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ムネヨシ  作者: 大原英一
第三章 犯人
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サーティン

 駅の北口を出ると、すぐに一台のクルマが路駐しているのが目に入った。運転手はむこうを向いているが、その長い髪から女性だとわかる。たぶん麗子だ。

 オレが近づいて行っても運転手は振り向こうともしない。運転席の真横まで近づいて、ようやく麗子の横顔が見えた。彼女はサングラスをしていた。

 クルマの窓が一五センチほど開いていた。オレが話しかけようとすると彼女は、

「助手席に乗って、はやく」と前を向いたまま言った。

 言われるがままオレは助手席に乗り込んだ。

「シートベルトして。すわ」

 ひさしぶりだってのに、あいさつも抜きで彼女は発車した。


「あのさ麗子ちゃん……このままクルマでホテルに行こうよ。早くきみをメチャクチャにしたい」

「ケンジ」

「……はい」

 半分冗談で半分本気だったのだが、麗子はぜんっぜん笑ってくれなかった。怒られてオレはしゅんとした。

「ビジネスの話、しましょっか」

 彼女はハンドルを切りながら言った。運転しながら話すつもりらしい。

「ビジネス?」

「そう、アタシがあなたにある仕事を依頼する。それを果たしてあなたは報酬を得る、それがビジネス」

「それってたぶん……人殺しの依頼だよね」

「正解」

 彼女は表情ひとつ変えずに言った。まあ運転中だから前を向いているのは当然だが。


「えーと、ゴルゴ・サーティンじゃないんだからさ、ふつうはそんな依頼、受けないと思うよ」

「そうかしら」彼女はしれっと言う。「あなたがこの一年、受け取ったお金だけど……」

「ちょっと待ってよ」オレは声を荒げた。「たったの二四〇万で、人を殺せっての?」

「そんなケチ臭いこと言わないわ」

「えっ」

「これから二〇年間、毎月二〇万ずつ払うっていうのよ。はい、総額でいくら?」

 二四〇万のざっと二〇倍だから四八〇〇万、いや、すでに二四〇万もらっているから五〇〇〇万を超える。

「五〇〇〇万……そんな金額、どうやって」

「ダンナが死んだらアタシに入る予定の保険金、それを全部あなたにあげるってのよ。分割で申し訳ないけど」


「……つまり、保険金殺人?」

「そうなるわね」

「麗子ちゃんの取り分はどうなるの?」

「ありがとー、アタシの心配してくれて」

 なるほど。麗子のダンナが死ねば相当額の遺産が手に入るってわけか。保険金など目じゃないほどの。

「麗子ちゃん、やっぱりホテル行こうよ。きみをメチャクチャにしてからじゃないと、そんなこと……」

「ケンジ」

 やっぱり怒られた。だがオレは本気だった。つーか、いきなりそんな話を振られても……。


「ごめんね」

 やがて麗子は諭すように言った。

「あなたの返事がイエスでもノーでも、もう元の関係には戻れないのよ。イエスなら今日からアタシたちは共犯者。でも痴情がらみで尻尾をだすなんて、ごめんだわ」

 オレはしばらく黙ったあとで訊いた。

「ノーなら?」

「さっきの駅まで戻って、あなたをクルマから降ろすだけ。もう二度と会うこともない」

 彼女の鋼鉄のような意志と覚悟を感じた。オレは頷いた。

「わかったよ、やるよ」


 これから先は駆け引きが必要になる。麗子にここまで覚悟ができているということは、何かしら勝算があるのだろう。

 まずは彼女のプランを聞いてからだ。そのうえでヤバそうだったらバックレればいい。馬鹿正直に「えー、どうしよっかな……まずはプランを聞いてみないと」なんて言うやつはいない。

 言えるはずがなかった。

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