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第6話 血気より眠気!



タイトル?


気にしない気にしない、一休み一休み♪





「ふ~、美味しかった……」


蕩けきった顔を隠そうともせずにエリカは椅子の背もたれに寄りかかって大きく息を吐く。

目の前には、まるで洗ったばかりのように、汚れ1つない皿が机の上に鎮座している。目の前のフィアもその皿を見て固まっている。


「スプーンだけでここまで食べるとはね……、エリカちゃん、あなた味わって食べた?」


フィアを含め、周囲3人のさらにはまだ半分ほどの料理が残っている。エリカよりも早く食べ始め、かなりがっついて食べていたジャックすら、まだ食べきってはいない。


「もちろんです。ここまで美味しい物は初めて食べました。食堂ここで暮らしたい……」

「ちゃんと部屋で寝なさい」


調理場のある方を真剣に見つめて呟いたエリカにすかさずフィアが突っ込みを入れる。


「あ、それはそうとジーン、ジャック、エリカちゃんが騎士団に入りたいって言ってくれたんだけど、今からだとどれくらい手続きに時間かかるかしら」


思い出したようにフィアが人差し指を立てて嬉しそうに言うと、ジーンとジャックの顔がそれぞれ驚きと満面の笑顔に包まれた。


あえて、どちらがどっちかは言わないでおこう。分かるはずだ。


「意外だな、だが今日はもう夜も遅いし無理だろう。明日団長の所に行って申請書を貰いに行こう。エリカ、字は書けるか?」


考えながら言葉を紡ぐジーンは隣でまったりと飲み物を飲んでいたエリカに顔を向けてきた。


「自分の名前くらいなら多分……、でもあまり期待しないでください」

「名前が書ければ大丈夫だ。契約は直筆で行うからな。筆記は俺たちで免除してもらうよう頼むから、問題は戦闘試験だな。エリカ、お前武器は何を使う?」


さて、そこで問題にぶち当たった。

エリカは武器など使ったこともなければ持ったこともない。必要なかったからだ。ジーンたちに会う直前も、食料を取る時は黒鱗を発現させて素手に近い状態で戦っていた。


だが、それが許されない今、エリカも武器の使い方を知り、それを扱えるようにならなければならない。そしてエリカの認識では、アクイラ騎士団はかなりの腕利きが集まっているように感じられる。つまり、生半可な技術では入団すら難しいだろう。


戦闘試験の内容は分からないが、どんな状況でも切り抜けられるだけの技術を身に着ける必要がある。今のエリカにはその場の状況で即座に考えて動くような事しかできない。敵の戦略を読み、逆にその戦略の裏をかくような高等な真似はできない。


だから、今できる事を全てやらなければならない。まずは自らに最もしっくり来る武器を探さなければならない。


「何も使わないのか? う~ん、じゃあ明日修練場にいろいろ武器を持ってきて片っ端から使ってみよう。何かしっくり来るものがあるかもしれない」


難しい顔をして考え込んでいたのだろう。ジーンはその表情からエリカの心情を察し、気を使ってそう言った。


「ありがとうございます……ん?」


お礼を言ったところで、食堂の外が騒がしくなっていることに気が付いた。まだ騎士団の者たちは起きている時間だが、決して夜が更けていないわけではない。


それを不審に思ったのだろう、ジーンは立ち上がると声のする方に歩いていき、近くにいた騎士に話しかけて何事か聞いている。


その間に、ジャックは料理を口の中に押し込むと、強引に水でそれを喉の奥に流し込んだ。その様子をフィアが隣で呆れた様子で見ている。


「ジャック、フィア、バーバラが帰って来たらしいぞ」

「「何(ですって)!?」」


2人が勢いよく立ち上がったせいで、エリカが飲もうとしていた飲み物のコップが振動で倒れそうになる。慌ててエリカはコップを死守するために腕をコップに伸ばして倒れる前にコップを回収する。


「あの人、今までどこをほっつき回っていたのかしら」

「きっと明日は団長にこっぴどく叱られるぞ……」


立ち上がった2人は先ほどジーンが向かっていた方向に歩き出した。


どうしたものか、と考えているとジーンがエリカに手招きしてきたので、ジーンの近くによる。


「バーバラ、さんですか。騎士団のヒトなんですか?」


2人の後を追いながらエリカはジーンに聞いた。

おそらく、話の流れからそうなのだろうが、エリカは何も知らないため確認を取るのが妥当だと考えたのだ。


「ああ、騎士団でも屈指の凄腕ドラゴンスレイヤーだ。あ、騎士団に所属する騎士は全員ドラゴンスレイヤーと呼ばれているんだ。経験があろうとなかろうとな。それで、バーバラは、まあ、強いんだが……」


何故かそこで言いよどむジーン。

どうしたんだろうと顔を覗き込むと、ひどく言いづらそうな表情をしていた。


「バーバラさん! 半年もどこにいたんですか!」


食堂を出てしばらく通路を進んでいた2人の耳に、フィアの甲高い声が飛び込んできた。

エリカとジーンは少し歩くペースを上げると、通路を曲がった先で人だかりにぶつかった。フィアの声はその先から聞こえてくる。


「その、放浪癖があってな……」

「……みたいですね」


人だかりをかき分けてその先に進んでいくと、フィアが女性と言い合いをしている光景が飛び込んできた。ジャックは人だかりの一部となってその様子を面白そうに眺めている。


「だから~、私の性格は知っているでしょう? 1カ所に長居するなんて、つまらないのよ~」


フィアと言い合いをしている女性は面倒臭そうに頭を掻きながらため息をつく。


(あれ、この声……)


どこかで聞いたことがあるような、透き通る声を聞いて、エリカは目を細める。


背はフィアよりも高く、長い金髪は背中の真ん中あたりまで伸ばしている。出るところは出て、締まるところはしっかり締まった、その女性、バーバラは他人事のように返事をしている。


「いつもの事ですけど、もう少し騎士団の一員としての自覚を持ってくださいよ!」


そう言うと、バーバラは一対の金色の目を鋭く煌めかせるとフィアに向き合って突如真顔になった。


「じゃあ、私がいない間にドラゴンの襲撃でもあった? お隣の王国が攻め込みでもしたの? 辺境の村で山賊でも蜂起した?」

「え、いや、それは……」


いきなりの質問攻めにフィアは気圧されてしまう。

バーバラはさらに攻め立てていく。


「王様が危篤なって後継争いでも勃発した? 大飢饉で餓死者が大勢出たりした? ないでしょう? これでも旅をしている間もこの国の情勢にはいつも意識を回していたのよ? 何かあったらすぐに駆けつけられるようにと思って早馬で旅をしていたのよ。まったく、昼は万全でもないのに休みなしで帰ってきたから疲れているのよ。もう休ませてくれないかしら」

「休みなしで? どういうことですか?」


気になる単語を聞いて、フィアが首を傾げる。

だが、バーバラは手をヒラヒラと振りながら人垣に向かって歩き出す。


そこで、ジーンとエリカの真正面に立つ形になり、ジーンと目を合わせるとバーバラはニヤリと笑みを浮かべた。


「半年ぶりね、ジーン。少しは大人になった?」

「半年で変わるものなんてたかが知れてるさ。ていうか、そっちは1年経ってもまったくと言うほど変わらないんだな」


ジーンが羨ましいよ、と息を吐きながら言うと、バーバラはクスッと笑ってジーンの肩を叩き、エリカの存在に気が付いてエリカに視線を向け、表情が一瞬凍った。


「……あなたは」

「ああ、こいつはエリカ、説明するには複雑で面倒なんだが、今度からここで厄介なることになった。ジーン、俺の剣の師匠でもあるバーバラだ」

「よ、よろしくです」


ペコリと頭を下げるエリカだったが、それを見つめるバーバラの眼差しは鋭い物だった。エリカも、最初に目を合わせた瞬間のバーバラの表情を見て、怖気が走ったような気がした。


彼女から、ヒトのものとは思えない気配を感じ取ったのだ。


「エリカ、ね。よろしく。それじゃあ、私はもう寝るわね。明日団長の所へ行かないといけないから」


そう言うとバーバラは人垣を分けながら通路の先へと消えていった。

バーバラが去ると、それまでそこに集まっていた騎士も徐々に食堂や自室へ戻る様に去っていき、最後にはジーンたち4人だけが残されることになった。


「あ、あの、バーバラさんって、何者ですか?」

「お、気が付いたのか、勘が鋭いね、嬢ちゃんは。彼女は吸血鬼の一族なんだよ」

「吸血鬼ぃ?」


エリカは声が上ずってしまった。それほどに驚いてしまった。


吸血鬼とは、ヒトが作り出した想像の産物だと昔は思っていた。竜人族の間でも、何回か話題に出たことはあるが、正直本気にはしていなかった。血を吸って生きるのはともかくとして、昼は歩けない、鏡には映らない、一部の野菜で死んでしまうなどと言われて、素直に信じられるほどエリカは馬鹿ではなかった。


まあ、彼女も吸血鬼に会うのは初めてではないし、龍だった頃は人里から追い出された吸血鬼に出会ったことも何度かある。


何故驚いたのかと言うと、吸血鬼がヒトと共存しているからだ。もとより恐怖の対象のような扱いを受けていたことは、過去に出会った吸血鬼から聞いていた。だから、騎士団の人たちがことごとくバーバラの存在を受け入れていることに驚いてしまったのだ。


そして何より、彼女の雰囲気に既視感がある気がしてならないのは、どういうことなのだろうか、とエリカは心の中で目まぐるしく思考を回転させる。


「詳しくは知らないが、吸血鬼なのは確かだ。まあ、この騎士団はほとんど人間だからバーバラは居づらいのかもしれんが」


ジーンがポツッと呟く。


「本当にいるんですね、吸血鬼って」

「それは私も思ったわ。最初聞いた時は何かの冗談かと思ったけれど、実際に見せられたら、ね」


あまり、いい思い出ではないようで、フィアの表情が曇る。

おそらくは、吸血行為を見せられたのだろう。血を吸う光景など、とてもじゃないが心地の良いものではないだろう。血も滴る生肉が主食だったエリカは大したことはないと思うが、ヒトではキツイものがある。


それはともかくとして、不味いことになってしまった。


(よりにもよって吸血鬼、ですか。血の臭いでばれないかな)


吸血鬼は、血の臭いに敏感だ。

血を飲むのだから、それも当たり前なのかもしれないが、臭いだけで種族を推測することも不可能ではないだろう。


それに、バーバラが最初にエリカに目を向けた時、彼女の顔が一瞬強張ったのをエリカは見逃してはいなかった。何かしらの違和感を感じたのは間違いないだろう。そうなると、彼女にエリカの正体が知られてしまう危険性が高まる。


「まあ、放浪癖を除けば面倒見のいい人だから、エリカちゃんも何かあったら相談するのも良いかもしれないわよ。あの人世界中を旅しているから、その土地の歴史とかにすごく詳しいの。エリカちゃんの知識を今のご時世に修正する手助けになると思うわ」

「はあ……」


出来れば、なるべくお付き合いしたくないなぁ、と心の中では思いながらもなんとか返事をする。


ジーンは食堂に用があると言ってきた道を帰っていき、ジャックは大きな欠伸をしながら自室へと向かっていった。


エリカはフィアと共に自室に戻ることにした。

部屋に戻るとエリカはベッドに倒れ込んで身体を弛緩させる。すると強烈な睡魔が襲ってきてエリカを夢の世界にいざなおうとしてきた。


(今日は、いろいろありすぎました……。明日ゆっくり考えることにしましょう)


頭の中で自己完結させると、エリカはすぐに意識を手放した。


「エリカちゃん、着替えてから寝なさい……ってもう寝ちゃったの?」


フィアが2人分の着替えを持ってきたが、その時にはすでにエリカは規則正しい寝息を立てていた。

フィアは小さくため息をつくと、着替えをベッドの横に置くと布団を持ち上げてエリカにかけてやった。そして自分ももう1つのベッドに横たわると、部屋のランプを消して就寝することにした。


「ふふ、おやすみなさい」















「あの子、何者かしら」


自分も同じことを言われているとも知らずに、バーバラは久々に帰ってきた自分の部屋のベランダから外を眺めていた。


<気になるのか?>

「まあね~」


部屋の中から大型の狼が出てくると、バーバルの横に来るとバーバラの足に身体を押し付けてくる。バーバラは狼の頭を愛おしそうに撫でながらぼんやりと眼を泳がす。


「あなたから見て、あの子はどんな感じかしら」

<十中八九、ヒトではないな。だが、ご主人のようなヒトから変容した者でもない。『私たち』と同じ気配がした>

「あらあら、間違っていたら大変ねぇ。言っちゃだめよ、アレックス?」

<もとより私の声はご主人ぐらいにしか理解できんだろう?>

「分からないわよ? 私の予想通りなら、おそらくあのエリカって子もあなたの言葉を理解できるわ>


そう言うと、顔を押し付けていた狼、アレックスが驚いたように顔を上げてバーバラの顔を見上げる。


「気のせいかもしれないけれど、あの子、どこかで会った事がある気がするのよね。だけど、あんな綺麗な子に会ってたら忘れないだろうし……」

<ふむ、私と会う前ならどうにもならんな>

「仕方ないわね~。明日もう1度話をしに行こうかしら。その時はアレックス、あなたも一緒に来てね。あの子がどんな反応するか見てみたいわ」

<分かった。私もその子を間近で見てみたいしな>


そう言うとアレックスは大きな欠伸をして、部屋の中にあるベッドの隣で腰を下ろすと丸くなった。


「明日が楽しみね~」


バーバラは楽しみを目の前にした子供のような笑みを浮かべると、部屋の中へと戻っていった。



吸血鬼……


ファンタジーでは引っ張りだこな種族な気がするのはきっと私だけではないでしょう。


そして吸血鬼でしかも女性となると、妖艶なイメージが付き物なのは絶対気のせいじゃないですよね~


んまあ、私の作品のも、御多分に漏れないと言おうかなんと言おうか……


しっかし、主人公最強(予定)とか書いてありますけど、その気配が全くないですねえ、いやね、種族的にはすでに地上最強クラスなんですけど。


そのうち戦闘シーンになったら彼女の強すぎるが上に弱い一面を書けたらいいなあなんて考えている今日この頃……、次回を書いている頃には忘れてる可能性がありますが……


無双、良い響きですね。


いつかそんな風になってくれないかなあ~


感想など受け付けております!



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