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ムネヨシ  作者: 大原英一
第五章 舞っちんぐの推理 
20/21

ダイアローグ3

「……え、でもケータイの番号まで変えちゃったら、レイコとエックスはどうやって連絡するんです? つーか彼女と会えなくなったら、エックスに旨味がないってゆうか……」

「鋭いわー大川くん。ねえ、きみならどうする? 不倫相手とは会いたくない。でも相手の気持ちを少なくとも一年間はつないでおきたい、そんな場合」

「……お金ですか」

「うん、手っ取り早いわね。きみがレイコだったら、いくら払う?」

「そんなん、予想もつきませんよー」

「たぶんレイコくらいのお金持ちだったら、三〇〇万くらいはすぐに用意できると思うの。それを分割して毎月エックスに払ったんじゃないかな。月給で二〇万くらい?」

「うっわ、まさにヒモですね」

しもの世話が要らないぶん、楽チンよね」


「そっかー、じゃあエックスは計画を知ってか知らずか、とにかく一年間はレイコと会わなかったと。連絡や送金もレイコからの一方通行だったと」

「そうね。そして一年後、レイコはエックスに最終的な打診をする。殺害計画に協力すれば謝礼は弾むと……たぶん、数千万はくだらないわ」

「うーん、数千万で人殺しかあ。微妙ですね」

「まあそれだけ自信のあるプランだったんじゃない? 実際よくできているし」

「……」

「さあ準備は整ったわね。さっき言ったとおり、エックスが田島さんに『なりすまし』て例のサブ・ケータイで吉宗さんに電話する。九月二七日の土曜日に尾白川渓谷で、彼らは再会の約束をする」

「あれっ……ってことは、田島さんのほうにも?」


「田島さんを誘導したのは妻のレイコよ。簡単なウソでことが足りる。たとえば、鬼怒川吉宗さんて人から家に電話がかかってきた。あなたが留守だと言ったら伝言を頼まれた、ってね」

「ははあ……でも、なんで固定電話いえでん? とか思わなかったのかな」

「田島さんっていえば土地の名士よ。あの屋敷の番号なんて誰でも知っているわ、少なくとも本人はそう思っていたはず」

「なるほど、じゃあその伝言が罠だとも知らずに、田島さんはほいほい出かけて行ったと。吉宗さんと再会できるのを、きっと楽しみにしていたんでしょうね」

「その待ち合わせ場所が不運にも彼らの墓場となった。ふたりの遺体が見つかった、あの雑木林よ」


「田島さんはその雑木林で、吉宗さんを待っているところを拳銃で撃たれたと。待ち伏せしていた妻のレイコによって」

「ええ……あの銃こそが彼女の切り札だったんでしょうね。たぶん、絶対に出処がわからないって自信があるんだわ」

「田島さんは、わけもわからないうちに実の妻に撃ち殺されてしまった。で、つぎは吉宗さんの番だ。番とか言ったら悪いけど……」

「うん、でもあまり悠長にしていられない。レイコの筋書きはあくまで吉宗さんとダンナの相討ちだから、死亡推定時刻に大きな差があってはダメ。

 吉宗さんは渓谷にはくわしくないから、もちろん雑木林へは案内人が必要だった。その案内人をエックスが務めた」


「えっと、たしかエックスって、吉宗さんの知り合いってことじゃなかったです?」

「知り合いといっても、それほど近しいわけじゃないはず。あきらかにエックスは甲府近辺の人間だし、東京の吉宗さんとは距離がある。でもまあ、そのエックスとも吉宗さんは『ひさしぶり』になるわね」

「エックスは吉宗さんを雑木林まで案内して、そして……サバイバル・ナイフで刺した。金欲しさに、って酷すぎですよね」

「とにかく、これでふたつの遺体が完成したわ。あとは彼らがあたかも相討ちしたように偽装すればいい。吉宗さんの遺体に銃を握らせ、反対に田島さんにはサバイバル・ナイフを握らせる」

「寒気がしてきました、マジで」

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