表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/76

第8話 乙女には秘密が多い

業務連絡:



タイトルの区切りが分かりづらいというご意見を頂き、


タイトル名を変更いたしました。




「ここよ」


朝食を軽く済ましたエリカたちは、宿舎の最上階にある宿舎で唯一両開きの部屋の前で止まった。

他の部屋のように質素というわけではないが、別段豪奢というほどでもない扉にジーンが近づくと、2回ほどノックをして「ジーンです」と言うと、中から声がしてジーンは扉を開けた。


「失礼します」


ジーンが入ったのを見て、フィアがエリカの背中を押して中に入っていった。


部屋の中は、本で埋め尽くされたような光景だった。巨大な本棚が部屋の左右にあり、無数の本が並べられている。


部屋の中心には大きな執務机は置かれており、エリカたちから見て机の反対側に男が座っていた。仕事中だったようで書類に何か書き込みをしているようで手が忙しなく動いている。


「どうした、ジーン。査察の報告書なら問題はなかったが」


男はジーンに目を向けずに口を開いた。

髭をたっぷり蓄えた男は歳の割に老けて見えたが、声はしっかりとしていて40歳から50歳にかけてだろうとエリカは見当をつけた。


「いえ、そのことではなく、入団志望のことで……」


ジーンがそう言うと男の手が止まって、そこでようやく顔を上げてエリカたちの方を見た。鋭い眼光がジーン、フィア、そしてエリカの順に動いていき、エリカのところで止まる。


「その少女か? 年齢制限がないからと言って、いくらなんでも無理があるんじゃないか? お前も17歳で入ったとはいえ、それはお前が男で、こう言っちゃなんだがコネがあったからだぞ」


男が眉を寄せて言うと、ジーンが苦い顔をする。


「まあ、それは自覚してますが。それは置いておいて、エリカ、この人はオルテア・ヴァルト騎士団長。騎士団長、エリカです。俺とジャック、フィアが紹介人という事で」


騎士団に入るには、2つの方法があるという。


1つは年1回の一般試験によって入団する方法。

もう1つは騎士団の騎士による紹介、もしくは推薦だ。今回エリカはジーンたち3人の推薦という事で、本来ならば来年まで待たねばならない入団を今申し出ることが出来たのだ。


ジーンの言葉を聞くと、ヴァルトは意外そうな顔をする。


「ほお、3人もの推薦を受けた奴など初めてだな。ということは相応の能力があるのだろうな?」

「少なくとも、俺とジャックを足して2で割ったくらいの力はありますよ。剣術はカラッキシだそうですが」


そう言うと、ヴァルトは苦笑してします。

それもそうだろう。どこの誰が、剣術のできない人間を、エリカは人間ではないが、騎士団のような、いわばエリート集団に招き入れるだろうか。今のヴァルトの表情はそれを如実に現していた。


「くく、力だけあっても駄目なことは分かっているだろう。だが、お前たち3人の紹介とあれば、試験くらいは受けさせても良いだろう。申請書は書いたのか?」


エリカは先ほどジーンに手渡された書類をヴァルトの机に置く。書類と言っても、エリカが書いたのは自分の名前だけで、残りの部分はほぼジーンとフィアによって書かれた。出生などは2人で絶対に分からないだろう地名を書いたりと、かなり手の込んだものになっている。


ヴァルトは申請書に目を通すと、おもむろに引き出しからペンのような物を取り出すと、申請書に自分の名前を書き込んでいった。


「これで、この申請書は君と私との間だけで有効な物になった。……それが君の得物かい?」


ヴァルトはエリカが腰に帯びていた刀に気が付いて目を細めた。


「はい、ジーンさんたちと一緒に選んでいただきました」

「くく、本当に初心者なんだな。言っておくが、戦闘試験は本業の騎士が相手だ。生半可な覚悟でも、力でも勝てんからな?」

「覚悟の上です」


エリカがまっすぐな目でヴァルトに言うと、面白そうにヴァルトがくぐもった笑い声を上げる。


「楽しみだ。では、書類の通り筆記は免除、戦闘試験にて入団の是非を審査する。時刻は、そうだな、今日の午後3時だ。戦闘相手は私が見繕っておく。せいぜい頑張るがいい」


ヴァルトはそう言うと、退室を促し、エリカたち4人は一礼して団長室を後にした。


あとに残されたヴァルトは、先ほど引き出しにしまったエリカの申請書を取り出した。

エリカの名前、年齢(フィアによる詐称)、出生(ジーンとジャックによる詐称)、志願動機(フィアによる詐称)などが書かれた申請書を手に取ると、ペンを取り出しおもむろに書類に向かって何かを呟き、ペンを走らせる。


「ふふ、ほとんど詐称じゃないか。さて、本当の彼女は何者なのかな」


ヴァルトはドラゴンスレイヤーとして歴戦の騎士である。相手の裏をかき、相手の欺瞞を見抜けるくらいの実力が無くては騎士団長など務まるものではない。


彼が編み出したのは、トラップブレイカーと呼ばれる罠を見破る補助魔法を真偽の判断に応用した物である。書かれたもの、相手が言った言葉、その全てに応用が利く便利な魔法だが、かなりの技術と経験を要するものだ。


エリカの書類の主要な項目ほぼ全てがその魔法により「嘘」と判断されて、順番にヴァルトは詐称された記載にチェックを付けていく。


「年齢もか……。さすがに私の目でも16程度に見えたのだが……。不都合の塊だな、この書類は」


本来ならば、この時点で試験など受けることもなく失格になるところだ。


だが、そんな人物を何故、騎士が3人も推薦するのか、ヴァルトは興味が湧いた。


「真実を語ってもらうのは後にして、今は彼女の実力を見せてもらうとするか……」


そう言うとヴァルトは立ち上がり、部屋のバルコニーに出る。バルコニーの下は修練場になっており、朝食を終えて数多くの騎士がそこで訓練をしている。


「誰をやろうか……、勝手に入ってくるとは無粋だな、バーバラ?」


不意に言葉がとげとげしくなり、背後を見ることなく部屋に音もなく入ってきたバーバラに厳しい言葉を投げかける。振り返ると案の定、アレックスを連れたバーバラが扉の傍に立っていた。


「お久しぶりです、団長。元気そうで何より」

「能書きなどいい。半年も団を空けた理由を聞こうか」

「退屈だったもので」


あまりに良い笑顔で言われてしまい、ヴァルトはため息をついてしまった。彼女に対して、叱責は罰にはならないようだ。


「まあいい、召集に応じて帰ってきてくれただけでもありがたいものだ」

「どういたしまして」

「褒めてない!」


どうしても自分のペースに出来ないヴァルトはつい声を荒げてしまう。


「はあ、それはともかくとして、陛下にはお伝えしたのだが、実は姫様の予言が気になってな」


声を低くしてヴァルトが言うと、軽い雰囲気を纏っていたバーバラの表情が瞬時に切り替わる。傍にあるソファに腰かけると、ヴァルトの話を聞こうと耳を傾ける。


「姫様の予言、ね。何かあったの?」

「ああ」


白紙の紙を取り出すと、ヴァルトはそこに字を書き始めた。そしてそれをバーバラの元に持っていくと、反対側のソファに座ってバーバラの反応を窺う。


「『北の森より黒い影がやって来る。慈悲と災厄が1つになって』? どういう事かしら」

「北の森、おそらく『龍の森』を現しているのだろう。そこからの黒い影、龍だろうな。問題はそれが慈悲と災厄が1つになって、ということだ。これに関しては博士たちも意見が割れておってな」


う~ん、と考え込むバーバラ。


「慈悲というのは、その存在そのものの性格を表していて、その存在が王国に現れることで外から災厄がやって来る、という事かしら」

「もしくは逆だな」

「ええ……」


災厄が来て、それに対して周囲の国が協力して対抗する、とも取ることが出来る。


予言は、基本一人称がアールドールン王国という国家を現している。そのために国のどこから、と言った具体的な事を知ることはかなり困難だ。


その点、今回の予言は北の森、という具体的な地域が出ている為、北から、つまりここ首都のアルドリアからそう離れていないところで何かが起こり、その原因が龍に起因するのではないかと推測することが出来たのだ。


「とにかく、龍が出た場合には我々が出動することになる。幸いといおうか大会に向けて皆訓練に励んでいる。危機に対する備えも兼ねてしまっていることが、救いだな」

「国難規模の龍の出現……。最悪ね」

「お前にも当分はここに居てもらうからな。今の騎士団にはお前のような突出した騎士が少ない。大会でも優勝したのは私たちが最後なのだからな」

「そういえば、そうね、あの頃はあいつもいたし、私たち3人がいれば無敵だったわねぇ」


懐かしそうに宙を見つめるバーバラ。

逆にヴァルトは小さくため息をつくとバーバラを見つめる。


「お前は変わらないな」

「あなたは変わったわね……、あら?」


バーバラはヴァルトの執務机に置かれた書類に気が付いて立ち上がると、書類を手に取りそれを読みながらソファに戻ってくる。


「エリカ……、あの女の子ね。嘘だらけじゃない、これ」


呆れたように言うバーバラにヴァルトは頷きを返す。


「まあな。今日の3時から戦闘試験を行う。暇なら見に来ると良い。どうせ暇なのだろう?」

「まあね、丁度私もこの子が気になっていたところだし、見に行くわ」


そう言うと、バーバラは立ち上がりソファの隣で丸くなっていたアレックスを連れて扉を開ける。そこで立ち止まると振り返り、ヴァルトに向かって笑みを浮かべた。


「もし、私の予想通りなら、この騎士団は大物を釣り上げたことになるわよ」


ヴァルトが「どういう意味だ」と聞く前にバーバラは部屋を出ていき、あとにはヴァルトだけが残された。


「大物、か。さてさて、誰を当てるのが妥当か……」















「いいか、戦闘試験のルールは簡単だ。教官となる相手が降参するか、戦闘不能になったらエリカの勝ち、晴れてエリカは俺たちアクイラ騎士団の一員だ」


試験を前に、修練場で身体を動かしていたエリカに、ジーンは声をかけてきた。


正直勝てるかは分からない。だが、少なくとも負ける気はしない。


なぜならエリカには黒鱗という鎧がある。自分の力を過信する気はさらさらないのだが、並みの剣でダメージを貰うつもりはさらさらない。


戦闘試験には2つ種類があり、騎士が行う近接戦闘試験と、魔法騎士が行う魔法戦闘試験がある。エリカが行うのは前者の方で、戦うに当たっては鎧を装着することが義務付けられている。本当の戦闘では鎧が無ければ即死クラスの攻撃に耐えられないため、ある程度重量のある鎧を身に着けなければならないのだ。


ところが、エリカのような小柄な騎士が少ない、というよりいないためにエリカは鎧を身に着けていない。入団が決まれば特注で作ることにしているのだが、戦闘試験ではエリカは胴などの鎧がない。手甲と足甲は最も小さいサイズの物を使って何とかしているが、やはり胴がないという不利は否めない。


「きっと相手は胴を狙ってくるわ。腕とかは致命傷判定が出ないからとにかく顔から上半身にかけては注意してなさい」

「分かりました」


相手の教官を務める騎士はまだ姿を現していない。身体を温めながら、エリカはどのように戦うべきか考えていた。


相手は全ての防具を付けているだろう。力技はエリカの得物では不向き、狙うは自ずと絞られていく。


問題の胴に関しても、対策はしっかりと考えてある。露出していない部分は全て黒鱗で覆うのだ。致命傷判定を貰えば関係ないが、牽制程度や打撃でのダメージはほぼ無効化して戦うことが出来る。


若干反則のような気がするが、個人技能は戦闘では相手に対するアドバンテージとして不可欠なものだ。それにアクイラ騎士団が敵にするのは龍、どんなに汚い手を使ってでも勝たなければ死ぬのだ。正攻法だけが戦い方ではない。


もちろん、知られるわけにはいかないので、よっぽどのことがなければ使わないようにしたいところだが、相手がそれを許してくれるとは限らない。


「そろそろ時間だな……。まったく、ジャックも用事を入れるなんて一番戦いたがっていたくせに」


ジャックは、急用は入ったと言って午後から姿を見ていない。


「すまん、待たせてしまったかな」


そこにヴァルトが現れた。意外な事に何故か背後にジャックを伴っている。


「団長、それにジャック、なんでここに?」

「私は審判を買って出た。そして、エリカ、君の相手はこのジャックだ」

「へ?」


一瞬、頭の理解が追いつかずに間抜けな声を出してしまったエリカに、ジャックは背中に担ぐ大剣を抜くとその切っ先を向けた。


「朝の借りは、早々に返させてもらうぜ、嬢ちゃん!」

「ええーーーーーー!?」


まさかの相手にエリカは奇声を上げてしまう。




エリカ初の人間の身体での戦闘です!


どうなることやら……主人公最強の一端を見せられれば幸いですか……


感想などお待ちしております!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ