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二日目(前編)

 朝を告げるアラームが、迷宮の管理に必要な《オーブ》の置かれた監視室に響き渡ります。太陽の光が指す事の無い迷宮内では、朝を迎えたという実感はありません。もっとも、私の生まれた迷宮管理センターのある魔界では、太陽なんて存在しませんでしたが。


 私は、監視室内に予め用意された食料を使ってご主人様の為の朝食を用意している所です。備蓄されている食料は少ない為、無駄使いは出来ません。ちなみに、迷宮管理センターを介す事で、食料、日用品等あらゆる物を購入する事が出来ます。普通は、迷宮を放って買い物に行くわけにもいきませんから。購入した商品は魔法によって即座に届く為、とても便利です。


 また、新たに迷宮管理人と成られるご主人様には支度金として1万Gゴートが用意されています。これにより約1ヶ月分の食料を購入する事が出来ます。それ以外のお金は、おもに人間から手に入れる方法が一般的でしょう。冒険者の所持品の処分、捕獲した奴隷の売買、魔物を解き放ち近隣の村からの略奪、様々な手段があります。


 あ、ご主人様がいらっしゃいました。朝のご挨拶をしつつ、出来上がった朝食を並べます。そして、ご主人様がお食事をしている間に、寝室の片付けを済ませます。


 迷宮がほったらかし?入口の開放する時間は自由に設定する事が出来る為、問題ありません。臨時休業も可能です。


 ご主人様の御命令により、迷宮の入口の開放時間は9時から17時まで、5日働いた後2日間休みとなっています。魔界ではとても有り得ない素晴らしい待遇ですが、ご主人様の住んでいた所ではこれが普通だと言うから驚きです。ちなみに、迷宮の拡張や魔物の再配置を行う為、本日は臨時休業です。


 迷宮の拡張や魔物の配置や入口の閉鎖は、迷宮内に冒険者がいると出来ない為でもあります。私が寝室の片付けを終えて、朝食の片付けを行っている間、ご主人様が臨時休業の設定の為に《オーブ》を操作しています。これで今日は迷宮内は安全です!


 さて、ご主人様とまずは迷宮内の確認にいきましょう。昨日、破壊された迷宮の壁や施設は魔力によってすでに元通りになっています。魔力は、迷宮内で死亡した生物の魔力が迷宮に取り込まれたり、使用されたスキルや魔法及び奴隷のもつ魔力が牢屋を介して吸収されて発生すると言われています。


 発生した魔力は、まず迷宮の維持や修理に使用され、余った分が《オーブ》に蓄積されていきます。蓄積される量は《オーブ》の大きさにより決まり、《オーブ》の大きさは迷宮の規模により決まります。ですが、迷宮が大きくなると維持に必要な魔力も増えていく為、簡単に迷宮を広げる事は出来ません。


 魔物を召還する為にも魔力は必要ですし、特定の魔物は魔力を糧に生存してる場合もあります。幸い、あの双子のおかげで《オーブ》の魔力は一杯です。初期の《オーブ》の備蓄量が少ないのか、双子の魔力が凄いのか私にはわかりません。


「お金持ちで、いい装備を持ってて、魔力も多い、でも弱い魔法使いとかたくさんこないかな~?」

ご主人様が、迷宮管理人の誰もが一度は夢見る獲物を口にします。


「あの・・・その条件で弱いは当てはまらないかと・・・。」

「そう?入り口にシルバー冒険者専用とか看板でも・・・。」

「はずかしいのでおやめください。」

そういった冒険者は大抵狡猾です、それに看板の指示通りに迷宮へ入る冒険者がいるのでしょうか?


「でも、ご主人様は冒険者達と同じ人間種族であらせられるので、私よりも人間の事はくわしいのですよね。見た目さえ気にしなければ、それもいいかもしれません。」

「俺はこの世界の人間じゃないから、微妙かも?」

「え───。」

「いつのまにか、《オーブ》?の前にいたからな~。」

「そんな事ってあるのでしょうか?」

突然、発せられた言葉に私はなにを言えばいいのかわからなくなります。


「まあ、いろいろわからない事だらけだけど、これからよろしく頼むよ。」

「貴方がどんな存在であろうと、私のご主人様には変わりありません。精一杯サポートさせて頂きます。」

後から考えると、幾らでもいい台詞が浮かぶのですが、そのときはそう答えるしかありませんでした。


「とりあえず、人間とか魔族とかのことでも、教えてもらえる?」

「では私の知っている範囲でこの世界の事をお教えしましょう。」



 我々の知っている限りでは、この世界は二つに分かれて存在しているようです。一つは、魔族や龍族等のすむ魔界、もう一つは、人間種族や人間に似た亜人種達のすむ人間界です。魔界では魔族は、龍族と勢力を争いつつも繁栄していきました。


 人間界では、始めは人間はその身体能力の低さや魔力の低さから他の種族から虐げられていたそうです。ですが人間は、類稀な知恵と貪欲さを持っていた為、次第に人間界で他の種族に対抗しうる力をつけてきました。他の種族は、戦いにおいて大体の決着がついた場合、そこで終わるのですが、人間だけは相手を従えるか滅ぼすまで戦いを続けていたそうです。


 人間は集団での戦闘に長けていて、身体能力に優れる獣人や魔力に優れるエルフ達との戦いでは、集団でありながら一つの目標の為だけに行動する一個体の生物のように動いて勝利を得てきたそうです。また、従えた他種族の長所をうまく利用することが出来たと言われています。


 ドワーフに優秀な装備や道具を作らせ、エルフから魔法を学び、獣人を労働力として利用し繁栄していきました。敵対種族を捕らえ、拷問によって得た情報によって敵対種族の本拠地を奇襲したり、時にはオーク等の知能に劣る種族を追い立てて、敵にけしかけ勝利をつかんでいったと言われてます。


 やがて人間が頂点に立ち他の種族をすべて従えるようになると、不可解な行動をとるようになりました。それぞれが違う国を作り、その国家同士で争う《戦争》と言われる行動をとるようになりました。同じ種族間で争う事は皆ありますが、人間の《戦争》は常軌を逸してました。同じ種族でありながら敵対した国を滅ぼすまで戦うなんてことは、他の種族では考えられなかったのです。


 いくつか国が出来ては、争い、一つになればまた分裂し争う、それを何度も繰り返す人間の行動に魔界では、人間は愚かな種族だという認識が広がっていきました。


 やがて、力の有る上級魔族や龍族は、「そんなに滅びたいのなら我々が滅ぼしてやろう」とそれぞれが人間の国を滅ぼそうとしました。圧倒的な力を持つ魔族や龍族の前に、人間はなすすべも無いだろう、それが一般的な見解でした。実際に魔族や龍族の腕の一振りで数十人の命が奪われ、一発の魔法で人間の作る砦が吹き飛ばされていたそうです。


 ですが、我々は人間の《戦争》を甘く見ていました。遠距離攻撃に優れた弓、詠唱の手間が必要なかわりに威力の高い魔法、それらを守る為配置された重装甲の歩兵や長い槍を持った歩兵、こちらを撹乱する高い機動力を持った騎兵、そしてそれらをサポートする後方の兵達、他種族を動員してまで行われた猛攻のまえについに龍族の王が倒れ龍族は次々に魔界へと撤退していきました。


 それまで、集団戦の概念が無かった我々は慌てて人間の戦い方を研究しました。我々も、人間ほどでは無いにしろ集団での戦闘を使い人間との戦いに望みました。人間の戦い方を熟知した我々魔族の勝利は、確実だと思われていました。ですが、人間も龍族との戦いからさらに多くの事を学んでいたのです。


 人間数十人がかりでも、持ち上げることすら出来ない巨大な槍や岩を飛ばしたりする《兵器》を発明するばかりか、すでに効果的に運用する手段までもっていたのです。《兵器》は数十種類用意されていて、それぞれが大量に用いられたようです。


 人間界に住むすべての種族を総動員して行われたこの戦いは、魔族の敗北で終わりました。魔族は、人間界の種族の約7割の命を奪いつつも勝利を得ることが出来ず、偉大な魔族の王が人間達の前に倒れました。地上での戦いは、終わりを告げ、これ以降は表立った戦いはおきていません。


 そして我々は、戦いの場を人間界の迷宮へと移すことにしました。

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