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琥珀の夢は甘く香る ~アンバーの魔女と瞳に眠る妖魔の物語~  作者: 遥彼方
依頼3ー古き宗教国家、聖ルアノラ帝国

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それぞれの思惑

「鬱陶しい」

 赤の色合いを混ぜたホムラの黒瞳が三人の断罪使を映す。負けることなど考えもしないし、あしらう事も簡単だが。殺さない、というのが面倒だ。


「おい、馬鹿犬」

「何?」

 隣に立つハルへ小声で話しかけると、不機嫌そうに唸った。


「コハクを背に乗せろ。私は小僧を連れていく」

「はああっ!? どういう風の吹き回しだよっ」

 左拳を体の前に出して構えたまま、ハルが耳と尻尾をぴんと立てる。


「こいつらの目的は小僧だ。コハクと小僧が離れれば間違いなく小僧を追う。お前だけで小僧を守れるのか」

 本音は守るなどどうでもよい。もっともらしい言葉で丸め込み、コハクの目の届かないところで断罪使どもを灰にしてやればいい。


「まっ、守れるよっ」

 耳と尻尾がぱたぱたと動き、ハルの茶色の目が泳ぐ。

「力の制御が下手くそなお前がか? 小僧を守り抜き、どこにいるのかも分からないアキカゲの元へ辿り着けると?」

 ハルが自覚している弱点を突いてやると案の定、犬の妖魔は耳をぺたんと伏せ、反論出来ずに唸り声を上げた。

 そこへ話題に上っていたコハクとポルクスの方から騒ぎが起きた。



 断罪使たちも、小さく言葉を交わす。

「高位妖魔が二体、流石に一筋縄ではいかんか」

 大剣を構えた中年の男の低く太い声に、あまり特徴のないもう一人の男が頷く。中肉中背、この国の大部分を占める金髪碧眼の青年だ。


「特にあの赤髪の妖魔。あいつはヤバい」

「あれがミズホ国の災厄ですか」

 女が青い垂れ目を細めた。軽くうねった金髪がやわらかく女の白い顔を包んでいる。


「それは知らないが、あの犬の妖魔もそれなりに強い。俺の電撃を受けてもぴんぴんしてやがる」

「まだ本気で撃っていないだろう」

「まあね。それは向こうも同じだ」

 見れば赤髪の妖魔が犬の妖魔へ何事か言い、犬の妖魔が唸っていた。



「何を話しているんでしょう」

「さあ、ここからだと聞こえないわね」

 階段の前でポルクスがコハクへ耳打ちした。コハクは一度やり合ってから距離を取っている、二人と断罪使たちから目を離さずに答える。


「断罪使たちとまともにやり合えば殺し合いになってしまうわ。あまり熱くならないうちに止めないと」

 殺すなと命じているからハルは大丈夫だが、ホムラは縛れない。

「私が合図をしたら逃げるわよ。私たちが動けばハルもホムラも付いてこざるを得ないでしょう」

「はい、分かりまし……わっ、コハクさん!」

 何事かとポルクスを見れば、何人かが階段から忍び寄ってきていた。おそらく二階にいた他の宿泊客だろう。コハクとポルクスに気付かれたと知るや、先頭の男が手に持ったナイフを振りかざしてきた。


「この悪魔めっ!」

「わわわわっ」

 ポルクスが持っていた荷物を体の前に上げた。荷物にナイフが突き刺さる。ナイフを引き抜いて男がまた刺してこようとする。


『このっ!』

「ぎゃあああっ」

 ナイフを持った手に小さな穴が空き、男が悲鳴を上げて痛みに転がった。ポルクスの懐から出て、肩に飛び乗ったミソラが緑の目を細める。

『ふん、ポルクスを傷つけようとするからですわ』


「コハク、乗って!」

 騒ぎを目にしたハルの決断は早かった。一言叫んでから大型犬の姿になって駆ける。コハクは一瞬訝しく思いながらもハルの背に飛び乗った。落ちないようにしっかりと体を密着させて腕と足でハルにしがみつく。普段の着物と違い、ワンピースは足を開きやすい。反面、ばたばたと翻って煩わしかった。


 ハルの背にコハクが乗るのを見送ったポルクスの側に、ホムラは音も立てずに肉薄する。すくい上げるようにポルクスの体を浮かし、その下へ身を滑り込ませて背中に乗せた。


「うぇっ、ホムラさんっ?」

 驚いて声を上げる青年に、ぼそりと忠告する。

「黙って乗っていろ、小僧。舌を噛むぞ」

 言われて青年が素直に黙ると、ホムラは滑るように動く。コハクを乗せたハル、ポルクスを乗せたホムラは左右に分かれて走り出した。


 左に走ったハルが一つしかない入り口を目指す。しかし入り口には騎士と一般人たちがひしめき合っていた。あのままハルが蹴散らしてもいいが、背中のコハクに何かあっては駄目だ。そう判断したホムラは石壁を高熱で溶かし、ハルの前方に穴を空けた。


「ハル、上よ」

 コハクの言葉にハルが目線を走らせる。壁の上部に空いた大穴に気付き、入り口に向けかけていた足を方向転換さた。

 行かせまいと、男がコハクへ杖を向ける。その杖をホムラは視線一つで燃やしてやった。燃え上がったのは一瞬で、バチッと小さな音と共に消える。

 その間に、ハルが跳躍して穴から外へと消えていった。


「逃げるのか、悪魔」

 ホムラの前に大剣を構えた男が立ちふさがる。左右には杖の男と、短槍の女がいた。

 コハクは側にいない。遠慮なく燃やせると、ホムラは唇を吊り上げた。

 さあ、どいつから灰にしてくれようか。


「駄目です。ホムラさん。それをやっては駄目です。コハクさんが悲しみます」

 背中から青年の必死な声がする。構うものかとホムラは熱量を上げようとした。

 しかし何故か、断罪使たちを灰にしてやろうという気が失せる。


「ホムラさんなら、あの人たちを軽くあしらえる筈です。火傷くらいで済ませてあげて下さい。お願いします」

「ちっ」

 確かにそれくらい容易い。まあいいだろう。


 まあいいだろう・・・・・・・、ホムラはそう考えた。


 前に立つ男の大剣へ刀を振るう。大剣と刀が再度ぶつかり合った。大剣を覆う光が激しく揺らめく。


 ィイイイイインッ!


 鼓膜を震わす高音が耳をつんざき、大剣を半ばで焼き斬った。


「馬鹿なっ!」

 驚愕する男の大きな体躯が焔に包まれる。焼き殺してもいいと思っていたのに、また衝動が収まり熱が冷めた。男を包んでいた焔も消える。


「ホムラさん!」

「加減はした。黙って見ていろ」

 青年の非難を封殺し、ホムラは右後ろから突かれた槍を跳んでかわした。槍の穂先に足を着地させ、また跳躍する。


「うわっ! ホムラさん、壁っ、壁にぶつかっちゃいます」

「いちいちうるさい」

 壁だろうが何だろうが燃やし尽くしてしまえばよい。ホムラが壁に激突する前に、目前に迫る石壁は熱せられ真っ赤になって溶け落ちた。

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★琥珀~のサイドストーリー
「治安維持警備隊第二部隊~ナナガ国の嫌われ部隊の実情~」
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