、その具現であろうか。


サイカットは、自己紹介を済ませた後、言葉を続ける。


「……時にユリアンナ、俺達はいつも新兵に受注生産の椀を贈っているんだが、好きな色とか、装飾はあるかい?」

「良いんですか? …えっと、好きな色は黒で、装飾は……青薔薇ですね」

「黒と青薔薇だね。…珍しいな、花を希望したのはハールダン以来じゃないかな? あの時は確か……」

「枝垂桜ですよ。花希望ってそんなに少なかったんですか?」

「ああ。皆は剣だの槍だの城壁だので、雅とは少し遠かったからな……いや、見方を変えればあれも雅なんだろうが」

「へぇ…、なんだか親近感が沸きますね、ユリアンナ。班長とスコーピアはどんな装飾でしたっけ?」

「俺は盾だな、盾に…王国の紋章が付いたやつだ」

「私は城壁ね、サイウスと似たようなやつ。前は頼もしいと思ってたのよ、今はそうでもないけど」

「…華やかさもあったもんじゃないですね」

「仕方ないだろ、好きなものは好きなんだから。…それよりサイカット、日が暮れた頃の飯時にユリアンナの歓迎会を開きたいんだが、準備を頼めるか?」

「ああ、良いよ。頼まれなくともやろうと思っていたさ」

「助かる。それじゃあ、次は訓練場だな」

「あー待った。ほらハールダン、豚串あがったよ。一本はユリアンナにおまけだ。ユリアンナ、味の好みや意見があればいつでも言ってくれ。とびきり旨い飯を作るのが俺達の仕事だからな」

「分かりました」

「さぁ行こう。訓練場はこっちだ」


ユリアンナ達第1小隊 3班は、食堂を後にした。


「……んーっ! やっぱり豚串最高です! この時ばかりは獣に感謝ですね!」

「ハールダンはそれほんと好きね。見る度に食べてる印象あるわ」

「こんなに手軽に食べられて、しかも抜群に美味しい! 毎日食べたくなるに決まってます! はい、ユリアンナもどうぞ! せっかくおまけしてくれたんですから、さぁ遠慮なく!」

「あ、じゃあ頂きます。……あっ、美味しい…!」

「ですよね! 串には種類も味付けも様々なものがありますから、是非色々試してみてください! 僕のお勧めはこの豚串ですが、鳥も美味しいですね! 味付けはやっぱり塩とタレの二強だと思いますけど、刺激が欲しいときは辛口がありますし、逆にあっさりいきたいときは酢もあります。他にも色々、気分に会わせて選べますね! 肉以外にも、魚、芋、野菜と網羅されていますから、今本当に食べたいものが見付かる筈です!」

「相変わらずご飯のことになると饒舌になるわね、ハールダン。なんかもう最近心地よくなってきたわ」

「スコーピア達もお勧めを教えてあげてください! ユリアンナの輝く食生活のために!」

「そんな大袈裟な…。んー、まぁ私が好きなのは甘味かなぁ。焼き菓子美味しいわよ。サイウスはなんだっけ?」

「俺は……うーむ、どれも甲乙付け難いな。強いて言えば、サイカット達の作る料理全般…といった所か」

「……班長は没個性ですね」

「ハールダン、お前は遠慮がないな…。……さぁ、着いたぞ、訓練場だ」


サイウスに前を指され、見るとそこは広い草地であり、踏みしめやすく、走りやすい。そして、多くの兵士が鍛練に勤しんでいる様子が目に入った。彼等は様々な武器を持ち、兵士の戦い方を磨いていた。ある者は歯を食いしばり、ある者は笑いながら励み、またある者は小休止だろうか、寝転がっている。


「ひえー、訓練時間でもないのに皆元気が良いですねぇ。疲れないんでしょうか」

「彼等はその分、食べて寝ているのさ。ここ訓練場は、各種訓練に使われることは勿論、常時解放されており、兵士達の鍛練場としても機能している。鍛練用の武器や防具、人形等も一通り揃っているぞ」

「どんな訓練があるんですか?」

「戦闘能力の強化を目的とした実践形式の仕合、人形等を相手にした身体強化、そして持久力強化を目的とした長距離走と…、後は訓練場のすぐ隣、馬術場で行われる馬術の訓練などだな。派生も多いので口頭で説明するよりも実際に経験して慣れていった方が早いだろう。他にも、遠方への獣退治が訓練の一環として行われる場合もあるが…これは城壁の外で行う訓練だな」


「おお、サイウス! その子が噂の新兵か?」


と、鍛練中の兵士がユリアンナ達に気付き、声をかけた。


「中隊長! もうお耳に入っていたんですか?」

「応、ついさっき兵士長から通達があってね。…君がユリアンナ?」

「っ、はい! 今日から第1小隊 3班に編入されました、ユリアンナです、よろしくお願いします!」


中隊長と呼ばれた男はユリアンナの言葉を聞くと兜を外し、朗らかな笑顔を向けた。


「ああ、よろしく。会えて嬉しいぜ。第2小隊 2班所属、アージェントだ。さっきサイウスが言った通り、第1中隊の隊長ってのをやってる。君の上司サイウス、そのサイウスの上司の──…ん? おい、アエリッサ! 一緒に来てたんじゃねえのか!? こっちだこっち!」


「…あたしもですかぁ? はーいはい、今行きますよ中隊長殿ー」


アージェントがアエリッサと呼んだ兵士が、此方へ駆けてくる。


「…で、何の用ですか中隊長殿」

「まず兜外せよ、これからお前を紹介すんだから」


アエリッサは、アージェントの言われた通り、渋々兜を外し、その美しい銀髪を露にした。


「はい外しましたよ。勝手にどーぞ」

「ったく、もうちょっとシャキッと出来ねえのか……。んじゃ、続けて紹介するぜユリアンナ。第1小隊 2班所属のアエリッサだ。彼女が、第1小隊の小隊長をやってる。つまりサイウスの直接的な上司だな。…で、アエリッサのそのまた上司、即ち中隊長が俺ってこった。…まぁややこしいかも知れねえが、覚えといてくれ」


第1中隊 隊長アージェント。彼は一見豪快で粗暴なひとであり、実際に面倒事を嫌う。しかしそれが必要とあらば苦い顔をしながら全力で打ち込む、内面はいたって慎重な人物だ。それは周囲の人間にも感じ取ることが出来る様で、頼れる中隊長として信頼されている。燃えるような赤い髪と、夕日を閉じ込めたような美しい瞳を持つ。


そして、第1小隊 隊長アエリッサ。彼女は責任感が強く、統率力にも優れており、特別派手な才能はないが兵士としては文句無しに逸材と呼べる人物だろう。…しかしそれは仕事中のみの話であり、平時の彼女は極度に面倒を嫌う。仕事中は決意を宿した力強い藤色の瞳をしているが、今は少しくすんで見える。


「中隊長殿、自己紹介の為だけにあたしを呼んだんですか? …なら用は済みましたよね。じゃ、あたし鍛練に戻るんで」

「待て待て待て! お前は小隊長なんだから彼女と関わる事も多いだろ! ……あー、サイウス。部隊の説明はもう済んでるか?」

「いえ、まだです」

「そうか、まぁ見たところ案内中みてぇだしな。んじゃアエリッサから説明させるわ。…ほら、頼むぜアエリッサ」

「あたしがぁ? …別に今覚えることじゃないと思うけど」

「早く覚えるに越したこたぁないだろ? …それに、彼女見てみろ。ありゃ吸収力凄まじいぜ」

「…えっと、それは何?」

「勘だ」

「出たよ、無駄に的中率の高い中隊長殿の勘。すっごい腹立つ。…で、何だっけ、部隊の説明? ……まぁ、えーっとだね…、小隊は全部で18あるの。で、それを1,2,3、 4,5,6、 7,8,9……と三つずつ束ねていったのが中隊。そしてこの六つの中隊を束ね全体の指揮をとるのが我らが兵士長ってわけ、簡単だね、おわり」

「随分簡潔に終わらせたもんだな…」

「こんくらいで充分でしょ。友達作りの参考にでもしたら? …えー、誰だっけ」

「ユリアンナだぜ、アエリッサ」

「そう、ユリアンナ。一応覚えとくよ、じゃ私はこれで」

「あっ、おいアエリッサ! ……行っちまった。何だかなぁ…。まぁ、がっかりしないでくれよ。仕事中は頼れる小隊長なんだ。サイウス、この後の予定は?」

「城下の案内をしようと思っています」

「城下ぁ? …あー、遠方からの旅人で右も左も分かんねえんだっけ。じゃあついでに武具の発注も済ませておけ。つってもサイウスなら分かってるだろうが」

「はっ、承知しています」

「あーそれと、帰ったら厩舎に寄ってくれ、馬を決めさせる。話は俺の方から伝えておくから、まぁゆっくり案内してやれ」

「はっ、ありがとうございます!」

「んじゃ、俺もこれで。ユリアンナ、また訓練で会おう」


アージェントは、アエリッサの後を追って鍛練に戻っていった。


「ユリアンナ、あの二人恋仲なんですよ」

「何っ!?」

「ハールダン、後にして。今は──…サイウスどうしたの、変な声あげて」

「……え? ああいや、少し意外でな。…そうか、どうりで……」

「えっ…班長まさか知らなかったんですか? あんなに露骨なのに」

「あー、俺はそういうものにはどうにも鈍感で…いや、今は関係ないだろう。じゃあ、これから城下に出るが…、道すがら馬について話そう」


ユリアンナ達第1小隊 3班は、訓練場を出て城門へと向かう。


「この軍では、軍馬は専用の一頭を選ぶ。共に戦う相棒というわけだな。中央都市故に遠征が多い我が軍には、不可欠な存在だ」

「名前も自分で付けるのよ? 私の馬はアジェルイスっていってね。凄く可愛い子なの」

「僕の馬はプルクラムです、毛並みが美しかったんで、即決でしたね。参考までに。…ほら班長も」

「ああ、俺の馬はライファルスだ。屈強で頼もしい馬でな。まぁ、訓練を積んだ軍馬は皆屈強だが」

「ユリアンナも、今の内に洒落た名前を考えておいた方が良いですよ」

「そうですね…、考えておきます」


そうこうしている内に、どうやら城門へ到着したらしい。サイウスが門に手をかけ、ゆっくりと開く。


「…さて、まずは防具屋だな、盾を選ぶとしよう。それと、鎧の発注だ」


門が開けられ、一行は城下へと歩き出す。


「あぁ、やっぱり盾なんですか。班長らしいです」

「当然だ。俺の班に編入されたからには──…そうだ、ユリアンナ。良い忘れていたが、俺達3班は剣ではなく盾を多用するような戦い方を好む。…盾は好きか?」

「好きですよ。なんでしょう…、安定感がありますよね」

「それなら良かった! 一先ず安心したよ」

「ふふっ、サイウスは兵士になる前から盾が好きでね。今でも稀に"盾狂い"って呼ばれるのよ」

「狂っているとは失礼な話だな。盾が攻撃に役立たないなど勝手な印象だ。殴る、押し出す、潰す等どれだけの戦術を秘めているか! そもそも盾にはそれなりの重さがあるんだから、それをぶつければ痛打となるに決まっている!」

「えっと…、盾で殴ることじゃなくて、その情熱が"狂っている"って事なんじゃないかしら? …あ、着いたわよ」


スコーピアが前方を指差す。防具屋はそれなりに大きく、特に目を引くのが、看板代わりだろうか巨大な甲冑と盾だ。店舗周辺もそれらしく装飾されており、堅牢な盾と鎧がいくつか展示されている。洒落た外観だ、戦いとの距離が近い店ではあるが平和な町並みにもよく似合う。


「ガレイムさん! 居るか?」


サイウスが扉を開き、中に居る店主へ呼びかけた。しばらくして顔を覗かせたのは、長く立派な髭を蓄えた老人だ。


「んん、サイウスか? 何だ、とうとう盾を壊したか」

「違う。今日新兵が入ったんだ、装備を拵えて欲しい」

「ほう、新兵か? この傭兵の時代に志願するとは酔狂な…」

「ユリアンナです、よろしくお願いします!」

「ふむ、ユリアンナか。俺はガレイム、防具職人をやっている。この街の兵士と傭兵どもは皆俺の店の装備を着てるぜ、まぁ防具屋は此所しか無いのだから当たり前な話だがな」


防具職人ガレイム。長く伸ばした白い髪と白い髭には貫禄があり、その瞳は比類無き炎を宿したような青色で、静かに、そして鋭く、老いてなお燃え上がる情熱を写しているようだ。


ガレイムは、ユリアンナに軽く一礼した後、サイウスの方へ向いた。


「…で、サイウス。まず盾か?」

「勿論だ。良い盾を選ばせてやってくれ」

「へっ、変わらねえなぁ手前も…。おいクランシア!」


ガレイムが店の奥へ声を張り上げると、程なくして藍色の髪をした女性が現れた。


「はいっ、師匠!」

「新兵の盾を選ぶ。店にある盾を一つずつ片っ端から持ってこい」

「承知しましたっ!」


クランシアと呼ばれた女性は、ガレイムの指示を受けると店の奥へと消えていった。


「……ガレイムさん、あの子誰? 初めて見るんだけど」

「ああ、弟子だ。…まぁ俺も、跡継ぎを考えなきゃならん歳でな、活きが良いやつを一人選んだ」

「へぇ、初耳だわ。あの頑固ジジイが弟子とはねぇ……」

「ガレイムさん教育とか出来たんですか? すぐ怒鳴りそうですけど」

「ハールダン手前、俺を鶏か何かだと勘違いしてんじゃねえだろうな?」

「いえいえ、滅相もない。で、どうなんですか、その弟子の評価は?」

「まだ素人だよ、今は評価なんざ出来ねえ。…だがまぁ、だからこそあいつに気付かされるものもあるんだけどよ」

「ガレイムさんが学んでどうするんですか…」

「弟子はとったが、俺ぁまだまだ引退する気もねえからな?」


「わあぁーっ!!」


と、店の奥からけたたましい音と、情けない声が響いた。何か金属製の物が崩れたようだ。


「…チッ、クランシア! さては一遍に運ぼうとしたな!? …ちょっと待ってろよサイウス。おい無事かクランシア!」


ガレイムは、弟子の安否を確認しつつ店の奥へと消えた。


「…くすっ、中々手のかかるお弟子さんみたいね」

「でもガレイムさんのあんな顔初めて見ましたよ。かなり心配してましたよね」

「ふっ、あの人も丸くなったものだな」


程なくして、ガレイムは弟子のクランシアと共に大量の盾を持って戻って来た。


「すまないな、騒がしくて。取り敢えず幾つか持って来たぞ。残りはクランシアに持ってこさせる」

「ありがとう、ガレイムさん。じゃあユリアンナ、一つずつ手に取って扱い易いものを選んでくれ。良いか、"今"扱い易いものだ。まぁ、このハールダンのように見た目だけで選んでも止めはしないが…後で苦労するぞ」

「ははっ、まぁあの盾を使いこなせるようになるまで必死で訓練する羽目になりましたね。形から入る人間なんですよ、僕は。ユリアンナもそうかは知りませんが…、自分の好きなように選んでくださいね」

「はい、やってみます」


ユリアンナは盾を一つずつ左手に持ち、サイウスに構え方を少し教わりながら試していった。盾の量は多く、様々な形があった。円形や凧型の標準的な盾から、攻撃を弾くことに特化した小型の盾、そして身を完全に覆う程の大盾(ユリアンナはまともに持つことすら出来なかったが)など、順に手にしていき、そしてユリアンナは自らの直感を信じ、一つの盾を選び取った。


「…ほう、こりゃ興味深い、サイウスのとよく似てるぜ」

「班長に…? そうなんですか?」

「…ああ、俺と殆ど同じものだ。親近感が沸くな」


ユリアンナが選んだ盾は、凧型の中型盾だ。装飾は抑え目で、武骨な印象を受けるが、取り回しに優れ、"殴る"事も容易に行える盾だろう。材質は金属製で少し重いが、ユリアンナはそこに安定性を見出だしたようだ。


「良かったです。これなら指導もし易いですね」

「全くユリアンナ、貴女って人は勉強家ですね?」

「はっ、そういう奴が兵士に向いてんのさ。そんじゃ、この盾を元に作らせてもらおう。…じゃ、次は鎧だな。クランシア!」

「はいっ! 師匠!」

「今度は鎧だ。大きさは……、70~80までを一式ずつ持ってこい。無理があれば幾つかずつに分けても構わねぇ」

「承知しましたっ!」


クランシアはガレイムの指示を聞くと、早足で店の奥に消えた。


「彼女…クランシアだっけ? 随分元気が良いわね」

「…そうだな、俺みてえな老人にはちと眩しいが」

「彼女を選んだ理由とかあったりするの? ガレイムさん」

「んん? …あー、あいつは防具職人になるのが夢とか言って、妙に真剣でな。……俺ぁそういうのに弱ぇんだ。自分の通ってきた道だからな」

「ふふっ、もうすっかりお爺ちゃんね」

「はっ、否定しねえさ」


「お待たせしましたっ、師匠!」


クランシアが、鎧の部位を幾つか抱えて戻ってきたようだ。


「おお、来たか。うむ、今度は無理せず上半身の防具だけを持ってきたな」

「はいっ! 次は下半身の防具を持ってきます!」

「おう、頼んだぞ。…さて、ユリアンナだったか? これから鎧の寸法を測るから、取り敢えずこの兜から着けてみな。ついでに鎧の着方もサイウスに教えてもらえ」

「はい、分かりました。班長、ご指南いただけますか?」


ユリアンナは次々と運ばれ続ける大きさの違う鎧を、サイウスの指導を受けながら部位毎に装着しては外し所感を述べるを繰り返した。終わる頃には、ユリアンナ自身である程度自由に着脱出来るようになっていた。


「……よし、大体分かった。ご苦労だったなユリアンナ。そんじゃあサイウス、三ヶ月もらうぞ。それまで出来合いのもんを渡しとく。それと、鎧の手入れはしっかり教え込んどけよ、くれぐれもな」

「ああ、分かったよガレイムさん。…スコーピア、これをお前達の部屋に運んでおいてくれ」

「分かったわ、戻るときは武器屋で良いかしら?」

「ああ」

「承知、それじゃすぐ戻るわね」


スコーピアはサイウスから盾と鎧を受け取ると、それを抱えて城へと駆けていった。


「それじゃガレイムさん。俺達はもう行くよ」

「おう、盾と鎧は任せときな。ユリアンナ、お前さんの活躍、期待してるぜ。そら、クランシアも挨拶しておけ。未来のお客さんだ」

「はいっ! またのご来店をお待ちしていますっ!」


ガレイムとクランシアに見送られ、ユリアンナ達は防具屋を後にした。


「…あの店も随分と和やかになりましたね。いずれあのクランシアが店主さんになるんでしょうか」

「ああ、時代の流れ…というやつなのかもな。俺達も年を取ったものだ」

「ちょっと、僕は班長達より年下ですからね!? てかそれ兵士長の前とかで言ったらぶん殴られますよ?」

「む、すまん。そうなのか」

「実際にぶん殴られましたから間違いないです!」

「ハールダン、お前兵士長の前でもその態度なのか…?」

「ええ、無駄に出世するのも面倒なので定期的に無礼を働くようにしています」

「…そんな姿勢でよくもまぁ兵士になろうと思ったものだ」

「最初は格好良いと思ってたんですよ。…そういえば、ユリアンナって何歳なんです? 結構若く見えますけど」

「えっと、18です」

「18歳!? えっ多分最年少ですよ! まだ子供じゃないですか!」

「…驚いた。妙にしっかりしているから、ハールダンと同じくらいかと思っていたが」

「お二人はおいくつなんですか?」

「俺とスコーピアは43だ」

「僕は38です」

「えっ!? 40……!?」

「…何だ、なにかおかしいか? 俺達は見た目通りの年齢だと思うが」

「見た目通り…? ええと……、じゃあガレイムさんは今おいくつなんですか?」

「ガレイムさん? 確か…、そろそろ140歳だったかな?」

「140歳…、そっか、寿命が長いんだ。吃驚した……」

「さっきからどうしたんですか?」

「いえ、実は私の故郷ではもっと寿命が短いんです。長生きする人も居ますけど、基本的には80年程で…」

「80年!? ほぼ半分じゃないですか! ユリアンナの故郷の人達大丈夫ですか? ちゃんと栄養取れてます?」

「いえ、健康です。きっと身体の構造が違うんですよ。何て言うんだろう、民族的特徴…とか?」

「…じゃあ、ユリアンナも短命なんですか?」

「それは多分…大丈夫だと思います。私は一度死んでいるので、体も作り替えられたんじゃないかと…」

「あ…そうでした。ユリアンナは転生者でしたね」

「はい。……あれ、ハールダンさん、信じてくれたんですか? 私が転生者だってこと」

「ええ、信じることにしました。「遠方からの旅人ということにする」って、つまり自分を偽らなきゃいけないわけですよね? 僕そういうの嫌いなんですよ」

「ハールダンさん…、ありがとうございます」

「いやー、でも班長! ユリアンナから見たら僕達もうおっさんですよ? なんか複雑ですよね」

「…そうか? 18歳から見れば、ユリアンナじゃなくとも俺たちはおっさんだと思うが」

「うっ、結構鋭いこと言いますね…」


「サイウスー!」


サイウスを呼ぶ声が聞こえる。スコーピアが戻ってきた様だ。


「あら、今武器屋に到着したところ? 随分ゆっくり歩いてたのね」

「ああ、ちょっと話し込んでいてな…」

「えー、私が居ない時に? 何の話してたの?」

「スコーピアがおばさんって話です」

「えっ、なに急にぶん殴られたくなったの?」

「誤解だスコーピア! ユリアンナが18歳で、彼女から見れば俺達はそうかもしれないという話だ!」

「なーんだそんなこと! 紛らわしい言い方しないでよハールダン──…って、ユリアンナ18歳!?」

「詳しくは後で聞いてくれ、入るぞ」


サイウスが武器屋の扉を開ける。


武器屋もまた、防具屋と同じで洒落た外観をしている。大きな剣が看板代わりに飾られ、様々な種類の武器が店先に展示されている。窓の下辺りに植えられている桃色の花は店主の嗜好だろうか、とても可愛らしい。防具屋との相違点は、その種類にある。剣や槍、弓矢などは勿論のこと、弩、斧、爪、戦槌もあり、曲剣や刺突剣、薙刀や戟といった派生品も合わせるとその数は計り知れない。


「グラディア! 仕事だ、起きろ!!」


店に入るや否や、サイウスの声が轟いた。すると、緑青色の髪をした女性が机の下から顔を出した。


「んぁ…誰? ……あー、えっと…誰?」

「第1小隊 3班所属、サイウスだ」

「あー、"盾狂い"の! って事は…、おっハールダンじゃーん、元気?」

「ええ、元気ですよグラディア」

「へへっ、そりゃ良かったー。…で、仕事?」

「ああ、今日新兵が入ったんだ。彼女の剣を用意してもらいたい」

「ユリアンナです、よろしくお願いします」

「わー、随分可愛い子連れてきたね! 兵士になってスコーピアみたいに筋肉だらけになるの勿体無いなぁ」

「筋肉だらけで悪かったわね」

「まぁでも、彼女みたいに可愛い子の武器なら張り切っちゃうよ! ちょっと待っててねー」


グラディアと呼ばれた女性はそう言うと、店の奥へと消えた。


武器職人グラディア。彼女の趣味はガーデニングと睡眠だ。店番中でも構わず眠ってしまうが、寝起きはとても良いので「来店時はお叫びください」という注意書を設置して対応している。透き通っていて美しい空色の瞳を持っているが、瞼が開いているのか閉じているのか常によく分からない状態なので視認は難しい。


「はいはーい、持ってきたよー。兵士の使う直剣、重さ長さ何でもござれ!」


と、そこまで時間の経たない内にグラディアは戻ってきた。両手に無数の剣を持ちながら。


「貴女の方がスコーピアより筋肉だらけだと思いますよ、僕」

「さーユリアンナちゃん、一本手に取って! そこに人形あるからさ、日頃の鬱憤込めて全力でズバッとやっちゃってよ! サイウスの班は盾を使うから、片手でかなー」

「えっと、こうかな…? はっ!」


ユリアンナは、グラディアから受け取った剣を右手でしっかりと握り、人形へと打ち込んだ


「そうそう! うーん、ユリアンナちゃん面白い振り方するね! 何だろう…無駄に格好良いというか?」

「あ…それは多分、演劇を少しやっていたからだと思います」

「演劇? ユリアンナって役者だったんですか?」

「いえ、趣味の範疇でしたからそこまでは……」

「へぇ…、ん、趣味? あるじゃないですかユリアンナ! 趣味!」

「へ? …あー、そういえばそうですね。確かに演劇は趣味だったかも知れません」

「なんでちょっと自信無いんですか」

「部長になってからは書類とか集会とか大変で…、気が付いたら演技とは疎遠になってましたね。あっ次の剣をお願いします。この剣は、ちょっと長すぎるかも…」

「分かったー、じゃあ…この剣はどう?」


ユリアンナは、防具屋で盾を選んだときと同じように一本ずつ丁寧に使用感を確かめていった。何分剣は無数にあるので、それを人形相手に試しながらサイウスに軽く指導を受け…、それはさながら訓練と似た様子だ。


そして、最後の一本を振り終わり、息も絶え絶えにユリアンナが選び取った剣は……。


「それだね? …ん、あれ、これってサイウスが最初に選んだやつと同じじゃない?」


ユリアンナが選び取った剣は、通常のものより少し短く、しかしある程度の重さと刃の広さがあり、どっしりとした安定感がある。


「…不思議なものだな、まさか剣まで俺と同じになるとは…」

「ここまで来ると偶然とは思えないわね…、運命的な弟子って感じ?」

「その様子だと盾も同じだったみたいだねー。じゃあ訓練の時、技をそのまま教えられて楽じゃん!」

「…グラディアの言う通り、都合の良い偶然と思った方が気が楽ですよ。考えすぎるとお腹も空きますし」

「…それもそうだな。じゃあグラディア。頼んだぞ」

「はいよー、任せて! 一ヶ月待ってもらうから、それまでは……、はい、出来合いの剣渡しておくからこれ使ってね!」

「ああ、助かる。ユリアンナ、剣は自分で持っていてくれ。重さに慣れておくと良い」

「じゃあユリアンナちゃん! また来てねー! もうほんと、ユリアンナちゃんなら世間話でもなんでも付き合うからさ、軽率に来て! ね!」


大きく手を振るグラディアに見送られ、ユリアンナ達は武器屋を後にした。


「凄いじゃないユリアンナ。あそこまで彼女に好かれた人、私初めて見たわ」

「余程グラディアの好みだったんですね」

「まぁ理由はどうあれ、人に好かれるのは良いことだ。…さて、取り敢えずやるべき事は終わらせたので、後は適当に城下を案内しようか。…と言っても案内が必要な程複雑な国でもないが」

「あっサイウス、じゃあユリアンナと一緒に買い物に行きたいのだけど良いかしら?」

「買い物? …ああ、語学の教材か?」

「そんなところよ」

「分かった。後で申請すれば予算が出るから忘れるなよ」

「勿論よ。広場に集合で良いわね?」

「ああ、そうしてくれ」

「ゆっくりで良いですよスコーピア! その間班長と屋台行ってるんで!」

「おい、ハールダン! そんな勝手に──…はぁ、分かったよ」

「ふふっ、仲が良いことで。それじゃ行きましょ、ユリアンナ」


第1小隊 3班はサイウスとハールダン、ユリアンナとスコーピアの二手に分かれ、別行動を取る事にしたようだ。


「さてと…まずは書店かなぁ、こっちよユリアンナ」


スコーピアに連れられ、ユリアンナは街道を進む。


「ねぇ、ユリアンナ」

「何ですか?」

「18歳って本当?」

「本当です。ただ…、私の故郷と此所ではどうも寿命が違うらしいので、"18歳"がどの程度のものなのかは、私にも分かりません」

「ああ、そういうこと。…じゃあ、ユリアンナは私たちから見れば短命ってこと?」

「ハールダンさんにも訊かれましたけど、多分大丈夫だと思います。私は転生者なので」

「あー、成る程。その…管理者だか創造主だか知らないけど、それに体を作り替えてもらったってことね?」

「その可能性は高いです」

「そっか…、じゃあそんなに気にすることでもないのかもね。最初は転生者なんて聞いて驚いたけど、見れば見るほど普通の人だもの」

「そう見えるなら嬉しいです」

「あっ着いたわよユリアンナ、此所が書店ね」


スコーピアが立ち止まり、近くの建物を指差した。


「わっ凄い…」


書店の外観は、"本に埋もれている"と表現出来るほどに本の装飾で溢れていた、本の形をした看板、本の形をした扉、窓枠、屋根……店主は余程の凝り性なのだろうか、この場所だけ別世界のようにも見える。


「ハンクリッドさん、こんにちはー」


スコーピアは、穏やかな挨拶をしながら扉を開けた。その声に、無機質な声が響く。


「いらっしゃいませ」


書店 店主ハンクリッド。華やかな衣装で身を包んだそのひとは、汚れを知らぬ純白の髪と、宝石のような深紅の瞳、そして陶器のような美しい肌を持つ。表情は儚げで無機質、動くものと言えば本に記されている文字をなぞる瞳と、ページをめくる片腕くらいなものだろう。


男性とも女性とも分からないそのひとは、ユリアンナ達に視線を向けようともせず、ただ言葉を紡いだ。


「何をお探しですか?」

「彼女に文字を教えたいの、教本にふさわしいものはあるかしら?」

「…その方は、どの程度文字を知らないのですか?」

「何一つよ。彼女、遠い遠い場所からの旅人だったの」

「それなら最適なものが御座いますわ、ラコルド著『枯れ井戸の底には礼を知らぬわっぱが潜む』が良いでしょう、持ってこさせます。トランストーネ! 本を此処へ」


ハンクリッドが表情一つ変えずに呼び掛けると、本棚の影から大きめのコートを着込んだ少年が現れた。両手で本を一冊抱えている。


「はいハンクリッド、こちらに」

「ありがとうトランストーネ。…著者のラコルド氏は獣学者です。普段は獣に関する学術書を出版されている方なのですが、この本は彼が「暇潰しに」と書いたものです。なので少々変わった文章をしていますが、それ故に"文字を習得する"という用途に合致したのです。130ブロンになります」

「へぇー、そんな本もあるんだ。ハンクリッドさんはほんと何でも知ってるわね。はいトランストーネ、200ブロンで良いかしら」

「お預かり致します」

「私が本に詳しいのは当然ですわ、この店に置いてある本は全て読了した上で陳列していますので。…その本に関しては、私が直接ラコルド氏に出版を勧めたというのもありますが。……トランストーネ、お釣りは右腰の鞄よ」

「すっ、すみませんハンクリッド! …えーっと、70ブロンのお返しです」

「ありがとうトランストーネ。…ふふっ、いつ見ても愛らしい子ね」

「…手のかかる助手です。他にお探しの本はありますか?」

「いいえ、もう無いわ。アントニアの新作が入った頃にまた来るわね」

「アントニアの新作なら昨日入りましたよ」

「えっ本当!? ちょっと早くない?」

「ええ、私もそう思います。今回は筆を持つ腕が軽かったようですね。買っていかれますか?」

「買う買う! …あー、ユリアンナごめん、本渡しとくから先に広場行ってて、道はもう分かる?」

「あっはい、道はもう大丈夫です。じゃあ先に戻ってますね」

「またの御来店をお待ちしています。その本が貴女の助けとなりますように」

「…文字が読めるようになったら、多分頻繁に来ます。ありがとうございました」


ハンクリッドは、ユリアンナの方へ顔を向けて手を振った。


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ユリアンナが広場に戻ると、サイウスとハールダンはそこに居た。二人で適当に話しながらユリアンナ達を待っていたらしい。


「おっ、ユリアンナ! …って、ユリアンナだけですか、スコーピアはどうしたんです?」

「スコーピアさんは買いたい本があるらしいので、後から来ます」

「何だと? 全く、城下の案内とはいえ、今は公務中──…いや、それはハールダンに流されて屋台に行った俺も同じか。しばらく待とう」

「…ところでユリアンナ、その本が教材ですか?」

「はい、『枯れ井戸の底には…えーっと、なんとかを知らぬ──…」

「『枯れ井戸の底には礼を知らぬわっぱが潜む』ですね。ずいぶんと変わったタイトル…、覚えにくいわけです。ちょっと読んでみても? ハンクリッドさんお勧めの教本、気になります」

「良いですよ、どうぞ」

「ありがとうございます。…… ……あー、これは確かに…。班長も見ます? どうぞ覗き込んでください」

「ああ、なら邪魔するぞ。どれどれ…、ほう、詩集のような構成だな。しかもこれは……、…あっそうか。この題名、全て"ひらがな"で表現できるのか。成る程、これは興味深い」

「えっ? "ひらがな"…ですか?」

「ん? ユリアンナ、ひらがなが分かるのか?」

「…分かるというか……、あれ? ひらがなって「あいうえお かきくけこ さしすせそ……」っていうので合ってますよね?」

「ああ、そうだ。知っているじゃないか」

「…そんな……でも私の知っているひらがなはこんな文字ではなかった筈です。どうして……」

「そうなんですか? ……じゃあ…もしかすると、"文字は読めないが、言葉が通じる"というこの状況の秘密が、その辺りにあるのかも知れませんね」

「俺たちの言葉が勝手に翻訳されて彼女に伝わっているということか?」

「その可能性が高いかと思います。僕たちの言う"ひらがな"と、ユリアンナの言う"ひらがな"は別のものなんでしょう」

「それは…何とも面妖な……」


「皆! 待った─?」


と、スコーピアが手を振りながら書店の方角から駆けてきた。


「おっ、スコーピアも来ましたね。待たせたんですから今度何か奢ってください」

「はいはい、きっちりしてるわねー。豚串で良い?」

「それで手を打ちましょう」

「流石の食い意地だなハールダン。…では、案内を再開しよう。二人を待っている間、経路を話し合っていたんだ。行こう」


第1小隊 3班は、再び歩き出す。


「どんな経路で行くの?」

「北地区から左回りで、各監視塔を回る。それから傭兵の鍛練場を経由して、北東地区から厩舎に向かう」

「途中の寄り道は良いですか?」

「ユリアンナの教育に関することでなければ許可しない。どうしても寄り道したいのなら上手くこじつけてくれ」

「承知。ユリアンナ、いくつかお勧めの屋台があるんですけど……」

「おいおい、本当に聞いていたのか?」


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ユリアンナ達は道中、サイウスに渋い顔をされつつ(最終的には「まぁ自分の金を使うのだし」と妥協した)観光を楽しみながら、城壁の各所に建てられている監視塔を回っていった。そして8つある監視塔の内、正門に程近い第1監視塔で、一行は監視兵 リーネバイドと再会する。


「リーネバイド、調子はどうだ?」


仕事中のリーネバイドは壁の外から一瞬も目を離さずに受け答える


「…ああサイウスか、悪くない。お前達は城下の案内で来たのか?」

「そんな所だ。というわけでリーネバイド、ユリアンナに監視兵の説明を頼む」

「私がするのか? …仕事中なんだが」

「第6中隊の連中は常に仕事漬けだろう。監視の片手間に説明が出来る知り合いはお前くらいなものだし、それにリーネバイド、俺達がユリアンナを連れてきた時、上からとても心配そうに見ていただろ?」

「っ、それは行き倒れを見つけたのは初めてだったからでだな…! ……分かった、それなら一枚噛ませてもらうぞ」

「ありがとうございます、リーネバイドさん」

「…礼ならいい。警備、監視は我々第6中隊の管轄だ。監視兵は、城壁の中と外を監視する兵で分かれており、異変が起きていないかを見張る。壁外で異変が見つかった場合、その程度によって、花火を上げて鐘を鳴らし城の大鐘守に知らせるか、兵士長の元へ報告に走るんだ。ユリアンナの場合は兵士長へ我々が報告し、結果サイウス達第1小隊 3班が派遣された。行き倒れを見つけたのは初めてだったのでな、少し心配だったが…何事もなくて良かった。壁内で異変が起きた場合は、我々が直接対処する事になっている。滅多に無いがな。後は…、そこに弓があるだろう?」


リーネバイドが、近くに掛けられている長弓を指差した。


「その弓が私達の武器の一つだ。監視兵が花火を上げ、鐘が鳴るような事態……つまり、獣の軍勢が襲撃してきた場合はそれを使って君達の援護をする。…とはいえすぐに乱戦になるので、その場合は私達も下に降りて戦うがな。しかし、必ず奴等の数を減らすと約束しよう。以上だ。…サイウス、仕事に戻っても?」

「ああ、充分だ。ユリアンナは、監視兵について分かったか?」

「はい班長、大丈夫です。…あの、リーネバイドさん。もう一度言わせてください。…私を見付けてくれて、本当にありがとうございました」

「……ああ、私も君が無事に保護されて嬉しいよ。折角助かった命だ。兵士になったとはいえ、くれぐれも粗末に扱わないようにしてくれ」

「はい、必ず」

「…サイウス、スコーピア、ハールダン。しっかり支えてやってくれ」

「ああ、任せろ。それじゃあ行こう、次は傭兵の鍛練場だ。邪魔したな、リーネバイド」


リーネバイドに別れを告げ、一行は第1監視塔を後にした。


「…なーんかリーネバイド、ユリアンナに特別な感情持ってるわよねぇ……」

「まぁ、行き倒れを見つけるなんて中々出来る経験ではないからな。多少はあるだろう」

「保護欲ってやつですか? …まぁユリアンナってパッと見純朴そうですもんね。寿命の話を聞くに、中身は僕たちとたいして変わらないんでしょうけど。……そうだ、ユリアンナって恋人居ました?」

「えっ、恋人…ですか……?」

「ちょっとハールダン、急に何の話よ」

「いえ、そういう流れかなと思いまして」

「どういう流れよ…。ユリアンナ、答えなくて良いからね?」

「あっいえ、大丈夫ですよ、吃驚しただけです。…恋人は居ませんでしたし、恋心を抱いていた人も居ません。でも、愛する友人は居ました」

「へぇ、どんな人だったんですか?」

「明るくて、ちょっと不真面目で、でも情熱はあって…、人気者でした。……あと、初めて私を"見付けてくれた"んです。「無理なんか止めて自分の好きに生きたら良い」とも、「そのままの貴女で良い」とも言わず、ただ私の友人であろうとしてくれました。…私には、それがとても嬉しかったんです。……もう死に別れてしまったけど、最期には気持ちも伝えられました。もう後悔はないです」

「…… ……えっと…。死に別れて、最期に気持ちが伝えられたってことはつまり……、その人に看取られたんですか?」

「看取られた…、確かに、そう表現することが出来るかも知れませんね。ふふっ、じゃあ私、とんでもなく幸せな人生だったのかもしれません」

「……幸せな人生、ですか…、まぁ確かにユリアンナにとってはそうでしょうけど……いえごめんなさい、この話題は止めておきます、ちょっと予想外の話が飛んできたので」

「自業自得だな…。む、着いたぞ。傭兵の鍛練場だ」


サイウスが指差した先には、大きな門があった。そこに扉は無く、奥には訓練場と同じく広大な草地が敷かれている。


兵士とは違って比較的軽装の戦士達が集まっており、それぞれがそれぞれの力を磨くべく、鍛練に励んでいる。彼らが傭兵だろうか。その様子は、兵士達と違い洗練されたものではないが勢いがあり、戦いに向けた意志は一層深く感じられた。


「お? サイウスーッ!」


ユリアンナ達が鍛練場に入ると、一人の傭兵が此方へ駆けてきた。


「どうした、兵士は今勤務時間中じゃないのか? まぁ何でも良い、暇なら──」

「あー、悪いなヘイルマン。今は暇な訳じゃなくてだな。彼女…新兵の案内をしていたんだ」

「あ? 新兵?」

「…えっと、ユリアンナです。よろしくお願いします」

「へぇーっ! この時期に新兵が入ったりもするんだな!? 俺はヘイルマン! この辺りじゃあ"激情の傭兵"って言われてるぜ! よろしくなユリアンナ!」


ヘイルマンは、ユリアンナの手を掴み、激しく上下させた。


激情の傭兵 ヘイルマン。明るい橙色の髪と、優しく煌めく紺色の瞳は、思慮が浅く猪突猛進であり、しかしどこか落ち着いている彼の性格を体現しているかのようだ。傭兵として名が売れている存在ではないが、このミルズアース王国周辺の獣退治を積極的に引き受けていることから、兵士からの評価は高い。


「は、はい、よろしくお願いします。ヘイルマンさん」

「ヘイルマン、あまり彼女を脅かしてやるなよ? お前は初対面相手でも距離が近過ぎるきらいがあるからな」

「ん、ああ悪い悪い。じゃあお詫びに、この鍛練場の案内は俺がするぜ! 良いよなサイウス?」

「お前が? 構わないが…、お詫びというかお前がやりたいだけなんじゃないか? …まぁ、やる気があるなら任せよう」

「よし来た! じゃあ、もうちょっと鍛練場の中心まで行こうぜ!」


ヘイルマンに手を引かれ、一行は鍛練場の中心近く、人が最も多い場所へと連れていかれた。


「どうだいこの景色! 傭兵が大勢、その力を磨いてる。皆、獣と戦う為さ! この街を守るためだったり、金を稼ぐためだったり、理由は色々あるけどさ。こんなに多くの人間が、心を一つにしてこの剣戟の音を奏でてる。なんか、心地良いと思わねえか? 勿論一人一人は別人だけど、どっかで心が通じあってるって言うかさ」


その場所は、鍛練場の様子がより肌で感じ取ることが出来る場所だった。大地を蹴る音と、剣と剣がかち合う金属音、そして戦闘用の装束が擦れる音と、誰かの笑い声。その全てがはっきりと聞こえる。彼らは確かに輝いていた。彼ら傭兵の意志が、言葉を使わずともうっすらと伝わってくる。彼らならば、人間が滅びに瀕しようとも必ずそれを跳ね除けてくれるだろうと、そう思わせることこそが傭兵達が勇者たる所以なのだろうか。


「本当ですね…、この人達が、傭兵……」

「いつ見ても自由で楽そうですねぇ…」

「なんだハールダン、だったら兵士は辞めて傭兵になったら良いんじゃねえの?」

「そうもいかないんですよ、残念ながら。いやまぁ、出来たとしても班長達と行動するのに慣れてしまったので鞍替えするつもりもないんですがね? …というかヘイルマン、案内をするんじゃなかったんですか? もう少しこの場所の事を教えてください」

「ん、それもそうだな。この鍛練場は、傭兵や兵士を問わず利用できる場所だ。だから傭兵だけじゃなく、ちょっと体を動かしたい職人とか、休暇中の兵士とかも利用するぜ。で、肝心の鍛練方法なんだが…、人形相手に黙々と鍛練してる奴も居るけど、俺のお勧めはやっぱり仕合だな。そこら辺の適当な奴に仕合を申し込んで、相手の技を肌で受けながら学んでみるんだ。結構楽しいんだぜ? …まぁアンタは兵士で、しかも新兵だって言うからあまり利用する機会も無いとは思うが…、まぁ、暇があるときに寄ってくれよ! 俺ならいつでも相手するからさ!」

「…良いんですか? ありがとうございます! きっとまた来ますね!」

「わっ、ユリアンナ今日一番の大声出したわね? 傭兵達が気に入った?」

「はい! 彼等を見ていると、何故だか勇気が湧いてきます! 何でしょう、体が奮い立つような…!」

「…うーん、ユリアンナ。やっぱりもうちょっと考えてから兵士になった方が良かったのでは?」

「いいえ、それは違います。私は兵士が良いんです。…傭兵にはなれません、いえ、なれたとしても務まりません。兵士になって、任務をこなして、こなし続けて…そうしていたら、間接的にでも傭兵の皆さんの助けとなれるかも知れない。きっとそれが私の精一杯ですから」

「…えっとユリアンナ、貴女まだこの国に来て一日も経っていませんよね? 人間ってこんなに落ち着いて新生活を始められるんですか?」

「くすっ、確かに新天地に来てるわりに本気で困惑してる姿を一度も見てないわね。心の準備ってやっぱり大事なのかしら」

「いや、彼女生来の気質ということもあるだろう。仕事があった方が安心するようだしな」

「ふーん、兵士にとてつもなく向いた性格ってわけか? サイウス、逸材を見付けたもんだな!」

「ああ、ヘイルマンが傭兵に向いた性格なのと同じようにな。まぁ仲良くしてやってくれ。…じゃあ、俺たちはそろそろ行くよ、案内ありがとう、ヘイルマン」

「おうよ、また来いよなユリアンナ! 絶対だからなーッ!」

「はい、必ず!」


ユリアンナ達とヘイルマンは、お互いに大手を振りながら別れを告げた。


「…しかし驚いたわ、ユリアンナがあんなに傭兵に興味を示すなんて。ハールダンと話が合いそうね」

「ハールダンさんもそうなんですか?」

「まぁ、この班で一番彼等について詳しく、そして好きなのは自負していますね。あれだけ自由な人達、僕が憧れないわけないじゃないですか。自分で仕事が選べて、安定はしないかもしれませんがそれなりに金を稼げて、何より休もうと思えばいつまでも休めます。羨ましいですよねぇ…」

「まぁ、兵士の休暇なぞ長くて一日だからな。頻度はそれなりだが」

「そうなんですよ! 一日って旅行も何も出来ないじゃないですか! …僕も全国の美味しいもの食べたいです」

「ハールダン」

「なんですスコーピア」

「その気持ち分かるわ」

「スコーピア…!」

「仲が良くて結構。さぁ、次は第8監視塔だ、行こう」

「第8監視塔って事は、南東地区ですね? えーっと、あの辺りでお勧めのお店は……」

「ハールダン…、懲りないなお前も」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


ユリアンナ達第1小隊 3班は、やはり観光を楽しみながらそれぞれの地区を回っていった。スコーピアとハールダンが結託し、時にサイウスも巻き込みながらミルズアース王国の名所を巡っていく。スコーピアとハールダンがここまで案内に積極的なのは、遠方からの旅人であるユリアンナを気遣っての事だろうか。その甲斐もあって、城に戻る頃にはユリアンナもある程度城下の道を把握した様だ。


「あー楽しかった! 久し振りに息が抜けましたよ。…あーいえ、勿論ユリアンナが主役だったんですが」

「しかし大分遅くなってしまったな…どやされなければ良いが」

「明日から訓練漬けよ? 今日くらい良いじゃない。許してくれるわよ」

「…それもそうだな。じゃあユリアンナ、厩舎に行こう」


第1小隊 3班は、ユリアンナの相棒たる軍馬を決めるべく、城門からほど近い厩舎に向かう。


「そういえばユリアンナ、馬の名前はちゃんと考えました?」

「はい、考えておきました。どんな名前かは、まだ秘密にさせてください」


「…お、来たね3班。待ってたよー」


厩舎に付くと、第1小隊 隊長アエリッサが出迎えた。


「小隊長、わざわざ出迎えてくださったんですか?」

「うん、あたしらが必死こいて訓練してる間、楽しく観光してた生意気な奴等を一目見ようと思ってさ?」

「も、申し訳ありません…!」

「いや冗談だよ、あたしも同じことするだろうし。さ、早いとこ馬決めしちゃおうユリアンナ、ほらこっち」


アエリッサに連れられ、ユリアンナ達は厩舎の奥へ入る。


「エクロウド! 新兵が来たよ!」


「分かったアエリッサ! 少し待ってくれ!」


厩舎の奥から雄々しい声が響く。暫くして、声の主が姿を見せた。


「やあやあ、待たせたな。えーっと新兵は…、お前さんか。オレが厩舎番のエクロウドだ、よろしく」


厩舎番 エクロウド。快活な印象を持たせる壮年の男性だ。栗色のオールバックは丁寧に整えられており、引き締まった藤色の瞳もまた、彼の仕事へ抱く姿勢を表しているかのようだ。


「ユリアンナです、よろしくお願いします」

「ユリアンナか、覚えておくよ。それじゃあ早速馬を決めるんだが…、サイウス、説明はもう済んだか?」

「はい、終えています」

「そうか、なら良かった。今仕上がってるのは五頭だ。いつもよりは少ないが…、まぁ時期が時期だしな。だが能力は保証するぜ。じゃあユリアンナ、付いて来てくれ」


エクロウドに連れられた先では、五頭の軍馬が自由な姿勢で待機していた。それぞれ毛並み、体格、顔つきが違い、個性に富んでいる。


「さぁユリアンナ、どうぞ近くで見てくれ。彼らの内一頭がお前さんの相棒となる。向き合って、通じ合った者を選ぶんだ」


エクロウドに背中を押され、ユリアンナは馬の前に立つ。五頭の馬は、状況を理解したかのように立ち上がり、ユリアンナを見つめる。どれも彼女より体躯が大きく、威圧すら感じられた。五つの視線を一身に受けていると、どちらが選ばれる側なのか見失いそうになるのも無理はない。


ユリアンナが一歩踏み出すと、一瞬、五つの視線の中で一つだけ"何か"が違うものを感じた。視線であることに間違いはないが、それしてはどこか暖かく、まるで言葉を交わしたかのような感覚に陥った。ユリアンナは、軽く見回してその視線の主を見付ける。彼の毛色は灰色がかった芦毛であり、体躯は他の四頭と比べると大きめで、毛深い。その身体からは愛らしさが多く感じられるが、その目は凛々しく、頼もしくもある。


彼は、ユリアンナをじっと見つめていた。今ユリアンナが感じているものと同じ事を思っているのかもしれない。言葉も通じないので確証は持てないが、一人と一頭の間で何らかの繋がりが生まれたことは確かだろう。


「"向き合って、通じ合った者"……、それなら…」

「決まったのか? 他の連中に比べて随分早い」

「はいエクロウドさん。…彼にします」


ユリアンナは、彼と目を合わせたまま、馬房の扉に手をかけた。その瞬間、五頭の馬の間で走っていた緊張の様なものが解けたような気がした。その様子を見ていたエクロウドは満足そうに頷いた後、彼が入っている馬房の扉を開ける。


「よし、分かった。…あー、名前は決めたか? 決めていないなら今考えると良い」

「いえ、もう決めています」

「なら良かった。じゃあ彼の首辺りに手を当てて、それを告げてくれ」


ユリアンナは頷き、彼の首に手を当てる。指先から、彼の体温がゆっくりと伝わった。彼も抵抗せず受け入れてくれている。ユリアンナは目を閉じ、これから付ける名を頭の中で思い浮かべる。ユリアンナには、今全身を駆け巡る緊張感が何に由来するのか分からなかった。ただそれは、確かに心地良い物だ。


ユリアンナは遂に目を開き、その名を告げる。


「"テオドール"。…貴方の名前は、テオドール。よろしくね」


彼、テオドールは合意したように嘶く。ユリアンナの目を見て、笑ったかのようにも見えた。


「良かったわねユリアンナ、一発合格じゃない! 馬に全く気に入られずに五か月戦場に出られなかった奴も居るのに。ハールダンとか」

「ちょっと、何で今僕の話をするんですかスコーピア!」

「ははっ、懐かしいな。何度ハールダンの落馬した姿を見た事か」

「班長まで…! ユリアンナがそうならないとは限らないですよ?」

「いいやハールダン。厩舎番のオレからも言わせてもらうが、それはありえないな。お前さんの馬プルクラムは選ばれた瞬間からお前さんを振り落とす気満々だったが、彼女の馬テオドールは全くそんな気が無さそうだ」

「ぐっ、エクロウドさんに言われたらどうしようもないじゃないですか…」

「まぁ、五か月間も焦らされて無理矢理な方法を取らなかったお前さんも偉大だと思うぜ?」

「そう言われると嬉しいですね、…まぁ今思うと、僕も何故耐えられたのか不思議なんですけど。意地だったんですかね」

「ははっ、厩舎番としちゃ嬉しい限りだ。…しかし、テオドールは本当にすぐ受け入れたな。偶に居るんだ、ユリアンナのように馬とすぐ仲良くなる奴が。…たしか、アエリッサもそうだったか?」

「確かにそうだね。まぁ、ちょっと馬と仲が良いだけで特別な事も無いし、それで思い上がられても迷惑だけど」

「ははっ、小隊長殿は手厳しいな。…さぁ、テオドールは今日中に装備を整えて明日には立派な軍馬になってるだろうぜ。それまでもうちょっとだけ待ってな。……サイウス、そろそろ日も落ちてきたし、城に戻ったらどうだ?」

「ああ、そうするよエクロウドさん。さぁ行こう三人とも、いよいよ食堂でユリアンナの歓迎会だ。小隊長も一緒にどうです?」

「ん、じゃあお邪魔するよ。一応小隊長だしね」

「歓迎会! 待っていましたよ班長!」

「ハールダン貴方、案内の途中散々食べてたけどまだ食べるの?」

「僕の胃袋は、常に食物を求めるのです」

「ははっ、まるで邪神だな」


第1小隊 3班と小隊長アエリッサは、軽く歓談しながら城へと戻っていった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


一行は、再び食堂に訪れた。食堂の様子は先程と一転し多くの兵士で賑わっていた。日も落ちて黄昏、夕食時ということだろう。それは平和で暖かな様子だった。各所で笑い声が聞こえ、舞台の上でも誰かが歌っている。あれも兵士だろうか。


「おお、サイウス! …と、アエリッサもか。案内は終わったのか?」


ユリアンナ達の到着に気が付いた兵士が声をかけた。第1中隊 隊長、アージェントだ。


「はい、一通り完了致しました」

「聞いたぜ? ユリアンナの歓迎会をやるんだろ、俺達も混ぜてくれよ。中隊の連中とも顔合わせとかねえとだし」


アージェントの後ろには第1中隊所属と思われる30余名が机の一つを埋めている。机の上には既に馳走が並べられており、机の中心には特別豪華なものが置かれている。主役の席ということだろう。


「…あー、自己紹介は後で自由にやってくれ、今日は顔を合わせるだけだ。ほら、主役の席はここだ。サイウス達も座れよ」


アージェントに導かれるまま、第1小隊 3班は机の中心近くに並べられた椅子に座る。アージェントはその様子を見届けた後、とある来客に気が付いた。


「あっ、兵士長!?」

「やぁ、アージェント。私も参加したいのだが、良いか?」


兵士長は微笑む。


「ええ、勿論! まさか兵士長まで来ていただけるとは思っていませんでしたよ」

「兵士長たるもの、兵士の一人一人をしっかり把握しておきたくてな。まぁ勿論、個人的に歓迎したい気持ちも大きいが。…ああ、席はいらないよ。流石に最後までは居られないからな」

「じゃあ、音頭をお願いしても良いですか? 兵士長ほど最適な人は居ません」

「ああ、任された。…では第1中隊! 今日、皆に新たな仲間が加わった。彼女、ユリアンナの活躍と幸運を祈り、そして我がミルズアース王国の新たな一歩を祝して!」


第一中隊総勢がジョッキを掲げる。


「乾杯!」


・・・・・


・・・・・


・・・・・


「ふーぅ……、お疲れさまでしたユリアンナ。楽しめました?」


夜更け近くまで続いた歓迎会は何事もなく終わり、ユリアンナ達は、満たされた気持ちで兵舎へ向かっている。


「はい、とても。…皆さん、優しい方なんですね」

「ええ、皆優しいわよ。ただ…、人は優しくとも訓練の内容はまるで違うから、明日から覚悟しておきなさいよね」

「っ、はい! 頑張ります!」

「まぁ、ユリアンナも多少は体力があるようだし、ある程度は付いてこられるだろう。あくまである程度だが」

「なら、そのある程度の限界まで付いていくために、今日は早く寝た方が良いですよユリアンナ。それじゃあ僕は用事があるのでこれで。おやすみなさい」


兵舎の扉の前に着いたところで、ハールダンは別れを告げ、姿を消す。


「ハールダンはいつもの日課か…。全くいつもいつも何処へ行っているのやら。さて、俺も少し鍛練に行ってくるか。二人とも、いい夢を」


サイウスもまた、訓練場へ向かっていった。


「ふあぁ…、眠くないのかしらあの二人。ユリアンナ、私はもう寝ちゃうけど、貴女はどうする?」

「私は……、少しだけ出掛けようと思います」

「そう? じゃあおやすみ。あんまり遅くならないようにね」


スコーピアはユリアンナに手を振って、部屋に戻っていった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


ユリアンナが訪れたのは、厩舎だ。軽く見回して、エクロウドを見つけると、声をかける。


「こんばんは、エクロウドさん」

「ん? …ああ、お前さんか。どうしたんだ?」

「彼…テオドールの様子が気になって」

「そうか、そりゃあ良い。その調子で気にかけてやんな。じゃあ馬房の扉を開けよう、来な」


ユリアンナはエクロウドに連れられて、テオドールの馬房へと向かう。近くまで来ると、テオドールは反応を示し、ユリアンナの方へ顔を向けた。まるで、自分に会いに来たと知っているようだった。


「お前さん達みたいに相性が良いやつらを見ていると、何だか爽やかな気持ちになるな。……さ、どうぞ」


馬房の扉が開かれると、テオドールは待っていたかのように前に出た。ユリアンナは、彼に命名したときと同じように、首へ手を当てる。


「夜遅くにごめんねテオドール。…ちょっと落ち着いて貴方と過ごしたかったんだ」


テオドールは嬉しそうに嘶く。どうやらユリアンナの言葉は伝わっているらしい。テオドールは続けて顔を自分の背中の方へ向け、ユリアンナを促した。


「…え、乗って欲しいの?」


テオドールはゆっくりと頷いた。それが人にとって肯定を意味していることも理解しているようだ。


「……うん、分かった。あの、エクロウドさん」

「何だ?」

「彼に乗りたいんですけど、良いですか?」

「ああ、勿論。じゃあテオドール、こっちに来てくれ、鞍と手綱を着けるから。…あーユリアンナ、何なら馬術場も開けようか?」

「良いんですか?」

「ああ、俺が起きてる間はいつでも開放しているんだ。乗馬の腕を磨きたい奴も居るからな」

「じゃあ、お願いします」

「よし来た。……さぁ、鞍も着け終わったし、ユリアンナ、付いて来てくれ」

「ありがとうございます。行こう、テオドール」


ユリアンナ達は、馬術場へと向かった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


空は暗く、明かりといえば柵沿いに設置された街灯の微かな光のみだ。しかしそれ故に星が綺麗に見え、神秘的な雰囲気を醸し出している。ふと風が吹くと、やはり心地よい。訓練場から微かに聞こえる剣戟の音もまた、妙に心を落ち着かせる。


「素敵な場所ですね」

「だろう? 俺もお気に入りだ。…そうだユリアンナ、乗り方は分かるか?」

「いえ…、ご指南いただけますか?」

「勿論だ。さぁ、まずは彼の左側に立って……」


・・・・・


「…じゃ、今の通りやってみな」

「はい。左足を掛けて…やっ!」


右足で踏みきり、両手で身体を引っ張り上げる。ここまでは上手くいった。しかし、その後右足を上げて馬体を跨ぐのだが、高さが足りず、誤ってテオドールの腰を蹴り付けてしまった。ユリアンナはそれに気が付くと慌てて地面に降りる。


「あっ、ご、ごめんなさいテオドール! 大丈夫だった…?」


ユリアンナが謝ると、テオドールは「気にしていない」と言うように頭をすり寄せる。


「ははっ、気にしなくて良いぜ。彼は軍馬だ、そのくらいじゃびくともしない。それに、彼も一発で成功するなんて思ってないだろうさ。さぁ、もう一回やってみて。次はもっと思いきり高く足を回すんだ」

「っ、はい。今度こそ…はっ!」


今度は上手くいった。テオドールも嬉しそうに嘶いている。


「おお、上手くいったな!」

「はい! ありがとうございました、エクロウドさん!」

「おう、それじゃあ…、って、おいテオドール!?」

「わっ…!?」


不意に、テオドールが走り出した。冷たい夜の風が全身に当たる。ユリアンナは危うく落ちるところだったが、テオドールが気遣ってくれているのか、何とか無事に済んでいる。


「っ、テオドール? 急に走り出して一体……あ…もしかして」


ユリアンナは、軽い足取りで馬術場を走り回るテオドールを見て感じ取った。これは彼なりの歓迎なのだ。ユリアンナを相棒として、これから共に歩む事への誓いとも言えるだろうか。ユリアンナは彼の背中で風を受けている内に、その思いを少しずつ感じ取っていく。彼が何故ここまでしてくれているのかは分からない。しかし、自分の内にも彼と同じような感情があることに気が付くと、何故だか無性に嬉しくなった。ユリアンナは、手綱をしっかり握ると、テオドールに言う。


「テオドール、もっと速くして良いよ!」


テオドールは、待っていましたと言わんばかりに速度をあげた。景色が流れ、冷たくも心地良い風が更に身体を打つ。ユリアンナはいつの間にか笑顔になっていた。きっとそれは、テオドールも同じだっただろう。相棒の思っていることが何だか分かる気がする、お互いにそう思っていた筈だ。


彼女達の"会話"は、長く、長く続いた。


・・・・・


・・・・・


ユリアンナ達は随分長い間走っていたようで、いつの間にか夜も更けきっていた。


「どうだった?」

「…とても、楽しかったです。ね、テオドール」


テオドールは嬉しそうに嘶いた。エクロウドは、二人のやり取りを見て思わずため息を溢す。


「いやぁ…久しぶりに良いもん見させてもらったよ、眠気も吹っ飛んで見入っちまった」

「ふふっ、光栄ですエクロウドさん。それじゃあ、そろそろ帰ります」

「ああ、分かった。…もう訓練場も人がほとんど居ねえや、大分長いこと走ってたんだなぁ…、いやぁ天晴れだ」


ユリアンナ達は厩舎に戻り、テオドールを馬房へ帰らせた。


「色々ありがとうございました、エクロウドさん。おやすみなさい」

「おう、お休み。この気分は夢まで持ってけそうだ、こちらこそありがとよ。じゃあな」


エクロウドは、ユリアンナを残して、寝室へと帰っていった。ユリアンナは、改めてテオドールに向き合う。


「それじゃあおやすみ、テオドール。また明日ね」


テオドールも、その言葉を返すように嘶いた。テオドールに見送られながら、ユリアンナは兵舎へと向かう。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「あれ、ユリアンナ?」


兵舎へ戻る道中、ユリアンナは偶然ハールダンと鉢合わせた。


「ハールダンさん、今帰ってきたんですね」

「ええ、ユリアンナはどうして外に?」

「テオドールに会いに行っていました。ちゃんと話せていなかったので」

「そうなんですか、仲良くなれると良いですね」

「はい、私もそう思います。じゃあハールダンさん、おやすみなさい」

「おやすみなさいユリアンナ。…と言っても僕は一度食堂に寄るんですが」

「…本当に沢山食べるんですね」


ユリアンナはハールダンと別れ、兵舎へと向かった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


彼女はようやく寝室に戻ってきた。近くで眠っているスコーピアを起こさないように、ベッドに横たわる。


今日、転生者ユリアンナは、兵士となった。なにも特別なことはない、何の変哲もない、ただの兵士だ。それは英雄になることを望まないユリアンナが真に求めたものである。大義があるわけでもない。ただ、前の人生とは少し違った結果が得たいだけ。それ以上のことはない。


…明日から、私は兵士……なんだよね。本物の剣と盾を持って戦う、鎧姿の兵士…。物語の中でしか見たことがなかった存在に実際になれるなんて思わなかった。生き方はなにも変わらないのかも知れないけど、それって凄く幸せなことなんじゃないかな。


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