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大事 なおもち ゃ

 おもちゃはいつも、いつもいつも、つまらないきっかけで壊れてしまう。


 形あるものは必ず壊れるが、特におもちゃはとびっきり壊れやすい。

 どんなに頑丈でもすぐ壊したり、無くしてしまう。


 特に子供というものは、おもちゃが大切であれば大切であるほど、お気に入りであればあるほど、それ故に無遠慮な手で触れ、それが故に不幸にもおもちゃを壊してしまう。

 落としたり、踏んでしまったり、無理な方向に動かしたり、他のおもちゃとぶつけてしまったり、磁石が砂場の砂鉄を拾って関節ガリガリになったり、熱で変形したり、細かい部品が脱落したり……と、枚挙に暇がない。


 どこかにいるであろう、おもちゃの神様。

 おもちゃの神様はそれで良いと思いながらも、下界で壊れていくおもちゃたちを見守っていた。


 その神様はまるでオリンポスの神々みたいに贔屓が多く、気まぐれな性格だった。


 神様が高い高い空から人間の作った小さな公園を覗いてみれば、どこでも無茶な遊び方をしてる子供たちがいる。

 せっかく買ってもらったボールを無くしてしまったり、内緒で持ち出した父親のコレクションであるNゲージ貨物列車を、砂場でラッセル車のごとく乱暴に扱う男の子もいる。

 おもちゃなんて物は遊んでこそのおもちゃだが、正しい遊び方を子供がするとは限らない。


 そしてまたここにも一人、雛人形の女雛を持ち出してしまった幼い少女がいた。

 母親から「これは飾っておくものだよ」と言い聞かせられていたのに。


 運の悪い事に近所のイタズラ少年たちの目に留まり「じゅうにひとえって、十二枚も服着てるんだぜ」と誰かが余計な事を言ったため、「確かめてみようぜ」とリーダー格の少年が少女から雛人形を取り上げた。


 必死に止めようとする少女の手を振り払い、少年たちはどうやって分解するのかと三人の手で女雛を乱暴に取り扱う。

 まったくどうして男の子は、女の子の扱い方を知らないのか。不思議なものだ。

 少女の雛人形は、丁寧な事に五衣唐衣裳として素体の人形に纏わせ造られていた職人物であった。

 そのため女雛は少年たちの乱暴な手により、無残にも首と腕を抜かれ、単を剥かれてしまった。


 こうなっては、子供の手では元に戻せない。


 そう悟った少年たちは「なーんだ。十二枚じゃねーじゃん」などと素知らぬ振りをして、女雛を放り出してその場を去ってしまう。

 内心、女の子に悪いことをしたと思っているが、そんな事を素振りに出しては男が廃ると、勘違いしたかのような虚勢だ。

 残された少女は、なんとか女雛を元に戻そうとするが、重ね袿の一枚目とて分からない。

 無理に引き抜かれた腕は指が折れ曲がり、女雛の髪も乱れてしまって整いそうにない。

 泣きながらなんとしても戻そうとするが、時間だけが無為に過ぎる。誰かが見ていたらならば、

 

「壊れちゃったの?」

 女の子の前に、優しそうな少年が現れて問いかけた。

 泣きはらした女の子は優しく声を掛けられても、無視して女雛を直そうと拙い手で衣を着せようと賢明だ。

 

 この時、偶然にも気まぐれなおもちゃの神様と、優しい少年は同時に、直して上げようと手を伸ばした。

 同じ思いを胸にして、少年の手と天から降りてきた見えない手は重なり合い女雛へと伸びてく。


 少年はバラバラになった女雛に、拾い上げた衣を寄せて燐く手でそっと触れた。

 おもちゃの神様は少年の手に奇跡を宿し、後の全てを少年に託した。


 それからはまるで魔法のようだった。

 

 少年の手は暖かい燐光を撒き、女雛を優しく包み込む。強い光ながら不思議と眩しさは無く、それでいて近寄りがたい神々しさを持っていた。

 

 無残な姿をした女雛は、神々しい光に包まれて時間を巻き戻すように動き出す。

 乱れた髪は整い収まり、折れた指も元通りになって、何処かへ失われていたかんざしは光の中から姿を現し、泥で汚れた衣すっかり綺麗になり、見えない御着せの女官が女雛に纏わせていくかのように、全てが何もかも完全に元通りの姿へとなっていく。

 奇跡のような光景を目の当たりにしながら少年は驚かない。彼は自分にこんな力があると知らなかったのに……。

 直したいという気持ちが大切すぎて、目の前の奇跡を不思議な現象などと思わないのだろう。


 すっかり元通りになった女雛を受け取り、信じられないと幼い少女は泣き腫らした顔で優しく微笑む少年の顔を見上げた。

 ありがとうの声も出せないのも仕方無いだろう。こんな奇跡を目の前にして、驚きもしない人など居やしない。

 少年も分かっている。だから、もう持ち出してはいけないよ、と言い含めるだけで立ち去った。


 残された少女も持ち出した雛人形を丁寧に抱えて、家路へと駆け出した。

 時々道を顧みるが、もう礼をいうべき少年は立ち去って姿が見えない。

 後ろ髪を引かれつつ、少女は公園を後にした。

 

 そして何より大事な事に、この結果に満足した神様は、おもちゃを直す力を少年から取り戻すことを忘れて公園から立ち去ってしまった。


 だから――。

 だから、このお話の主人公――。

 矢大字やだいじ 直持なおもちは、おもちゃを自在に直す事ができる。


新連載させて頂きます。

感想やご意見などお待ちしております。


申し訳ない事に、他にも連載がありますが更新は続けますのでご安心ください。


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