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第三章 黒い風。 第二十話 夜明け。

 大きくうねった黒い沼は……急激に引き始める。

 坑道の奥底で松明を掲げる老婆を泣きながら肩車していた男……ユン……は、突然の黒い風の撤退に、喜びよりも大きい驚きに硬直していた。


 「ララコが帰ったんじゃ。」


 老婆は呟いた。ララコの発する黒い風はそれと共に行動を共にする魔性の瘴気なのだ。 ララコがされば、黒い風もまた消え去る。ユンは老婆を肩に乗せたまま、安堵のため息を漏らそうとして、飲み込んだ。黒い風の底に、先程まで一緒に歩いていた街人の死体が折り重なっていた。全ての死体の眼球が破裂していた。顔は中からものすごい圧力をかけられたように、膨らんでいる。中身がはみ出している犠牲者もいた。ユンは倒れ込んで、老婆を地面に落とした。ユンは震えている。自分も後僅かでこの死体達と同じ運命を進むことになったのだ。


あのおばさんが倒れこみ黒い風の底に沈んでからいくらも時間がたっていない。どのような篩、どのような手が自分たちの命を選別したんだろうか?震えが止まらなかった。老婆は身体のあちこちにできた打撲や裂傷に舌打ちしながらもゆっくりと立ち上がった。


 「帰りは低い方へと歩けばいつもの坑道に戻れるよ。心配なら、ここにいても問題なかろぅて。すぐに街人を連れてくるからの。」


 ユンは老婆の言葉に返事をしなかった。出来なかったのだ。いろいろな感情がないまぜになり、死を意識した時の無様な自分が蘇り、生暖かい死体の香りがそれらをゆっくりと掻き混ぜていく。ユンは声を出すことが出来なかった。老婆はそれを理解しておきながら、男を放置して、その場を去った。老婆は息絶えるまでこの男とは二度と会うことがなかったから、老婆には男がこの後の人生をどのように過ごしたのか知ることはかなわなかった。きっと……と、老婆はこの時思った。


 ……まずは話すこと。行動はそれから。さっき話したしのぅ。これからはもう少しうまくやれるじゃろうて。夜は明けるもんじゃ。


 リガ・ディーロンの奥深くに隠れていた人々は、翌日の昼過ぎに地上に戻り、ララコに殺された人々の葬儀の準備に取り掛かるとともに、ララコが去ったことを神に感謝するお祭りの準備を始めるだろう。ララコは去ったのだ。また、しばらくは仮初めの平和が続くのだ。次の襲来までは。

 それでも彼らは無邪気に喜ぶ。取り敢えず、生き残ったのだ。彼らは喜ぶ。良かった、良かった、と。


 ……無論、キュージの献身は知らない。

 


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