1-1-1 黒い夢
はっ、と息を呑むとシグは古い遺跡の中に立っていた。
狭くて暗い石造りの通路だ。放置されて随分経っているのかツタや木の根などの自然に侵食されていたり、石が剥がれてしまっているところがたくさんあった。自らの息遣いの音しかきこえるものはなく、辺りには誰も居ないようだった。
ふ、と疑問に思う。
――どうして遺跡にいるのだろう。
ややあって、その理由を思い出す。
騎士隊の皆で調査に来ていたのだった。この遺跡の奥は昔の鉱山と繋がっており、冒険者達の間では貴重な鉱石が採れると評判の場所だった。だが、最近見たこともない魔物の目撃情報が相次いでおり、騎士隊で調査することになったのだった。
しかし、それでもシグは違和感を拭えなかった。
初めて来たはずなのに、初めて来た気がしない。
「奥に行かねば」
いつの間にかそう呟いていた。
そして、暗がりの中の通路を走る。
シグは気付いていなかった。いや、本当は無意識の内に気がついていたがそんなことは気に留めるようなことではなかったのだ。
例えば、みんなと一緒に来たはずなのになぜ今一人なのか。
そして、どうして奥に行くのか。
「倒さなくてはいけない魔物がいるからだ」
どうしてシグは魔物を倒すのだろう?
「私は騎士だ。騎士は民を守るのが務めだ」
どうしてシグは騎士なのだろう?
「それは……
他の道を知らぬが故」
シグは道を駆け続けた。
次第に明かりはなくなり、まるで闇に溶けていくような気がした。進む内にどんどん道は狭くなっていく。
這い出てきていた木の根に足を取られそうになりながらもシグは走り続ける。
――そうだ、急がねば。
どうしてかはわからないがそんな気がしていた。
何かに飢えているような、乾いているような、そんな気がしていてどうしても胸の奥がざわめきがとれない。
こんな気持は以前どこかで――
「――私は何を焦っている?」
その正体に思い当たった時、目の前が完全に真っ暗になった。
さすがにこれでは先へ進むことが出来ない。
――急がなければいけないのに……!!
そう思った時、突然後ろから冷たいの気配を感じた。
体が氷のように冷たく感じる。
――そうだ、思い出した。
シグは観念したようにゆっくりと後ろを振り向く。
そこにはよく見知った少女がいた。肩ほどまでの淡いグリーンの髪、そして隊服を着た少女だ。顔を俯けていて表情はよく見えない。
彼女はふらふらと少しずつこちらに歩み寄ってくる。
シグはその歩みをただ見守っていた。やがて少女がシグの目の前まで迫った時、とっさに顔を背けてしまった。
怖かったのだ。だがそれでもその場を動かない。
彼女になら何をされても仕方がない、とそんな気持ちだったからだ。
「どうして守ってくれなかったの?」
現実では聞こえなかった声がシグの耳に突き刺さった。