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番外編 テルミによるテルミのための画策


え~、という訳で、10万PV、1万ユニークの記念という事で今回は番外編をお送りしたいと思います。


まあ、タイトルの通り、今回のメインはテルミです。


そして、シリアスなんてどこか遠い所まで吹き飛んだと思います。


とりあえず、本編、じゃなかった番外編をどうぞ。


「皆さんこんばんは、アクイラ騎士団広報担当のテルミが、早朝の騎士団宿舎からお送りしておりま~す……」


突如現れたテルミは、小声で手に持つマイクに向けてそう言い放った。


「なぜ、私がこのような事をしているか、きっと皆さん疑問に思っている事でしょう。ですが、これには大きな、のっぴきならない、回避不可能な、この世の真理になりそうな、天よりも高く、海よりも深~い理由があるのです」


ずずいと身を乗り出すテルミ。


「ちょっ、テルミ、あまり近づかないでくれ、画面からはみ出る」

「え、ああ、ごめんごめん」


「は~い、それじゃもう1回撮り直しますよ~」

「時間もないんだし、ちゃちゃっと行きましょ~」


テルミが謝ると同時に周辺から小声で指示が飛ぶ。


そう、これはとある番組を作るための撮影をしているのだ。


朝の3時に。


まだ誰も起きていない、静まり返った宿舎の一角でカメラを構えた騎士、集音用のマイクを持ちなおす騎士、カンペを素早く書いていく騎士が静かに、それでいて慌ただしく動いていく。


「それにしても、城の敷地内からこんなものが発掘されるなんて、不思議ね~」


テルミは撮影が止まっているわずかな間に自分に向けられているカメラを指差して何度目かという台詞を放つ。


魔法を一切使わず、風景を記録できる装置、その名もムービーカメラ! 写真撮影も可能な優れもの!


以前仮設の観客席を設営する時に、地中から掘り返された、旧文明の遺物とすら考えられている代物だ。古今東西、この世界で魔法を使わずに映像を、写真を記録するなど不可能とすら考えられてきたため、この大発見はすぐに城中に知れ渡り、その存在はすぐに広報であるテルミの耳にも入った。


その存在を知ったテルミは誰かが貰いたいという前にヴァルトに直談判してこのカメラの調査を任せてくれと頼みこんだのだ。


そしてものの見事にテルミの思惑は成功し、カメラとその周辺機器一式を引き取る事が出来たのだ。


映像を記録することが出来る、と聞いてテルミはすぐにそれをある事に利用しようと考えた。


『騎士団の内部を世に広く伝えるため』






で・は・な・く!









『騎士団のあの人やこの人のあ~んな映像はこ~んな画像』を取るためだ。


もはや私利私欲に動いていると言っても過言ではない。


「ちょっと、私はそれを騎士の皆に配る事で最近面白味に欠けるこの騎士団に新たな風を入れようとしているだけよ」


知らんがな。


「は~い、テルミ、誰と喋ってるか知らんが撮影を再開するぞ、さっきのドアップの直前で切ってその後からって感じでよろしく」

「はいはい、ダニー」


カメラを持つのはダニーだ。テルミの案に最も速く反応し、協力を申し出た。協力する代わりに未編集の全ての映像記録を複製させるという条件付きだったが、人手が必要なテルミはそれを快諾した。


するとダニーは同じ志を抱く騎士を集めて撮影隊を組織、テルミの謀略とも言える行為に全面的な協力をしている。


「ふう……、ではでは皆さん、今日のテーマはこちら!」


小声だが、しっかり集音されるだけの音量でテルミが背後の壁をバンッと叩くと、それを合図に魔法が発動、壁に文字が浮かび上がる。


『寝起きドッキリ! 今話題の騎士の寝起きを激写!!』


読んで字の如く、とはまさにこの事だろう。


「ふっふっふっ、今日のターゲットは今騎士団で話題の絶えない騎士たちの無防備な寝顔を激写した後、魔法で怖~い顔になった我らが仕掛け人たちが寝起きドッキリを仕掛けるというものです。男性には男性が、女性には女性がそれらを仕掛けますので、手違いは起こりませんので、ご了承ください♪」


可愛くウィンクして見せると、「はい、オッケー」という声が上がってテルミが大きく息を吐く。


「結構キャラ作るのって大変ねぇ」

「だが、その苦労以上の利益が上がるのだ、そう思えば苦労など吹き飛ぶ、そうだろう?」

「ええ、ダニー」


「「フフフフフフフフフフ…………」」


((((こ、怖い……)))


怪しい笑みを浮かべて小声で笑い合う2人に撮影スタッフは息を呑む。だが、志を同じくする者しかいないため、ここで臆する者はいない。むしろこの2人が頼もしくすら見えているのだ。


「っと、笑っている場合じゃなかった。最初のターゲット、行くわよ」


「「「「「応」」」」」















「というわけで、寝起きドッキリ、最初のターゲットはこの人!」


カメラに映らない位置から差し出されたプレートを受け取ると、それをカメラに映る位置まで持ち上げる。


プレートにはテルミが協力を仰いだ騎士の中で最も絵心のある騎士が描いた1人の女性の似顔絵が描かれていた。赤いポニーテールが印象的な騎士、シルヴィアが描かれていた。


「今回、ドラゴンスレイヤーによる対抗戦、通称『大会』において選抜メンバーに選ばれた我らがアネゴ! 凛々しい普段の様子とは違った彼女が見られることに期待しましょ~」


当然の事だが、この宿舎の各部屋には鍵が設けられている。鍵はその部屋の住居人と、宿舎全体の管理人、そして責任者として男性の部屋の鍵はヴァルトが、女性の部屋の鍵はバーバラがスペアを持っている。ヴァルトと言えど、女性陣には譲れない一線があったのだろう、バーバラがいない事が多いためにほぼ常時全ての鍵のスペアはヴァルトが管理しているが、少なくとも女性1人以上の同意がないと開かないようにヴァルトが作った金庫に保管されているので、過ちが起こる心配はない。


だが、テルミの計画に鍵は不可欠だ。


そもそも寝起きドッキリとは不法侵入をして行われるもの、部屋に入れないのでは話にならない。


そこでバーバラが戻っている今を狙ってテルミが、どストレートに「皆の寝顔が撮りたいから鍵を貸してください」と言ったところ、


「良いわよ」


と予想外な事に了承してくれたため、テルミは宿舎全体の鍵を手に入れる事が出来た。男性の分はバーバラがヴァルトの金庫から拝借したらしい。詳しく聞くと命の危機にあるためこれ以上は聞けないし、言えない。


「その代わり、エリカの寝顔を撮れたらそれを寄越しなさい」


薄ら暗い交渉が成されたという事だけ分かってもらえればそれでいい。


「というわけで、まずは侵入です……」


鍵を差し込み、音がなるべく立たないようにゆっくりと鍵を回すと、扉の反対側でカチリと小さな音がして開錠された。ドアノブを握り、慎重に扉を開けると、まだ暗い部屋がカメラの前に姿を現す。


扉を開けた状態でテルミが一度カメラに目を向け、小さく頷くと、それに反応してダニーがカメラのスイッチを操作する。すると画面が緑を主体とした画面になり、廊下と違って暗く視界が悪い部屋の中が鮮明に分かるようになる。


暗視機能付きの優れものなのだ!


テルミが室内に(許可なく)入り、少し遅れてダニー以下撮影陣がシルヴィアの自室に(許可なく)入っていく。


「どうやら、シルヴィアはまだ就寝中のようです……」


そもそも、起きていたらこの撮影自体が成り立たないはずだ。


テルミは声を殺し、一度カメラに振り返るとそう言い、忍び足でシルヴィアの姿を探す。


ちなみに、騎士は寝ていても周囲の気配を察することが出来るくらいの実力は誰にでもある。当然ながら邪な思惑の元、やって来たテルミたちが気配で気づかれるという可能性もあった。


そのためテルミたちは全員で突入する者たちに気配を消す魔法を何重にも重ねてかけている。


また、1人目がシルヴィア、つまり女性であるため、ダニーも突出はせず、後続の女性騎士(自称腐女騎士)にカメラを渡すと決してそれ以上踏み込むような真似はしない。いかに馬鹿でどうしようもない連中の集まりとはいえ、超えてはならない一線は理解できているようだった。


「…………お、発見です」


テルミは室内でベッドをわずかな光源から見つけると、ニンマリと笑みを浮かべてカメラに向けてその方向を指差した。カメラがそちらに向き、ズームされると静かな寝息を立てるシルヴィアの姿が緑色の画面に浮かび上がる。


シルヴィアは完全にテルミたちの侵入に気が付いていないようだった。


「見てください、氷の女王の寝顔ですよ~……って」


シルヴィアはその戦闘方法から「氷の女王」としばし揶揄されることがある。獲物の種類を自在に変化させる事からそういう名がついたわけだが、それ以上に氷の鎌を構える彼女の姿を畏怖の念を込めての呼び名でもある。


だが、今目の前にあるのは、普段の鋭いの目や、キリッとした表情も今は鳴りを潜めて穏やかな雰囲気、なのであるが……。


「剣を持って寝るとは、さすがと言おうか……」


シルヴィアは氷の剣を抱えていた。


冷たくないのか、とかいう疑問がテルミたちの脳裏を過ぎっていくのだが、見た目にはそのようには感じられない。


「ま、まあいつもと全然違うシルヴィアが撮れたから問題ないか……」


気を取り直してテルミはカメラに向き合うと、悪人の笑みを浮かべる。


具体的に言うと、顔が若干下を向いているため、目元が影になり、そこで怪しく2つの目が「キュピーン」と光り輝き、口元が吊り上っている。


「では、いよいよお待ちかねの、寝起きドッキリを仕掛けたいと思います」


カメラの背後で何かが動く物音が僅かにして、カメラが横に避けると手前から人影が現れる。


首から下は普通の格好だ。


だが、首から上は魔法とメイクによって恐ろしい事になっていた。


口が裂けているのだ。それも通常の口裂け女のように、耳の近くまで裂けているのではなく、縦に裂けているのだ。顎先から丁度目と目の中点辺りまでがメイクによって裂けているように見えるのだ。明るい所で見ればグロテスクなほどリアルに塗装された鼻頭や、本来の口元が見えるのだが、この暗い中ではそれ以上に縦に裂けた口がインパクトを与える。


「志を同じくする騎士が自らの女を捨て、お茶の間に笑いを届けるために自己犠牲してくれました。今後に差し障るためお名前は伏せさせてもらいます」


口裂け女のメイクをした女騎士が小さく拳を握りしめると、テルミとアイコンタクトをする。テルミがカメラの手前へと移動し、丁度立ち位置が入れ替わる。懐中電灯を手に持ち、真っ赤なライトが点灯すると、テルミに合図を送る。


テルミがそれに反応して小さく頷くと、どこから出したのかも分からない細長い棒を取り出し、それをシルヴィアの顔の上へと伸ばしていく。先端からは細い糸が垂れており、その紐は直方体の何かをぶら下げている。








みょろんっ


「ひゃっ、何奴っ!?」

「うらめしやぁ~……」

「なっ、悪霊退散!!」

「ちょ、シルヴィア、デスサイズは駄目!!」


説明しよう。


まず、プルプルと震える灰色の物体を顔面に受けたシルヴィアが普段は言わないような悲鳴を上げて目を覚ましたシルヴィアの目の前に口裂け女が姿を現し、それを視界に収めた瞬間シルヴィアが持っていた剣を鎌に変化させて大きく振りかぶった。そしてそれを見て本気で不味いと思ったテルミが割って入ったという寸法だ。


鎌をテルミの喉元ギリギリでシルヴィアは止めるが、テルミを見て全てを察したのであろうシルヴィアの表情は氷の女王にふさわしいものになってしまった。


「テルミ、覚悟は出来てるでしょうね……?」

「へ? ちょ、待って、落ち着きましょう? 争いは何も生みはしないわよ? だからその自家製断頭台を元に戻して!」


カメラの前でまさしく公開処刑が始まりそうになったので、さすがにこれ以上はテルミの命に係わる、と判断した撮影陣がシルヴィアを止めにかかる。















「え~、命からがら戻ってまいりました。これからはシルヴィアに実況と解説を担当して頂きたいと思います。予定では次の方にもやってもらいたいと思っております」

「……人の苦労も知らないで」


カメラを動かすと白い椅子とテーブルとセットになったシルヴィアが映し出される。机の上には「実況」、「解説」と書かれた立札が並べられており、テルミが言った通り2人でやるものなのか空きの椅子が用意されている。


「で、では気を取り直して2人目のターゲットを発表します……この方です!」


1回目同様に白いプレートを持ち上げると、そこにはジーンの顔が描かれていた。


「シルヴィア同様今回大会選抜メンバーに選ばれたジーンは、18歳とは思えぬ冷静さを武器に戦っています。寝起きの彼にも普段の冷静さがあるのか、見物です」

「……何のリアクションもない気がするわね」


テルミの台詞に短い言葉で解説(?)を入れるシルヴィアの声がボソボソと集音される。


「外野、黙ってよ」

「外野じゃなくて解説なんでしょ? さっさと終わらせなさいな。二度寝できなくなるじゃない」


((これだけでも十分イメージブレイクしている気がする……))


撮影陣が声にならない声を心で呟くが、もちろん口には出さない。


なぜならシルヴィアは表面上は怒りを収めているのだが、代わりに常に彼女の隣の床に突き立てられている青白い鎌が不気味な存在感を醸し出しているからだ。いつその持ち手に手がかけられるか分からない恐怖感の中、ダニーたちは収録を続けているのだ。


「ではでは、ダニー出番よ」

「了ぅ解ぃ。積年の恨み、ここで晴らす!」


カメラを別の騎士に渡すと、即座に不気味なマスクを被って、顔に似合った不気味な笑い声を上げてみせる。どこかの墓場で地面から出てきそうなマスクは目を赤く光らせ、大きく開けた口の中の牙にはそれにしか見えない赤い塗料が付着している。


テルミが鍵を解除して扉を開けると、ダニーが中に入っていく。


「え~、ここでお知らせです。野郎の寝顔なんぞ見たくねえ、という撮影陣の意見を尊重して、男性騎士にはいきなり寝起きドッキリを仕掛けたいと思います」


テルミはそう言うとカメラを引き連れダニーの後を追って室内へと入っていく。室内ではすでにダニーがいつでも行けるように準備万端で待機しており、カメラが来たのを確認して親指を当てると、シルヴィアの時同様、灰色で直方体の物体を寝ているジーンの顔にぶつける。


「ぬっ! 何奴!!」

「悪い子はいねがあああああ~」

「なっ! おのれ化け物、まだ生きていたのか!!」


「あれ、なんか……」


目を覚ましたジーンが、妙な事を口走ったのに気が付いたテルミはカメラを後退させて自らも扉へと通じる狭い通路へと隠れる。


だがダニーは逃げ遅れ、扉とダニーの間に寝起きのジーンが割り込んでしまった。武器は手にしていないが、素手で戦おうとしているジーンにダニーは命の危機を覚えて慌ててマスクを取る。


「ちょ、ジーン、俺だ、ダニーだ!!」

「なあっ!? 化け物がダニーに化けたのか!? おのれ仲間に化けるとは小癪な奴、俺が成敗してくれる!!」


「あれ、まだ夢の中のようね……」

「そうみたいですね……あ、顔面に膝入った」


シルヴィアの呆れたような声にテルミが返事をした時、ジーンがダニー目掛けて飛び、強烈な膝蹴りをダニーにお見舞いし、ダニーは壁に激突うする。


「お、お前、仲間の顔でも平気で蹴るのか!?」

「正体を現したな、化け物め。貴様はダニーではない。仮にダニーと全く同じであろうと、それが俺の攻撃を止める手段とはなりえない!」


「ちょっとまてええええええええっ!!!!!!!」


ダニーの悲鳴が部屋に響き渡るが、騒音迷惑防止のためにターゲットの部屋にはあらゆる音、振動を外に出さない工夫がなされている。それをやったのは他でもないダニーだ。


結局、ダニーは寝ぼけたジーンにフルボッコされ、スタッフが止めに入るまでサンドバッグ代わりにされてしまったのであった。















「……シルヴィア、なぜテルミの悪事に手を貸す?」

「……後で私の分だけテープを抜き取る予定」

「……俺のも頼めるか?」

「頼まれたわ」


実況・解説席で2人がボソボソと話しているのはテルミたちには聞こえていない。


ダニーことダニエル・オジュをフルボッコにして廊下に放り出したジーンは、そこに至ってようやく撮影スタッフによって現実世界に引き戻されることになった。一応ダニーにも謝っておいたのだが、別段気にしている様子もなく、ジーンはシルヴィアというこの場に何故いるのかも分からない人物を見つけると隣に座る事にした。


「まあ、あまり大事にならなければいいんだが……」

「団長たちが良く許可したものね……」

「案外許可取ってないんじゃないか?」

「それはさすがに……ありそうね」


2人は知らされていない事だが、事実テルミは自分が何を仕出かそうとしているのかヴァルトに許可など取っていない。そもそもヴァルトはテルミが何をしているのか気が付いていないだろう。


テルミは自らの持つ技術を総動員して情報統制を行っている。テルミたちがやっている事は、当事者にならないとそれが行われている事すら感知できないのだ。


「この流れだと、選抜された人は全員やられるわね……」

「人死にが出なきゃ良いが……」


2人の心配事はまさにそこにあった。















3人目、ジャック――――――


「うおおおおおおおおおおっ!! 天が呼ぶ、地が呼ぶ、人が呼ぶ、悪を倒せと! そう、俺は超絶神兵ジャックその人だ!!」


「だ、誰かこの人を止めてくれ! マジで殺される!!」


「ダニー、あなたの死は忘れないわ!!」


「まず助けようという努力をしてっ……あ、ちょ、ま……ア―――――――ッ!!!!」















4人目、ヒナ――――――


「では、4人目のターゲットは……」


「皆さんおそろいで何をやってらっしゃるんですか?」


「あ、おはよう、ヒナ。実は今からヒナに寝起きドッキリを……え?」


「え?」















5人目、フィア――――――


「ラストターゲットと同じ部屋ってのが参ったわね……。どうにかならないかしら」


「フィアを諦めるってのが一番いいんじゃないか? フィアにはこちら側に回ってもらえば、後々楽だと思うが」


「ジーン、なんか楽しげね……」


「なんか楽しくなってきている俺がいるんだよ、シルヴィア。そういうお前も随分と顔がにやけているが?」


「ダニーがボコボコにされるのは見ていて飽きないわ」


「さすがは氷の女王だな」


「……死んどく?」


「すまん……」















「ふう、ついに長い朝も終わりを告げる時がやってきました。今日最後のターゲットは、皆さんも想像がついているでしょう、この人です!」


プレートを掲げ、ラストだけに若干興奮気味のテルミがカメラ目線で悪戯好きの子供のような笑みを浮かべる。


「我らがお嬢さんジュリエット、エリカです!」


何故か、今まで描かれた誰よりも絵のクオリティが高い。しかも背景にバラが咲く始末。


「本来ならば5人目の犠せ、じゃなかったターゲットであったフィアと同室であったため、これを見るであろう皆さんがおそらく見たいであろうエリカに犠せ、違う違うターゲットを絞り、締めと行きたいと思います」


「なんであんな馬鹿な事をやってるのかしら。そして止めないあなたたちも」


「「見てて楽しいんだ(のよ)」」


「はあ……。どうでもいいけど、死人が出るわよ、下手をすると」


先ほどから思い出し笑いを必死にこらえている2人を見て呆れたようなため息をつくと、フィアは不意に真剣な表情になって今まさにテルミたちが突入しようとしている部屋、エリカとフィアの自室の扉を見つめながらそう言った。


「死人? ジャックの時にダニーが旅立ったが、エリカなら大丈夫だろう。むしろ起きるかどうか気になるな」


エリカが本来起きる時じゃない時間帯に起こされると非常に寝起きが悪い事を知っているジーンは、フィアの言葉を気にせずそんなことを言う。


シルヴィアはエリカの寝起きに関しては知らないのでキョトンとしてフィアとジーンの会話を聞いている。


ジーンの言葉を聞くと、フィアはまたため息をつき、項垂れた。


「(ボソッ)私だって慣れるのにしばらくかかったのに、耐性のない人間が入ったら……」


「うん、何か言ったか?」


「ここにいる連中がもし、『そういう』連中だったら、致命傷を負いかねないわ」

「……どういう事?」


フィアのあまりに真剣な言葉、表情に、ジーンも黙り、話が見えないシルヴィアはフィアに疑問をぶつけてきた。ジーンは、ある心当たりに行きつき、「あっ」と小さく声を漏らした。


「よし、行くわよ」


テルミが先頭を行き、部屋に音もなく突入していく。どうもエリカの寝顔がそんなにも見たいようで、本来行く必要のないスタッフまでもが部屋へと続々と入っていく。


「まあ、見てれば分かるわ」


その様子を見ながらフィアはそう言い、解説席に据え付けられたモニター、カメラからの画像をリアルタイムで見られるというボードの前に先ほどテルミが使ったエリカの似顔絵が描かれたプレートを置いた。


「どうして……?」

「見たらあなたも犠牲になりかねないわよ」


シルヴィアが「なぜ?」と言おうとしたその時!






ブ――――――――――――ッ!!!!


「「「「「カッハ――――――――――――ッ!!!!」」」」」






部屋の中から何かが大量に吹き出す音が聞こえ、続いて悲鳴のような謎の声が聞こえてきたのを見て、フィアは「遅かったか」という表情をした。


そして悲鳴の後には一切の音が消え、不気味なほどの沈黙が辺りを支配する。


「行くわよ、早くしないと本当に死人が出るわ」


「お、おう」

「分かったわ」


フィアが部屋へと向かうのを追ってジーンとシルヴィアは席を立ってその後に続いた。


部屋の中は当然だが暗闇だ。3人は慎重に、一歩一歩暗闇を進むと、フィアの足に何かが当たった。フィアはそれ以上は動かず手探りで机の上に置かれているはずのランプを探す。


「なに、水でも漏れてるの?」


3人が歩く度に、ピチャピチャと水の音がする。見当がついてしまうがゆえに全員がそれ以上喋ろうとしない。


「点けるわよ」


ランプにフィアが炎を灯すと、そこは地獄だった。


突入した撮影陣は1人の例外もなく鼻と口から大量の血を流して床に倒れていた。


さすがのシルヴィアも明かりが灯った瞬間は狼狽えたが、すぐにまだ生きているかどうかを確認するために血の海に膝をついた。


「ジーンは普段からエリカといるから大丈夫でしょうけど、原因はこれでしょうねぇ」

「……ああ」


こんな地獄が自分の寝ているすぐ隣で起こっているとは夢にも思わないだろうエリカがこれ以上にない幸せそうな表情で眠っている。


(まったく、この世の人間の寝顔とは信じられないくらい可愛いわね……)


その表情は天使を彷彿させる。


これを見て鼻血を吹き出し、大量の吐血をするのが理解できてしまうほどだ。


「あ~、な・る・ほ・ど。確かに可愛い寝顔ね」

「ええ、まったく……ってシルヴィア、大丈夫なの!?」

「なにがよ?」


「駄目な」人間はもとより、「普通の」人間でも多大なダメージを喰らうエリカの寝顔スマイルを見てまったく堪えていない様子のシルヴィアにフィアが信じられないという表情をする。


「と、ともかく、こいつらをヴァルト団長に突き出しましょう。ほらカメラ」

「あ、すまんな」


「駄目な」人間に分類されてしまった女性騎士が持っていたカメラをフィアが拾うとジーンに投げ渡す。受け取ったジーンはすぐさまテープを抜き取る。カメラを扉の外に投げ出すととりあえず手近な騎士のを肩に担いで外へ運び出す作業に入る。


「その辺に縛って放り出しとけば後はヴァルトがやってくれるわよ」

「了解」















「ふあ、よく寝ました……、どうしたんですか、フィアさん?」


エリカが気持ちよく目を覚まして部屋を見渡すと、壁にもたれてぼんやりとしているフィアが視界に入った。手には真っ赤になった雑巾を持って項垂れている。そして何故かその隣でシルヴィアが全く同じ格好をしていた。


「なぜにシルヴィアさんまで……ってなんか床が湿ってるし、あれ、こんなにこの部屋の床赤っぽかったでしたっけ?」


とりあえず立ち上がってフィアとシルヴィアの前でうずくまり、フィアの顔を覗き込む。


「あ、エリカちゃん、おはよう」

「あら、もうそんな時間だったの? うっかり寝てしまったようね」


エリカの気配に気が付いたのか顔を上げる2人。徹夜で何かをしていたようで2人とも目の下に隈を作っている。


「何かあったんですか? それ、まさか血ですか?」

「え? ああ、これ? そういうんじゃないのよ」


「でも「大人の事情ってやつよ」……はあ」


エリカには何がどうしてこうなったのか理解できない。ただフィアとシルヴィアは慌てた様子で雑巾をゴミ箱に捨てると立ち上がって大きく伸びをした。


「さてと、エリカ、朝の特訓をするなら修練場じゃない場所にしておくと良いわ。今あそこは使えないだろうから」

「またわけの分からない事を……。それも大人の事情ですか?」


「まあね」


「……はあ、分かりました。今日は軽く城の中をランニングしてきます(少なくとも皆さんよりは年上なんですけどねぇ)」















「なあ、ありゃあなんだ?」


1人の騎士が、修練場でもう1人の騎士に尋ねる。


「関わらない方が身のためだ。テルミが非公式な行動をする時はろくな事になりゃせん」


対人用の訓練をする時に使用するカカシのような人形一つにつき、騎士が1人ずつ縛り付けられている。全員無様に鼻血を流してはいるが、意識は戻っているので近くにいる騎士に助けを求めている。だが、テルミがいる事でなるべく関わりたくないという騎士が大半、誰も彼女たちに近づこうとはしない。


「なんでも、昨夜馬鹿な事をしていたらしいぞ」


「ジーンか、何か知っているのか? ……酷い顔だぞ、どうした」


2人の騎士が振り返るとフィアとシルヴィアのように隈を作ったジーンが立っていた。


「まあ、いろいろあってな。団長に伝えてきた。早々に撤去されるだろうな」

「それなら良いが……馬鹿な事か、相変わらず後先考えないな、テルミの奴は」

「まったくだ」


2人はどこかで時間を潰そうと話しながら宿舎の中へと戻っていった。ジーンはしばらく喚き散らしているテルミたちを眺める。


「私はどうなってもいいから、あのテープだけは返して!!」


「なんつう根性だ……」


テルミのジャーナリスト魂とでも言うべきものがそう言わせているのだろうか。それにテルミに追随した騎士たちも似たような事を喚いているのだから手に負えない。


縛り付ける最中に目が覚めて、また思い出して吐血して、気を失って、を繰り返されたおかげでジーンは数十人縛るのに一晩かかってしまった。


「まあ、収穫はあったしな」


ジーンはポケットを探って小さなテープを取り出した。シルヴィアとの約束通り、彼女と自分の分は削除されているテープ。本来ならテープごと廃棄するべきところなのだが、ジーンはなんと廃棄したことに見せかけて拝借していたのだ。


「まさかボランティアで解説してたわけじゃないんだ。ま、エリカたちと共に見る事にでもしよう。カメラにはテルミたちがエリカの寝顔を見てぶっ倒れていく姿も映っていた。あれは爽快だったな」


カメラを持っていた騎士が早い段階で倒れたようで、カメラには次々と倒れていくテルミたちの姿が映されていた。まさしく痛快ものだ。


「さて、一眠りさせてもらおうか」















「覚悟は出来ているだろうな?」


「煮るなり焼くなり、好きにするが良いわ」


「そうか、ではO☆HA☆NA☆SHIと行こうか」


「え、ちょ、団長の5時間にも及ぶそれだけはっ、それだけはイヤアアアアアアアッ!!!!」















「エリカの寝顔……まさしく天使ね」


結局、バーバラだけが良い思いをしたというのは、また別のお話……。




エリカ(以下:エ)

 :「はい、という訳で何故かこのような形になってしまった後書きです」


ジーン(以下:ジ)

 :「理由が分からん。そもそもこういうのは作者が自分が書いたキャラと会話するという妄想をして楽しむものだろう。作者がいないのはどういう事だ?」


フィア(以下:フ)

 :「出たくないそうよ。キャラのイメージ壊したくないって。ぶっちゃけチキンだから読者の反応が怖いのよ」


エ:「どうでもいいですけど。で、何をやろうっていうんですか?」


ジ:「うむ、俺もそれが知りたい。俺の出番を増やす相談なら万々歳だが」


フ:「安心して、多分そうじゃないわ」


ジ:「そうか……」


エ:「あ、本気で落ち込んでますね」


フ:「そりゃあ、プロローグでまさしく主人公、的な扱い受けてるのに、いつのまにか空気だものね。ジャックがほとんど出番奪ってるし」


エ:「ちょ、フィアさん、ジーンさんが地面にめり込んでます!」


ジ:「いいんだ。どうせ、俺は、俺は……」


エ:「……これ、正直作者が上手くキャラを操作出来てないってことですよね?」


フ:「正確には、作者が『某剣道漫画のように女性には優しく、男性には厳しく』という言い訳の下、キャラを動かしているのよ。ま、私の出番が減るわけじゃないから良いけど」


エ:「どうも、この場は作者の思いが吐露される場のようですね……ってジーンさんがついに見えなくなったんですけど!?」


フ:「大丈夫よ、死にゃあしないわよ」


エ:「それはそうと、いつものメンバーならどうしてジャックさんがいないんですか?」


フ:「そりゃあもちろん、省略したらジーンかジャックか分からなくなっちゃうからよ。名前を考える段階で後先考えなかったからよ」


エ:「そう言えば、あたしたちの名前の由来とかってあるんですか?」


フ:「ああ、一応、由来はあるらしいわ。考えなしというわけじゃないのね。


   エリカ→作者の知り合いから(承諾云々は一切なし)


   ジーン→映画「アポロ13」よりジーン・クランツ(飛行主任)


   ジャック→映画「アポロ13」よりジャック・スワイガート(飛行士)


   フィア→自動車やバイクの開発などをしているフィアログループの「フィア」から


   以下略


   ……、エリカだけ扱いが雑ね」


エ:「……いいですよ。あたしだけ日本名だったから想像はついてましたから……と、ヒナさんやムラミツさんは?」


フ:「ええと、ヒナの名前は日本古典落語の雛鍔から来ているそうよ。作者はあらすじしか知らないそうだけど。ムラミツさんは名刀『大般若長光』の作者である忠埼村光宗吉長岡船正から来ているそうよ」


エ:「……なぜそんな所から……」


フ:「ほら、よくあるじゃない? 設定だけ無駄に凝って結局あんまり関係なくなっちゃうってやつよ。まあ、刀繋がりだったのは良い事だけど」


ジ:「ムラミツさんに関しては、人物よりも先に刀に出会ったみたいだな。漫画『銃夢』で『大PANNYA長光』という剣に出会ってググったらしい」


エ:「復活しましたか。とはいえ、結局は偶然の産物でしたか」


フ:「それを言うなら、ヒナの名前だってそうね。落語に興味がほとんどない作者なんだから。落語家は好きらしいけど」


エ:「一番好きなのは歌〇師匠だそうです。あ、誤字じゃなくて伏せてるんです」


フ:「伏せてないわね……」


ジ:「笑〇いっつも見てるもんな」


エ:「ていうか話がずれてますけど?」


フ:「いいのよ、どうせ何の目的もなくやってるし」


エ:「そうですか、それじゃ名前ネタをさらに突きますか……。「アポロ13」好きですね」


フ:「トム・ハ〇クス主演の映画、実はあれ、船長のジム・ラベルご本人も登場していたらしいな」


エ:「ええ、っと見てない方に言うのもなんですのでここはスルーで。ジャックさんの名前の由来の方は……ベーコン、美味しそうです」


フ:「ちょ、食べちゃダメよ。最近では『X‐MEN』のセバスチャンショウね。あの人を皮肉ったような笑みは好きだわ」


エ:「ま、あたしたちの思考は全て作者が作ったものですから、あたしたちの好み=作者の好みになるわけですが」


ジ:「それを言ったらおしまいだろう」


エ:「むぅ、やる事もないのです。あ~、もしかして今回あたし初めて脇役に回りました?」


フ:「そうね、ほぼ台詞なかったし、あまり出番がなかった人たちへの救済策と考えるべきかしら?」


ジ:「その対象に俺が入っている気がするのは気のせいか?」


エ&フ

 :「「気のせいじゃないと思います(思うわ」」


ジ:「orz」


エ:「そうだ、結局あの赤いシミはなんだったんですか?」


フ:「……知らぬが仏よ」














ジ:「orz……あれ、俺放置?」

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