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第48話 主人公はツッコミスキルを得たようです



(・Д・)んん?







(⊃Д⊂)ゴシゴシ……






(・Д・)……ひーふーみー……え?






10万……PV、だと?





え、これ夢ですか?





違う、そうですか、では本当なんですね。






ゼロが幾つでしたっけ、ええと、4コ、じゃない5コ……アンビリーバボー。


またはシンジラレナーイ。



とりあえず本編どうぞ





久々に戻ってきた、と言っても1週間ぶりなだけなのだが、もはや第二の我が家となったアクイラ騎士団宿舎の自室、ソファで目を覚ましたエリカは、身体を起こして大きく伸びをする。


「んん、あれどうしてソファで……、ってそうだった」


ソファで毛布を被って寝ていた自分に疑問を抱き、すぐに解決したので納得する。


この部屋にはエリカのベッドとフィアのベッドがそれぞれある。窓に近いベッドがエリカの物なのだが、今は別の人物が穏やかな寝息を立てながら寝ている。


「荒っぽい歓迎を受けましたね、ヒナさん」


クスッと笑いながら、立ち上がると眠っているヒナの顔を覗き込む。何者かの気配を感じたのか寝づらそうに寝返りを打ったのでエリカは顔を離してその隣で同じように寝ているフィアに視線を向ける。こちらはヒナと違って寝返りを何度も打ったのか、シーツがクシャクシャになっている。


騎士にとって休日というものは存在しないのだが、長旅から帰ってきて、その足でヒナの入団祝いをやっていたのだから、さすがに疲労がピークに達したようだ。着替える気力も残っていなかった上に、エリカも眠たかったためにフィアは着替えもせず、旅から帰ってきたそのままの格好で眠っている。


(ヒナさん共々、随分飲んでましたからね)


昨日の食堂はまさしくどんちゃん騒ぎという言葉が最も似合う場所であった。ヒナの事を口伝えに聞いてやってきた騎士たちが揃いも揃って大騒ぎ、果てにはヴァルトが鎮圧に来るという始末だ。


あれだけ五月蠅ければ上階の執務室まで聞こえていたのだろう。堪忍袋の緒以外の何かが切れる音をさせながらやって来たヴァルトの姿は阿修羅を思わせるものだった。


エリカとジーン、ジャックはヴァルトの接近をいち早く察知するとお休みも告げずにノックアウト寸前だったフィアと、ゲストにも関わらず真っ先に潰れて介抱されていたヒナを担ぎ上げると食堂の窓から脱出、その直後ヴァルトの怒号が響き渡った。


その後の事は分からない。


ただ言えるのは、酷い目に合ったであろうことだけだ。


「結局、まだ部屋も決めてなかったからこの部屋に担ぎ込んだんでしたっけか」


眠気に負けてあやふやな記憶を掘り返して昨夜の出来事を整理する。


そそくさと服を着替えて毎日の日課となっている早朝訓練のために部屋を出る。もちろん、2人を起こさないように静かに扉を閉めると、修練場へと通ずる宿舎の1階玄関から出るのが面倒なため窓を開けてヒョイと外に飛び出る。あまり感心される行為ではないのだが、見てる人が誰もいないので何の問題もない。


(この1週間仕方ないとはいえさぼっちゃいましたからね。代わりにヒナさんの特訓だったんだけど)


姫黒と黒羽を鞘から抜くとダランと下ろして精神を集中させる。まだ気温の上がらない朝はこうしているだけでも肌寒い風で眠気が覚めていくのだ。


ちなみに、2つの鞘は邪魔にならないように背中の低い位置に交差させて固定している。鞘に元々取り付けられている黒い紐を結んで鞘が落ちないようにしておく。


「ふう、居合いなんて器用な真似はできませんが……」


身体を左に捻り、腕だけではなく身体全体で刀を振る。姫黒を振り抜くと正面にある標的の周囲に防御魔法が展開され、エリカの攻撃を弾き飛ばす。


防御魔法は全ての標的に備わっているもので、壊れては直すという事を減らすのが目的だ。攻撃してこない分とでも言おうか、無駄に耐久力が高く、そう易々と壊れる心配はない。


おかげで思い切り攻撃が出来るため、騎士の間でも評判は良い。ちょっとしたストレス発散装置代わりになっている時もあるのだが。


防御魔法が作り出す障壁は攻撃を受けると可視化する。そして「どこに」、「どのように」、「どれくらいの威力で」を色で見分ける事が出来るようになっている。


今の場合、障壁に赤い線が横に入っているため、横に軽く当てた事を意味している。ウォーミングアップであるからそこまで力を入れていないことが分かる。


「朝から頑張っていますね」


ふと、背後から声がかかり振り向くと、この場には似つかわしくない恰好をしたクライムが立っていた。相変わらず嫌味なほど清々しい笑みを顔に貼り付けたクライムがエリカの傍に歩み寄ってくる。


だが、エリカは不思議な違和感を感じた。目の前にいるクライムから、存在感とか気配とかいうものが一切感じられないのだ。それこそ、まるでそこにいないかのように。


「ああ、この姿は私の分身、とでもお考えください。外に出るのは面ど……億く……所用で手が離せないので意識だけをそちらに向かわせています。よろしければ公文書室へ来てもらえませんか? いろいろとお話しなければならない事が増えましたので」


いろいろ言いたいのはこっちの方に思える。話があるのなら自分の方から来るのが筋ではないのか、とエリカは思うのだが、クライムはよりにもよって自分が外に出るのが面倒で、億劫だからエリカを呼びつけているようだ。最終的に「所用で手が離せなく」なったようだが、あそこまではっきり言われて気づかないほどエリカは馬鹿でもない。


「話しがあるのならそちらから来てもらえませんか?」

「おや、来ていますよ? 朝は寒いので騎士団の食堂までは来ています」


「……それならここまで数分とかからないんじゃ?」

「言ったでしょう? あまり外に出たくないんですよ。お待ちしております」


ああ言えば、こう言う、という台詞がぴったりだった。最後に嫌味ったらしい笑みを浮かべるとクライムの姿がすうっと消え、修練場には再びエリカ1人だけになり、静けさが辺りを支配する。


「食堂って、まだ開いてないような気がするのですが……」


そんな事を考えながら、エリカは宿舎へと戻る事にした。















「おはようございます♪」


食堂に行ってみると、朝の仕出しなどをしている料理人たちをしり目に席で優雅に寛いでいるクライムがいた。エリカに気が付くと手を振って招き寄せる。


「無理言って入ったんですか?」

「まさか、ここの料理長とはちょっとした仲でして、これくらいなら快く許してくれるんですよ」


クライムの前の席に座ると、つくづく不思議に思えてしまう。


(食堂の硬い椅子でどうして優雅に寛げるのでしょうか……)


クライムは自分の目の前に置かれているコップを持ち上げると一口飲んでエリカに視線を戻す。


「約束、これで守った事にしましょうか」

「約束? あ……」


身に覚えのない事に思えて記憶を掘り返すと、その意味が分かった。団内選抜大会の時に、そんな約束をしたように思える。


「まあ、その約束含めでお話したいことがありましてね」


そこでようやくエリカは端からクライムが真剣に話している事に気が付いた。いつも何かを含んだような笑みを浮かべているからなのか、エリカが薄暗い公文書室でしか会っていないからなのかは分からないが、クライムの目は真剣そのもの、それをどうして表情にも反映しないのかと不思議に思えるほどにだ。


「表情から心を読まれるのはいい気分ではありませんから」

「そう言いながら、人の心を読まないでください」


ジト目で見るが、反省している様子はない。クライムという男は自分以外の人間にはそういったルールを適用しないようだ。


「ともかく、人が来る前に話を終わらせたいので、単刀直入に言わせてもらいます」


少しだけ顔を近づけ、声のトーンを落とす。エリカも自然とクライムのこれから言うであろう言葉に耳を澄ます。


「水着の色は?」


スッパ――――――ンッ!!!!


クライムの台詞を聞いた瞬間、真っ赤になったエリカはいつぞやのフィアのようにどこからともなくハリセンを取り出すとクライムの脳天目掛けて振り下ろした。流れるような動きで回避されてハリセンがむなしく椅子の背もたれに当たって乾いた音を響かせる。


「おやおや、地雷でしたか」

「はあ、はあ、それが聞きたいが為にここまで来たんですか? なら良いですよ、試し斬りの標的にしてさしあげます」


姫黒と黒羽の柄に手をかけるのを見て、ようやくクライムは自らの非礼を詫びた。とは言っても、「こちらが譲歩してやった」という笑みを見せつけてくれるのだから始末に負えない。エリカは本当に1回クライムをぶった切りたい衝動に駆られる。


「まあ、お座りください。立ち話もなんですし」

「誰のせいで立ってると思ってるんですか……」


引っ叩こうとした時に倒してしまった椅子を元に戻して座ると、これ以上の冗談は許さないという思いを視線に乗せてクライムに送る。だが、それを受け取っているのかクライムの表情からは読み取れない。


「では、本題に入りましょうか」

「最初からそうしてください」


疲れる。


クライムに付き合うと無性に疲れる。


「お話をする前に、バーバラから聞いた事を確認させてもらいますが、あなたはヒトではないのですね?」


「……バーバラさんから聞いているのなら正体くらい分かってるでしょう? 遠まわしに言わないでください」


内心で、今度は真面目な話だ、と安心したエリカは悪くないだろう。


クライムはエリカの言葉に笑みを深めると1冊の本を取り出し、パラパラと捲って目的のページを開くとそれをエリカの方に向ける。


「ドラゴンがヒトになるなどという夢物語のような事態が自然に起こる可能性はほぼゼロです。バーバラの言う通り、やはり人為的な要素がからんでいると考える方が自然です。そして、このページに見覚えがありますよね?」


最初の言葉でクライムが全てを知っている事を理解したエリカは、その件には何も言わず、差し出された本のページを覗き込む。


「ええ、バーバラさんに見せてもらった本です。あたしをヒトにした魔法陣ではないか、と言っていましたが」

「十中八九それで間違いありません。目的までこの本に書かれた事と同じ、とは限りませんが、良からぬことには間違いないでしょう。そしてそれにはどうもブラゴシュワイクが絡んでいるようです」


クライムの言った事にエリカは目を見開く。


「正確にはブラゴシュワイクだけではありません。エオリアブルグも、このアールドールンをも巻き込む巨大な陰謀が見え隠れしています。大会で動きを見せる可能性があり、必然的にあなたは巻き込まれるでしょう」


「敵は何者なんですか……?」


先ほどまでの冗談などすでに地平線の向こうまで吹き飛んでいる。抑揚のない、静かな声でエリカが尋ねるとクライムは再度周囲を確認してから口を開く。


「本当の名前は分かりません。そもそも名前など無いのかもしれません。ですが、彼らは国家という枠を超え、共謀しています。各国の政治上層部に影響力を行使できるだけの力を持ちながらその姿を見せない、不気味な影、ゆえにその存在を知る者からはシャドーと呼ばれています」


「シャドー……」


クライムが小さく頷く。なぜこんな重い話をニコニコ顔で語れるのか理解できないが、少なくともクライム自身の口ぶりは真剣そのものだ。


「つい最近まで、アールドールンにも彼らの手の者が侵入していたようなのですが、どうもエオリアブルグに集結しつつあるそうです。これが示すのは大会で何かをやろうとしている、という事です」


「そのことは、ヴァルトさんたちには?」

「彼には伝えてませんが、バーバラ経由ですぐに話は行くでしょう。もしそうなれば、この騎士団全体が無関係ではいられませんから。ただ……」


そこで一度言葉を切る。話すべきか迷っているようにも見えるが、すぐに決心したのか一瞬泳がせた視線をエリカに戻す。


「目的は分かりません。ですが、その目的のためにあなたを狙うでしょう」


「あたしを?」


「向こうに着いたら、気を付けてください。向こうでは誰一人信用できません。たとえ王族であろうと、彼らの仲間ではないとは言い切れないのですから」


クライムはそれだけ言うと立ち上がる。ポケットに手を入れしばし中を探り、手を出すと小さなペンダントのような物が握られていた。クライムはそれをエリカの前に置くと、手をかざして何かを唱える。手から淡い光が現れてペンダントにつけられた赤い石の中に吸い込まれていく。


「お守りです。あなたに危機が迫った時、少なからず助けになるでしょう。では」


小さくお辞儀をすると、クライムは滑る様に食堂から立ち去っていった。


残されたエリカはネックレスに視線を向けて、両手でそのペンダントを持ち上げてそれを眺めてみる。


首に巻く部分は銀色を主体とされており、それほど装飾が施されている訳ではない。その分、先端につけられた赤い石が際立ち、美しく輝いている。


赤いと言っても、よく見ると石自体が赤いのではないと分かる。正確には石の中の何かが赤く輝いているのだ。まるで液体のように波打っており、それがまた神秘的に思える。


「大会で動く、か……」


ボンヤリと先ほどクライムが言っていた事を頭の中で繰り返してみる。


「望むところです」


それは、ヒトとしてではなく、龍としての言葉。今まで誰にもぶつけようがなかった感情を、ぶつけるべき相手にぶつけられるかもしれない。そう思うとエリカは来るべきものがようやく来たような感じがして気持ちが昂った。


(ただ殺すだけでは足りない。この世に生きている事ヲ後悔サセテヤル……)


負の感情が黒い炎となって心の中で燃え上がる。


それにハッとなって気が付き、自分の頬を軽く叩いて自制心を蘇らせる。


「っと、またですか……」


最近鳴りを潜めていた、負の感情がエリカをイフォネイアに変えようとする。エリカという仮面で常に穏やかな性格を装っているが、ムラミツの死を境に感情に忍び寄ってくるようになった。本来の自分自身が感情を押し込めるな、と言っているかのようだ。


「この感情は、敵が目の前にいる時にでも解放しますか」


その時には、もはやヒトではないだろう。龍としてこの世に存在し、自分をこんな目に合わせた奴らに思い知らせてやる、という事を考えながら、エリカは食堂に話し相手でも来ないかと天井を見上げるのであった。















「ふむ、アレは我々の存在を知ったか」


暗闇。


声だけが反響してその空間が広い事を教えてくれる。


「貴様には苦労をかけるな。だが、それももう終わる。我々の悲願は成就し、世界は我らの手の内に入る」


暗闇の中でドクターと呼ばれる男が影に話しかける。影は誰にも聞こえないかというほどの声でドクターにだけ話を伝える。


「うむ、そうなればアレは用済み、我らの力を持ってすればたとえドラゴンであろうと敵ではない。こちらは準備できている。後はアレが到着すれば良い。大会では皆の活躍に期待するとしよう」


影が小さく頷き、暗闇の中へと溶け込んでいく。


ドクターと呼ばれる男はしばらく動かなかったが、不意に口元を歪ませる。


「永かった。それを思えばあと数日、待つことなど……」






10万PV、1万ユニーク、そして今さっき気が付きましたがお気に入り登録件数も100件を超えていました。お気に入りに関しては上下するので今現在の情報ですが、それはともかくとしても10万PVです。


なんか、嬉しいですね。


いつも言っているような気がしますけど、こんな小説でも評価を下さる方、感想を送っていただける方、誤字脱字を報告してくださる方がいると思うと本当に心強い限りです。


まあ、ファンタジーで、結構メジャーなタグをつけて50話前後で10万なんて遅すぎるぜ、と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、10万なんて単位初めて自分の小説で見たハモニカはとても嬉しいのです。


今後とも、龍旅をよろしくお願いします。






追伸:記念に番外編(前回辺りからポツポツ存在が出てきている奴です)を作成中です。そのうち投稿させてもらいますが、シリアスをぶった切っていると言っても過言ではない出来になりそうな上、執筆途中の現在ですでに8000字、どうも1万字を超えそうな勢いです。長いのでシリアスの間に読むと「あれ?」ってなるかもしれないので。


ま、気にしませんけどねww


ではでは、また次回。



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