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ムネヨシ  作者: 大原英一
第四章 帰還
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ナイトスタンド

 手をこまねいている大川を見かねて、いい人日本代表の佐久間刑事が助けてくれた。

 彼はまるでフトンを丸めるように、剛流さんをくるんと回して背中から起こした。ベッド脇でしゃがむ大川に、刑事がちゃんちゃんこみたく剛流さんを肩にかけた。

 剛流さんは、あり得ないくらい軽かった。肩口から彼女の髪のめっちゃいい匂いがする。

 刑事が剛流さんの部屋のキーを渡してくれた。ぜんぜん気づかなかったが、コンビニの袋と一緒に彼女が持っていたらしい。これがないと部屋に入れない。

 そのまま大川は彼女をおぶって部屋へ行き、キーを使ってドアを開けた。ちょうどベッド脇のナイトスタンドが点きっぱなしだったので、真っ暗ではなかった。


「大川くん」

 いきなり耳元で囁かれ、大川は飛び上がるほどびっくりした。剛流さんはまだふらふらだったが、自力で大川の背中から降りた。

「あ、大丈夫ですか。水、持ってきましょうか」

「ううん、自分でやるから平気」

 そう言って彼女はベッドに横たわった。

「ねえ大川くん……明日東京へ帰ろう」

「はい?」

 少しの沈黙があった。

「たぶん、吉宗さんも田島さんも生きていないよ」

「っ……」

 大川は絶句した。悪い予想を立ててはならない。



 未明。突然電話が鳴った。アルコールも入り爆睡していた大川は、すぐには起き上がることができなかった。

「もしもし」

 佐久間刑事の声だった。鳴ったのは彼のケータイらしい。ナイトスタンドに灯りが点く。

「……わかった、すぐ行く」

 通話を終えて立ち上がった刑事に大川が声をかけた。

「どうしたんですか」

 すると刑事はひとつ、ため息を吐いた。

「遺体が見つかったらしい。ふたつ」


「ふたつって……まさか」

「これから真紀さんを起こして現場へ向かうが、きみと剛流さんはホテルで待機していてくれ。申し訳ないが、これから先はきみたちは部外者だ」

「……わかりました」

 大川にはそう言うほかなかった。

 佐久間刑事は手早く着替えて廊下へと出て行った。しばらくすると、わっという女性の泣き声が聞こえた。あきらかに真紀のものだった。

 心配して大川が廊下へ出ると、剛流さんも部屋から出てきていた。嗚咽をもらす真紀が刑事にささえられて廊下を歩いて行く様子が見えた。

 見つかった遺体がまだ吉宗ときまったわけではない。それをこれから妻である真紀が確認しに行くのだ。残酷だと大川は思った。


 昼。大川は剛流さんとともに場末の定食屋にいた。まだ山梨だったが、昼ごはんを食べたら東京へ帰る予定だ。

 ふたりとも、ほぼ手ぶらに近い状態だった。旅の荷物は警察が後日送ってくれるという。

 電車で帰すことになって申し訳ない、とは佐久間刑事の言葉だ。往きにクルマを運転してくれた彼は、この土地でまだやることがある。


 定食屋のテレビでは、今朝方見つかったふたつの遺体についてワイドショーが報じていた。遺体は鬼怒川吉宗と田島恒義のものと断定された。

 最悪の結末だった。大川は、剛流さんの付き添いとはいえレジャー気分で同行したおのれを恥じた。

 恥じたけれども、あじフライ定食はめっぽう美味しかった。剛流さんはとんかつ定食だ。彼女はとにかくよく食べる。それであの体重って、神様どうなってるんすかマジで。

 剛流さんは無言で箸を使いつづけているが、目は画面に釘づけだった。傍からみれば冷め切ったカップルに見えるかもな、と大川は思った。違うか。

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