表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
74/76

第70話 終幕


喉を斬られ、怒りは頂点に到達したようだ。


エリカたちにとっては広くとも、龍にとっては些か以上に狭いドーム内でエリカの拘束を振りほどこうと龍が大暴れする。


身体を大きく振ってエリカを壁にぶつけようともするが、エリカの必死の拘束はそう易々と外れない。


しかも、その間もジーンやバーバラが攻撃してきている。全てを相手に出来ても、全てを同時に・・・相手は出来ないようで結局全ての攻撃を受けている。


だが、それでも龍が動きを鈍らせる事はなかった。


徹底した一点集中攻撃を繰り出しても、剣は龍の内臓までは易々とは届かない。むしろ、ジーンの翼付け根への攻撃は偶然が重なった物だったのかもしれない。怒りがまだ頂点になく、動きもまだそれほど激しくなかったからこそできたことだったようだ。


今、龍は大暴れという言葉が最も似合う動きをしている。もはや一瞬の判断ミスが死に繋がりかねない。


特にエリカは龍を拘束しようとしているため、龍が動けば否応なく引きずられる。気を抜けば壁に叩き付けられ、今のエリカの身体では耐え切れない可能性もある。


「頑丈にもほどがあるぞ!」


「落ち着け、ジーン。私たちが戦った白龍はこの比ではなかった!」


白鱗の大剣は龍の鱗を裂く事は出来ていた。


しかし、龍の骨を斬るまではいたらず、致命的な一撃には程遠い。むしろ威力よりも数を優先させるヴァルトの方が上手く立ち回っているように思える。とはいえ、ヴァルトの攻撃もまた単発では致命傷にはならない。要は、エリカたち全員が目の前の荒ぶる巨体相手に攻めあぐねているのだ。


「くっ、そろそろあたしも……」


腕が限界に近い事を知らせるためか鈍痛が走る様になってきた。


「エリカ、今倒れたら何もかも終わるわよ、気張りなさい!」


ジーンたちが龍相手に攻めあぐねているとはいえ攻撃出来ているのは、エリカが動きを制限しているからに他ならない。ここでエリカが脱落すれば龍は全ての拘束から解き放たれ縦横無尽に空を飛ぶことができてしまう。


そうなったら今のエリカたちでは追撃できない。


「これが本物のドラゴンですかっ!」


「セラさん、あんなのとあたしたちを一緒にしないでください」


確かに目の前にいる存在は外見的には龍に分類されるだろう。


だが、エリカからしてみればヒトが龍になり損なった姿、自分たちと同じ部類に入れられては困る。


「そんな事は今言っている場合じゃない! このままじゃこちらはジリ貧だ!」


ヴァルトが声を上げながら爪での一撃を済んでのところで回避する。爪が床を抉り大小の瓦礫を飛散させる。


このままでは遅かれ早かれ先に限界を迎えるのはエリカたちなのはもはや明確となった。エリカは何とかこの状況を打開できる方策を模索するが、血液を失い半ば朦朧とする意識は明確な方策を思いつかせてくれない。


今必要なのは圧倒的な火力だ。殺す事は出来なくとも、少しの間動きを止める事が出来れば、黒鱗でジーンを放り投げて龍の脳天に一撃食らわせる事も可能だ。


だが、そのための戦力であるジャックは離脱、魔法による火力もシルヴィアだけでは心もとない。フィアがいれば話は別だろうがあいにく3人守っているため攻撃に転じる事は出来ない。セラの魔法も牽制にはなるが動きを止めるには至っていない。


自分でやりたいエリカも魔法の使い方についてはほとんど素人、まともな訓練をしている暇がなかったのが裏目に出てしまった。黒鱗をこれ以上発現させても火力には足りない。


それではどうするべきか。


(何かいい方法があるはず……、火力、相手はドラゴンもどき、魔法……っ!!)


考え事に意識を一瞬集中させたのが失敗だった。


ほんの一瞬、時間にしてコンマ1秒あるかどうかという一瞬、エリカは龍への意識を失念した。それを感じ取っていたかは定かではないが龍はその一瞬を突いて身体を大きく捻り、エリカは引っ張ろうとした。


「う、わっ」


コンマ1秒反応が遅れたために、エリカは踏ん張りきれずに宙を舞う。そして面白いように軽々と龍に振り回された挙句、壁に叩き付けられてしまう。


「がはっ!!」


「エリカ!」


口の中に鉄っぽい血が溢れてきた。おそらく内臓を強引に守っていた黒鱗が逆に内臓を傷つけてしまったのだろう。身体中に痛みを覚えながらもエリカは目を閉じることなく自らの状態を確認する。


「左に吹き飛ばしてくれたのが、幸い、しました……」


黒鱗に包まれた左半身から壁にぶつかったおかげで、何とか意識を保つことが出来た。これが右半身だったらおそらく滅茶苦茶になっていただろう。命があったかも疑わしいところだ。


「ですが、おかげで妙案が浮かびました……」


壁から身体を放すと、エリカは体内に渦巻く魔力に意識を集中させる。


「っ!! エリカ、何をするつもり!?」


バーバラがエリカが何かをやろうとしていることに気が付き声を荒げる。


「火力が足りないんです、多少の無茶は見逃してください!」


「過剰放出する気ね!? 前回は大丈夫だったけど今回も大丈夫という保証はないわよ! 今度こそ死ぬかもしれないわ!」


過剰放出エグゼ・リベラ、これなら不足する火力を補って有り余るだろう。


意図的に魔力を暴走させることが可能かどうか、と聞かれれば答えは「イエス」だ。制御できないほど一度の魔力を放出させようとし、あえてそれを抑えこもうとしなければ、過剰放出は起こる。今のエリカの身体がその反動と負荷に耐えられるかどうかは、この際エリカは考えないことにしていた。


魔力を際限なく放出し始めると、徐々に制御できなくなっていく。


「う、が……」


「やめなさい! 私たちで何とかするから、命を無駄にしないで!!」


バーバラの声はもはや悲鳴に近い。


エリカはふとバーバラに顔を向けると、ニッコリと笑みを浮かべてみせた。一瞬バーバラが言葉に詰まり、何かを悟ったような表情をする。


「あなた、死ぬ気……?」


その言葉に全員がエリカに視線を向ける。


だが、エリカは答える事はなかった。


何かを言おうとしたバーバラの言葉を遮る様に膨大な魔力の奔流がエリカの身体から噴き出して轟音を轟かせる。


魔力は炎へと変わり、あの日、コロシアムの中で姿を現した龍の姿になる。炎で形作られた龍がドームの中を駆け巡り、辺りに熱風をまき散らす。


その炎の龍はエリカの身体から生み出されており、そのエリカの身体は炎に包まれている。ヒトである右半身が徐々に黒ずんでいくのが傍目からも分かる。


「エリカ、本当に死ぬぞ!」


ジーンの声も魔力の奔流が生み出す音に飲みこまれていく。


エリカは炎に包まれながらも目だけは見開いて目の前の龍から目を離さない。


だが、その目がもはや焦点すら危ういほどのものになっている。前回の過剰放出との決定的な違いはエリカが深く傷ついているという事だ。前回はほぼ無傷の状態でもノックアウトしたのだ、今回無事に済む確証は極めて低い。


(それでも、あたしは、皆をっ……!!)


過剰放出で作り出された炎の龍はそれ自体が意志を持つように蠢いている。その大きさは目の前の龍とほぼ同じ、炎による存在感でそれ以上にも感じられる。


「言う事、聞きな、さい!!」


制御できないのだから、もはや駄目でもともとだ。口を開いた瞬間、熱風が喉を焼き、肺を焼き尽くそうとする。一瞬にして声が発することが出来なくなり、喉が猛烈な痛みを生み出す。息をするだけでも器官が燃え上がるような痛みに襲われ、呼吸すらままならなくなる。


(行けっ!!)


ただ、そう念じるだけだ。


それが届くと信じて、自分にそれを実現させるだけの意志の強さがあると信じて、エリカは炎の龍に呼びかける。


あの龍のなりそこなった者を焼き払えと。


自分の人生を狂わせたあの憎き者を焼き殺せと。


全てに終止符を打つために、あれ・・を焼き尽くせと。


口の端から流れる血すらも蒸発させながらエリカは意識を保ち続ける。




























――――――応。















応えたのが誰かは分からない。


だが、確かなのは目の前の炎の龍が一瞬エリカに向かって頷いたという事だけだった。


その瞬間、エリカの身体から出ていた炎がエリカを離れ、1つの個としてこの場に姿を作り出した。過剰放出が収まり、宙を漂う炎の龍の動きが、意志が、手に取る様にエリカの脳内に流れ込んでくる。


(行って、皆のために)


炎の龍が猛る。


次の瞬間、炎の龍は猛然と龍に向かって飛び掛かり、その身体に巻きつくと首に思い切り噛みついた。龍がもがき苦しみ、何とか炎の龍を引きはがそうとするが、身体に巻き付いた炎の龍はそう簡単に離れようとはしない。それどころか、エリカの意志に従って決して離れまいと強く巻き付いている。


「ゲホゲホッ、ジーン行ってっ!!!」


初めて、人を呼び捨てにした気がした。


出ない声を何とか出し、掠れた声でジーンに叫ぶ。


エリカは最後の力を振り絞って黒鱗の拘束に力を籠める。


「エリカ、死ぬなよ!」


ジーンがエリカの呼びかけに応えて黒鱗に飛び乗ると龍の頭を目指して走り出す。ヒナの時のような安定感はもはやなく、ジーンが落ちそうになると黒燐を操ってバランスを取る。そして、四肢を拘束していた黒鱗の1つを外して喉元に突き刺さる黒鱗の近くに足場を作る。喉元から龍の頭に上るには足場がどうしても必要だ。首には炎の龍が巻き付いているため、こうするしかない。


だが、もがき苦しみながらもその動きに気が付いたのだろう。目の前に迫ったジーンに向けて龍が口を開く。


「っ!!」


さっきのように炎を吐く気なのは一目瞭然だ。


黒鱗の上という宙にいる状態ではシルヴィアは守ることが出来ない。今吐かれればジーンは消し炭と化してしまう。


だが、それを見てエリカは待っていましたと言わんばかりに笑みを深めた。


エリカはさらに黒燐を1つ龍の顔に向けると開いた口に巻き付けて強引に口を閉じさせる。そしてその瞬間に炎を吐こうとした龍の喉が炎で大きく膨張する。


しかも、喉には何度も深く傷を負っている上に噛みつかれている。自分の内側からの膨張に耐えられなくなり喉が破裂、長い首が縦に裂けて血と肉が炎に混じって飛び散る。


龍がうめき声にもならない声を上げるが、それには意を介さずジーンは龍の頭に飛び乗る。


「くたばれええええええっ!!!!!」


手加減せずにその脳天に大剣を突き刺す。


鱗で1度目の抵抗を受けるが易々と貫通、頭蓋で2度目の抵抗を受けるが渾身の力で突き刺された大剣は頭蓋骨を砕き脳へ達する。そしてそのまま口内を貫通、下あごを砕いて顎の下からその切っ先を覗かせる。


その瞬間、龍の動きが鈍くなった。


身体から力が抜けていくのが目に見えて分かり、ボロボロになった首をもたげて床に倒れていく。ジーンが頭の上から跳び、エリカが黒鱗で受け止めて地面に下ろしたとほど同時に龍がドームの床に倒れ込み、猛然と床を砕く。


土煙が舞い、視界を塞ぐが、それもすぐに晴れていき、エリカたちの目の前に龍の死骸が姿を現す。頭を貫かれ、喉を破裂させ、無残になった龍の眼にもはや光はない。


「終わった、のか?」


「そういう台詞って、まだ終わってないような気にさせるから言わないでくれる?」


ジーンの言葉にバーバラがため息をつきながらそう言う。


だが、そう言うバーバラは既に剣を納めている。他の者も自ずと剣を納めていく。


龍が死んだことを確認し、シルヴィアがフィアたちにもう大丈夫だと知らせ、フィアが結界を解除する。


全員が無事なのを確認してエリカは小さくホッと安堵のため息をつき、次の瞬間床に倒れ込んだ。それに気が付いて全員が駆け寄り、バーバラがエリカを抱きかかえるがエリカは力なく笑うだけだった。


「ちょっと、無理、しまし、ゲホッ」


言葉を全て言い切る前に口から血を吐き出す。


「しっかりしろ、エリカ。フィア、治療を!」


「え、ええ!」


フィアが気を落ち着かせながら治癒魔法をかけていき、表面上の傷はどんどん治癒していく。だが、エリカが咳き込む度に出る血は一向に収まらない。


「くっ、怪我が元の吐血じゃないの!?」


「身体がもはや悲鳴を上げているのね。このままじゃ……」


バーバラがエリカの右手を握る。


「一刻も速く元の姿に戻すのが唯一の手段だな……」


「ええ……っ?!」


ヴァルトの言葉にバーバラが悔しそうに頷いた時、地面が揺れた。


そして頭上から無数の瓦礫が降り注ぎ始め、慌ててシルヴィアが落ちてくる瓦礫と自分たちの周りに氷の盾を作り出して直撃を回避させる。


「あれだけ大暴れしたんです、このドームがもう持たない!」


セラが辺りを見渡しながら叫ぶ。


床が裂け、天井が裂け、上に見える空が徐々に大きくなりつつある。


崩れ落ちてきた瓦礫で駆け下りてきた階段が崩壊を始めており、そう長く持ちそうにもない。


バーバラはそれを察すると小さくため息をつき、ジーンたちに顔を向ける。


「このままじゃ生き埋めね。皆早く逃げなさい」


「なっ! バーバラ、お前とエリカはどうするつもりだ!?」


「誰か制御者がいないと魔法陣は使えないわ。だけど全員生き埋めにするつもりは毛頭ないわ。私が残って責任もってエリカを元の姿にする」


「そんな無茶な! 第一、仲間を置いていけるわけないでしょう!」


ヒナが真っ先に反対する。


だがバーバラは静かに首を横に振る。


そして冷静な声で全員に語りかける。


「今この場で魔法陣の制御が出来るのは私とクライムとフィアくらいよ。だけどクライムは見ての通り動けないし、フィアと私だったら私の方が上手い。それに、瓦礫に埋もれるくらいで死ねるならとうの昔に死んでるわよ」


そう言うとバーバラは傷が一応は塞がって自力で立てるようになってはいるクライムに視線を向ける。


「その状態じゃ歩くのもやっと、ってところかしら?」


「……ええ、あなたと違って残っても生き延びる自信はありませんね。ここはバーバラの言う事が一番現実的でしょう」


意識を失っているジャックとユーリはそれぞれヴァルトとセラが担いでいる。この状態では今すぐにでも退避しないとあの長い階段を突破できそうにない。


「行ってく、ださい。あたしたちは、大丈夫、ですか、ら」


大丈夫という事を示そうと笑みを浮かべてみせるが、それすらも痛々しさが先に出てしまう。


「ここでお別れね。生きていたら、また会いましょう」


バーバラが不意に剣を抜くと真上の氷を斬りおとす。


斬りおとされた氷によってエリカとバーバラの2人と、ジーンたちの間に分厚い氷の壁が作り出されてしまう。


「クライム、今さらだけど、愛してるわ」


「……なら、生きてまた会おう」


クライムが悲しげに笑うと、バーバラも笑い返す。


「行きなさい」


氷の壁の反対側で必至にこちらに来ようとするジーンとフィア、ヒナにバーバラはそう叫ぶ。


「これを今生の別れにしたくないなら、あなたたちがここで死んでは駄目でしょう!」


「っ!! ……くっ、絶対よ、エリカちゃん、バーバラさん!」


「エリカ、バーバラ!!」


フィアが涙を流している。その隣でジーンとヒナがこちら側に来ようとしているが、瓦礫と氷に阻まれてどうしても出来ない。


「エリカっ、絶対に死ぬんじゃないぞ! バーバラ、俺にも手伝わせろ! ここまで来て仲間外れはないぞ!!」


「そうですよ、バーバラさん! 私も手伝います!」


「駄目よ、足手まといになるだけだもの。それよりも怪我人を連れて早く逃げなさい。じゃないとこっちも安心してエリカを治せない」


バーバラの言葉にジーンとヒナが言葉を詰まらせる。


「エリカも私も、死ぬ気はないわ。必ず戻る。だから早く行きなさい」


瓦礫の音にもはや氷越しではバーバラの言葉は届いていないかもしれない。だが、それでもバーバラは皆に伝わる様に喋る。


「絶対だからな、エリカ、バーバラ。約束したからな!」


ジーンが声を張り上げる。


バーバラはその言葉に小さく頷く。


それを見てからジーンは立ち上がり、ヒナの肩を掴んで出口へと走り出す。


後にはバーバラとエリカだけが残されることになった。



























瓦礫は既に視界を覆い尽くそうという勢いで降り続いている。ジーンたちが出口へと消えていったのを確認してから、バーバラはゆっくりとエリカに視線を戻した。


「悪いわね、約束は守れないでしょうね」


「……守りま、しょう。あたしが元に戻ったら、何が何でもバーバラさんを守ります」


「あら、嬉しい事を言ってくれるわね。なら、1つお願いしちゃいましょうか」


魔法陣に手を当て、フィアがしたように魔法陣の解析を開始する。魔法陣が輝きを増し、魔力で落下してくる瓦礫が魔法陣を避けるように落下方向を変更していく。


「さあ、終幕といこうじゃない」


バーバラがそう呟き、魔法陣の輝きが帯となってエリカに吸い込まれていく。


そしてその輝きはやがてエリカ全身を包んでいき、いつしか魔法陣全体を包み込んでいた。


「エリカ」


「……はい?」


「ありがと」


バーバラにはすでにエリカの姿は見えていない。光が視界を奪っていて自分の手の平すら見えない。


だが、その中でエリカが自分の膝に乗っているのだけは分かる。


「……あたしも、バーバラさんに出会えて、良かったです……」


エリカのかすかな声が光の奔流の中に紛れていってしまう。


「死ぬんじゃないわよ、エリカ」


「フフ、当然」





































その日、エオリアブルグ首都の近郊で巨大な白い光の柱が立ち上がった。


光の柱は雲を貫きどこまでも高く昇っていき、その数秒後には霧散した。


巨大な光の柱を巨大な影が昇っていったのを見たという者もいたが、ほんの一瞬の出来事、信じる者も少なければ実際見た者もほとんどいなかった。


ただ、光の柱は大陸のほぼ全土から観測することが出来るほどの高さまで昇った。


ある者は天から何かが降りてくると言い、ある者は災厄が舞い降りてくると言い、そしてある者は、何かが天に帰っていったと言った。


真相は誰にも分からない。


だが、ある一部の人間はそれが意味することをおぼろげながら理解していた。


「彼女は帰ったのだ」と。


1人は、王女。


1人は、王。


1人は、王子。


ほんの限られた人間だけが、星の予言を聞いてそう悟った。


だが、誰もそれを他の人間に伝えようとはしなかった。する必要すらないと判断したからだ。


彼らは心の中にそれを納め、いつの日か「彼女」がまた来る日まで、その事を記憶の中に封印しようと誓った。


星巫女は予言した。


「必ず、『彼女』は戻ってくる」と。


いつかは、分からない。だからこの予言は彼女の心の中にしかない。


彼女もまた信じているのだ。


自らが「姉」と慕った存在が、いつの日か戻って来てくれることを。


そしてそのために今なさなければならないことが、自分にはあることも。


「彼女」の旅は終焉を迎えた。


それだけは、皆が分かっていた。




エピローグやって終わり。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ