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琥珀の夢は甘く香る ~アンバーの魔女と瞳に眠る妖魔の物語~  作者: 遥彼方
依頼2ー無気力の蔓延る科学国家マギリウヌ国

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ボロスの初手

 翌朝、トラメは背筋を伸ばしてソファーに腰掛け、マギリウヌ国の茶を飲んでいた。縞模様の視線の先は備え付けられた映像機器に向かっている。


 毎朝の報道番組では早速昨夜の夕食会の映像が流れ、その前でかっちりとした服装の男女がニュースを伝えていた。


『試作品である対妖魔銃の実験結果は良好で、ナナガ国ラナイガ議会長はナナガ国への優先的な輸出を求めました。これを受けてのボロス国家元首の返答はミズホ国の動向を牽制するものでした』

 女性が淡々と読み上げてから、隣の男性へ話し掛ける。


『ミズホ国トラメ国長(くにおさ)代理は、自国の国益のみを追及していては、やがて自国の首を絞めると答えましたね』


『対妖魔銃のナナガ国への輸出を反対すれば、ミズホ国は二国を敵に回すことになりますからね。ミズホ国としてはこう言わざるをえないでしょう』


 男性は女性の言葉に頷いた。


『それだけを聞くとミズホ国が孤立する印象ですが』

『そうですね。しかし、この最新の対妖魔銃がどういったものかを知るとそうも言えないのです』


 男女の背後に二丁の拳銃の映像がクローズアップされる。それぞれに弾も平置きされていた。


『この対妖魔銃ですが、従来の小銃との違いは擬似的に弾の威力を増幅させる機能が付いていることと、弾の材料にあります』


 男性はクローズアップされた弾の切断画像を棒で指した。


『弾丸である鉛を被う銅合金被甲の材料、これにミズホ国の貴重な宝石が使用されています。幻の宝石と言われ市場に出回ることすらない、この宝石は妖魔が姿を変えたものなのです。そして、銅合金被甲はこのミズホ国の宝石を粉状にして銅合金と混ぜ合わせたものを使用しているのです』


『成る程。つまりミズホ国なくして対妖魔銃は成り立たないということですね』


『そうですね。そして我がマギリウヌ国の技術開発費を支えるのはナナガ国です。我がマギリウヌ国とナナガ国、ミズホ国。この三国は切っても切れない関係と言えるでしょう』


 そう、この報道番組は正しい。


 夕食会でラナイガは優先的な輸出は望むが、ミズホ国との結び付きを切るのは悪手だと暗にボロスを牽制した。


 ミズホ国と手を切れば対妖魔銃の弾の材料である『石』が手に入らなくなる。ラナイガとしては、ミズホ国との繋がりを軽視して、マギリウヌ国とナナガ国だけ強固にしても意味がないのだ。


 ボロスが対妖魔銃を使い、ナナガ国とミズホ国に亀裂を入れようとすると、当然ナナガ国が反対する。ミズホ国はマギリウヌ国とナナガ国の両方を立ててくる。マギリウヌ国とて、ナナガ国とミズホ国を無下には扱えないから結局のところ、三竦みが出来上がり首脳会談はなあなあで終わる筈だった。


 番組ではこの話題は終わり、マギリウヌ国内でのニュースへと移っていく。トラメは一つ一つのニュースを目で追いながら、無意識に人差し指で顎のラインをなぞった。

 ミズホ国に映像機器は普及していない。マギリウヌ国の『デンキ』から情報は届くものの、こうして報道番組を見られるのは貴重なのだ。にも関わらず、トラメの思考はマギリウヌ国のニュースを上滑り、夕食会に立ち返る。


 切るには早すぎる札を切ったボロスの意図が不気味でならなかった。会談の本番そのものは三日後で、札を切るのは会談の中か前日だと思っていた。


 このまま終始三竦みに徹する可能性もあるが、トラメの瞳がそうではないと訴えている。


「またアウリム科学技術長官が妙な思いつきでもしたのかしら?」

 この呟きですらトラメの希望的観測なのだという直感が、彼女の表情を険しいものにした。


 トラメの考察を他所に映像機器では、二人の女性が色分けされたグラフの前で淡々と見解を述べている。

『このように出生率の低下は著しく人口は低迷の一途を辿っています』

『高度医療発展による高齢化、科学技術向上がもたらした生産ライン自動化による就労意欲の低下と問題は山積して……』


 駆け引きは始まったばかり。本番はまだ三日後だった。



 トラメと同じように映像機器をボロスは一通り眺め、手近にあった機器のボタンを押し、ぷつんと切る。くるりと椅子を回して背後の窓から下を眺めた。


 極寒のマギリウヌ国では作物が育たず、ほんの百年程前には貧困に喘ぎ鉱物資源だけで食い繋ぐ、国土だけは広い国であった。産業革命後、一気に発展を遂げ急速に生活水準を上げるその只中にボロスは生まれ育った。


 活気のある時代だった。現在よりは格段に貧しかったものの、餓死者、凍死者は年々減ってゆき、働けば働くほど生活は楽になった。あの頃は未来への希望に満ち溢れていた。そんな折、国の更なる発展の為に動いていたボロスは、科学の麒麟児アウリムに出会った。彼の発明、理論は革命的でボロスは衝撃を受けたものだ。

 六十年前、国家元首となったボロスは、アウリムを筆頭とした科学者たちを優遇し、マギリウヌ国を名実ともに科学国家へと押し上げた。同時にアウリムの技術を使いインフラ整備を進め、第二のアウリムを育てるべく学歴社会を造り上げることへ腐心した。


 しかし、後継は出ていない。


 後継がいないのは、ボロスとて同じだ。くすんだ水色の目が、窓から執務机の傍らに控える男へ移る。

 リーザス首席補佐官は、冷たい目線に射竦められ小太りの体を縮こませた。従順で小心者のこの男は、国家元首の女房役としては最適だが後継者足り得ない。

 この男だけではない。今のマギリウヌ国を担う政治家たちは、ボロスから見て焼けつくような気概も野心も見当たらないのだ。現在の科学国家の成功に胡座を掻いた、温室育ちの者共ばかりだ。


 ドームに囲まれた箱庭のような街を、ボロスはもう一度見下ろしてから体の向きを変えた。

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★琥珀~のサイドストーリー
「治安維持警備隊第二部隊~ナナガ国の嫌われ部隊の実情~」
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