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第52話 これを死亡フラグと呼ぶのですね



ちょっと違う、と主人公に言いたい。


ま、そんな感じな話なんですがね。







「覚悟は良いわね、姉さん?」


「いつでも」


小さく受け答えをすると、さすがに護衛のセラに気が付かれた。


「ティティ王女様、どなたとお話で?」


だが、ティティはセラの問いに答えず、特等席中央のグランの後ろを通ってシャリオの前に立つ。グランはただ無言でその様子に視線を向けている。


「何か、ご用ですか、ティティ王女」

「正確には、あなたと話がしたい人がいるんです」


ティティがそう言うと、シャリオの眉が吊り上る。


「あなたの横の不可解な気配は、そういう事でしたか。衛兵を呼びますか?」

「シャリオ王子、相手はティティ王女だ。そんな馬鹿な真似をするようなお人ではない。ティティ王女、結界を張りますがよろしいか?」


そこまで2人の受け答えを見ていたグランが低い、重みのある声でそう提案すると、ティティは小さく頷く。


「ご配慮に感謝いたします、グラン王」

「良い、セラ、そなたは外せ」

「はっ……」


セラが少し3人と距離を置くと、グランが小さく何かを呟く。その瞬間グランを中心に3人とエリカをスッポリ覆うような球体の膜が作り出される。


「外部からは我らが普通に観戦しているように見える。これで好きなだけ語り合うがよい。私という部外者がいる事は、この際捨て置いてな」


グランはそう言うが、会話の全てに耳を澄ますであろうことは間違いない。


ティティがチラッとエリカがいる方向に視線を向けると、エリカの手を握っていた手から力が抜ける。エリカが手を放すとエリカは虚空から突然姿を現し、シャリオを正面から見据える。


「無粋、とは言わないけど、とりあえずどういう事か説明してくれるとありがたいな」


シャリオは別段驚く様子も見せずに、自らを見据えるエリカの目をまっすぐに見返す。


エリカは膝をつき、頭を下げてまずは非礼を詫びる。それで話が出来るのなら頭の1つや2つ、下げても安いものだ。


「まずは、非礼をお詫びします、シャリオ王子。そして計らいに感謝を、グラン王」


「ふむ、貴殿はアクイラ騎士団の者だな。先ほどから貴族の連中が話題にしていた、最年少の騎士、確か……」


「エリカとお呼びください」


シャリオは決してこちらを見下すような話し方をしない。ヴァルトが言っていたように、ブラゴシュワイクの人間ではあるがこの男はまともな思考が出来るようだ。ジーンたちの話を聞いていると、さすがに一抹の不安があったが、杞憂に終わったようだ。


「ではエリカ。下手をすればそなただけでなく、そなたにくみしたティティ王女すらも、さらに言えば我がブラゴシュワイクとアールドールンの外交問題に発展してもおかしくない事をしてまで、私に会いに来た目的はなんだ? よもやサインが欲しいなどという下種な輩ではあるまい?」


シャリオはそこで結界の外に視線を向けた。その先には若い貴族の娘がいる。どうやらシャリオとお近づきになりたいのか、しきりにシャリオに視線を向けている。といっても、外から見ればシャリオは闘技場をジッと見ているようにしか見えていないが。


エリカは手に持つ剣を布から取り出し、それをシャリオに差し出す。それを見た時、一瞬シャリオが目を細めた。おそらく、刃にこびり付いている血に気が付いたのだろう。


「これは……、我が国の紋章か?」


差し出された剣を静かに受け取り、自分の手を斬らないように慎重に観察していると、シャリオはその剣に刻まれた紋章に気が付いた。


「あたしの大切な仲間を殺した男が持っていた剣です」


「我々の名を騙る者ではないのか?」


当然、そう考える事も出来るだろう。シャリオにとって、これは自分たちの国を殺人容疑で訴えられているようなもの、「はい、そうですか」と納得できるものではない。


「殺されたのが人狼だとしても、そう言いきれますか?」


エリカが静かにそう言うと、シャリオの目が見開かれる。


「それは、間違いないのか……」


「この目で見ました、何か心当たりがありますか?」


ない、とは言わせない。獣人狩りはブラゴシュワイクが国家ぐるみでやっている、と聞いているだけに、エリカも怒りを抑えきれない。


怒りを視線に込めてシャリオを見つめるが、シャリオは表情を崩さず、じっと剣を見つめている。ティティが心配そうにその様子を見つめていると、グランが立ち上がりティティに席に座るよう促した。


「……我が国の情報機関が使用する剣に間違いない。だが、知っての通り公式には我が国も獣人狩りを禁止した。つまり行われているとしたら一部の者の独断、私たちが関知できるものではない」


「なら、今からでも関知してください。これ以上、同じような犠牲者を出したくないのです」


「獣人は元よりヒト、私も同じ考えだ。この事は他の者に話したか?」


エリカが首を振ると、シャリオは安堵のため息をついた。それは、これ以上話が広がるのを防げると思ったからなのか、自分にいの一番に知らせてくれたという事だからなのか、エリカにはその真意は分からない。


「では、私にこの件は任せてくれ。それと、これを指示した者に、『公式に抗議してくれれば私が此方の窓口になる』と伝えてもらいたい。他の者ではもみ消すか有耶無耶にされてしまうだろうからな」


「感謝します、シャリオ王子」


「知らなかった事とはいえ、このような事になってしまったとは嘆かわしい事だ。そなたの仲間という者、名前は何と言う、いつか墓参りをしたい」


そんな言葉を聞くとは思っていなかったエリカは少し驚いてしまった。


王子ともあろう者が、そこまで言うとは考えもしなかった。むしろ、「ご苦労だった」の一言で終わりにされてしまうという公算の方が大きかった。


ヒナがこの事を聞いたら、きっと喜んだだろう。


だが、ムラミツとヒナの正体をブラゴシュワイクの他の者に知られるわけにはいかない。シャリオほどの人間が墓参りなどしようものなら、その墓の主の事を調べようとする輩の1人や2人、現れて当然だ。そうなればヒナに危険が及ぶかもしれない。


エリカは小さく首を振り、シャリオの提案を退ける。


「お気持ちだけ、貰っておきます。あたしから、伝えておきます」


「……そうか、そう言われてしまえば私から強引にするわけにもいくまいな。しかし、それを言うために自国の王女まで協力させるとは、そなたは随分と信頼されているのだな」


シャリオの言葉にエリカはキョトンとしてしまう。その表情が意外だったのか、シャリオは声を上げて笑い出した。


「無自覚か、そなたの事は我が国でも話題だぞ? 選抜試合では随分と暴れたという噂だが……、その様子では噂は本当のようだな」


表情に出てしまっていたようだ。一瞬、決勝戦の時の光景が脳内に蘇ってきていたため、中途半端な言葉しか出てこなかった。


「エリカは、我がアールドールン王国の切り札なのです!」


「ちょ、ティティ様、そんな誇大な事を言わないでください」


結界で見ている人間がいないのを良い事に、ティティはスイッチをオフにしたようだ。星巫女、王女という役柄に縛られた少女ではなく、1人のティティという少女になってしまっている。


「ほお、星巫女様がそこまで言うとなれば、よほどのものなのでしょうな。エリカ、と言ったな、貴殿の今大会での活躍に期待しよう。だが、我が国のシータス騎士団も負ける気は毛頭ない。覚悟しておくがよい」


グランがティティの言葉に茶化すような事を言い、最後にどすの効いた脅し文句を付け足す、という器用な真似をしてみせると、負けじとシャリオも身を乗り出した。


「おや、我がタロン騎士団を蚊帳の外においてもらいたくないな。馬鹿な輩もいるが、それを補うだけの技術を持った者がいる事をお忘れなく」


「馬鹿な輩」の部分を随分嫌そうに言ったが、その後の部分は自慢げに笑みを浮かべていた。


エリカが茫然と自分たちの騎士団の自慢話を始めたグランとシャリオを眺めていると、グランが思い出したようにエリカに視線を戻した。


「話はもうよろしいか、エリカ?」


「あ、はい、ご配慮に感謝します」


グランに頭を下げると、グランは少し微笑んでみせると立ち上がり、エリカの頭の上に手をかざした。


「ティティ王女の魔法では手を繋いでいる事で姿を消していたようだが、それではここから立ち去れまい? 数分間、貴殿の姿を消すゆえ、仲間の元に戻るがよい」


そう言うと先ほどティティと手を繋いでいた時と同じ感覚に襲われ、見ればエリカは来る時のように透明になっていた。


「さすが魔法大国エオリアブルグの王。私なんかよりよっぽど上手いですね」


ティティはそう言っているが、少し悔しいのか頬を膨らませている。


「ティティ王女には私たちが持っていない、星巫女の力がある。それに、この程度、王女も大きくなれば出来るようになる」


「王子たる者が言うのもなんだが、羨ましいな。我が国では技術よりも権力が重視されてしまうからな」


「なら王子、君がそれを作り直せば良い。よもや、その恩寵を受けるほど君は腐ってないと私は思っているが?」


グランが思わしげな笑みをシャリオに向けると、シャリオも同じような笑みを返す。


そしてグランはすぐにエリカに視線を戻すと、指を天に向けて小さく振った。その瞬間、結界が解除される。


グランは小さく指でエリカが来た道を指差し、戻る様に指示をする。魔法をかけた本人には見えているだろうから、と思いエリカはグランに向かって大きく頭を下げると、戻ってきたセラの横をすり抜けて特等席を後にした。


「あの、結局なんだったのでしょうか?」


「ふふ、セラは知らなくて良いのよ。それよりも、あなたもそろそろ準備をしたら? 出場するのでしょう?」


「ご安心を、間もなく交代の騎士が参ります。彼らが来たら行かせてもらいます」















仕事が上手く成功したから浮かれていた、と言われれば否定は出来ない。


さらに言えば、自らの姿が消えていたという事で他人から見えていないと思っていた事も原因の1つかもしれない。


だから、つい先ほどジーンに言われたことを迂闊にも失念していた。


「うっかりにもほどがあります……」


後悔しても、時すでに遅し、だ。


まさか、本当にこんな事に自分が巻き込まれる、というよりは仕出かすとは思ってなかった。


だから、しばしの間、自責の念で頭が重くなって大きなため息が出てしまったのも仕方のない事だ。


「おい、話を聞いているのか? アールドールンの平民?」


エリカの前には青い装飾の施された鎧を身に纏った男が2人と、ドレスのような服を着た女が1人、見下すような、いや事実見下しているのだろう、そんな視線でエリカを見ていた。身長的な面から物理的にも見下されているだけに、見返せないのが残念だ。


(いや、曲がり角を思い切り直行したあたしにも非があるんですが……)


左右を確認せずに曲がり角に飛び出したエリカは、物の見事に今目の前で偉そうな態度を取っている男にぶつかってしまったのだ。ジーンよりは年上だろうが、まだ子供っぽさが随分と残っている騎士は何かを喚いているが、エリカは自分の迂闊さを後悔するという作業で忙しい。


「おい、僕の話を聞いているのか!?」


「ああ、もう、ちょっと黙って下さい。今考え事をしてるんです」


謝罪はとっくの昔に済ませている。ぶつかった直後に謝ったのだが、どうやらこの騎士は土下座でもさせて自分の靴を舐めさせないと気が済まないのか、いつまで経ってもその謝罪を受け取らず、ただただ喚き散らしている。


それがいい加減うるさく感じられたので、冷たくそう言い放ってやると、騎士の顔がトマトを彷彿させんばかりに真っ赤になった。こんなトマトを食べたら腹を下す事間違いなしだろうが。


「ぼ、僕はブラゴシュワイクの貴族だぞ! 平民風情がそんな口を聞いて良いと思っているのか!? こ、この……」


「まあまあ、落ち着きなよ。平民は僕たちの理解なんて及ばないような下々の人間なんだから」


もう1人の優男、随分と垂れ目が特徴的な騎士が肩を叩いて激昂する騎士をなだめる、のだが随分な宥め方だ。


「まったくですわ、この機会にあなたにも目上の者を敬うという事をお教えしてあげましょうか? どうせなら私たちのタロンの垢を煎じてあげてもよくってよ?」


扇で口を隠しながら、「おーっほっほっほっ」という笑い方が物凄く似合いそうな女が言う。おそらく彼女も騎士だろうが、そうとは思えないほど動きにくそうな服を着ている。


(ええと、こうなった場合の対処法は……、聞いてなかったですね)


自分はそんな間抜けな事をしないだろうと高を括っていたエリカは最悪の場合どうするべきかジーンたちに聞いていなかった。そのせいでさらに自責の念が重くなる。


優男に宥められて多少なり冷静さを取り戻した騎士は大きく息を吐くと腕を組み、鼻を鳴らしながらエリカに視線を向ける。


「さて、それじゃあ、謝罪の気持ちというものを態度で表してもらおうか」


「いや、だから謝ったじゃないですか」


エリカがそう言うと今度は優男の制止も間に合わず、男は剣を鞘に収まった状態で抜くと思い切りエリカの腹に向かって振ってきた。男ではあるがジーンやジャックのような大剣ではなく、レイピアのような細い剣ではあったが、至近から力一杯振られた剣はエリカを壁に打ち付けるには十分な勢いがあった。


受け身を取っていた上に、威力自体正直黒鱗無しでも耐えられるほど弱かったが、ここはあまり抵抗しない方が後々のためになる、と思ったエリカは別段反撃する様子もなく壁に背中を任せる。


(雑魚、ですね……)


剣の使い方がまるでなっていない。大方、魔法だけ使って敵をアウトレンジで潰すのが得意なのだろう。近接戦をやるとは思えないその細い腕がその証拠だ。身体を鍛えていないから今の攻撃も傍から見れば威力があるように見えるが、弱いにもほどがある。


それなのに、自分は強いし偉いと思っているのだから手におえない。


(ドラゴンでこんなのがいたら、喉笛噛み千切られてますね)


「お前、命が惜しくないのか?」


「あ~あ、本気で怒っちゃったよ、下手にプライドに縛られないで言う事聞いておいた方が身のためだよ、君」


(プライドも何も、そもそも謝ってるんですけどねぇ)


心配しているような口調だが、その結果どうなるのか見たくてうずうずしているのが傍目にも分かる。結局、この優男も同じ穴のムジナのようだ。


「でも、さすがに命を取ってはお父様たちに迷惑になりますわよ、4年前に馬鹿をした人がいるのを忘れたわけじゃないですわよね?」


「分かってるよ! それじゃ、どうしてもらおうか……と」


何か良い事を思いついたかのように表情が入れ替わると、男はエリカの耳元に口を持っていった。それだけでもエリカに鳥肌を立てさせるには十分だった。


「今夜、僕の部屋に来い。それでチャラにしてやる」

「っ!!」


ニチャアッとした笑みとはまさしくこれの事だろう。下卑た笑みを浮かべた男が耳元でそう言った瞬間、エリカはこれ以上我慢できなくなった。


エリカを壁に押さえつけていた剣を容易く弾き飛ばすと姫黒を鞘ごと抜いてその鳩尾に1発お見舞いする。


「がはっ?!」


口から汚らしい唾を吐くので、それをかわすと優男目掛けて男を吹き飛ばす。優男は済んでの所で回避するが、おかげで男は尻から床に落ち、情けない悲鳴を上げる。


「な、なにをっ!?」


「こんな攻撃も凌げないでよくドラゴンスレイヤーを名乗れますね。あなたたち、ドラゴンと戦った事あるんですか?」


本当の龍の恐ろしさなど、絶対に理解できていないだろう。今ここで龍に戻れるなら、戻って噛み殺して吐き出したいという衝動にエリカは駆られてしまう。


「ば、馬鹿にするなよ! ドラゴン狩りならやった事ある!」


「……な、んですって?」


今、目の前の男は何を言ったのか。エリカの中で何かが音を立てて崩れようとしている。


「龍の森でドラゴンのガキをとっ捕まえた時にだ、必死こいて逃げようとするドラゴンの羽をぶった切って心臓をついたら、皆歓声を上げたよ。お前たちもそんなことはした事ないだろう!」


自慢げに言う男は、心の底からそれを誇っている。それを見る2人も「羨ましいわ」とか、「僕もいつか……」なんて事を言っている。


(ドラゴンをそんな事のために殺すなんて……!)


赦せない。


エリカも龍だ。仲間が殺されるのを黙って見ている事なんて出来ない。それも、子供をまるで殺しを楽しむかのように狩るなんて、エリカは到底赦すことは出来なかった。


ドラゴンの中には、人里に下りて腹を満たす者もわずかだがいるだろう。そういう者を討伐するためにヒトがその者を殺すのは致し方のない事だ。そもそも龍を相手に大規模な戦闘にならずに済むことはない。龍が戦えば必ず他の龍たちも気づき、様子を見に来るのだ。そうすれば、どちらに非があるのかすぐに分かる。ヒトに非があれば仲間に助太刀し、龍に非があれば静観にとどまる。


だが、これは駄目だ。


エリカは優男と女が男を起き上がらせようとしている間に、自然と姫黒と黒羽を鞘から抜いていた。


国際問題?


他人に迷惑がかかる?


そんなもの、今のエリカの脳内からはすっかり消え去っていた。


殺す。


平然とそんなことが出来るこの男たちを龍として、赦せなかった。


エリカの気配に気が付いたのか3人がエリカに視線を戻すと、その表情が驚愕と恐怖に変わる。当然だ、目の前には殺気を加減無しに放つエリカが立っていたのだから。


「何故だ! ドラゴンを殺すのは僕たちの使命! それはお前だって同じはずだ! 奴らを殺して名誉を得る、それがドラゴンスレイヤーだ!」


「……とりあえず、その馬鹿な口を閉じろ、下種」


あらゆる遺恨を込めて、エリカが言い放つと、3人は押し黙る。今目の前に自らの「死」が迫っている事にようやく理解したようだ。


だが、今さら命乞いを聞くほどエリカは冷静ではなかった。


姫黒を振り上げ、とりあえず目の前の男に振り下ろす。加減などしない。殺す事で、殺された龍への手向けとするつもりだからだ。


「待った」


ところが、振り下ろそうとしたその手を掴まれた。


そのまま振り下ろそうとするが、しっかりとエリカの手首を掴んだ手はビクともしない。そこでようやくエリカは後ろに振り返ると、神妙な表情をしたジーンが立っていた。


「放してください、ジーンさん」


「却下だ。どうしてこうなったか知らんが、目の前で人が殺されようとしているのを黙って見ているほど俺もお人よしじゃない」


「こんなの、ヒト以下です」


汚物でも見るような目で床にへたり込んでいる3人を見下ろすと、3人が小さく悲鳴を上げる。


「それには激しく同意するが、ここで殺して立場が危うくなるのはエリカだ。冷静になれ」


ジーンの声には、切実な思いが込められていた。


エリカはしばらく3人を睨み付けていたが、小さく息を吐くとジーンに顔を向けずに俯いて口を開く。


「……手を、放してください」


「放した瞬間斬りかからないな?」


「分かってます……」


ジーンはエリカの返事を受けてすぐに手を放した。エリカは姫黒を鞘に戻すと、へたり込んでいる3人に手を差し伸べた。それだけの事でも、3人は今にも失禁しかねないほど恐怖で表情を歪ませる。


「大丈夫ですか?」


「お、覚えてろ!!」


まるで、負け犬の遠吠えだ。差し伸べられた手を無視して立ち上がると3人は脱兎の如く逃げ出そうととする。


「ああ、そういう事なら……」


その3人の背後から声をかけると、3人は恐る恐る振り返る。


そこには物凄く良い笑顔のエリカが立っている。


「試合で思う存分、り合いましょう?」


思いっきり殺気を飛ばしてやると、3人は今度こそ再起不能なまでに腰が抜けてしまったようだ。その3人に背を向けると、エリカは城へと戻るためにコロシアムの出口へと向かう事にする。


ジーンは何か言いたそうな表情をしているが、あえて何も言わずにエリカの後を追ってコロシアムを後にすることにした。





ちょっとだけ補足。いや、ほんの少しだけ補足。


ヒナは来てません、まだ。


以上。


ではではまた次回。


ご感想などお待ちしております。



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