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第57話 準戦略級魔法



10月22日:誤字修正しました。


「さてと、エリカ親衛隊の出陣だぜ」


「ふざけたこと言ってるとまずジャックさんから、潰しますよ?」


シータス騎士団の時と違い、全員で闘技場に出ると、ジャックは腕を振りながらそんな事を言っていた。エリカの言葉にジャックが「それはねえぜ」という表情をするが、それは場を和ませる事にしかならなかった。


因みに、エリカの現在の髪型は普段に戻っている。やり方を教えてもらったは良いが、左右対称にするのが存外難しく、自力でやった結果ジャックの大爆笑を誘発してしまったためだ。


慣れるまではヒトに見せるまい、とエリカが誓ったのも致し方ないと言える。


「馬鹿トリオとやらは遠距離戦をメインにしているわ。前衛2人を抜ければこちらの思うつぼよ」


「抜ければ、ね」


シルヴィアが冷静にバーバラの言葉を補う。昨日の試合を観戦していたジャックたちは彼らの実力を目に焼き付けているのだろう。そもそも、対戦相手に全く興味を持っていなかったエリカも問題なのだが。


「良いわね? こういう試合に私情を持ちこむのはご法度だけれど、これはエリカの私闘にさせてもらうわよ。皆文句はないわね?」


バーバラは剣を抜き、不敵な笑みを浮かべながらそう言ったが、反対する者は誰もいなかった。ジャックは少しつまらないという表情をしているが、ジャックが戦いたい相手とエリカが倒したい相手が違う事が幸いしてジャックも不満を口にはしなかった。心の底から戦いを味わいたい彼からしてみれば、私闘を目の前でされるのは興醒めになってしまうのだろう。


「俺の敵は遠巻きに生ぬるい魔法を使うような奴じゃねえからな。それに、嬢ちゃんが片手で吹っ飛ばすような奴、俺にかかれば鼻息で吹っ飛ばせるぜ」


「いや、それは無理だろう?」


不満を解消するかのようにジャックが大声でそんな事を言うと、すかさずジーンが突っ込みを入れる。


「そんな事はない……と、お出ましか」


ジーンに向かって何かを言おうとしたジャックが視線を前に向け、手に持つ大剣に力を込めた。


見れば正面に5人の姿があった。3つはエリカが覚えたくもないのに覚えてしまったあの男女、そしてその後ろに付き従うように2人の騎士が立っていた。表情は読み取れないが、エリカの経験があの5人の中で最も警戒すべき相手があの2人だと感じ取る。


白を基調とした精悍な鎧に身を包んだ2人の前に立つ馬鹿トリオは、相変わらず人を見下すような目でエリカたちを見ている。


まるで一昨日の事など無かったような表情をしているが、エリカにはその自信がどこから来るのか分からない。


「先日はよくもやってくれましたわね。この試合で、その身体に思い知らせてあげますわ!」


女性用のものとはいえ戦闘用の鎧なのだが、無駄な装飾が多い事が遠くからでも分かるほどの動きづらそうな物を着込んでいる馬鹿トリオの1人の女が憎たらしげな目でエリカを睨み付ける。先日同様扇を手に持ち、武器と言える物を見につけているようには見えない。近接戦闘をする気は最初からないという事か。


「僕に剣を向けた報いは、払ってもらう!」


「……あたしより、あちらの方がよっぽど私情を持ちこんでいるような気がするんですが……」


「みなまで言うな。俺もそう思ったから」


馬鹿トリオが餌を求める雛鳥のように喚き散らしているのを見て、エリカは冷めた目でそれを見ていた。


エリカが本気になればあの3人を瞬時に倒す自信があった。魔法による攻撃のほとんどは黒鱗で防ぐことが出来るため、彼らの攻撃がエリカに通る道理はほとんどないに等しい。


そうなると、目下の障害はあの2人という事になる。あの馬鹿トリオの従者か何かなのか、3人が喚いている間は何も言わず、ただ黙ってエリカたちを見据えていた。大剣はとてもじゃないが正規品とは思えない粗末なもので、持ち手には布が巻かれて滑り止めにされているが、破れてその意味を成していない場所も多い。


また刀身も刃こぼれが酷く、斬る事はまず無理である事が遠目にも分かる。


「それじゃ、あの2人をエリカが突破したら私たちは足止めに徹するわよ」


「その必要もあるか微妙ですね……」


バーバラが飛ばした指示に疑問符を投げ出したエリカに4人の視線が集中する。エリカは激しく喚いている3人よりもその背後の2人に注意を集中させていたのだが、その挙動からある事に気が付いた。


「どういう意味かしら、エリカ?」


シルヴィアが剣の形を変化させながら聞くと、エリカは4人にだけ分かる様に2人を指差した。


「右の男の人は腕を負傷しています。単純な裂傷か何かでしょうけどきちんとした治療を受けてるとは思えませんね。左の人は足に内出血か何かあるみたいです、先ほどから左足を庇うような体重の乗せ方をしてます」


「……よく分かるな」


ジーンが感心を通り越して呆気に取られている。


エリカも別に意識していたわけではない。ただ、獲物を狩る者は相手の状態に敏感に反応できてしまうというもはや条件反射に近い感覚を持っている。それに違和感が引っかかっただけの事だ。


だが、疑問も残る。


「どうして、治療しないんでしょう……?」


当然、万全の状態でなければ負ける公算は大きくなる。それが分からないほどあの馬鹿トリオも愚かではないと思いたい。あの3人が勝つ気満々なのは嫌でも分かるが、それにも関わらず接近戦の主力2人が全力を出し得ない状況というのは理解できない。


「けっ、どうせあの馬鹿共に昨日負けた腹いせにやられたんじゃねえか? 下種がやる事はとことん下種だからな。これじゃ弱い者いじめになっちまうじゃねえか……」


相手が手負いだと知ったジャックは落胆の表情を隠そうとはしなかった。他の3人も戦うべきか悩んでいるようで、複雑な表情をしている。


「……多分、防戦一方になる事はあちらも想定済みでしょう。2人があたしたちを足止めしている間にあの3人が強力な攻撃をぶつけてくるつもりなのでしょうね」


「なら話は早い。あいつらを速攻でリタイアさせてあの3人をフルボッコだ」


それ以上言葉はいらなかった。


開始の合図が闘技場に響き渡り、エリカたちはシルヴィアを除いた4人で相手に向かって走り出す。対してタロン騎士団は例の2人が飛び出してくるが、やはりどこか動きが鈍いように思える。


先頭を行くのはジャックだ。次いでジーン、バーバラ、エリカが横一線に並んで続いていく。


「うらあっ!!」


ジャックが思い切り大剣を2人の間目掛けて振り下ろす。相手2人が左右に分かれてその攻撃を避けると、中央に出来た突破口をジーンが潜り抜けようとする。


「行けるかっ……うおっ?!」


2人の間を絶妙なタイミングですり抜けようとした矢先、ジーンの目の前を大剣が振り下ろされた。済んでの所で急制動をかけて直撃は防いだが、足は止まってしまったため再び4人の前に2人が防衛線を構築してしまう。


避けると同時に剣を振って突破しようとしたジーンを止めたのだ。明らかにそうなる事が分かっていたがための動きで、手負いとはいえ決して侮る事の出来る相手ではないという事を思い知らされることになった。


(足を怪我しているのにあの動き……、おかしい、踏ん張れば相当痛むはずじゃ……)


エリカの判断では、足を負傷している騎士は歩くことは問題なくとも力を込めて踏ん張れば痛みが出るのは確実なレベルの内出血をしている。


避けた直後にジーンを止めるために片足に重心を移して踏ん張ったため、痛みが彼を襲ったはずなのだ。


だが、表情はまったく歪まず、平然と立っている。先ほどまでのように足を庇うような動きはするが、それが動きを鈍くしている原因にはなっていないかのようだ。


「おいおい、怪我してるとは思えねえなぁ」


ジャックがその動きに少し楽しそうな声を上げる。


「おしゃべりしてる暇はないわよ、来るわ!」


不意に頭上に真っ赤な球体が出現して、エリカたちに向かって落下してくる。とてもじゃないが個人レベルで耐えられるような色をしていないのでエリカたちは瞬時に飛び退いて落下点から離れる。


「遅いですわよ!!」


回避した瞬間、巨大な火球が脈動して4つの人の大きさほどの火球に分裂する。速度を一気に上げて回避したばかりで次の動きへの予備動作中だった4人に突っ込んでくる。


直撃、と思われた時、エリカたちの目の前に青白い盾が出現する。地面から生えるように現れた盾は火球がぶつかった瞬間蒸気を上げて消えていったが、消えた時には火球もまた消滅していた。馬鹿トリオの女性が茫然とその様子を見ている。


「あの女とは相性が良いみたいね、シルヴィア?」


盾を作り出したのはほかでもないシルヴィアだ。剣を地面に突き立て、その周囲には空気中の水分が凝結したのか白い靄がかかっている。その中心でシルヴィアは不敵な笑みを浮かべていた。


「セラには火力負けしたけど、分散してもらったおかげでこちらが押し勝てたわ。さすがに4つ同時は初めてだったけどっ……前見て、前!」


シルヴィアに叫ばれて前を向けば、今度は優男が何かを詠唱していた。先ほどの火球のおかげで分散してしまった4人の中から迷うことなくエリカに手を向けると、その手が青白い稲妻を発生させる。


刹那、エリカに向かって稲妻が突進する。とてもじゃないが認知できる速度ではない雷は一直線にエリカの胸を捉え、背後に貫通していく。


「がっ!!」


「エリカ!!」


駆け寄ろうとしたバーバラをエリカは手で制した。バーバラは制したその手とは反対側の手を見てハッとなった。


その手は真っ黒になっていた。黒焦げになったのではなく、黒燐を発現させているのだと瞬時に理解したバーバラはエリカが今の稲妻を回避することが出来たと判断した。


「エリカ、大丈夫なのか!?」


「大丈夫です……、ちょっと入りましたけど」


鎧には稲妻によって開けられた穴が開いている。だが、それだけだ。稲妻はエリカの胸を貫くには至らず、避雷針よろしく黒鱗によって左腕へと流れていったのだ。黒鱗を通るわけだから、体内に電撃はほとんど入っていない。


(黒鱗が金属に近いもので助かりましたね……)


そうでなくとも、黒鱗が物理的に破壊されない事は分かっていた。電撃はもろに食らっていただろうが、胸に風穴を開けられるよりはマシだ。電撃が左手に持つ黒羽に残っているのか、時折バチッと放電するような音と共に火花のようなものが散る。


「ば、馬鹿な。僕の電撃を喰らって立っていられるだと……? シータスの連中は1発だったのに」


優男も随分とショックを受けているようだ。自分たちの力を過信したがために、それが破られた時思考が止まってしまったのだ。だが、まだ1人残っている。


「く、くそっ、お前ら揃ってだらしないぞ! こうなったら僕がやってやる! おい、リコ、ネア、そいつらを僕に近づけるな!」


リコ、ネアというのはあの2人の名のようだ。小さく頷いた2人はエリカたちと慌てながらも魔法を使おうとする男の間に入る。


「邪魔するなら、退いてもらいます!」


エリカが走り出す。


そしてそれにジーン、ジャック、バーバラが続く。女が作り出す火球が当てる事よりも牽制するために雨霰のように頭上から降り注ぐが、狙って撃っていないようでかなり照準が甘い。直撃コースにあるものも遠巻きがゆえに冷静かつ集中して魔法を編み出せるシルヴィアによって作られる氷の盾で防がれる。優男の電撃は全て先頭を行くエリカが受け流していく。


先ほどは黒鱗を前面に展開したが、今度は腕だけに発現させる。刀の切っ先で電撃を拾い、地面へと誘導していく。両手に刀を持つエリカの対電撃の有効範囲はかなり広いため、よっぽど工夫しないと後方を行くジーンたちに電撃が通る事はない。


「信じられん、電撃を見切ってんのか、嬢ちゃんは!」


見切ってはいない、と言いたいが、さすがに今は言っている暇がない。優男の視線や仕草から誰を狙っているのかを見抜き、優男と目標の間に割り込むように刀を突きだしているにすぎない。さすがのエリカも電撃を見切れるほど目は良くない。


だが、迎撃できるのも外部からの妨害が無い時だけの事だ。リコ、ネア両名が飛び出してきたため電撃の迎撃が出来なくなり、優男の攻撃がダイレクトにジーンたちへと向かっていく。


「ジーンさん!」


稲妻がジーンに迫り、その鼻先で霧散する。見ればバーバラがジーンの前に立っていた。


「まったく、エリカみたいな子に守られるなんて、あなたたち男失格よ?」


「バーバラ、大丈夫なのか?」


「私を誰だと思ってるのかしら、ジーン? とっても死ににくい吸血鬼よ? 多少身体が黒焦げにされても問題ないわ」


エリカのやり方を見て実践したのだろう。剣を突き出して避雷針とし、バーバラの身体を通じて地面へ逃がしたのだ。黒鱗があるエリカと違いバーバラは生身だ。言葉とは裏腹に立っているのだけでも辛そうだ。


「ほら、あの見境ない魔法は私とシルヴィアで守るから、ジーンとジャックはエリカに加勢しなさい。シルヴィア、氷で雷撃を受け止めなさい!」


「出来るは出来るけど、貫通されたら意味ないわよ!?」


「正面から受け止めなきゃ良いのよ。稲妻に対して斜めに盾を作って、地面に逃がしなさい。多いときは私も身体張るから!」


「ああもう、死なないでよね!」


大量の盾を作り出し、頭上の火球に対応しながらもそれとは別に対電撃用に盾を作り出す。地面から生えるように生み出されると、その1つをバーバラが根本辺りから折って手に持つ。そして自分に向けて放たれた稲妻を受け止めてみせる。


「ぐっ、多少身体こっちにも流れるけど、問題ない程度ね。これなら……!」


バーバラとシルヴィアが防御に回ったおかげで、ジーンとジャックはそれに守られながらエリカの加勢んに向かう事が出来た。


エリカはリコたち2人を相手に二振りの刀で応戦していたが、相手に一撃を入れる事の出来る最後の一歩が踏み出せずにいた。踏み出そうとするタイミングでもう片方の騎士が横やりを入れてくるからだ。


「まったく、あなたたちのような実力の持ち主があんな奴に仕えている理由が分かりませんよ!」


「僕たちはご主人様の奴隷だ。異を唱える事も、否定することも、抵抗することも、拒絶することも許可されていない」


初めて、口を開いた青年が静かに言った。もちろん、その手に持つ剣でエリカを足止めすることを疎かにすることはない。あくまでつなぎ・・・の一瞬に言葉を発している。


「奴隷、主に隷従するだけの状況に満足しているんですか?」


「それをご主人様が望むなら」


救いようもない馬鹿だ。馬鹿トリオとは全く逆、愚直なまでに真っ直ぐすぎるのだ。それが正しい事だと教えられてきたのか知らないが、エリカにはそんな事を強いている奴も、それを受け入れている奴も理解できないし、それをただ見てるだけで何もしないようなお淑やかな性格でもなかった。


「自由になりたいとは思わないんですか!?」


「自由はご主人様の望むところではない。僕たちの使命は、ご主人様を命に代えてでもお守りすること。それは、あなた方も同じなのではないですか?」


「違いますよ。守るだけの価値がなければ、守ろうなんて誰も思いません。あたしたちが守ると誓った相手は守るだけの価値があるんですよ」


もはや、どちらがリコで、どちらがネアなのかは重要ではなかった。言葉は交互に紡がれ、まるで2人の総意のように発せられているからだ。


「なら、僕たちと同じだ。僕たちもご主人様を守る事に価値があると思ってるし、そう確信してる。だから、僕たちと君たちは対立してる。守りたいが為にね、……ほら、時間切れ」


2人がそう言って、エリカはその背後にいる男に視線を向けた。相変わらず見るのも嫌になる笑みを浮かべており、その両手はエリカたちに向かって突き出されている。


「喰らえ、準戦略級魔法の威力を!!」


魔法陣が作り出され、その中心に白い光球が生み出される。周辺の空気中から何かを集めて徐々に大きくなると、それが強烈な魔力を放っていることを察知する。


10メートルはあろうかという光球は、一度小さく縮むような動きをするとその直後破裂した。無数の光の槍がエリカたちに向かって飛び散り、防御しようとシルヴィアが作り出した氷の盾を容易く貫徹してエリカたちに迫ってきた。


「死ねええええええっ!!」


男の狂気じみた声と共に、無数の光の槍は地上に着弾した。





そうですね、光球がデカくなるところはまさしくSLBを想像してもらえると分かりやすいですかね?


いや、あんな化け物じみた威力ないですけどww


さあて、どうなることやら、ではまた次回


ご感想などお待ちしております。


あと誤字脱字あったら是非是非お教えしてください。本当に以前の影響かビクビクしてるんです。報告が上がってこないという事は「ない」という事と考えたいのですが、それはそれで少し不安になります。


書いた後に2回ほど見直しはしているのですが、それでも見落とす時は見落としてしまいますからね。


ではでは。




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