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第1話

  私立宇宙科学大学附属高等学校二年 野球部投手 沢田謙太郎


  「なんかぬるってた」

 神奈川タイムス、二〇六〇年七月三十日の記事。

『七月二十九日、第一四二回全国高等学校野球選手権大会神奈川地区予選決勝が、横浜総合スポーツ施設野球専用第三スタジアムにて行われた。昨今の高校野球はここ十数年で恐るべき進化を遂げ、科学トレーニングやデータ集め、選手のスケジュール管理や作戦における守秘義務など、あらゆる指導方法で限りなくプロに近づいていると言われる。場合によっては、メジャーリーグをも凌ぐほどの勝利への執念が垣間見られ、その勝利至上主義は、高野連の掲げるスポーツと教育の融合というスローガンと相反し、近代野球の間違った解釈として批判されることも少なくない。しかし、昨日行われた同決勝戦は、その心配は杞憂なのではと多くの観戦者にそう思わせる、高校生らしい生き生きとした素晴らしい内容の試合だった。敗れた宇宙科学(うちゅうかがく)高校も立派な戦いを見せたが、一八九にも及んだ参加校の頂点に立ち、来月開幕する本大会への出場を決めた塗李(ぬるり)高校も、青少年らしくスポーツマンシップに則った、正々堂々とした力の限りの戦いを我々に見せてくれた。それを証明するのが、宇宙科学高校の監督、宮沢昭伸(みやざわあきのぶ)氏の言葉だ。

「原始的な発想且つ理論に基づいた野球に、我々は真正面から敗北した……」

 それでいて、塗李高校の試合運びは我々に不可思議な印象も残した。塗李高校のエース桜田(さくらだ)選手と見事な投手戦を魅せたくれた、宇宙科学高校の二年生ピッチャー沢田謙太郎(さわだけんたろう)君は、肩を落としながらも試合後のインタビューに応じ、謎のコメントを残している。

「なんかぬるってた」

 ともかく、本紙は、全ての県民を代表して、塗李高校の甲子園大会初出場をここに称える。そして、彼らが提示した新しい形の高校野球を、この目で最後まで見届けようではないかと、記者は読者の皆様に提案したいのだ。』

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