一日目(前編)
慌てて迷宮の最深部にワープした私はその豪華な内装に目を奪われました。通常は迷宮と同じように岩肌を削って作った小部屋なのですが、すでにご主人様によってまるで王室のような装飾の施された一室となっていました。どうやらご主人様は、豪華な内装を好まれる方みたいですね。
この迷宮最深部、一般的に監視室や指令室と呼ばれる迷宮の作成や管理に必要なオーブや各種モニターなどが設置されています。冒険者達の目的はこのオーブといわれる、内部に細かい粒子が流れていてまばゆい光が周囲を沿う様に走る透明な球体です。人間からすれば宝石のように高額で取引されているようです。
もっともこれを欲しがっているのは冒険者だけとは限りませんが。そしてこの監視室からはご主人様の寝室や調理場や捕獲した冒険者を捕らえておく牢屋等に繋がっています。牢屋では、捕らえた冒険者の魔力を徐々に吸収しオーブの魔力を回復させることができます。
そのうちの一つの扉が開き、中からご主人様と思われる黒髪黒目の眼鏡をかけた優しそうな男性が出てきました。年齢は20代後半でしょうか、大変お変わりになった服をお召しになっておられますが、人間種族でほかには誰もいらっしゃらない為ご主人様で間違いなさそうです。
「はじめまして、ご主人様。迷宮管理センターから派遣された使い魔のリリと申します。」
「迷宮管理センター?使い魔?」
挨拶した私を一瞥したご主人様は、温厚そうな声ですかさず聞き返してきました。
私はセンターについて一通りの説明をすると、すぐにオーブに向かい迷宮の確認を始めます。
「大変失礼な行為かと思われますが、時は一刻を争う事態です、ご了承ください。」
迷宮管理者になられて、いきなり冒険者に攻略されるわけにはいきません。
「まあ、そんなに慌てなくても……。」
と、呑気なことをおっしゃるご主人様を横目に迷宮の確認を進めていきます。
「食事でも、どうかな?どっかに食べ物があったような。」
さっそく最後の晩餐を行いたいのでしょうか?この状況ではそうなってしまいますよ。初心者が迷宮の入り口を開けて堂々としてらっしゃいますから。
どうやら二階層まで完成しており、すでに罠や魔物も配置されて迷宮と地上を繋ぐ扉は開放されているようです。
迷宮作成と罠及び魔物の設置は魔力を消費する為、通常は休憩をはさみつつ何日もかけて一階層ずつ完成させて迷宮を広げていきます。通常は一日で全てを完成させられる事は不可能でしょう。
「ご主人様、魔力はどのくらい残っておられますか?」
「もうあんまり無いかも。でも罠も設置してあるし、最初は強い敵は来ないものでしょ。」
最初は強い冒険者が来ない、仰る意味がわかりません。管理者になられたばかりの方は安易に物事を考えがちです。お気持ちはわかりますが。
「魔物は・・・壁人5とスライム20と魔ネズミ100と大ムカデ70万!!」
最初からオーブに大量の魔力があったのでしょうか?魔物の数だけは多いですね。弱い魔物ばかりですが、数を揃えれば強いかもしれません。小さくて狙いにくいですし。
壁人とは壁の中を自由に移動できる魔物でたいした戦闘力もなく物資運搬用程度の雑魚、スライムはドロドロした体を持ち体内に取り込んだ有機物を吸収して分裂増殖するこれもまた雑魚、魔ネズミは他の生物の餌として使われる、ほっといても勝手に繁殖していくことだけがとりえの雑魚、大ムカデはただの虫ですが、少ない魔力で大量に作り出せ、すばやい動きと侵入者に嫌悪感を与えるだけの雑魚・・・この中ではいきなり攻撃してくるタイプの魔物なので、数を揃えれば多少は役に立つかも。
「70万匹とか聞いたことがございません。」
迷宮の配置も、一階層は・・・普通の配置で、進む道を惑わせるような小道と帰る道を阻むような小道がそれぞれ小部屋に繋がって・・・、まあ探索がめんどくさそうな感じですね、二階へ降りる階段が二つあるのが気がかりですが。時間稼ぎなのか、逃がしたくないのかどちらとも言えない中途半端な作りです。
二階層は・・・迷宮の地図を真ん中で折ると通路や階段や小部屋が綺麗に重なるような、まるで合わせ鏡のようなつくりになっています!初日に全部やろうとしてめんどくさくなったのでしょう。罠も捕獲系のものばかり設置してかたよってますし、初心者としか思えません。
せめて見た目とかで選んだボス魔物とかいればいいのですが。ありがちですが戦い方に幅がでますから。
「大変個性的な作りの迷宮となっていますね……。」
「ああ、迷宮の壁の模様もオリジナルのカスタマイズをしてるからね。」
カスタマイズは、普通は魔物や罠を個別に強化するためものです、それを壁の模様変えに使われるとは。
「ピピピピピピピ」
私の思考を遮るように突然鳴ったアラームは無情にも冒険者の侵入を示すものでした!
急いで侵入者の確認をすると絶望的な情報がモニターに映し出されます。銀色のロングヘアーの髪をもつ美しい双子の女性、片方はエリザといい大きな杖を持ち、もう片方はリリザといい手に全身を覆うような金属製の大盾をもっています。
双子なので手に持っている物以外、髪型から背丈、顔にいたるまで同じ容姿です。この双子は、どちらも魔法使いなのですが、それぞれの作り出した一種類の魔法にのみ特化した凄腕の冒険者で多くの迷宮を制覇し魔族から懸賞金がかかっていて、私の最初のご主人様の仇でもありました。
姉のエリザのほうは杖から超高火力、広範囲の炎の魔法を出すことが出来、妹のリリザは大盾に魔法をかける事によって物理攻撃から魔法攻撃、罠のガスにいたるまでどんなものも防ぐ結界魔法を使います。また妹は姉の武器にあらかじめ魔法をかけてあり、姉の高火力の炎は妹の結界魔法によって収束され高温高圧の光線状の魔法の照射と姿を変えています。その圧力は炎に耐性のある火竜すら貫く程の威力をもっています。
実際はこのレベルの冒険者は数多くいますが、お互いが集中して武器と盾となることで、まるで二人で一個体の生命体のように戦うスタイルはいまだ破られた事がありません。
一度姉妹との戦いを経験した為か、すでに諦めているのか、私はとても冷静に二人をみることが出来ています。私は慌ててワープして来た為、荷物等持ってきていませんが、すぐに迷宮管理センターに帰還することになりそうです。
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