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ムネヨシ  作者: 大原英一
第四章 帰還
14/21

屋敷にて

 田島麗子がお茶を淹れてくれている間、佐久間刑事は居間のなかをきょろきょろと仰ぎ見た。

 いや立派な屋敷だ。伝統的な日本家屋なのだが、畳も柱も梁も一見して上物だとわかる。まあ、難を言えば部屋中魚拓や釣り道具まみれな点か。この家の主人の趣味丸出しである。

「さあ、どうぞ」

「あーどうも、おかまいなく」

 麗子が茶碗を差し出すと刑事は恐縮した。いっぽう同席した真紀は小さく会釈し、すぐまた下を向いてしまった。

 真紀と麗子はどちらも夫が失踪中という共通点がある。が、ふたりの表情は対照的ですらある。

 とくに麗子はあまり心配そうな感じではなかった。そこが刑事にはちょっと気がかりだった。


「わざわざ警察のかたにお越しいただいて、すみません。これで主人がふらっと帰ってきたら、怒られちゃいますよね」

 麗子が困ったような顔で言った。佐久間刑事はお茶をひと口すすると、

「ご主人、田島恒義さんはよく、お独りで出かけられるんですか?」

「ええ、そりゃもう、しょっちゅうです。……じつは今回、捜索願いを出そうか迷ったくらいでして」

 と麗子は言葉を濁した。

「でも今回にかぎって、ケータイもぜんぜんつながらないものですから、それで心配になりまして」

「田島さん」と刑事は本題にはいった。「こちらの鬼怒川真紀さんも、現在ご主人が行方不明なんです」


「あら、それは……」

 麗子は定型どおりの反応をしてみせた。まるで他人事のようだ。ウチは大丈夫だけどあなたのところはヤバそうですね、と言っているようだった。

「それでですね、現在行方不明の鬼怒川吉宗さんと、おなじく行方不明の田島恒義さんはどうもお知り合いのようなんです。麗子さんはそのこと、ご存知でしたか?」

「いいえ」即答だった。「ウチの主人には、それこそ山のように釣り仲間がいますので、私には把握しきれていません」

「そうですか……」刑事が残念そうに言う。「真紀さんのお話では、吉宗さんと恒義さんは尾白川渓谷で出会ったそうなんですが」

「尾白川……あ、」

「なにか、お心当りが」


「おかしな話を主人から聞きました。私はまた、くだらない冗談かと思って、本気にはしませんでしたけど」

 それはこんな話だった。

 田島恒義はあるとき、Aさんという男性の釣り人と尾白川で出会った。その翌週、おなじ場所でAさんのそっくりさんに出会った。

 そっくりさんは顔やしぐさ、声までもがAさんにそっくりだったがあきらかに別人だったという。

 そして、そっくりさんは奥さんと小さい息子さんと尾白川に遊びに来ていたらしい……。

「うーむ、話の流れでいうと、そのそっくりさんがどうも吉宗さんっぽいですね。真紀さん、この話は知っていましたか?」


 刑事の問いに真紀は力なく首を振った。

「いいえ……主人の話では、田島さんとは以前に別の釣り場で会ったとか、たしかそういうことだったと思います」

 話に食い違いがあり、刑事には妙に引っかかった。この件は要チェックだなと心にメモし、佐久間刑事はもうひとつの懸案事項に取りかかった。

「別件なんですが、麗子さん、ご主人が鬼怒川吉宗さんとフェイスブック上で『友だち』だったことをご存知ですか?」

「……いいえ、主人には『友だち』も多いですから、私には把握しきれません。ただ、」

「ただ?」

 麗子は言い難そうだった。彼女が答えるまで、ちょっとの間があった。

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