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ムネヨシ  作者: 大原英一
第二章 大川と舞っちんぐ
9/21

浮上

「とりあえず、わかりました」

 佐久間刑事はすっかり冷めたコーヒーの紙コップを口に運んで言った。

「では私から捜索の状況についてお話します。現在、警察本部のほうで吉宗さんの携帯……いまはスマホですか? の発着信履歴を調べています。彼と最近通話した人の身元を、すべて洗い出します」

 吉宗のスマホは持ち主同様に行方不明だった。真紀の話では夫の失踪を疑ったときには、すでに電話をかけてもつながらない状態だったという。

「まずは通話記録から不審者の有無を調べます。それで何も出なければメール、フェイスブックのほうにも捜査の手を入れるつもりです」

 大川ら三人は、ただ黙っていた。何か言えるはずもなかった。


「つぎに捜索の方針です。私はこれから市内の、おもに交通機関を調べてまわります。幸いここは都会じゃない。吉宗さんがこの土地へきたとすれば、交通手段はおのずと限られます」

 吉宗のクルマは自宅へ置いたままだった。彼が単身でここへやってきたのなら、公共の交通機関を使った可能性が高い。もちろんツレがいた場合には、この限りではないが。

「真紀さん、あなたは私と行動をともにしてください」

「わかりました」

「大川さんと剛流さん」

「はい」「あ、はい」

 先に返事したのは剛流さんだった。気後れした大川はちょっと声がうわずった。


「あなたたちふたりは正規の捜査員ではありません。ですから私が指示することはありません。渓谷を散策するなり、市内を観光するなり、ご自由にしていただいてけっこうです」

「あのう、遊びにきたわけじゃ……」

 不満顔の剛流さんを刑事が制した。

「もちろんです。あくまで素人目線で吉宗さんを捜してほしい、という意味です。これって、けっこう重要なんですよ。危険なことだけは避けてください。旅行にきて危険な目に遭いたい人なんて、ふつうはいませんよね? そういう意味も含まれています」

 と、そのとき不意に携帯電話の着信音が鳴った。佐久間刑事のガラケーのものだった。べつに揶揄しているわけではない。


「そうか、それじゃ画像をメールで送ってくれ」

 そう伝えて通話を終えると、刑事は真紀のほうを向いて言った。

「吉宗さんの通話履歴から、さっそく不審人物が出ました。田島恒義、五〇歳男性、甲府市在住、自由業、現在行方不明……」

「行方不明?」

 ええ、と佐久間刑事は頷いた。

「吉宗さんの最近の通話履歴には、会社関係とご家族のかたの番号しかなかったそうです……この田島を除いて。当然警察は田島の身元を確認しました。そこで田島に捜索願いが出ていることが判明したというわけです」

 ピロリン、とメールの着信音らしきものが鳴り、刑事は携帯電話を開いた。

「田島の画像をメールで送ってもらいました。ぜひ真紀さんにご確認いただきたい」

 真紀はおそるおそる携帯電話を受け取ると、その小さな画面に見入った。

「あっ、この人……イワナのおじさん」



「さっそくプランを変更します。真紀さん、私と一緒に甲府へ行きましょう。田島の奥さんに会って事情を聞きます」

「えっ……でも」

 躊躇する真紀に刑事が言う。

「田島がまだ犯人ときまったわけではありません。吉宗さんと一緒に事故に遭った可能性だってあります。ぜひ一緒に甲府へ来てください」

「……わかりました」

 そして刑事は大川たちにむかって言った。

「おふたりにはプランの変更はありません。しいて言えば、イワナおじさんこと田島恒義の情報が加わったくらいですかね。吉宗さんを捜すことは田島を捜すことであり、その逆もまたしかりです」

「その画像を添付したメール、私たちにも転送してもらっていいですか」

 剛流さんが凄いお願いをさらっと言った。

「本来はダメです。でも、特別ですよ?」

 田島の画像付きメールを大川らに転送すると、刑事はさっそく真紀を連れて部屋を出て行った。


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