一日目(中編)
前の話は前半の説明を引きずっているせいか、淡々とした語りになっていて危機感がまったく伝わってきませんね。
携帯で読みやすいように文字数を途中で切ってますがいかがでしょう。
もっと空行をいれたほうが見やすい気もします・・・
「これはこれは、美人さんの登場だね。」
どうやらご主人様は、物怖じしない御方のようです。
モニターの前の椅子に腰を下ろされたご主人様は、あらかじめ迷宮の配置が描かれたノートとペンを取り出し、双子の通過した道をノートに書き写しているようです。
「あの、通路上に魔物がほとんどいないのですが……。」
「ああ、主力は別の部屋に待機させてある、問題はないよ」
でも、知能の無い魔物ばかりなので完全には命令を聞かず、通路上をうろうろする魔物もいますが。
私としては、こういった魔物は扱いづらくて嫌いです。たいして役にも立ちませんし。モニターに目をやると、無情にも双子は迷宮の探索を進めています。もし監視室までこられた場合、ご主人様は殺され、オーブは奪われてしまうことになるでしょう。
私は、現在のところ迷宮管理センターの所有物なので、自分で危険と判断したらご主人様の指示を仰がずに帰還することが出来ます。初心者の管理者ですし、私の魔法で一緒に迷宮管理センターに逃げるという手もありますね。規約にかかりますが、死ぬよりはましでしょう。
最初のご主人様も、初心者で無茶な事ばかりしておりました。私は、生まれてからずっと派遣先がなくて、センターでの仕事をしていましたから、知識だけは豊富にありました。もちろん実戦の伴わない知識ですが。
お互い初心者で試行錯誤や喧嘩を繰り返しながら、迷宮管理を始めて一年・・・ようやく、軌道に乗り始めた矢先のことでした。あの頃は、双子はまだ幼さの残る少女でした。ご主人様も、子供が間違って迷宮に入り込んでしまったと大慌てでした。
ですが、最初の戦闘をみてそれが間違いだと気がつきました。小手調べの為に配置された、オーク(豚人間と言ったところでしょうか、知能はありませんが大人の人間よりも腕力が強いです)が数十体、姉の放った閃光でなぎ払われ、その部屋の土壁を貫通して別の部屋に待機していた魔物までも倒されてしまいました。
私達は、大急ぎで予備の魔物を各部屋に配置しました。ですが、子供の感というものなのか、次の階層への階段まで最短距離を突き進むように、ほとんど魔物の配置された部屋を通過せずに攻略していきました。
ご主人様は王道を好まれる方だった為、迷宮の配置は多数の部屋に繋がった簡単な道ばかりで、主に各部屋内に多数の魔物を配置されて戦闘で決着をつけるスタイルでした。それも裏目に出てしまい、幾ら強力な魔物を多数配置しようと攻撃は妹の結界に防がれ、結界の中から姉の閃光でまとめてなぎ払われました。
魔物の召還に重点を置いて魔力を使用していた為、階層自体も三階層までしかなく、迷うことの無い単純な配置の為に無駄に歩かせてスタミナを奪う事も出来ませんでした。そして三階層の半ばまで双子が歩を進めたとき、私はもっとも聞きたくない命令、脱出命令を受けました。
私は、ご主人様に懇願して一緒に最後まで戦わせて欲しいと伝えました。私はまだ、迷宮管理センターの所属の為、自らの命すなわち迷宮管理センターにとっての金銭的損害を防ぐことを優先するべきでした。その事を、ご主人様に指摘され私は泣く泣く帰還を決めました。
「俺も多くの冒険者の命を奪ってずいぶんと強くなった。心配するな、ガキ供を始末した後は、また迷宮の運営に手を貸してくれ。」
そのときのご主人様は、とても大きな存在に見えました。
迷宮管理センターに戻った私は、ご主人様の再度派遣要請を待っていましたが、とうとうその要請はくることはありませんでした。
「さあ、迷ってくれるかな。」
ご主人様の呑気な口調によって私は、我にかえります。
あの双子は、この監視室のある二階層にまで歩を進めていましたが、突然来た道を引き返していきます。たまに凄腕の冒険者が相手の時にあることなのですが、このような明らかに初心者の作った迷宮の場合、たいした利益は得られないと判断し、一度撤退して数ヶ月後再度攻略に来ることがあるのです。
初心者の創った迷宮と気づき、見逃して貰えたのでしょうか?
知り合いの管理者がいる場合は、援軍の要請など行えるかもしれませんが、基本的に管理者同士はまったくつながりが無い為、期待できません。
私が戦う場合については、基本的に使い魔は迷宮管理のサポート以外の行動は禁止されています。戦闘に関してのみ、各使い魔の判断により参加することが出来ますが、拮抗した戦闘の発生した場合に限ります。使い魔の参戦により勝利をつかむ事が出来ると判断したときのみの規定の為、実際この局面で出て行くことは規則違反なのです。もっとも、これは後でなんとでも言うことが出来ますが。
モニターでは戻ろうとした様子の双子が、一階層にてまた進んでいた道を引き返し、二階層まで戻ってきました。そこで私は、合わせ鏡の配置の意味を知る事となりました。本来正確に迷宮を進んでいるのに、今きた道を戻っているかのような感覚を味わう。
この迷宮は意図的に、冒険者を惑わす配置となっていたのです。そうなると、一階層の配置も合わさって無駄に歩き回ることとなり、体力の消耗を狙う事が出来ます。特に、魔法使いはレベルが高くても身体的にはただの人とほとんど変わらないため有効な手段です。詠唱や集中力を必要とする魔法の行使は、体力を失った状態では大変な事のはずです。
もっとも、私は使い魔専用の簡単なワープ魔法しか知らない為、実際どんなデメリットがあるかは分かりませんが。
そして、通路上に時おり現れる小型の魔物の始末は明らかに双子の使う魔法ではオーバーキル状態で魔力の無駄使いです。
ふと時計に目をやると、もう侵入者の報告から4時間が経とうとしていました。同じような場所を歩かせられ、雑魚相手に無駄な魔力を消費させられ、大変な疲労のはずです。
「嫌がらせの為にも、温度や湿度の設定をあげているからな。汗をかいて水分が不足する。そして水は重くて持てる量に限りがある。」
心配してるような台詞とは裏腹に、まったく感情のこもって無い口調で仰るご主人様。
「そこまで、計算していたのですか?まさか他にもなにか仕掛けが用意されてるのでしょうか?」
「これを見てごらん」
ご主人様は、そう言うと私に迷宮の地図が描かれたノートを手渡されます。
ずっとご主人様がペンを走らせていた、その双子の移動経路の書かれたノートに目をやると、熟練の冒険者にはありえない経路を通っていました。双子は同じような通路ばかりを行き来していたのです。
「これは、いったいどんな魔法を使われたのですか?」
「たとえば、突き当たりを進んだ先の右と左に通路を作るとしよう。なにも右か左を選べなんて道を作る必要は無いよね。進んで欲しい右の道を手前に、進んで欲しくない左の道を奥に配置して、手前の道に松明でも設置してたら光の加減で奥の曲がり角はみえなくなるんじゃないかな?」
「そんな事ってあるのでしょうか?」
「まあ、他にも目の錯覚を利用した壁の模様やわざと傾斜をつけて通路を隠したり。砂地の床に変えたりして嫌がらせしてるけどね。」
迷宮の床全面を歩きにくい砂漠にすることにより、冒険者の体力を奪うって話は聞いたことがあります。でもその場合、砂漠に適した魔物しか配置できなくなるという欠点がありますが。
凄い、初心者とは思えません。でも、これが限界でしょう。雑魚をいくら集めたところで、あの双子は倒せないでしょう。
「ご主人様、凄いです。懸賞金クラスの冒険者を手玉にとるなんて!これで冒険者は疲弊して撤退、迷宮は無事ですね。」
私としては、もう双子には帰って欲しかったのです。どれだけ体力を奪っても、戦闘では勝利は不可能です。
「よし、リリに私のかっこいい所をもっと見せるためにも。一斉攻撃だ。」
そんな私の不安をよそに、とんでもない事を口走るご主人様でした・・・。