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琥珀の夢は甘く香る ~アンバーの魔女と瞳に眠る妖魔の物語~  作者: 遥彼方
依頼3ー古き宗教国家、聖ルアノラ帝国

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出会い

「コハクさんたち、何処へ逃げたんだろう」

 合流しようにも先に宿屋から逃げたコハクたちが何処へ行ったのか、今何処にいるのか。多分ハルは適当に飛び出しただろうから、追っ手を撒いたらコハクがハルにポルクスを探すよう、指示を出しているのではないか。


「もしかしてウロウロしない方が見つけやすいんじゃ」

 探している者同士が動いていれば、すれ違いになるかもしれない。追っ手に見つかる可能性も上がるのではないだろうか。

 はたとポルクスは足を止めたが遅かった。路地を曲がってきた人がいたのだ。


「あっ、やばっ」

 何食わぬ顔をして堂々と歩けばまだ良かったのに、ばたばたと慌ててポルクスが回れ右をしたものだから、明らかに不審者だった。


「あ、悪魔だあっ!! 教皇様を殺した悪魔がいたぞー!」

「わああ、僕の馬鹿!」

 大声で叫ばれて、ポルクスは脱兎の如く駆け出した。

 後悔先に立たずであるが、顔写真が出回っているのだから、同じことだろうとも思う。


 来た道を少し戻ってから適当に脇道へ逸れる。真っ直ぐ前には大通りが見えた。通りを歩いていた人の目がこちらに向く。ポルクスはまた脇道へ入った。


「待てぇ、悪魔!」

 待てと言われて待てる訳がない。必死に足を動かすが、後ろの足音は増えていくし、あちこちから声がする。


「捕まりたくなくても捕まるの時間の問題だよっ、これ!」

『頑張って逃げなさい!』

「これ以上なく頑張ってるよっ!」

 また適当に曲がると、今度の道はダストボックスらしきものがいくつか並んでいた。ごみをすてようとしていた男が、驚いた顔でこちらを見ている。


「すみませんっ! 通して下さいっ!」

 戻るべきか迷ったが、追っ手は直ぐそこだ。ポルクスは強引に男の横をすり抜けようとした。


「待て」

 ところが突然襟首を掴まれ、急停止させられたと思ったら、男がダストボックスの蓋を開けていた。

「ここに入ってろ」

 言うが早いかダストボックスの中へ押し込まれた。



※※※※※※※※※


「神から下された神器が斬られるとは」

 男が憎々し気に半分となった大剣を睨んだ。斬られた剣先側は溶けて消えてしまっている。男が欠損したままの大剣を開いた書物に押し当てると、書物が光を発して大剣を飲み込んだ。


 大剣を飲み込んだ書物が鈍い光を放ったまま、男の生気を吸い始める。数日は軽い疲労感に苛まれるが仕方ない。これだけの損傷となると修復に時間がかかるだろう。


「相当な高位妖魔ですね、あの赤髪の男」

 短槍を持つ女が男の書物を注視しながら、自身の槍も書物に戻す。断罪使の武器は、持ち主の生命力を糧にして顕現する。長く出したままにしておくのは危険なのだ。


「さて、逃げられたな。どうする、ベリドゥ」

 大剣を書物に戻した男を、杖を持っていた男がベリドゥと呼んで青い目を向けた。男もまた、既に杖を書物に飲み込ませている。


「指名手配はしてありますよ、アルガム。捕まるのは時間の問題でしょう。我らは神託に従うのみ」

 問いに答えたのはベリドゥではなく、青い垂れ目を和ませ短槍を持った女であった。


 戦っているときと違い、笑うと途端に優しい雰囲気になる女である。手に持っているのが短槍でなければ、慈愛に満ちたシスターにしか見えなかった。

 事実、彼らは博愛と慈愛に満ちた神の使徒であった。神の教えに従い、悪魔に鉄槌を下す時のみ修羅となる。


「そうは言うがな、ラミネアよ。我らが偉大なる主、唯一神たるユイガ様の神託が、教皇様を殺したポルクス・キングスという男を捕らえよ、とは。我らが神のなんと慈悲深いことか」

 ベリドゥが信じられないという風に頭を振った。


「教皇様を殺した悪魔など断罪の剣にかけてしまえばいい、か? 汝、神の御名の下、全ての人間へ慈悲を。それは宿主も含まれる。妖魔を分離させて更生させられるなら、それに越したことはないさ」

 杖をしまったアルガムが、書物を左手に抱えて静かに諭す。


 ベリドゥは真面目で人一倍、神への忠誠心の強い男であるが、神の教えに逸脱した存在を許せない狭量なところもあった。宿主から、妖魔を分離させることなく大剣で斬り伏せることも少なくはない。


「殺されたのは教皇様なのだぞ」

 ベリドゥが声を荒げて、太い右手を力強く振った。空を切った拳と額に浮かぶ血管が、この男の憤怒を物語っている。


「それでも、だね。それともう一つ。主は捕らえて自ら裁かれるとおっしゃられた。全ては神の御心のままに、だ。我らの矮小な疑念や思想など挟む必要はないんだよ」

 怒るベリドゥに対してアルガムはあくまで冷静だった。


 今回は特にユイガ教のトップである教皇殺害である。ベリドゥと同じような考えを持つ信徒も多く、民衆は暴動を起こしそうになっている。


 当面は悪魔の捜索を信徒に任せ、断罪使は暴動が起きないように務めなければならない。神の声を聞く断罪使こそ、感情に支配されて動くべきではないのだ。


「アルガムの言う通りです。神託は絶対ですよ」

 書物を大事そうに両腕で包み込み、ラミネアが微笑んだ。青の垂れ目を瞑り、書物を胸に抱き、恋する乙女のように頬を染めて、うっとりと聖典の一節を諳じる。


「おお、神よ。矮小なる私があなた様の御許で生きている幸福を噛み締めます。この身、この心、全てはあなた様の為に」

 浮かんでいた血管も鳴りを潜め、穏やかな顔つきになったベリドゥとアルガムも同じように瞑目し、同じ文句をうたう。


「全ては神の御心のままに」

 三人の声が重なりあって、壊れた宿屋に響いた。

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★琥珀~のサイドストーリー
「治安維持警備隊第二部隊~ナナガ国の嫌われ部隊の実情~」
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