ダイアローグ1
あの惨劇からひと月が経った。
が、吉宗さんと田島さんを巻き込んだ事件がニュースやワイドショーで取り上げられたのは、ふたりの遺体が発見されたあの日かぎりだった。
世間的には別段めずらしくない、トラブルの発展型としての殺傷事件である。変わった点といえば争ったと思われるふたりが両方死亡していたことと、片方が拳銃を使用したことくらいか。
その片方がどうやら吉宗さんであるらしいとワイドショーは伝えていた。
ありえない、と剛流さんはあの日、山梨を発つ前に寄った定食屋のテレビに向かって呟いた。たしかに、ありえなかった。
善良なサラリーマン日本代表といっても過言じゃない吉宗さんが、なぜ拳銃で人を撃ったりするのか。てか日本だぞここは。銃なんてどうやって手に入れたというんだ。
周囲には計り知れない心の闇が男性会社員にはあったんですかねー、とコメンテイターがしたり顔で言っていた。
おまえに何がわかる。大川は心底ムカついた。だがそれはそのまま、大川自身に対しても言えることだった。
吉宗さんとそれほど長いつきあいがあったわけじゃない。職場の飲み会でご一緒することはあったが、プライベートで遊んだことはなかった。
彼の素の部分にほんの少し触れたのは、奇しくも彼が姿を消してからだ。そして彼は二度と戻ることはなかった。
柄にもなく大川は感傷的な気分で、車窓から流れる景色を眺めていた。あの日、山梨から東京へ戻る列車のなかでの話だ。
「ねえ大川くん、吉宗さんは殺されたんじゃないかな」
いきなり剛流さんが話しかけてきた。定食屋で食い入るようにテレビを見ていた彼女は、それから思いつめたようにまったく話さなかったのだ。
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「え……まあ殺されたってゆうか相討ちですよね、田島さんとの」
「違うよ、相討ちなんかじゃない」
「えっ」
「彼らはべつの人間に殺されたの。それをあたかも相討ちしたかのように、犯人が偽装したってこと」
「マジっすか……でも、どうやって。いや、誰が。いや、なんで」
「質問はひとつにして。そうね、動機がわかれば犯人は自ずとわかりそうな感じかな」
「動機、」
「そ、すっごいシンプルなやつ。たとえばお金。お金持ちを狙った犯罪」
「田島さんのことっすか」
「うん、犯人の狙いはあくまで田島さんだった」
「そんな……じゃあ吉宗さんは、巻き添えってゆうか、ダシに使われた?」
「ぶっちゃけ、そうなるわね。田島さんは吉宗さんとひさしぶりに会えるってんで、わくわくしながら待ち合わせ場所に行ったんだと思う。ワイドショーでも伝えていた、あの雑木林にね。そこを待ち構えていた犯人にピストルでズドン、てわけ」
「なるほど、凶器まで用意してあったんですね。……じゃあ吉宗さんも、おなじタイミングで?」
「近いけれど同時ではなかったと思う。ま、それはあとで話すとして、この事件の最大のポイントはなんと言っても、吉宗さんを一年ぶりに尾白川渓谷へ呼び寄せたことだと思うの」
「そりゃあ、田島さんが誘ったからでしょう?」
「違うんだなー。考えてみて、田島さんは二、三か月まえにはすでにフェイスブックをやめていたのよ?」
「だから電話で誘ったんじゃあ……」
「そう、電話。でも田島さんは吉宗さんに電話していない」
「えっ」
「田島さんじゃなくても、要は話が噛み合えばいいのよ」




