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第六章 夜を統べる者。 第四十七話 曙光。


 ララコは、ゆっくりと両腕を広げ、街へと飛翔しようとしていた。今から飛び出す大空を見上げ、哄笑を上げる。身体から黒い瘴気とともに虹色の稲妻の嵐を撒き散らす。 絶壁のあちこちを穿ち、突き崩す。岩石がリガの街へと降り注ぐ。眼下の街にはヒトの姿は殆ど見受けられなかった。ウィウが作り出した僅かな時間に地下へと潜り込んだのだ。 無論、まだ多くの人々は安全なホーウッドの結界にたどり着いていない。悲鳴を上げながら長く蒸し暑い地下道を走り回っている。ララコが飛び立ち、街の上空から狂気の哄笑と、眼球を破裂させる黒い風と、全てを焼き尽くす虹色の稲妻をばらまけば、まだまだ多くの犠牲者が出るだろう。 ララコは殺戮の予感に狂喜し、1リールはある両腕を拡げ、立ち上がろうとして、倒れ込んだ。再び立ち上がろうとして・・・・・・拡げた両腕が腐り溶けて草原にぶちまけられる。

 薄っぺらだった眼球は薄っぺらな眼窩からはみ出し、赤と黒の明滅を繰り返しながら、大きく膨らみ大地に落ちて破裂した。口中から光と熱と音と冷気が溢れだし、辺り一面を灯台の光のように照らし出したかと思うと、ララコは破裂した。飛び散った薄い肉片は、その過程で厚みを持ち、いたるところに激突してはつぶれて、蒸発し、消えて行った。救い様の無い汚物が晩夏のリガに撒き散らされる。夏が残した熱を悪臭が覆い隠す。ララコは内部からめくれて行き、やがて全てが裏返り・・・・・・蒸発し、閃光と共に爆発した。世界が轟き、揺らぐ。爆風とともに闇が四散した。

 その中心で呆然と倒れ込む彼らの姿があった。体中傷だらけで血を流し、疲弊し衰弱仕切っていた。

 が、それだけだった。生き残ったのだ。ゾナもファントもナギもウルスハークファントも。空を虹色に染め上げていた稲光の嵐も消え、暗雲は霧散した。黒い風も流れて行き、 美しい正常な夜空が戻って・・・・・・いや、戻らなかった。正常な夜空は戻らず・・・・・・代わりに……


 真新しい曙光が世界を洗い流して行く。


 ・・・・・・長い夜は終わったのだ。

 狂った老ナギは死んで、アヴァローは去り、ララコは滅んだ。リガの街がついに平和を手にいれたのだ。ゾナはほほ笑みながら、ナギを見つめた。ナギもまたゾナを見つめている。ファントは立ち上がり、ウルスハークファントは浮かび上がった。ゾナが手を貸し、ナギも立ち上がり、朝日に誘われるまま、崖の切っ先へと4人は進んだ。遥か800トール眼下のリガの街を見下ろした。殆どの建物は打ち砕かれ、街は瓦礫と岩に半ば以上埋もれていた。ナギはゾナに身を寄せながら、見たはずのない、この街の黎明期を思い起こす。一切の建物がない岩ばかりの土地にたどり着いた流浪の民。彼らはこの土地が、穏やかな気候を持ち、豊かな海があり、大地が生命力に満ちていることを見抜いた。彼らは忍耐強く岩を除去し、克服して、自分達の住みかとした・・・・・・

 ナギは死んだ父やいなくなったウィウ達や・・・・・・狂ってはいたが確かに師匠であった名も知らぬ老ナギの事を思った。初めてゾナに出会った時のことや・・・・・・沸き上がる想いに押し流され、幸せなはずなのに混乱する。笑えばいいのか泣くべきなのか。ナギは思い切って口に出した。ここには私達しかいないのだし、と。


 「ね。キスして。」


 見上げるとゾナの顔が間近にあり、ナギはこの幸せの全てを感じ取ろうと瞳を綴じずに唇を重ね・・・・・・る直前、ウルスハークファントの雄叫びが響いた。二人は驚き、振り返る。ウルスハークファントは強力な稲光に打ち抜かれ、体中に裂傷と火傷を負い煙を上げながら、吹き飛ばされ草原に落ちた。ピクリとも動かない。彼らの目線の先には子供が一人、 大きな目を輝かせながら立っていた。黒く、薄っぺらな体を持つ子供が。


 ララコ。


 ゾナと目があった瞬間それは稲妻を発した。回避出来ず硬直するゾナをファントが庇う。打ち抜かれ、燃えながら弾き飛ばされた。力を失いすっかり縮んでしまった ララコはうれしそうに草原に横たわる二匹のファントを眺めている。その隙を、ナギは見逃さなかった。大きな力を使い果たし、ウルスから魔力を引き出すことも適わない今なら、 いかにララコとは言え、打ち滅ぼせる筈だった。今の二匹のファントへの雷光の威力を見れば容易に判断がつく。今のあれなら、自分の召喚する雷光の方が数段威力が上だ。素早くルーンを切り式を唱え雷光を召喚する。ナギの指先から白熱した光が迸った。ララコもそれに応じて、雷光を吐き出した。二筋の雷光はナギとララコの中間地点で激突し、絡み合う。熱せられた大気が破裂する。ナギは押し寄せる熱波を堪え踏みとどまる。一瞬、二つの雷光は、爆発して霧散するかに思われたが、ナギの術の魔力が勝っていた。一気にララコの雷光を飲み込み、そのままララコを貫いた。閃光が炸裂する。ララコは悲鳴を上げながら、紫色の炎に包まれる。ララコは蝋のようにどろどろに溶けて縮んでいく。ナギは容赦なく止めの一撃を天より召喚する。赤熱した岩石を中空より取り出し、ララコにぶつけた。爆発が起こり、ララコは一瞬で燃え尽きた。土砂が巻き上げられ、足元が大きく揺れた。岩石が激突した衝撃で揺れているのではない。世界がゆっくりと傾いていく。大地に亀裂が走った。一晩中荒れ狂ったララコの稲光の嵐が崖を脆弱にしていたのだ。三度目の崩壊。もう学んでもいい筈だった。彼らは迂闊だった。この断崖絶壁は衰弱しきっているのだ。後悔の中、その切っ先に立っていた二人は岩石と共に身体が落下して行くのを感じた。

 

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