その1:全長2,5m・体重360kg・時速65kmのグリズリー
「雲が動いてきた…」
上を見上げておもむろに呟く。太陽が隠れそうだな。
木によりかかって座っているその青年の周りには多数の人がいた。
そして多数の獣もいた。
「ギアさん。早くしてください。」
しびれを切らしたのか、周りからそう言われる。
その言葉の返事はせずに、ギアはゆっくりと上体を起こし立ち上がった。
そして軽くため息をつき、またもやゆっくりと銃を構える。
…7発の銃音と7つの体が倒れる音がした。
「コレでいいか?」
銃に弾を込めながら、確認を取るように言う。
だがあまりの出来事にその質問に答える者はいなかった。
「一発一殺。さすがだな。」
いきなり大柄な男が目の前に出てきて話しかける。
「慣れてるからな…」
無愛想に答えて、弾を込め終わった銃をしまう。
「いやしかし、あのグリズリー相手にあれだけのことが出来るのはそういないぞ。
これは慣れなんかで出来るモノとは違うだろう。」
おもむろに金を取り出し、ギアに投げる。
「倍入れてある。部下に良い物を見せてもらった。」
ギアは金を受け取ると、軽く会釈をしてそのまま歩いていった。
「彼はいったい何者なんすか?」
部下と思われる者がその男に尋ねる。
「さあな。よくわからねえ。こういう仕事をしていると結構耳にするやつだ。
先の大戦の生き残りというのは聞いている。」
「へぇだから強いんすね。」
その問いには答えず、その男は下を向き呟いた。
「生きてて良かった。死んだ方が良かった。
あいつはどちらも選ばないんだろうな、今は。」
風が木々の間を通り、揺らし、
そのまま人々の間を通り抜ける。