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第49話 お姉ちゃん宣言、どうしてそうなったし…



相変わらず、適当なタイトルですww


ではでは、どうぞ



「あら、今日は私の方が早かったみたいですね」


夜、もはや行きつけの店に行くかのような気持ちで城を抜け出してあの切り株の所へ行くと、ティティが夜空を見上げていた。


「とりあえず、誰もいない場所に少女が1人いるというのは褒められる行為じゃないですよ、ティティ様」

「大丈夫、あなたがすぐに来るって分かってたもの、姉さん」


「……はい?」


最後に付け加えられた理解不能な単語に、聞き返さずにはいられなかった。


「あ、あのティティ様? なにやら聞き捨てならない妙な単語が聞こえてきたのですが……?」


まさしくその問いを待っていたのだろう。ティティは切り株から立ち上がってエリカの前に立つ。その表情は悪戯心をくすぐられた子供そのものである。


「私決めました。エリカ、私はあなたを『姉さん』と呼ぶことにします」

「いや、あたしの意志は無視ですか?」


血筋的にも、生物学的にも、世界の常識的にもエリカが「姉さん」と呼ばれる理由が分からない。そもそもなぜそう呼ばれなければならないのかも理解できない。


「別にいいじゃない、2人だけの時だけで良いから、ね?」

「ね、じゃないですよ。どうしてそうなるんですか」


自分が仕える王の娘に対して言うべき言葉ではないのは分かっているのだが、何故か「姉さん」と呼ばれるというのが悪い風にしか作用しない気がする。


「むぅ、文句は却下です。それはともかくとして、今日は聞きたい事があってここに来たんです」

「聞きたい事?」


姉呼ばわりの件はともかくとして、用があるのならそちらを先にすべきであろう。仕方なくエリカも話がすり替えられるのを黙認してティティの話しに耳を傾ける。


「まぁ、正確には私ではなく、父上から、なんですけどね」

「あ~、陛下からですか」


なんとなく聞かれるであろう事に見当がついたエリカは曖昧な返事を返す。


「団内選抜大会での一件は私も父上も目の前で見ていましたから、ヴァルト様からの報告を受けずとも大体の事は聞いています。その件で幾つか聞きたいことがあって今日はここに来ました」


当然と言えば、当然のことだ。部下エリカが見たこともないような力を持っているのだ、気にならない方がおかしい。


だが、そうなると疑問が残る。


「陛下ともあろう者なら、あたしを呼びつけることくらい容易いと思うのですが……?」


こんな面倒な方法を取らなくても王であるアーサーならば一介の騎士を呼びつけることくらい苦もないはずだ。気になっているのだから、それこそ自分の耳と目で確かめたいはずだ。


「ま、内容が内容ですからね。大丈夫です。この会話は父上に転送されていますから問題ないです」


ティティはそう言うと小さな水晶玉を懐から取り出してエリカに見せた。夜の暗闇の中でも自ら淡い水色の光を発していて、うっすらとエリカとティティの顔を照らす。


『このような形ですまない、騎士エリカ。出来れば直接話がしたかったのだが、できれば他の者に聞かれたくなかったのでね』


水晶玉の中の水色の光が揺らぐと、アーサー王の声が響いてきた。ティティが水晶玉に向かって呪文を唱えると水晶玉が宙に浮き、ティティは切り株にちょこんと座って水晶玉とエリカの方を眺める。


『私が抱いている疑問と同じものを娘も抱いている。君さえ良かったら、我々の疑問を解消してもらいたいのだが』


「王様なんですから、頼まないで命令した方が良いんじゃないですか? 聞きたい事の内容にもよりますけど、話せる限りの事であればお答えします」


水晶玉が話している事に関して言えば、別段驚きはない。衝撃に弱いから繊細な作業があまり得意とは言えない龍はあまり使用しないが、ヒトが使っている事は知っている。実際見るのは初めてだが、相手と会えない時などには便利だ。


エリカが自分の主君に対する言葉とは思えないような事を言うと、水晶玉の中からくぐもった笑い声が聞こえてきた。夜中なので随分と笑いを堪えているようだが、こちら側にははっきりと笑っているのが分かる。


『くくっ、宰相たちでもそこまでは言わんだろうな。まったく、君は礼儀というものを知らないのかね、騎士エリカ?』


戒めてはいない、むしろ面白がっている。どうも、以前会った、と言っても主従の誓いを立てた時だけだが、あの時の厳格なイメージとは随分とかけ離れている。いわゆるオフ状態なのか、話し方はかなりフランクだ。


「ついでに言えば、エリカで良いですよ、騎士ってつけられるのあまり好きじゃないので」


『そうか、ではエリカ、君は一体何者なのかな? 言い訳なら聞きたくないから、結論だけ聞かせてもらいたい』


瞬時に空気がピリッとした緊張感を持ったのが分かった。チラリとエリカがティティの方に視線を向けると、ティティも質問の意味を理解した上でエリカの答えを待っているようだ。


(ばれそうだったのが、ついにばれちゃいましたかね)


ティティは星巫女と呼ばれる、エリカからしてみれば「よく分からないがとにかくすごい」事をやっている。そのせいか、会ってすぐにエリカの他の人との違いを見抜かれてしまった。1週間前の試合でのエグゼ・リベラで違和感が確信に変わったのかもしれない。


だが、できれば今ティティたちに知られるわけにはいかない。


明日行くエオリアブルグでのドラゴンスレイヤーの大会、観戦にはティティが来るという事はすでにエリカも知っている。


もし、クライムの言う通り、エリカを狙う何者かが動きを見せた時、エリカの正体を知っているという理由だけで巻き込まれる可能性がある。エリカにしてみれば、自分以外の誰かを巻き込むのは本意ではない。


「あたしは、エリカというちっぽけな存在ですよ。それ以上でも、それ以下でもありません」


だから、あえてアーサーが、ティティが求める答えとはかけ離れた回答をする。そもそも、聡明な2人のこと、答えは既に出ているだろう。ここで聞いているのは、あくまで確認の意味合いが深い、とエリカは考えている。


『……その答えで我々が納得するとは毛頭思っていない口調だな。では言い方を変えよう、君は我々に正体を隠してまでしなければならないことがあるのだね?』


質問というよりは、やはり確認、と言った感じだ。答えが「はい」か「いいえ」しか用意されていない。


「……はい」


『それは、我々に危害が及ぶものなのかね? そうであれば、我々は君をこのまま野放しにはできない』


さすがは国を統べる王、国のためなら娘の友達であろうと容赦はしない、という思いが言葉に滲み出している。ティティは少し悲しそうな顔をしているが、それを見てエリカは苦笑してしまった。


「ご安心を、陛下。少なくともあたしがやりたい事は誰にも危害を加える事はないはずです。ですが、外的要因によって事態が悪い方に傾く可能性は大いにあります」


「っ! それはどういう意味、姉さん」


『ね、姉さん!?』


アーサーが物凄く驚いた声を上げている。飲み物でも口に含んでいれば10メートルは噴き出しているだろう。


「ティティ様、人前では言わないって約束じゃ……」

「父上は人前に入りませんよ?」


『ま、まったく、我が娘ながらやる事が……。それはともかくとして、外的要因とは何のことかね? よもや我々を指しているのではないな?』


「大丈夫です、それはないですから。あたしはやる事やったらここをさっさと出てきますからご安心を」


少し乾いた笑みを浮かべてそう言うと、水晶玉の向こう側でアーサーが黙り込んだ。少なくとも、この事に関して嘘は言っていない。ここで嘘を言っても良い事はない。


「姉さん、どこかに行っちゃうの?」

「正確には家に帰るのよ。家に帰るのだから、また会いに来ることはあるわ」


龍に戻れば、もはやここにこうして来ることは出来ないだろう。


だが、エリカ自身はここに戻ってきたいと思っている。すでにここは第二の我が家、ここで出会った全ての人たちには感謝してもしきれないだけの恩がある。それを返したいという思いもある。


「だから、帰ってくるためにも陛下には1つお願いがあるんです」


『……何かね?』


向こうには今のこちらの状況が見えているのだろうか?


どこか怒りが滲んでいるような声で返事が返ってくる。今の状況はというと、何故かティティに抱き付かれている。そして上目遣い、涙目で「行っちゃうの?」と言われているのだ。アーサーの声に含まれる怒りは、むしろ嫉妬にも感じられる。


(ティティ様に甘いって、そういう意味も含まれてるんだろうなぁ)


ここに本人がいないことに感謝した。いたらきっと直視出来ない目で睨まれていた事だろう。そして今もアーサーは確実に自分用の水晶玉を睨み付けているに違いない。


「え、ええとですね、ドラゴンの討伐を止めてもらいたいんです」


気を取り直してそう言うと、ティティの顔が凍りついた。きっと、「あたしドラゴンですよ」と言われるのと同じ効果だろう。エリカもそのつもりで言った。


『……それは、我々の問いに対する答えと受け取っても良いのかね?』


そう聞かれると、エリカは少し悪戯っぽい笑みを浮かべてみせる。


「フフッ、あたしの言葉をどう受け取ろうが陛下の自由です。ですが、それが成されないとあたしは帰ってくることが出来ないので、ぜひともお願いしたいです。あたし『たち』はあなた『がた』との不和を望んではいませんから」


ぶっちゃけると、「俺たちはお前らに何かされない限り干渉しないから、そっちも干渉すんな」と言うのが龍のヒトに対する考え方だ。


だが、エリカは少しその考え方からずれている。それは自分でも自覚出来ている。エリカはヒトと付き合う事で、ヒトの良い面も悪い面も見てきた。時に憤り、時に怒り、むしろそちらに掛かる比重が大きいようにも思えるが、それを遥かに超えるだけの良い面をここ1カ月の間にこの目で見てきたのも事実だ。


エリカとしては、龍とヒトは共存し、共生し合えると考えている。だが、双方にその準備が出来ていないし、今の段階でどちらもそれを望んでいないのが大多数だ。エリカはそれを変えたい。


幸いにして、龍の方はヒトに歩み寄る用意はある。というよりはエリカがそうさせる腹積もりだ。イクシオンに頼み込んででもやり遂げる気ではある。


だが、ヒトの方は?


こればかりはヒトに任せる他ない。それが成った時、エリカはここに帰ってくることが出来るだろう。


『……私が感じていていたエリカという人は、真面目で、丁寧で、他者に優しいという性格を持っている。君たち・・・が皆そうである事を祈っているよ』


アーサーがそう言うと、どうやら向こうの方から転送を切ったのか水晶玉から輝きが消える。


「言質は取れませんでしたか……」


口約束にこだわるつもりはなかったが、やはり一国のトップからそういう言質が取れると取れないでは話が大きく変わってくる。だが、やはり用心深くなるのは当然の事、アーサーは明確な答えを残さなかった。


「姉さん……」


ここまで早く適応する彼女も彼女だ。


アーサーとの会話が終わった事でティティに意識を回せるようになったエリカはティティのエリカに対する呼び名の定着ぶりに感心半分呆れ半分だった。


「まぁ、当分はあなたの『お姉さん』になってあげられますから、絶対に人前では言わないでくださいね?」


そう言うとティティは満面の笑みを浮かべた。そういう所は、本当に年相応の少女だ。


「やっぱり、姉さんが『災厄』なはずがないです」

「災厄とは、また随分な言われ方ですが……ああ、あの予言ですか」


裏でなんと言われようが一向に構わないのだが、何故そうなったのかには多少興味がある。そんな思いを込めて言ってみると、ティティが顔を上げてクスッと笑った。


「私は星を視て未来を知ります。森から黒い影が降り立ち、『慈悲』と『災厄』がやって来る。あなたは『慈悲』に違いありません」


「……『慈悲』が『災厄』を連れてくる、という事ですか。どちらにも当てはまらないような気がするんですが……」


『災厄』になりたいとは心から思わないが、『慈悲』になるような事をしている記憶はない。黒い影がエリカを表しているのは間違いないだろうが、予言とか神託とか呼ばれる類の物はやはり捉え方が複数あるという厄介な物のようだ。


エリカが自身なさげにそんなことを言うと、ティティが真っ向から否定してきた。


「姉さんは『慈悲』です! 誰が何と言おうと、これだけは確かです!」

「いや、でも結構騎士団の人もボコボコにしている気がするんですが……」

「そういう事を言っているんじゃありません!」


ポカポカ、という可愛い音が似合う小さな拳でティティがエリカの胸元を叩く。


「冗談です。では、『慈悲』にふさわしい仕事をしないといけませんね」


ティティの返事を待たずに彼女の腰に手を回すと、ひょいと持ち上げて切り株に座らせる。そして切り株の反対側にティティと背中合わせになるように座る。


「何を……?」


返事はしない。


代わりに返すのは歌。


夜の星空の下、この時に最も似合うであろう歌だ。


夜の澄み渡った空気に、淀みのない歌声が広がっていく。


ヒトの声帯で歌えない部分が無いと気が付いたのは結構最近だ。以前歌った歌と違い、この歌は口ずさむように歌う。歌詞と言えるような部分はほとんどない。


だが、それだけでも心癒されるのだ。それが目的で作られた歌なのだから。


「これは……、子守唄……?」


そう、幼い子供を夢の世界へと誘うための歌。


エリカ自身が聞いていた、龍の子守唄だ。不安になった時は、これを聞きながら寝るというのが当たり前だった。まさか、自分が誰かに聞かせるような立場になるとは思ってもいなかった。


この歌は、ティティに向けての物でもあり、そして、もう1人、ここにはいないが聞こえているはずの、もう1人に対する歌でもある。


「綺麗……温もりがある歌……」


ティティはそっと目を閉じ、エリカの曲に耳を澄ませた。















歌が聞こえる。


それに気が付いて目を開けてみると、月明かりの下、開けておいた窓の外から綺麗な歌が風に乗って入ってくる。


「誰かを、慰めているんですか、エリカ?」


ヒナは窓の外を見渡すが、残念ながら見える範囲に声の主はいない。


今日、ヒナは正式にこの騎士団の仲間となった。とはいえ、前線に出るような騎士ではないので主従の誓いは立てていない。まあ、この国にいる以上王に従うのは当然ではあるのだが。


そして、それに伴って部屋替えが行われた。


この宿舎が初めてという事もあり、ヒナはフィアと同じ部屋になった。それに伴ってエリカは1人部屋を貰う事になったのだ。とはいっても、ヒナの部屋の隣だからエリカの荷物は移動させられていない。あくまで寝るためだけの部屋という扱いらしい。


だから、今もヒナの寝ていたベッドの隣ではフィアが眠っている。明日に備えて今日は早く寝たのですでに深い眠りの中、ヒナが起き上がった程度では起きる気配もない。


「エリカ、あなたの想いは受け取りました。私とて、いつまでもうじうじしている訳にはいきませんからね。父様の意志を継ぐためにも……」


ヒナは下唇を軽く噛む。涙が止まらない。


だが、少なくとも壁は乗り越えられる。


乗り越えて、さらに歩み出すだけの意志はある。


「ここに連れてきてくれて、ありがとう、エリカ」


ヒナは聞こえてはいないと分かりながらも窓の外に向けてそう呟くと、カーテンを閉めて再びベッドに横になる事にした。





あ~、脳内がまだ番外編の可笑しな空気から抜け出ていないので難産です。


さっさと元に戻しておきます。


ではでは、また次回。


感想などお待ちしております。



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