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ムネヨシ  作者: 大原英一
第四章 帰還
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退会

「浮気……まで行ったかどうか、わからないんですけど、主人がよくないことにフェイスブックを使いはじめまして」

 麗子が恥ずかしそうに顔を赤らめて言った。

「ははあ」

 佐久間刑事は思わず声をもらした。たしかに、いま巷で流行っているSNSというものは、使い方によってはそういう出会い系のツールにもなり得る。電話やメールを使わずにメッセージを送り合えるので、浮気にはある意味もってこいだ。

「バカなんです、いい歳して。相手の女性がお金目当てで近づいてくるのを、モテてると勘違いしちゃって。そういう意味では、主人はモテますから」

「なるほど、そりゃあ奥さんも怒りますよね」

「だからヤメさせました」


「えっ」

 おいおい……こりゃどういうことだ、と刑事は内心で呟いた。

「主人に、フェイスブックを退会させたんです。浮気じゃないというんなら、できるでしょう」

 麗子は静かに言った。表情にこそ出さなかったが、沈黙の怒りが込められているようでもあった。

「あー……だとすると、困ったなあ」刑事が頭を掻く。「いやね、恒義さんが鬼怒川吉宗さんとフェイスブックでやりとりした記録が残っていればと思ったんですが」

「残念ですけど」

 あっさりと麗子は言った。徹頭徹尾、彼女は吉宗に興味がないらしい。

「ご主人がフェイスブックをやめたのは、いつごろです?」

「……二、三か月前だったと思います」

 会話が終わってしまった。これ以上麗子から聞けることはなさそうだ、と刑事が諦めて帰ろうと思ったとき、彼女から妙な提案があった。


 ちょっとお待ちください、と言って麗子は中座した。彼女は二、三枚の葉書を持って戻ってきた。

「これ、主人宛ての年賀状です。とくに親しい釣り仲間のかたたちですから、主人のこと、アタシなんかよりも詳しいかもしれません」

「あー、これは助かります」

 佐久間刑事は素直に感謝した。最近の年賀状というのは携帯電話の番号や電子メールのアドレスが載っていたりするので、警察こちらから連絡するのが容易だ。

「この葉書、お預かりしてもいいですか」

「もちろんです」と麗子。「……釣り仲間のかたがたにも、例のこと聞いてみてください」

「例の?」

「そっくりさんの件です」

「あー」

 刑事は、そういやそんなこと言ってたな、ぐらいの感じで答えた。



 佐久間刑事が真紀を連れてホテルに戻ってくると、すでに夜の九時をまわっていた。

 さきに剛流さんと外で食事を済ませてホテルの部屋に帰っていた大川は、うつらうつらしているところを刑事が点けた明かりで起こされた。

「あ、ごめん寝てた?」

「……あ、お帰りなさい。遅かったですね」

 大川は佐久間刑事と相部屋だった。今日一日、刑事が真紀とどんな情報を得たのか聞かずにはいられない。

「うん、ここと甲府の移動だけで時間食っちゃってね。……剛流さんは?」

「たぶん部屋だと思いますけど」

 そのときコンコン、とノックの音がした。大川がドアを開けるとやっぱり剛流さんだった。いい勘してるなー。

 彼女はコンビニの袋を掲げて笑顔で言った。

る?」


 そんなわけで(どんなわけで)、大川と佐久間刑事の武者ムサいふたりに剛流さんというキレイどころを迎え、ささやかな酒宴もとい反省会が開かれた。

 真紀をこの場に呼ぶことはなかった。べつにハブっているわけではないが、彼女がいないほうが刑事も気兼ねなく今日の報告ができる。

 コンビニで買ったプラスチックのコップにどばどばとロック・アイスを放り込むと、剛流さんは茶色い液体を注いで行った。もちろん麦茶ではない。

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