あやしわねー
剛流さんが酒豪であることを大川は知っているが、さすがにこういった場所でドカ飲みすることはないだろうと思った。その矢先から彼女のコップの中身が空になっていた。
「あっは、お強いんですね」
刑事がめずらしいものでも見るように彼女を見た。
「それより」と剛流さんは急かした。「今日の収穫はどうでした?」
佐久間刑事は田島邸でのことをざっと、かいつまんで話した。ようするに、あまり収獲がなかったことを。
「うーん、田島さんがフェイスブックを退会してたっていう点が、気になりますねえ」
「そう思いますか」
剛流さんの言葉に刑事は興味をそそられたようだ。ちょっと剛流さん、あまり推理とか披瀝すんの、やめなさいよ……。大川はハラハラだった。
「田島さんの奥さんはたぶん、ダンナさんの記事をチェックしていたと思います」
「ほう、そんなこと、できるんですか」
「簡単です、夫婦で『友だち』になれば」
「あー」と声をもらして刑事はウィスキーに口をつけた。「そこまで、気が回りませんでした」
「田島夫妻が『友だち』だったのは間違いないです。だからこそ、奥さんはダンナさんの浮気? に気づけたわけだし」
剛流さんはさらに続けた。なんかエンジンかかってきちゃったよ……。
「ま、田島さんが浮気してたかどうかなんて、どーでもいいです。それより大事なのは、吉宗さんと田島さんがフェイスブック上で、ほとんどやり取りがなかったことだと思います」
「……え、どうしてわかるんです?」
大川が呆気にとられて訊いた。
「だから、田島さんの奥さんよ。吉宗さんと田島さんが頻繁にやり取りしてたら、記事をチェックしていた彼女の印象に残っているはずだもの」
「おー、なるほど」と大川。「……それにしても、一年間疎遠だったふたりがなぜ、いま急に会おうってことになったんスかねえ。しかも田島さんはフェイスブックをやめていたわけだから、電話で吉宗さんと約束したってことでしょ?」
「そうねー。なぜ、ふたりはお互いの電話番号を知っていたのか。あきらかに真紀さんの証言と食い違ってる。そもそも番号の交換をしなくていいように、フェイスブックというSNSを彼らは選んだはずだし。とはいえ、じつはちゃっかり番号も交換してましたっていうオチかもしれない。微妙」
剛流さんは一気にまくし立てると、ウィスキーで喉を潤した。
「例の『そっくりさん』の件は、どう思います?」刑事が訊いた。「真紀さんは、この話を夫の吉宗さんからは聞いていないと言っていました」
「あー、でもなんか、わかる気するなあ」
大川はしきりに頷いた。
「真面目な吉宗さんのことだから、きっと、そういう不思議系の話は家族にしたがらなかったんだと思う」
「田島さんの奥さんは、やけに自信満々でしたよ。そっくりさん伝説をたしかめに、夫の釣り仲間に聞いて来いくらいの勢いでしたからね。釣り仲間の年賀状まで、ほら」
佐久間刑事は二、三枚の葉書をつまんでヒラヒラさせた。
「あー、なんかそれ、あやしわねー」
剛流さんの口調もあやしくなってきた。酔っ払ったか。
「タリマさんが体験した不思議譚だもの、仲間にも吹聴してるにきまってるじゃないっ」
やばい、田島さんがタリマさんになってる! つーか、アルコールまわるの早っ。そして彼女はそのまま、ばたんとベッドに倒れ込んでしまった。 マジかよ、と大川はつぶやいた。
「さ、大川くん、彼女を負って部屋まで連れて行くんだ。そして彼女を寝かしつけたら、きみはすぐ戻ってくること」
「わわ、わかりました」
大川はめっちゃ緊張した。剛流さんを負ったことなど、もちろんない。ってゆうかこれ、うつ伏せで倒れているヒトをどうやってひっ剥がせばいいの……。




