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第47話 迫る『大会』と影



むぅ、最近前書きで書く事が見つからないハモニカです。


いや、書かなきゃ良いじゃん、と言われればそれまでなんですがね……w


シリアス抜けてさっさと普段の調子に戻りたい今日この頃、ふざけた番外編を執筆中なんですね。


機会があればきっと表に出るでしょう……








ではでは、本編どうぞ



「おめえさんとこの酒ですまんが、これで勘弁してくれや」


ジャックが昨日の夜作ったムラミツの墓の上に置かれた石に一升瓶の酒を流し落としていく。


結局、昨夜は横にはなったものの一睡もできなかった。まだ朝靄の残る時間からエリカたちはムラミツの墓の前に来ていた。その分ヒナが早く来るわけでもなく、ただぼんやりと、時間が過ぎるのを見ているだけだ。


ジーンは近くの木に寄りかかってぼんやりと朝靄の空を見上げているし、フィアは切り株に座っている。


エリカはアレックスを膝に乗せてジャックが墓に酒をかけているのを眺めていた。隣にある墓がヒナの母親のものだと知ったのは昨夜ここにヒナが墓を作ろうと言った時だ。


<来ると思うか……?>


アレックスが静かに尋ねる。


「……一緒に来てくれると、願いたいです。こちらの意見を押し付ける気はありませんし、どうしてもと言われれば大人しく引き下がるつもりですが」


墓の横に突き刺さっている木刀に視線を移す。おそらく、エリカと特訓していた時に使っていた物だろう。とても使い込まれており、傷だらけの上、少し血が付いている。さすがに木刀の刀身についていたら問題なのだが、持ち手に滲んでいるようについているところを見るに、マメが潰れた時に付着してしまったのだろう。


どれほど長い間、ヒナによって使われていたのかを物語っている。そしてそれすなわち父親との思い出でもあるだろう。


「そうなったら、致し方ないだろうな……、と、来たようだ」


ジーンがエリカたちの背後に現れた人影に気が付いて木から離れる。ジーンの言葉でエリカたちは後ろに振り返りって近づいてくる人影に目を向ける。


やって来たのは当然のことだが、ヒナだった。


これと言った表情を見せず、真剣を右手に、左手には脇差を一振り持って歩いてくる。


ヒナは墓の前にエリカたちを視認すると、苦笑しながら立ち止まり、小さく会釈した。


「この時間に来ていらしたとは、ちょっと予想外です」


エリカたちの前を通ってムラミツの墓の前に立つ。そして右手に持つ刀を鞘から抜いてムラミツの墓の前に突き刺すと、その横でうずくまるとぼんやりと墓を見つめる。


「寝ていらっしゃるものとばかり思っていたんですが」

「仲間を失ってその夜をぐっすり寝られるほど俺たちは薄情じゃないさ。夢枕に立ってもらえなかったがな」


ジーンがそう言うと、ヒナが嬉しそうな笑みを零し、ジーンに視線を向ける。


「そう言ってもらえると、父様も報われます。一生のほとんどを孤独に過ごしましたが、最後の最後に、仲間を得る事が出来たのですから」


「87歳、大往生だったな。もっと共に酒を飲みたかった……」


一升瓶の四分の一ほど残っていた酒をクイッと一気飲みすると、少し寂しそうな表情をする。


「そのお酒も、父様が作った物ですね? 町の酒とは一味違うんじゃないですか?」

「一味どころじゃない、今まで飲んだどんな酒、ビール、ワインよりも美味かったぞ」


少し顔を赤くしているところを見ると、飲んだのはこれだけじゃなさそうだ。


そういえば、ここに来る前に部屋に半ダースほど瓶が転がっているのを見た気がする、とエリカは一見無頓着そうなジャックも実はそのガタイに似合わず繊細だったという事を再認識させられた。


(そんな事をフィアさんが言っていたような気がしないでもないですね……)


「あなた方には感謝してもしきれないほどの事を言っていただきました。今まで私たちが感じていた負い目も、何もかも、皆さんに吹き飛ばしてもらいました」


誰に言うでもなくヒナは言葉を紡ぐ。俯いたまま、脇差を握るその手が小さく震えているのが背後のエリカにも分かる。


「この1週間は、多分今までの一生分以上に充実していましたし、これからもそうでありたいと願った事も事実です」


エリカたちに出会い、それまでの人生とは生活が一変した。それまでほとんど言葉を聞く機会すらなかった外部の人間と触れ合い、語り合い、人狼として閉ざされていたはずの心を開くことが出来た。


ヒナにとって、もはやエリカたちはただの仲間以上の存在であった。


「きっと、父様も同じことを願ったでしょう。でも――――――」


そこでヒナは言葉を切る。


ヒナ・・は共には行けません」


その言葉に、エリカたちの表情が曇る。


それは紛れもない、拒絶。


エリカは一瞬瞑目するが、次の瞬間耳に妙な音が響いてきた。


「ちょ、ヒナさん!?」


フィアの驚いた声がその後耳に飛び込んできてエリカが目を開けると、艶のある、美しく細い黒髪がエリカの視界を横切っていった。


脇差を手にし、髪の毛を手で押さえたヒナが自分の長かった髪をバッサリと切り落としたのだ。あまりに突然だったので、その場にいた全員が唖然とその様子を見つめる。首筋のあたりでエリカと同じ黒髪を切り落としたヒナは切った髪の毛でまだ手に握られているその大多数を持ってきていた小さな紐で結ぶとそっと2つの墓の間に置いた。


「何を……」


目的が分からず、茫然とするその場の全員を代表してエリカがそう言うと、ヒナは振り返ってエリカたちの顔を見渡した。


「ヒナは行けません。父様と、母様の思い出に溢れるこの屋敷を出て行くことはできません。ですが、私、ヒナ・ワカオミという人間・・は、あなた方と共に行くことを望んでいます」


脇差を鞘に納めると、ヒナはどこか吹っ切れたような表情をしてみせた。


「あなた方と共に行ってもよろしいですか?」


その言葉にエリカたち全員が満面の笑みになる。


「それは、いまさらと言うものですよ、ヒナさん」


エリカがそう言うと、ヒナが嬉しそうに頷くと、頬を一筋の涙が流れる。


ヒナにとって、今日この時、何かが終わり、何かが始まった。


今まで大切にしてきたものと決別し、新たな一歩を踏み出すことを決めたのだ。


だが、ヒナは決して不安を抱いてはいなかった。


ヒナという1人の女性とその父親であるムラミツを結んでいた物は切れてしまったが、ムラミツはヒナに多くの繋がりを遺した。


エリカであり、ジーンであり、フィアであり、ジャックであり、もちろんアレックスでもある。そしてそれは今後ヒナに更なる繋がりをもたらすだろうことも。


だから、ヒナは恐れない。全てを受け入れて、先へと進むことを選んだ。


ヒナはここで一度死んだのだ。そして新たな生を受けてここに在る。人狼の娘、ヒナではなく、1人の人間として、ここに在る。


「これから、よろしくお願いいたします」


ヒナは、腰を折って大きく頭を下げた。そして肩を小刻みに震わせ始めた。


それは、両親との別れを惜しむ涙でもあり、これから訪れるであろう新たな人生への歓喜の涙でもあった。


そのせいか、涙は止め処なく流れていくのであった。















「と、いう訳です」


「何が、『と言う訳』なのか教えてもらえんか? それと、人事は騎士団員個人が勝手に決めてよいものではないのだが?」


ヴァルトがため息交じりにそう言うが、ジーンは全く気にするそぶりも見せずにヴァルトの執務机の上にどこかで見た事のある紙を静かに置く。


エリカの時も使った、入団に必要な志願書だ。


だが、今回は全て真実が書かれている。エリカの時と違い、出身を偽る必要もなかったからだ。


エリカの志願書は年齢など全てジーンにとって不可抗力ではあるが偽りになってしまっているのだが、その事実をジーンは知らない。


「問題ないでしょう? バーバラの旧知の男のむすめ、彼女自身が騎士団への保護を求めている事、剣、彼女は刀だがその実力もお墨付き、こちらに不利益はないはずだが」


「そういう問題ではない。そもそも、何故当の本人がここにいない」


ヴァルトが眉間に皺を寄せると、ジーンが何とも言えない苦い顔をする。明らかに何か不都合があったのだろう。


「で、彼女はどこに?」


「ええとですね、ヒナは今、食堂で入団祝いをされているのです」


「……はぁ~」


ため息をついたヴァルトに罪はないだろう。入団を決めてもいないのに勝手に入団祝いなどされてしまっては後から「やっぱ無し」は出来ない。


「……故意にか?」


呆れた目でそう言うと、ジーンは慌てて弁明に走った。


「違いますって。この宿舎に入った時に運悪くダニーたちに見つかってしまい、事情を聞かれてそれに応えたらどういう訳かあいつら『それなら今から祝賀会だ!』と言ってヒナを連れていってしまった次第です。さすがにそれを終わらせてからここに来るのもなんだと思ってここにこうして来たのですが……」


「あんの馬鹿どもは……」


こればかりはジーンを責める事は出来ない。彼らの女性関係の話題に対する反応ははっきり言って異常だ。言い方が悪いかもしれないが、女に飢えていると言っても良いほどだ。


(そのくせ、ダニーに関しては彼女が出来たなんぞ一度も聞いたことがないな、そういえば)


ヴァルトは普段から団内の様子には気を回している。暇があれば食堂で騎士と言葉を交わすことも多いし、修練場に顔を出す時は手ごろな騎士を捕まえて指導している。だからそういう浮ついた話があれば確実にヴァルトの耳にも入る。


ただでさえ、城内という所は出会いに乏しい。同じ部隊内、騎士団内での結婚というのも別段珍しいものではない。確かシルヴィアも似たような状態だったはずだ。


(確かお相手はゲイリーだったか。シルヴィアも苦労するな……)


「はあ、分かった。このヒナとやらに関しては処理しておいてやる。今度ここに来るよう言っておいてくれ」

「分かりました」


引き出しから判子を取り出し、志願書に押すと「承認」の文字が押された。そしてその下にヴァルトは自分の名前を書き、これが正式に受理されたことをジーンに向けて見せた。


「それで、いろいろ問題があったそうだな」

「それはあたしからお話させてもらいます」


それまで完全に沈黙していたエリカがそこでようやく口を開いた。というより、何時からここにいたのか分からないくらい気配が無かった。ジーンの隣に立っているのだが、ジーンはエリカの存在に今初めて気が付いたようで驚きの表情を隠しきれていない。ヴァルトは正面から向き合っていたので最初から気が付いていたのだが、具体的にはジーンが入室してその扉が閉まる前に音もなく滑り込んできたのだ。


ヴァルトもジーンがてっきり知っているものだと思っていたので何も言わなかったが、本当に知らなかったようだ。


エリカは驚いているジーンに小声で謝った後、一歩踏み出して懐から一振りの剣を取り出した。


そしてそれを執務机に置くと、元の位置に出戻る。


ヴァルトは置かれた剣を慎重に手に取ると、その刃に拭っても拭いきれぬ血のりがまだ残っている事に気が付き、鋭い目でエリカとジーンを見る。


「これは……?」


「ヒナさんの父親、ムラミツさんを死に追いやった剣です。刃の付け根を」


エリカに言われて刃の付け根へと視線を移していくと、そこにある紋章を見てヴァルトは目を見開いた。


「まさかっ……」


「ブラゴシュワイク王家の紋章で間違いない。かの国は領土侵犯という外交問題に発展しかねない事をしてまでも、ムラミツさんを殺しにきた。目撃者として俺たちも殺されそうになったし、ムラミツさんはヒナさんを庇って死んでしまった」


「獣人狩りか……。まだやっておったのか、あの愚か共は」


「ヴァルトさん、ヒナさんが人狼であるという事は、既に団内には知れ渡っています。先ほどヒナさんの口から皆さんに伝えられましたから。ですが、臆することも、憎むこともなかったです。ヒナさんはこの騎士団の中が全世界にも及ぶことを望んでいます。どうか、ブラゴシュワイクに獣人狩りを止めるよう要請してくれませんか?」


エリカはここで引く気はなかった。自分たちは良い、別段恐れられて困った事はない。恐れて武器を手に飛び掛かってくるのならそれを振り払うだけなのだから。


だが、ヒナたちは違う。


今、獣人は表社会から逃れるようにして暮らしている。そんなもの、社会が許してもエリカは許す気などない。そしてジーンも同じ思いだ。


「王家を相手取るのは大変だぞ? いくら相手がドラゴンスレイヤーだとしてもだ。しかもその相手がブラゴシュワイクともなれば、さらに事は複雑になる。獣人を見下す、それは彼らの根幹にあるようなものだ。それを止めろと言うのなら、ドラゴンの相手をする方が幾分マシなくらいだ。だが――――――」


そこでヴァルトはエリカの持ってきた剣を持ち上げてエリカたちに見せた。


「物的証拠があるのなら話は別だ。感情云々はともかくとして国際的に禁止されている行為を行っていたのだ、今度の大会の時にこの事を先方に話し、反応を窺ってみよう。反応次第で公式に抗議するか決定する」


「初めから公式に抗議は出来ないのですか?」


エリカの意見はもっともだ。先に相手に教えれば、言い訳を用意されてしまうかもしれない。言い訳じゃなくても、事実を握りつぶすような暴挙に出ないとも限らない。


「相手によるだろうな。幸いといおうか、ブラゴシュワイクでは穏健派で通っているブラゴシュワイク第一王子が大会を見にいらっしゃる。彼に直接言えば話は別だろう」


「なら、そうしてくれ」


「おいおい、冗談はやめてくれ」


ジーンがそういう事で話を進めるよう頼むと、ヴァルトが苦笑混じりにそう言った。


「俺みたいな一介の騎士団長が一国の王子に会えると思うか? さすがに防犯上からもそれは出来ない相談だ」

「ではどうしろと?」


「そこで良い手がある。わが国からは国賓として姫様が大会を観覧に行かれる」

「つまり姫様にご協力いただく、と?」


ヴァルトがニンマリと頷く。


「詳しい話はエリカから姫様にしてもらうのが一番いいだろうな。ともなれば、王子に直談判するのもエリカだな」


「へ、あたしですか?」


さすがに、そうなる事は想定していなかったエリカが間抜けな声を上げながら自分を指差す。


そしてすぐに何故そういう流れになったのか理解して「しまった」という表情をした。それを見てヴァルトが満足そうに笑みを浮かべる。


「そういう事だ。この中で一番姫様と話しやすいのはエリカだろう。私も仕事上姫様に付き添う事はあるが、こういうのは歳の近いエリカが言った方が姫様も聞きやすいだろう。私が行くとどうしてもリラックスできそうにないからな」


この顔でリラックスしろと言うのも無茶だな、と豪快に笑いながら言うヴァルトに、曖昧な同意しかできなかったが、言われてみればそれが一番いいのかもしれない。


「……分かりました。何とかしてみせます」


その答えを聞いてヴァルトが小さく頷き、ジーンは全面的に協力するという表情をしている。


話しはそれで終わり、エリカとジーンは部屋を出るとドンチャン騒ぎの聞こえてくる食堂へと向かう事にした。


食堂でヒナが酔い潰されているのを見て、ジーンと共にジャックを鉄拳制裁したのはまた別のお話だ。


ちなみに久々に会ったゲイリーとダニーによって戻ってきたエリカは食事に誘われたが、それはフィアによって壁に叩き付けられるという形で拒否されることになった。さすがにヒナの次はエリカという感じにしか感じられなかったエリカは、2人に同情することなく、他の騎士団員と1週間ぶりの再会を喜んだ。















「なかなか、楽しい事になってるじゃない?」


「相変わらず馬鹿騒ぎが好きな人達ですね」


城の地下まで聞こえてくる、騎士団の騒ぎ。


飲食禁止と書かれた紙の目の前で酒を口に流し込むバーバラは、本を整理しているクライムにそう語りかけた。クライムも別段バーバラを咎める気はないらしく、一通り片付けるとバーバラの前の席に腰を下ろした。


「人狼、だそうですね」

「まあね。正直私と何が違うのか分からないくらいだけれど」


バーバラの足元にはアレックスがいる。帰ってきてすぐにアレックスはエリカに別れを言ってバーバラの元に戻ってきた。別れ際に思い切り抱き付かれたが、もう今さら驚くような事でもない。


「いよいよ、騎士団はなんでもありの所になってきた気がするのですが?」

「否定はしないわ。そもそも吸血鬼がいる事自体、お隣からしてみれば信じられない事でしょうし。ただ、気になるのは……」


「ブラゴシュワイク王家直属の暗殺機関、ですね?」


バーバラの言葉を先読みしてクライムがそう言うと、バーバラが小さく頷く。


「私は旧友を助ける事が出来なかった。あの時、私があいつらを皆殺しにしておけば、何の問題も起こらなかった……」


「過ぎた事を悔やんでも始まりませんよ」


クライムの言葉に小さく頷きつつも、やはり心に思うところがあるのだろう、バーバラはグラスに入っていた酒を一気に飲み干すと、グラスを机に置く。


「奴らの正体は? 目的は? あなたなら知っているでしょう?」


本当の事以外、聞きたくないという目でバーバラはクライムを見つめる。クライムも隠し立てする気はないのか、指を軽く振ってびっしり積まれた本の中から一冊の本を取り出すと、それを広げて中身を読み始める。


「彼らはミスニックと呼ばれる非公式機関です。任務は破壊工作、誘拐、暗殺、なんでもござれの特殊部隊。獣人狩りは彼らの一任務にすぎません。知っての通り、最高指揮官は国王、他のいかなる権力からも独立しており、その存在自体表立った事は今までありません。規模、本拠地、構成などは一切不明、唯一分かっているのは『狙った獲物は逃さない』という事だけ。……厄介な者たちを敵に回しましたね」


「随分と詳しいわね」


真剣な表情のまま、バーバラはクライムの目をまっすぐに見つめる。だが、笑みの中に隠されたクライムの真意は読み取れない。


「私は少しばかり・・・・・裏の事情を知っているにすぎません。伊達に元暗殺機関はやってませんから」

「それが今じゃ司書なんだから、世の中どうなるか分からないものね」


クライムは不敵な笑みを崩さない。


バーバラとて、何の手がかりなしにクライムに聞きに来たわけではない。クライムがその手のプロだという事を知ったうえで来たのだ。クライムが元暗殺者だという事を知っている人間はこの城において片手の指で事足りる。


この国で獣人狩りが禁止になったのは決して遠い昔の事ではないのは皆が知っている。それが意味するのは、ほんの一昔前までこのアールドールン王国にもブラゴシュワイクの暗殺機関と似たような機関があったという事だ。


現在の国王、アーサー王になってからそういういわば汚い政治はかなり浄化され、暗殺機関も今ではただの諜報機関という事になっている。少なくともアーサー王の名のもとに暗殺は行われていない、はずだ。


「あなたも人が悪い、知っていて来たのは分かっています。私があなたの求める情報を持っている事を。あなたが聞きたいのは、これだけではないのでしょう?」


クライムがそう聞くと、バーバラは口元を歪めて顔をクライムに近づける。机から身を乗り出す形となり、バーバラは自らの豊満な身体をクライムに見せつけるかのようにくねらせる。これでわざとやっていないというのだから、まったくもってたちが悪い。


「ふふ、話しが早くて助かるわ、クライム。私が知りたいのは、次に何時、どこで、何が目的で彼らが動くか、という事よ。私はムラミツの屋敷近くの森で18人の男を始末した。そして7人がムラミツ、エリカ、ジーンとの戦闘で死亡。だけどね、私が最初に全員殺そうとした時、あいつらは確かに26人いたのよ」


最初から全員殺すつもりだったのだ。全部で何人いるのか最初に確認するのは当然の事、エリカたちに全てを任せたことによって、彼女たちが城に戻ってから全てを聞いたバーバラは、勘定が合わない事を不審に思い、生き残りが本国へ逃げ帰った可能性にたどり着いた。


「……それで、私の出番ですか」

「そうよ、あなたの広い情報の網であいつらを見つけ出しなさい。たまにはこの薄暗い部屋から日の当たる場所に出るのも良いわよ?」


「お生憎、ここにいても外の情報は入ってくるのですよ」

「嫌味しか言えないの、その口は?」


バーバラが凄みのある顔でクライムに迫るが、クライムは少しも臆する気配を見せない。だが、一度小さく息を吐くと開いていた本を閉じ、席を立った。


「分かりました。出来る限りの事はしましょう。明日までに情報をまとめてあなたの部屋に送っておきます」

「早いわね、何か理由があるのかしら?」

「おや、まだ知らされてないのですか?」


バーバラの言葉にクライムがニヤリとする。


「あなた方は明後日エオリアブルグへ向けて出発するのですよ。今回から試験的に運用されることになった転移魔法を使用して」

「転移魔法? 荷物とかを動かすあれで人を運ぶの?」

「まさか、そんなチャチな魔法じゃありませんよ。さすがは魔法大国エオリアブルグ、とでも言いましょうか、一度に100人単位で長距離転移が可能な魔法陣を構築したそうです。すでに我が国の魔法陣も構築が完了しているんですよ。これが公式に運用されるようになれば、各国の交流はさらに活性化するだろうと、息巻いていますよ」


クライムの説明にあまり関心なさげに返事をするが、とりあえず目先の疑問は解決した。


「下手をすると、エオリアブルグで事を起こす可能性すらある、という事ね?」


クライムは返事をせず、ただ小さく頷いた。この時ばかりは、クライムも笑みを消していたようにバーバラは思えた。





どうもどうも、何やらついに敵の影が濃くなってきた龍旅ですねぇ。


そういう話題が出ると完結が近いのか、と思うのですが、どっこい、終わりは見えてもその過程が見えないww


この小説始めた頃と言ってることが全く同じですね。はい、自分でも馬鹿らしいです。


ま、それがこの私、四流小説家クオリティってやつです。このまま変える気もないですからどうでもいいですよね。


それはともかくとして、ついこの間から誤字脱字の報告が結構来るようになりました。それも最新版ではなく結構昔の奴にね。


有り難い限りなのですが、間違ったまま皆様の目に晒していたかと思うと恥ずかしいったらありゃしない……。


ですので、これからも間違いがありましたら教えていただけるとありがたいです。変換ミスがかなりあったようなので、チマチマ直しております。


ではでは、ご感想などお待ちしております。







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