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「うわっ」
真下に落ちる急な浮遊感。
いきなりのことに体がビクッとなった途端、背中に何かが触れる。
「うきゃ!」
柔らかい何かの上に落ちたのはいいが、あまりの落下の勢いに一度弾んでから落下が止まる。
びっくりしすぎて、心臓がバクバクうるさい。
落ちる夢を見ることはあったけど、今回は何かが違う。
辺りは暗く手探りで周りを触ればふわふわのクッションがいっぱい置かれているベッドの上に自分はいるらしい。
自分の部屋にはベッドはない。
だったらここはどこなのか。
どう考えても自分の部屋に敷いた布団に横になって寝た記憶しか思い出せない。
「ここって・・・」
耳をすましても、何の音も聞こえず人の気配も感じられない。
じっとしててもしょうがないので恐る恐る手を伸ばし、広いベッドの端を探し床に足を下ろした。
足の裏に絨毯を感じ、フローリングじゃないことにがっかりする。
やっぱり自分の部屋じゃない。
「もう、どこなのよ、ここは!」
まずは明かりが欲しいので壁にたどり着いて、スイッチを探してみる。
広い部屋らしく壁が思ったより長い。
壁をべたべた触りまくって、スイッチより先にドアノブを見つける。
やっと謎の部屋から抜け出せる喜びに勢いよくドアを開けると、そこは月明かりに照らされた幅の広い廊下に出た。
見覚えがなく、来た覚えはもちろんない。
(どこかの高級ホテル?これだけ長いし絨毯だし、ってやけに明るいってええっ!)
明るすぎる月明かりに不思議に思い、窓を二度見して気が付いた。
月が二つ輝いていることに。
「なに、ここ。新しい夢の国か映画の国とかなの。」
そうつぶやいて、呆然と月達を見上げていると、
「失礼ですが。」
真後ろから声がかかった。
「ひいっ!」
暗闇の中真後ろから声かけられるって怖すぎる。
再びの心臓バクバクの状態のままゆっくり後ろを振り返ると、燕尾服姿のおじいさんがカンテラ片手に立っていた。
その姿は噂に聞く執事そのもの。
すごい、本物っぽい。
執事カフェならぬ執事ホテルなのか。
それともここはお化け屋敷で透けたり、ゾンビになったりとかしないよね、とか考えていると、
「失礼ですが、どちらからいらっしゃいましたか。」
「え、と、あ、来た覚えがなくて、気づいたらそこの部屋に…。」
開けっ放しの扉を指差した。
カンテラを扉に向け確認するおじいさん。
しばらく固まった様子を見守っていると胸元のポケットから何かを取り出し口に近づけた。
「ピィィィーーー!」
耳に突き刺さるホイッスルの音にクラクラしながら、遠くから近づいてくる大勢の足音に気が付く。
(もう、何がどうなっているの?何が起こってるの?)
頭の上にはてなマークをのせ、立ち尽くすしかなかった。