4.いよいよです!
ルミリア様の手を引き隠れようとしたその時、突然口元を優しく押さえられました。驚いてルミリア様を見ると、ルミリア様は口元に人差し指を当てながら私を見ていました。そして何かを呟くと口元に当てていた手を離し、直後に右耳と口元に優しい風を感じました。
《シェリエル、聞こえる?》
突然耳元からルミリア様の声が聞こえてきました。
《大丈夫。今、私とシェリエルにしか聞こえないようにしてるから話しても大丈夫だよ。あと、今は幻術で姿を隠してるから》
驚いているとルミリア様が状況を説明して下さいました。
《ありがとうございます、ルミリア様。厨房を使い始めるのは5時からだと聞いていたのですが、申し訳ございません》
《いいよ、気にしなくて。準備のために早く来る人だっているだろうしね。
それにしてもあの2人、さっきから『今日は楽しみだなー』とか『気合い入りすぎだ』とか言ってたけど、今日は何かあるの?》
《えっと……》
どうやらルミリア様、今日がなんの日かご存じ無いようです。予想通りではありましたが……。
《あとでお伝えしますわ。今は見つからないようにお部屋へ戻りましょう》
そう言って私はルミリア様の手を引き、慎重に極秘の隠し通路を使ってお部屋へ向かいました。
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朝食後、ルミリア様にそっとクッキーの入った袋をお渡しし、「クロル様、ルミリア様がクロル様にお渡ししたいものがあるそうですわ」と言って逃げ道を塞ぎます。
ルミリア様はとても何かを言いたげなお顔をされましたが、ここは心を鬼にして笑顔で返します。
「はい、これ」
ルミリア様は恥ずかしがりながらクロル様にクッキーの入った袋を渡します。
「ありがとう。開けてみてもいい?」
「うん」
クロル様はリボンを丁寧にほどき、中身を見ました。
「すごい! これ、どうしたんだ?」
「今朝、シェリエ――」
「こほん! 今朝、私が料理長に頼んで城内の厨房をお借りして、ルミリア様が一生懸命クッキーを作られましたの」
私はルミリア様が「シェリエルと一緒に作った」と仰るのを遮るように少し声を張って言いました。
「ちょっ、シェリエル!」
「さぁ、クロル様、お召し上がり下さい」
「う、うん。いただきます」
私とルミリア様のやり取りを不思議そうに見つつも、クロル様はクッキーを1枚手に取り食べられました。
「うん、おいしい」
クロル様はとても爽やかな笑顔でルミリア様を見ながら仰いました。
「丁度良い硬さにほどよい甘さがあっておいしいよ。形もキレイだし、時々珍しい形のものもあって面白いね」
あっ、その形は……。ルミリア様は「あははは……」と笑って流していました。あの形に関して詳しい事は分からないので、私も流しておきます。
クロル様はそれから数枚食べると、私とルミリア様にも分けて下さいました。
「そういえば、どうして急にクッキーを?」
クロル様は純粋に質問してきました。……この反応はまさか、クロル様も今日がなんの日かご存じ無い !?
ルミリア様もじぃっと私を見ています。この状況で「今日は“女性が手作りお菓子を思い人に渡すと愛が深まる日”なのです!」なんてとても言えません!
「今日はみんなで仲良く楽しくクッキーをいただく日でございます」
私はなんとか笑顔でさも当然のように言いました。
「へぇ~、そんな日があるんだ。面白いね」
「それであの人達はあんなことを言ってたんだね。納得納得」
お二人はそれぞれそう言って再びクッキーを食べ始めました。
はぁ……、ルミリア様が今日のことをご存じ無いのは仕方ないかもしれませんが、まさかクロル様までご存じ無いとは……。
今回は失敗に終わってしまいましたが、次こそは! と私は新たに決意いたしました。
読んで下さりありがとうございます!
本当はバレンタインに合わせて投稿したかったのですが間に合いませんでした(汗)
いかに作者に計画性が無いかが分かってしまいますねf(´∀`;