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第16話

  兵庫県宝塚市在住 高校野球ファン歴五十年 松島光一


  「あんなバケモン、見たことない」

 大日本タイムス、二〇六〇年八月四日の速報記事。

『本日、八月四日午後三時三十分頃、第一四二回全国高等学校野球選手権大会の組み合わせ抽選会が、兵庫県西宮市の県立総合文化会館で行われ、三回戦までの対戦が決定した。注目の播磨灘高校(兵庫)は、主将の兵頭鷹虎(ひょうどうたかとら)君が札を引き、一回戦の相手を蔓輿(つるこし)高校(香川)と決めている。他にも、セイダーメトリクスの青田学院(青森)対九州大会九連覇を達成したばかりの甘藷(さつまいも)学院(鹿児島)、プロ選手を多数輩出している中央(ちゅうおう)中京(ちゅうきょう)中立(ちゅうりつ)中間(ちゅうかん)大附(愛知)対保守本流野球を貫く黄門(こうもん)商業(茨城)、完全復活を遂げた超高校級左腕宮内志郎君擁する松山西東工業高校(愛媛)対県予選で猛打爆発の海人(うみんちゅ)水産(沖縄)など、甲子園常連校同士の注目カードが目白押しで、例年になく一回戦から見所に溢れた組み合わせとなった。個人では、激戦神奈川を勝ち抜いてきた県立塗李高校(初出場)のエース、桜田翔平君や、消える魔球を現代に蘇らせた長野代表真田(さなだ)高校の背番号1、伊達昌幸(だてまさゆき)君が、両者ともミステリアスな魅力を放っており、それぞれ、一回戦で対戦する萩大工学(はぎだいこうがく)(山口)、梅星育英(うめぼしいくえい)高校(和歌山)を相手に、どのようなピッチングを見せてくれるか楽しみにしている高校野球ファンも多い。しかし、一昨年の夏から春も含めて四大会連続優勝中の播磨灘高校の実力は、専門家の目から見てもやはり一歩抜きん出ているようで、大会の行方は今回も彼らを無視しては語れそうにない。毎年球児たちの熱戦を楽しみにしている宝塚市在住の松島光一(まつしまこういち)さん(六七)は、

「西東工の宮内でも、兵頭を抑えるのは無理やろ。五十年以上通ってるけど、あんなバケモン、見たことない」

 と、語る。実際、ここ数年の播磨灘高校の躍進ぶりは、二年前に高校野球界に彗星の如く現れた、兵頭鷹虎君の活躍に拠るところが大きい。一年の夏から四番の重責を担い続ける兵頭君は、目下のところ自身のもつ高校通算本塁打の記録を百五十六本と更新中であり、大会通算本塁打(現在二十六本)の更新も今大会中に期待される、希代のスーパースラッガーだ。播磨灘が完全無欠の五連覇を達成するか。その牙城に他の高校がどこまで迫れるか。本大会は明々後日の七日、阪神甲子園球場にて開幕する。』


 塗李ナインは、初戦の相手が決まった瞬間から、部室に篭って対戦相手の資料集めにとりかかった。グローバルピアツーピアシステム(データベースに預けられた個人のデータをP2P通信方式を使って瞬間的に引き出せる擬似的ファイル共有システム)用アプリケーション『ブラックキャットver.10.3.9』(競合他社のグレープ社が構築する同種のシステム『LGNシステム』の管理不備により、世界シェア八二%(注二〇六〇年六月時点)にまで到達した定番の情報検索ソフト)を使って、WBDタワー(シリコンバレーにある世界最大のデータベースタワー。専有面積は四万平米)にアクセスすると、信頼できそうな情報だけでも六〇〇エクサバイト分の情報が、僅か一時間ほどで集まった。それらによって、山口県の萩大工学が、攻守にバランスのとれた隙の少ないチームで数字からも映像からもそれ以外の特徴を掴み難い良くも悪くも高校生らしい相手、であることがわかった。

 これなら楽勝なんじゃないか、という油断が、病原体のように誰にも気づかれずに部室に漂い始めた。それを素早く感じとった副主将である堀は、皆の気を引き締めようと急いで話し始めた。

「甲子園に出てくるようなチームに、楽な相手なんかいない。印象だけで判断してたら、痛い目を見るぜ」

 すると木戸が、すぐにそれに同調した。

「たしかにそうですね。萩大工学は今年の春の選抜にも出場していますから、少なくとも経験という意味においては我々よりも上です」

 堀は頷くと、もう一度皆を見渡して言った。

「とにかく、あと三十分もすれば桜田と沢井先生が抽選会から帰ってくる。それまでにもっと勉強しておこう」

 それぞれが、映像なりテキストなりで相手の勉強をし始めた。おそらく相手も同じように、自分たちを研究しているに違いないのだから。


 札幌鹿児島間を繋ぐ日本列島リニアモーターラインは、新横浜から新大阪までを僅か二十五分で移動した。そのリニアモーターラインの自由席に、桜田翔平と沢井美加が、二つ席を並べて座っている。二人は、全く同じことを考えていた。

「最近、キュウリしか食べていないんです」

 抽選の札を引いた萩大工学の主将、杉下晋一(すぎしたしんいち)のその声は、いつまでも二人の耳に残る種類のものだった。杉下はガリガリで、文字通りキュウリのような体つきをしていて、顔色は悪く、見るからにやつれていた。「家が貧乏なもんですから、大会でできるだけアピールして、是非プロの球団と契約したいと思っています。お互いベストを尽くして、正々堂々と戦いましょう」と杉下は続けた。そのことを、二人はずっと考えているのだった。

(彼を相手に、全力で戦っていいものか)

 その男が杉下晋一ではなく、彼の双子の弟、杉下晋二であることに、二人は気づかなかった。杉下晋二は、対戦相手の同情を誘うという重要な任務を与えられた、萩工野球部のある意味エース的な存在だった。その杉下晋二に、二人はまんまと精神を乱されている。あの手この手で勝利を掴もうとするチームばかりだという現代の高校野球事情に、翔平と沢井は、あまりにも疎過ぎたのだ。負けてあげるべきではないか、という考えがどうしても頭から離れず、翔平は燃える闘志を、奪われつつあった。

 二人は地元に帰ると、真っ直ぐに学校に戻った。皆が、二人の表情の暗さに気づいたのは、すぐだった。

「どうしたんだ?」

 北田が尋ねた。翔平はこのことを話すべきか、まだ決断できていなかった。しかし結局、彼は杉下の様子を話すことにした。

「この時代に、キュウリしか食ってないだって?」

「ああ、俺は、自分たちが恵まれていたことを、今日、初めて知ったよ。あたりまえのこと過ぎて、今まで気づかなかったが……」

「しかし、予選の映像を見ると、そんなにやつれていないぜ?」

「ちょうどその頃、親父さんが失職したらしい。それ以来、キュウリだけだそうだ。これ、見ろよ」

 翔平は、対戦が決まった記念に並んで撮ってきた写真を皆に見せた。それを見たナインは、絶句した。

「そ、そんな、そんな馬鹿な」

「これだけじゃない。萩大工学は、監督の娘さんがマネージャーをやっていたそうなんだが、現在は不治の病に倒れられて、ずっと入院しているそうだ。県予選を勝ち抜く度に彼女が元気になっていくのが、萩工ナインのモチベーションになっていたんだって……その娘さんも、最近病状が悪化したらしく……」

 それ以上、翔平は言葉にすらできなかった。

 沢井は沢井で、彼らの今までの努力を知っている分、負けるべきだなどとは口が裂けても言えないと思っていた。それでも、部員の皆には萩工野球部の背景を知っていてもらいたく、翔平の説明を補足するのを、我慢することができなかった。

「しかも萩工の野球部は、予算の関係で今年いっぱいで廃部になるかもしれないの。彼は言ったわ。今年が萩工野球部の、最後の甲子園になるかもしれないって……」

 二人の表情の暗さは、塗李ナイン全員に伝染していった。


(ちっ! どこまでお人好しなんだ!)

 青田学院偵察部隊の合田は、iSpyから聞こえてくる彼らの話し声を聞いて、独り、苛ついた。なんで調べて確認しない、この時代に未だ情報の大切さを理解していないというのか。彼は思いながら、iSpyでWBDタワーにアクセスし、世界最大のSNS『Bodybook』(競合他社のミックスドア社が提供する同種のサービス『Cockbook』が猥褻な内容で氾濫したため、利用者が世界で四九億人(注二〇六〇年六月時点)にまで膨れ上がった日本政府公認のソーシャル・ネットワーキング・サービス)で、杉下晋一を調べてみた。しかし、最後の更新がひと月前になっていて、現在の健康状態まではわからない。監督の娘の方も同じだった。野球部の予算に関しては『ブラックキャットver.10.3.9』を使ったが、セキュリティーブロックを受けてしまってここでも満足な情報は得られなかった。彼は舌打ちを一つしてから、iSpyの通話ツールを起ち上げた。自分と同じ偵察部隊の、山口県担当国府田智博(こうだともひろ)なら、充分な情報をもっているはずだと思った。

 国府田はすぐに出た。

「お前、なんでまだ帰ってこないんだよ」

 彼は真っ先に、合田がなかなか戻らない疑問を口にした。

「それより国府田、萩大工学のキャプテンと、監督の娘の現在の健康状態が知りたいんだ。あと、部の予算も知りたい。できれば圧縮ファイルにして、すぐに転送してくれないか」

「主将の杉下なら至って健康だったよ」

「いつの情報?」

「いつってそりゃあ、決勝の日だよ。俺はその日に帰ったからな」

「監督の娘は?」

「そんなの知らねえよ」

「部の予算は?」

「大学附属の私立だから、そこそこあるんじゃないか? つーかなんでお前がそんなことを知りたいんだよ。早く帰ってこい、宿泊費、そんなに出ないぞ」

 使えない! とことん使えない奴だ! 合田は一方的に通話を切った。iSpyからは未だに同情の会話が聞こえてくる。お人好しの愚図共が! 苛々を抑えて、盗聴を切り上げると、彼は駅に向かった。地下鉄で新横浜に向かい、そのまま山口までいくつもりだった。

(山口までの交通費なんて部から出るわけないよな。ったく、世話の焼ける奴らだ)

 先日手に入れた塗李の秘密を徳川監督に伝えるために、彼は今すぐ地元に戻って、報告書を提出しなければならないはずだった。何しろ、順当にいけば両校は、三回戦で激突するのだ。それでも彼は地元に帰らず、真反対の本州最西端に向かっている。自分が一番のお人好しになっていることに、彼は気づいていなかった。


 合田高次が市内の地下鉄から列島ラインに乗り継いだ頃、塗李野球部の部室の扉を、一人の男がそっと叩いた。宇宙科学高校の野球部監督、宮沢昭伸だった。

「これは宇科高の……先日は大変お世話になりました。今日は、どうされましたか?」

 翔平ら塗李のナインが、戸惑いながらも彼を迎えると、宮沢は真っ先に、部長沢井の所在を確認した。

「沢井なら今さっき、保健室にいきました。すぐに呼んできますので、中に入ってお待ちになっ」

「いや、いいんです。その方が都合がいい」

 宮沢の様子を見て、ナインの皆が訝しんだ。すると宮沢は、一旦表の通りに出て、車から大きなバッグを抱えてきた。

「先日は素晴らしい戦いをありがとう。世界最先端のベースボール、私は今も感動しているよ」

 彼はバッグを抱えたまま、部室に入るなりそう言った。どういうことですか? と翔平が尋ねると、宮沢はおもむろに話しだした。

「しかし、君らの野球には弱点がある。今のままでは、本大会が始まって全国放送になった時、全てが浮き彫りになってしまうだろう」

 彼は、そう言うと、バッグを開けた。中には、筒状の容器が大量に入っていた。

「こ、これは、なんですか?」

 見覚えのある容器を見て、翔平らは不安になった。まさか、自分たちの野球は目の前のこの男によって、既に全てを暴かれてしまっているというのか。すると宮沢が言った。

「心配しなくていい。たしかに察しの通り、私は君らの秘密に遅ればせながらだが気づくことができた。しかしそのことを咎めるつもりなどない。むしろ、私は君らの役に立ちたいとさえ考えている。それで今日、お邪魔したわけだ」

「しかしそれでしたら、我々はまだ、その……」

「ローション、かね?」

 決定的なワードを聞いて、翔平は諦めた。

「は、はい、そうです。そ、その、そのローションですが、在庫の方はたっぷりとあるんです。ですから、お気持ちは嬉しいのですが……」

「まあ最後まで聞いてくれ。さっきも言いかけたが、これからはテレビ放送が全国放送になる。そうなると視聴される地域が広くなるが、問題はそこじゃないんだ、使われるカメラが変わってくることが問題なんだよ。映像というのは簡単に言うと、一秒間に何枚もの静止画を並べて、アニメーションのように残像効果の発現を利用して見せている。例えば、神奈川大会の決勝を中継したローカル放送でいうと、一秒間に二百九十三コマの静止画が連続で撮影される規格が採用されているんだ。しかしこれが全国放送となると、その連続撮影は一秒間に五百八十六コマと、一気に二倍に跳ね上がる。そこが問題なんだ。そうなると、一秒間にボールを四十回転ほどさせるような速球投手の投球だって、ボールの縫い目までくっきりだ。君らもプロ野球中継などで見たことがあるだろう? あの不必要なまでに木目が細かいスローモーション映像を。流行りのハイパーハイビジョンなら、ボールに付着したローションまでをも映し出してしまうとは思わないか?」

 宮沢が、自分たちの野球の秘密を詳しく理解していることも驚きだったが、彼が危惧するその内容の方は、彼らをもっと驚かせた。宮沢は続ける。

「更には、3D五感テレビの普及だ。君らの家のテレビはほとんどがただの3Dテレビだろうが、一部の家電マニアは既に五感テレビを導入している。対応コンテンツはまだ少ないが、例えば料理番組などでは、視角と聴覚だけでなく、嗅覚や味覚にも訴える番組が増えてきている。NHKが五感テレビ用に、昨年から甲子園大会を触覚放送していることは知っているね?」

 ほとんど、絶望に近い思いを翔平は感じていた。触覚放送をやられては、ぬるぬるがいっぺんにばれてしまうではないか。しかし、宮沢がそこでにやりと笑ったのを翔平は見た。彼はバッグから、筒を一つだけ取り出した。

「しかし、五感テレビというのはまだ完全じゃない。映像で捉えたあと、情報倉庫から似た感覚の得られる物を探し出し、それを本体内部で調合したあとお茶の間に具現するという、あくまで疑似体験を提供するだけのものだ。そこで、これだ。ちょっと見てくれ」

 宮沢はそういって、先ほどの筒を皆に配った。それぞれが筒の蓋を開け、その中身を掌に落とした。

「これは既存のローションとは全く違う物質でできている。我々が君たちのために開発した、新規格のローションだ。我々の高校名に因んで、宇宙規格のローション、とでも言っておこうか」

「宇宙……規格……」高原が唾を飲み込んだ。

「このローションは、一秒間に五百八十六コマで撮影されても、視聴者に疑われることのないよう仕上げられている。厚みといい光沢といい、ほとんど見た目には存在感がないんだ。我々の方でテストしたが、五感テレビでも再現はされなかった。世界にまだない新感覚のローションだから、情報倉庫から似た感覚を探し出せなかったのだろう」

「こんな素晴らしい物を……なぜあなたは、僕たちのためにここまでしてくださるんですか」これを言ったのは堀だった。

「それは……特に理由はないんだが……あえて言えば、私は君たちに陽を見たのかもしれない」

「陽?」

「現在の高校野球界は腐り切っている。私も毒されていた口だがな。しかし私は気づかされたよ。君たちのように誠実と勇気の野球をするべきだった、とね。そして勝手ながら、君たちなら全ての野球人にそのことを気づかせられるのでは、と期待した。本当に勝手だが、陰の野球、それにとり憑かれてしまった者たちの心に、本来の高校野球の素晴らしさをもう一度蘇らせてあげて欲しい、と思ったんだ。スポーツは聖域だ。たとえどんなに科学が進歩しようとも、どんなに戦術が進化しようとも、スポーツは体と体で、心と心で、激しく共鳴し合うもののはずじゃないか」

「宮沢さん……」

 塗李ナインは、キュウリしか食べていない杉下晋一のことを思いだしていた。自分たちはどうすればよいのか。戦うべきか。今この新ローションを手にとって、世界に光をとり戻すために立ち上がるべきなのか!

「私はこれで失礼するよ。そうだ、大事なことを忘れていた。この宇宙規格のローションは、通常のローションよりもぬるぬるがひどい。大会まではあまり時間がないが、君たちはこれまで以上に練習をしなければいけない。拭き取り速度も、五百八十六コマ規格のカメラにさえも決して捉えられることのないよう、今まで以上に高速化しなければならないだろう」

 宮沢はそう言って帰っていった。残された彼らは、皆が皆、同じような気持ちの昂りを覚えていた。自分たちが倒してきた者たちから、想いというものを託されていたことを、この時、初めて、彼らは自覚したのだ。


 沢井美加は保健室にいた。熊川武実に萩大工学のことを相談するためだった。熊川は、野球部員の健康状態をチェックするため、採取した血液を検査しているところだった。

「ねえ先生、どう思います?」

「どう思いますって言われてもねえ。個人的には、彼らはまだ高校生なんだから、もっと無邪気に勝利を目指してもいいと思うけど」

「でも彼らは、自分たちのことを差し置いてまで対戦相手の現状を思いやることができる、素晴らしい子たちなんです。私はそんな彼らの気持ちを、尊重してあげたいんです」

「だけどねえ沢井せんせ。彼らはもっと、子供らしくあるべきだと思うの。高校生というのは、大人になりかけている危うい時期よ。そんな彼らが、世界中の恵まれない人たちを思いやれるというのは、たしかに立派なことだと思うわ。でもね、もし彼らが、自分たちの我を貫く子供らしさも併せもっていたとしたら、それは私たちのような教育者としては、安心できるバランスというものじゃないかしら」

「そういうものでしょうか……」

 沢井は得心がいかなかった。どうしても彼らの様子を、熊川にその目で見てもらいたかった。彼女がそう言うと、わかりましたよ彼らと少し話をしてみましょう、と熊川は言った。二人は部室に向かった。

 しかし部室は、蛻の殻となっていた。どうしたのかしら、と不審に思い、沢井は熊川を見た。熊川が練習場にいってみましょうと言うので、二人は練習場に向かった。

 すると、グラウンドの前まできた時、ナインの激しいかけ声が通りまで聞こえてきた。それは、彼らが全力で戦う覚悟を決めたことの、証左のようにもとることができた。沢井は熊川を見た。熊川はその頬に軽い微笑を浮かべ、沢井を安心させるように、言った。

「最近の高校生は、私たちが思っている以上に、子供なの。勝ってもよし、負けてもよし、それでいいじゃない」


 夜になり、練習が終わった。予想以上にぬるぬるした新ローションに慣れるため、部員たちはそれぞれ、一つずつ家に持ち帰った。その夜、塗李の選手たちが、別の意味で宇宙の規格を体感したことは、言うまでもない。

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