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琥珀の夢は甘く香る ~アンバーの魔女と瞳に眠る妖魔の物語~  作者: 遥彼方
依頼2ー無気力の蔓延る科学国家マギリウヌ国

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出立

 コンゴウの屋敷に呼び出されてから一週間後、コハクはミズホ国の端、国の外へと通じる二階建ての櫓門(やぐらもん)前にいた。


「待たせてしまったかしら?」

「いえ」


 優美に歩いてくるトラメに、コハクは小さく首を横に振る。門番に見送られ、二人は相変わらず瞳の外に出たままのホムラと門を潜り抜ける。生い茂る木々の間に他国へと続く街道が横たわっていた。


「おいで、スズ」

 コハクの瞳から茶色の破片が姿を変えて飛び出す。破片は見上げるほどの巨鳥となった。


『あらあらあ、お久しぶりですね。トラメ様』

「ええ。スズちゃんは元気にしていたかしら?」

『やだわあ、トラメ様ったら。私たち妖魔に不調もなにもないですわよお』


 スズは上機嫌にずんぐりとした体を震わせた。ふわふわとした羽毛が逆立ち、スズの丸みを帯びたシルエットをさらに強調させる。妖魔に人間のような不調などないと分かっていても、きちんと確認するトラメの気遣いが嬉しいのだ。

 スズは頭の飾り羽をぴこぴこと動かし、コハクたちが乗りやすいよう、背中を向けて地面へ伏せる。背に皆が乗るのを確認すると立ち上がって茶色の翼を広げる。先端の黒にアクセントのような黄色が目に鮮やかに飛び込んだ。


 三国首脳会談の日程は五日間。始まるのは一週間後なので、今から六日間後までに着けばいい。上空へ上がると共に減っていく羽ばたきと、温度をなくしていく風を受け、コハクとトラメの袖がはためいた。

 雨の多いこの時期に珍しい快晴の空を進む。コハクがちらりと遠ざかるミズホ国を振り返ると、水を張った田んぼが鏡のように光を弾いていた。


 道中は滞りなく進み、コハクたちは予定通り出立から五日後、マギリウヌ国の国境までやって来た。

 大陸の北に位置するマギリウヌ国は一年中厳しい寒さを誇る国だ。元々は鉱物などの地下資源が豊富で輸出によって大国となったが、約百年前の技術革新以降は常に最先端の科学国家として名を馳せている。

 寒風を切り、スズが国境前で着地する。コハクたちを降ろしてスズは瞳の中へ戻った。


 コハクは目の前透明なドームへ視線を移す。マギリウヌ国の大陸側で国境に面した町は三つほどある。その内の一つが目の前のザスティ町であった。南東に位置するザスティ町全体を透明なドームが覆っている。否、町全体だけではない。

 冬場はマイナス40℃の極寒の大地であるマギリウヌ国は、人の住む全ての町をドームで覆い1年中適温で保っているのだ。


「本当に不思議な国よね。ここは」

 羽織をかき合わせて呟いたトラメが白い息を吐く。


 マギリウヌ国は国土のわりにドームで覆われている部分は少ない。国全体の五分の一ほどだという。マギリウヌ国に存在する町は首都を入れて七つしかなく、中央の首都から放射線状に鉄道で結ばれ、国境の町へと繋がっている。町と鉄道はドームで覆われているので、上空から見れば『米』という漢字のの横棒がないような形に見える。


 コハクも身震いを一つして羽織の前をしっかりと閉めた。ミズホ国では初夏も終わった頃だというのに、未だに気温はマイナスを記録しているそうだ。

 町の入り口で手続きを済ませ中へと入ると、途端に冷気が緩むみ、冬の格好をしていたコハクたちは羽織を脱ぎ手袋を外した。何とはなしにコハクは上を見上げる。


 町を覆うのは透明な板を張り合わせたもので、等間隔に細い線が走っていた。冬場はあの線が熱を発し、積もる雪を溶かすのだそうだ。夏場は板の一部を収納して外の空気を入れるらしい。

 全てが透明な壁で覆われ、外界と隔絶された箱庭のような国。なるほど、トラメの言う通り不思議な国だと思う。


「おいで、ハル」

 コハクは上に向けていた首を戻してハルを喚ぶ。瞳の破片は質量を変えて青年の姿を取った。

 あちこちに跳ねた茶色の髪に、同じ茶色の耳と尻尾が揺れている。町を行く人々は耳と尻尾を持つ人間ではないハルを見ても、ちらりと視線をやるだけで誰一人騒がない。


「喚んでくれたのは嬉しいけど、この国かあ」

 ハルは落ち着かない様子で忙しなく尻尾を振り耳を動かした。騒がしいナナガ国とは正反対で人通りも少なく、数少ない町行く人々も他人に関心を示さない。情報網の発達したマギリウヌ国では、ミズホ国の『珠玉』が来ることを一般人も知らされている為、妖魔であるハルを連れていても問題はなかった。


「なんか匂いがないというかさあ、よく分かんないけど苦手なんだよね」

 整然とした町並みを眺め、ハルは耳をぺたんと伏せて溜め息を吐いた。通行人たちは会話も少なく、店の呼び込みの声すらない。昼間だというのに静かだった。


「ふふふ。ハルちゃんは正直ね」

「あっ! トラメさん久しぶりっ」


 挨拶が遅れたハルは、慌ててトラメに手を上げる。トラメも手を上げてはんなりと微笑み、久しぶりねと返した。


「おいでなさいな、フジヒメ」

 トラメの瞳の縞模様がするりと飛び出して、一人の女性が降り立つ。淡い紫のコハクよりも裾の長い衣服に帯は若草色、髪は木の蔓を結い上げ、白いかんばせにやはり紫の瞳であった。

 フジヒメは艶然とした笑みでコハクへ優雅に頭を下げる。


「久しゅうございますな、コハク殿」

「お久しぶりです、フジヒメ」

 コハクが会釈を返すとフジヒメは一重の紫の瞳を細めた。


「ホムラ殿、ハル殿もお久しゅう」

 フジヒメの挨拶にハルはよっ! と手を上げたが、ホムラはじろりと一瞥したのみだった。

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★琥珀~のサイドストーリー
「治安維持警備隊第二部隊~ナナガ国の嫌われ部隊の実情~」
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