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ムネヨシ  作者: 大原英一
第二章 大川と舞っちんぐ
10/21

経費で観光とか、たまんないっすね

 ホテルの小会議室に取り残された大川は、しばし呆然とした。相方の、ってゆうかむしろご主人様か……剛流さんのほうをチラ見する。

 彼女は険しい表情でスマホの画面に見入っている。今しがた転送してもらったイワナおじさんこと田島恒義の画像である。

「これは……怪事件だわ」

「あの剛流さん、もしかして、もしかしてですけど楽しんでません?」

 彼女はそれには取り合わず、

「大川くん、とりあえず市内を捜しましょ」

「ええ……でも、どこを」

「釣具屋さんよ、きまってるじゃない」

 剛流さんがあんたバカぁ? くらいの勢いで言った。

「なんで釣具屋……」

 そんなん言われても、みたいな感じで大川はつぶやいた。


 なんのことはない、釣具屋へ行く目的はショッピングだった。川釣りの初心者セットを剛流さんは欲しがった。むろん釣りをするためだ。

「いーの、どうせ初心者の遊びなんですから、一番いっちゃん安いやつでおほほほ」

 なんとか本格的な釣り道具を売りつけようとする店員を、剛流さんはサクサクっとかわした。おばはんか。

 それでも一番安いので一万円もした。剛流さんは満足そうだった。それはいい、だが彼女は大川くんも買いなよとムチャ振りをしてきた。

「無理言わんでくださいよ。そんな持ち合わせ、ないっすよ」

「じゃあアタシが買ってあげる」

 そう言って彼女はぽん、と一万円を渡した。金持ちか。


 さすがに午後のこの時間から渓谷へ行くのは無理と判断し、土産物の店屋などをかるく見てまわった。本当に、ふつうに剛流さんは観光を楽しんでいた。

 ねえねえ大川くん、この釣りセット代、経費で出るかな? などと彼女は軽口をたたく。

 今回の捜索に参加するうえで大川らの交通費、宿泊費などはすべて警察持ちだった。つまり国民の税金である。さすがに釣竿までは無理じゃね? と大川は思ったが、適当に笑ってごまかした。


 やはり観光地だ。平日なのにけっこうな人の賑わいである。たとえ知り合いとはいえ、このなかから一人(あるいは二人)の人間を見つけ出すなんて……。

 けっきょく剛流さんにあちこち連れまわされ、陽もとっぷり暮れてふたりともお腹が空いてきた。

 佐久間刑事からは何も連絡がない。じゃあもう食事にしちゃっていいよねみたいに剛流さんが勝手に判断した。自由か。


 大川らが投宿したホテルは食事付きではなかった。まあ緊急にこちらへ来ることになったのだから贅沢は言えない。

 その代わりというか、むしろお釣りが出るくらいの食事費用を個別に警察からもらっていた。

 個別にという点がミソだ。佐久間刑事と真紀を含めた四人分の費用を使い込むわけじゃない。そんなわけで、せっかく山梨に来たのだから、それらしいものが食べられそうな店をふたりで選んで入った。

 大川も剛流さんも手堅く「ほうとう」を攻めた。あとイワナの塩焼きも注文した。

 やはりこれからイワナおじさんを捜すのだから、イワナの味を知っておかないとね、みたいなワケのわからない理屈をつける彼女だったが、そんなの関係ないくらい本場の清流で獲れた川魚はおいしかった。



 と、大川らが遊び呆けているとき、佐久間刑事と真紀は甲府に来ていた。失踪中の田島恒義の自宅を訪ねるためだ。

 田島の家は、仕事なに? ってゆうくらい立派だった。ってゆうか屋敷だ。

 玄関先で田島の妻麗子が愛想良く刑事たちを迎えてくれた。同じく夫が失踪している真紀とはだいぶ様子が違う。

「刑事さん、わざわざお越しいただいて……あら、こちらのかたは?」

 麗子が真紀の存在に気づいて言った。

「こちらは鬼怒川真紀さんです。ちょっと事情がありまして、一緒に伺いました」

「そうなんですの? ……ささっ、中にお上がりになって」

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