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琥珀の夢は甘く香る ~アンバーの魔女と瞳に眠る妖魔の物語~  作者: 遥彼方
依頼2ー無気力の蔓延る科学国家マギリウヌ国

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アウリム

 鎖と穴も消え、コハクたちがポルクスの側へ駆け寄る。


「いやあ、素晴らしい」

 アウリムの拍手が場違いに響いた。拍手をする老人の後ろには、巨大なペンが浮いている。ペンはひっきりなしに空中へと何かを書き込んでいた。


「なっ!?」

 ポルクスは驚きに目を開いて、慌てて満空(ミソラ)の名を呼ぼうとした。しかし手足に力が入らなくなり、酷い目眩に襲われて掠れた声が出たのみだった。


「満……」

「戻れと命令なさい。早く!」

「戻……れ」


 ミソラの体がみるみる縮んで耳と尻尾が生え、黒く艶やかな毛並みが肌を覆う。漆黒の子猫はその場にへたり込む青年に体を擦り寄せた。


『妖魔の真名を解放するのは、精神力も体力も削りますわ。あまりやりたい方法ではありませんわね』

 ふう、と溜め息を吐いてミソラが尻尾をゆるりと振った。


 駆け寄ったコハクはポルクスの横に膝を着き、青年の顔を覗く。コハクの目を見返してくる青年は、少し消耗したものの意識もはっきりしているようだし、心配はなさそうだ。コハクは小さく息を吐いてから、まなじりを吊り上げる。


「また自分を傷つけて!」

「すみませんっ! そんなつもりはなかったんです。つい体が動いてしまいましたっ」


 座っていたポルクスの背筋が条件反射で伸びる。そこへ青年の姿になったハルがポルクスの頭に拳を置き、ぐりぐりとやった。


「全くだ! 心配させやがって、こんの馬鹿」

「あだだだだだっ、ハルさん、ごめんなさい」

「反省してんの?」

「してます! それはもう、してます!」


 ぶんぶんと首を縦に振る金髪の青年をハルは疑わしそうに眺めた。コハクの視線が青年の背中へと吸い寄せられる。破れた制服から覗く白い肌には、古い傷跡こそあれど新しい傷は影も形もない。


「貴方という人は本当に……」

 そこからコハクの言葉が詰まった。青年の背中をそっと撫でる。みるみる青年の顔が赤くなって余計に背筋が直立になった。


「ご心配をおかけして、すみません」

 ポルクスは無意味に手足をばたばたと振り、コハクの少し潤んだ黄褐色の瞳を見て後悔した。またやってしまったと気分が落ち込み、心配させてしまったことを申し訳なく思う。


「って、違う!」

 ポルクスは首を横に振ってから両手で自分の頬を張った。ぱんという乾いた音に、コハクの瞳が少し見開かれる。


「ええと、心配をかけてしまったことが申し訳なくて謝ってたら今までと同じですよね。いや、勿論そのことも謝らなきゃいけないんですけど、どっちかというと心配をかけるようなことをやっちゃったのを謝るんじゃなくて、怪我をして心配をかけてしまったことを謝る……ってあれ? 何言ってるんだろ。なんかこれも違う。うう、意味わかりませんよね」


 今まで自分などの為に、他人に迷惑をかける事が申し訳なくて堪らなかった。そんな自分が価値のない人間に思えて、なんとか人の役に立てる人間になろうと躍起になった。けれど、それを行動理由にしては駄目なのだ。そうコハクとハルが思わせてくれたから、それをなんとか伝えたいのに上手く言えない。


「今まで他人が傷つくくらいなら自分が傷ついたらって理由だったんです。でも今回はコハクさんが傷つくのが嫌な自分の為に動いちゃったんです」


 上手く言葉に出来ない事がなんとも情けなくて、ポルクスは肩を落とした。そんな青年の様子にコハクとハルは顔を見合わせて息を吐く。


「変わろうとしているのは伝わったけれど、貴方が傷つくのは嫌よ」

「はい。善処します」

「油断した私も悪かったわ。今回はそれで手を打ちましょう」


 立ちあがって軽く膝を払い、コハクは後ろを振り返った。そこには顎に手を当てて佇むアウリムの姿があった。相変わらず背後で巨大なペンが何かを書いている。


「アウリム科学技術長官。自我は残っている?」

「勿論! 私はあの時と変わらない!」


 アウリムは緑がかった青い目をぎょろりと光らせ、コハクの質問に答える。その目はコハクにではなくポルクスに注がれていて、その異様な光に鳥肌が立った。


「どういうことですか」

 ポルクスは回らない頭で考えてみるが、訳が分からない。


 あのペンはアウリムの、いやアウリムの中にいる妖魔の能力だ。つまりアウリムは宿主で、コハクの落ち着いた態度からして、この事を事前に知っていたのだろう。


「私がマギリウヌ国からの依頼を受けたのは今回で三度目よ。一度目は二年ほど前、アウリム科学技術長官と妖魔を分離させてほしいとの要請だったわ。その時分離させた妖魔がヤクロウマルよ」

「ええっ!?」


「二度目は一年前くらいかしら? この時の依頼はアウリム科学技術長官からで、分離の必要がないかどうかを見てくれというものだったわ」


「なかなか便利な妖魔でねぇ。助かっているんだよぉ。まあそんなことよりも、折角宿主を体験できるのだ。分離させるなんて勿体ないだろう?」


 ポルクスは信じられないものを見る目でアウリムを見た。

これからお盆休みを頂きます。再開は18日の正午前後です。

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★琥珀~のサイドストーリー
「治安維持警備隊第二部隊~ナナガ国の嫌われ部隊の実情~」
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