第44話 久々の出番とか言わない!
……まあ、そういう事です。
私の夏休みが本日終了するのでやりたいことを終わらせようと思って必死にキーボードを叩いた結果、またまた2日連続の投稿が出来ました。
それはそうと、設定ミスの報告が来たのでそれに関するお知らせ。
35話にてムラミツの年齢を87歳と設定したにも関わらずそのことを忘れて42話にて65歳と書いておりました。速攻で修正させてもらいました。
年齢なんて覚えてられっかーいっ!(オイッ!!
……しっかりとした設定を作らなかったばかりに話が進むにつれて設定が変わるなんて、馬鹿ですね、阿呆ですね。
漫画の第1巻と30巻で絵柄が全然違うのとはワケが違います。
今後ともこんな馬鹿な間違いがありましたらご報告ください。
今回に関しては、そんな所まで読み込んでくださっていた読者様に感謝しております。イヤ、年齢見て「うん?」ってなれるなんてどんな観察眼ですか……。35話から42話だからいっぺんに読んでれば話は別でしょうが、よく気が付いてくれましたよ……。
そして、その報告を見て気が付いたこと。
…
……
ヒナって今何歳だっけ?
やっちまったああああああああっ!!!
何の気なしにムラミツを87歳になんてするんじゃなかったああああ!!!
作者の脳内ではヒナは二十代前半(あえてプライバシーを鑑み具体的には言いません)という設定だったのですが、それなら生んだのムラミツが60代後半の時!?
どんだけ無茶な設定してるんだ、私は!
ていうかムラミツさん、どんだけ!?
はあ、即興のせいですね。
私が悪いんです。
と言う訳で、今後はもうチョイ気を付けるように気を付けます(アレ? 日本語がおかしいぞ?)
ではでは、本編どうぞぉ~
――――――ウオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォ――――――…………
「な、なんですか!?」
部屋でぼんやりと刀の完成を待っていると、突然狼の遠吠えのようなものが聞こえてきた。ここの近くに野性の狼がいるとは聞いていないし、アレックスはエリカのすぐそばにいる。
ともなれば遠吠えを叫ぶことに心当たりがあるとすれば、2人しかいない。
「エリカ、何かあったのかもしれん。見に行こう」
「ええ、ジーンさん。フィアさん、ジャックさん……は無理ですね」
フィアが立ちあがり、それを見てジャックの方に目を向けたエリカは呆れたような口調になってしまった。昼寝をすると言って横になっていたジャックは大きないびきをかきながら爆睡している。フィアがだらしないと言って何度か蹴ったが、一向に起きる気配が無い。こんな危機管理能力でよく生きていられるものだ。
「仕方ないですね、フィアさんはここに残ってジャックさんを叩き起こしてください。あたしとジーンさんは工房へ向かう事にします」
「分かったわ。2人に一体何が……、心当たりがあるってのも嫌ね」
「おそらく、例の暗殺機関とかいう奴らだろう。エリカ、敵は殺す気で来る。エリカにそいつらを殺すだけの覚悟はあるか?」
それは、1人の少女としてエリカを心配してかけられた言葉だろう。
ジーンと言えども人を殺したことはないだろうが、それでもエリカを心配してくれているのだ。エリカはジーンに向き合って小さく頷くと、少し笑みを見せてジーンに手に持つ刀、黒羽を持ち上げてみせた。
「仲間を殺そうとする者はたとえ誰であろうとも許しません。それは、ジーンさんも同じでしょう?」
それを聞くとジーンは少し驚いたような表情をしたが、すぐに苦笑して頷いた。
エリカは黒羽を、ジーンは白い大剣をいつでも抜ける状態にして走り出した。工房がある所は母屋から少し離れているが、走れば数分とかからない。ジーンは行った事はないが、エリカは一度行っている。迷う理由もなくエリカとジーンは一心不乱に足を動かし続ける。
「エリカ、あれはどっちだと思う?」
工房へと走りながら、ジーンはエリカが出来れば聞かれたくなかった事を聞いてきた。
「……どちらでもあって欲しくはない、というのが本音ですが、おそらくムラミツさんかと」
「くそ、そこまでして獣人を殺したいのか……」
珍しくジーンが悪態をついている。
だが、エリカも同じ気持ちだった。なぜそこまで獣人を憎むのか、エリカには理解できなかった。同じ人間でもアールドールン、強いてはエリカの周りの人とは大違いだ。
「……怖いんですよ」
「え?」
ポツリと、エリカは小さな声で呟いた。走っているため、腹に力が入って自然とそれなりに大きな声にはなっているが、それでも隣を走るジーンが聞きなおすほどの音量だった。
ジーンが聞きなおそうとエリカの方に一瞬顔を向けると、エリカは複雑な表情をしていた。
「自分とほんの少しだけ違うという理由で、人は他の人を怖れるんですよ。でも、人はそれを他人に知られたくないし、それを自分でも見たくない。だから、自分たちとは違う存在を『悪』とすることで、恐れる自分を正当化するんです。明確な『悪』あれば、人は誰でも自分は『善』だと思う事が出来る。時に、双方が『善』であろうと……」
「エリカ……」
ジーンが本当に不思議そうな顔をしているのが視界の端に映っている。
それもそうだろう。ジーンからしてみれば自分よりも年下の少女がまるでそれを見てきたかのような表情で、言葉で、そう言うのだからこれほど驚くことはないだろう。
だが、あえてエリカもそれに対して言い訳をしようとは思わない。少なくとも今言った事は自ら経験したことだ。
獣人という『悪』、吸血鬼という『悪』、龍という『悪』がある事でヒトは自分は正しいと思いたいのだ。それをエリカはもはや人からしてみれば大昔に痛いほど知ったのだ。
彼らが一体何をしたというのか。
確かに、ごく一部の者は人に害を与えるかもしれない。だが、それだけでその種族を全て同じように見てもらっては困る。それ以前に獣人なんていう呼び名も人が付けたもの、彼らは決して人外などではない。
龍はそもそもヒトとほとんど交流を持たない。
そして全く無意味に、自己満足にヒトを襲う龍はいない。理由もなく龍がヒトを襲う事はない、つまり龍がヒトを襲うのには全て理由があるのだ。かつてのエリカのように。
仲間をヒトに殺された。
龍の領域を大きくヒトに侵犯された。
理由はそれくらいだ。
だが、彼らはそれを理解しない。
野蛮な化け物が畏れ多くも人を襲って人を丸呑みにした。そんな感じに受け取られているのだろう。
だから、獣人が、吸血鬼が迫害されるのを見るのは心が痛い。
同じヒトにすらそういう扱いをする人が許せない。
怒りを超えて殺意を覚える。バーバラ、いや当時はカトレヤだが、彼女の時は我慢が出来なかった。
しかし、あの時は力があった。
圧倒的な、人を屈服させ得るだけの力が。
それが今はない。腕っ節と黒鱗だけである程度は戦えるが、それはあくまで一対一の時の話だ。暗殺機関などと称するからには複数人だと考えるのが妥当だ。以前なら人が10人いようが100人いようが問題ではなかったが、今は人の身体、一方的に空から攻撃などできない。どうしても死角というものができてしまう。
それが不安だった。
いかに黒鱗の保護があろうとも、急所は守れない。特に首から上に関しては出せば生き残れるだろうが全てばれてしまう。
たとえこの場を切り抜ける事が出来たとしても、その後はエリカ自身も付け狙われる事は火を見るより明らかだ。
だがそれを恐れる気はない。
死角に逃れられたがゆえに仲間を失うのが怖かった。今のエリカは万能ではない。ヒトの身になって初めて明確な「敵」に出会い、仲間を失う事が怖いのだろう。
「エリカ、背中は守る。前だけ見て行け」
そんなエリカの心境を知ったかのような一言をジーンが呟いた。
(そうだ、仲間を失うのが怖ければ、共に助け合えばいい)
エリカはジーンに視線を向けて小さく頷く。
工房まではそう遠くない。エリカは刀の柄に手をかけていつでも抜けるように構える。
「もう少しで……っ!」
曲がり角を曲がろうとした時、突如目の前に影が現れた。
とっさに出した足で地面を踏み込んで急制動をかけると刀を抜いて斬りかかれる用意をするが、それをジーンに制される。
「ヒナさん!」
飛び出してきたのはヒナだった。
息を荒げ、涙目になりながら手にはしっかりと刀を持っているヒナがそこにいた。膝に片手をついて大きく息を乱していたヒナは顔を上げてエリカとジーンに顔を向けると掴みかかる勢いでエリカに迫ってきた。
「父様を、父様を助けて!」
それを聞いて、エリカの予想が全て的中してしまったことを知ってしまった。エリカは内心で小さく舌打ちするとヒナの肩に優しく手を置いてヒナの目を真っ直ぐに見つめる。
「あたしたちが助けに行きます。あなたは母屋に戻って下さい」
「わ、私も行きます! 私だって刀姫一刀流の使い手、戦えます!」
明らかに気が動転している。震える手でヒナは自分の手に持つ刀をエリカに見せる。
「ヒナさん、人を斬った事、ありますか?」
「え……? ない、けど」
「人を初めて殺そうとするなら人は必ず躊躇します。その躊躇が、殺し合いでは命取りになるんです。あたしたちだって人は殺したことないですけど、必要とあれば殺すのが、あたしたちなんです」
殺し合い、という言葉にヒナの肩がビクッとなったのを感じた。
そして、エリカは嘘をついた。
人を殺したことなど、数えきれないほどある。初めて人を殺すのを覚悟して躊躇しないのではなく、エリカの場合、もう慣れてしまったのだ。
「敵は何人ですか? 武器は?」
顔を俯けたままのヒナにエリカは静かに尋ねる。
「……5人、普通の剣よりは短かったと思います。走りながら工房に入っていく男たちを見ただけだから、もう少し多いかもしれません……」
「それだけ分かれば十分です。ヒナさん、工房には近づかないでください。後から来るフィアさんたちにも説明頼みます。行きますよ、ジーンさん」
「おう」
ヒナは地面に力なくへたり込んでしまう。それでも、ヒナは何とか顔を上げて持っていた刀をエリカの前にかざす。
「私と父様の、最高傑作です。これで、父様を助けて下さい!」
後半は、もはや叫びに近かった。
息も絶え絶えにそう言うヒナはムラミツを失う不安で一杯であった。
エリカはかざされた刀を受け取り、小さく頷く。
「全力を尽くします。だからヒナさん、あなたも負けないでください」
それだけ言い残すと、エリカはジーンと共に工房へと駆け出した。
黒装束の男は、正確には7人だった。
だが、最初の1人は突入と共にノックアウトされ、もう1人は一番最初に工房に突入したがために、ヒナは見落としてしまったようだ。
「こ、この化け物め!!」
工房の外、建物の壁には人一人が十分に通れるだけの大穴が開いていて、もはや人の形をした狼となったムラミツを囲んで6人の男が恐怖していた。
さすがはその手のプロ、隙を突かれて噛み殺されるような者はいないが、最後の一歩が踏み込めず、一進一退が続いていることも事実だ。
どうも工房にはもう1人何者かがいたらしく、助けを呼びにものと思われる。男たちには一刻の猶予もない。彼らとて、人は殺したくないと考えている。
だが、目の前の人狼はそう簡単に殺されてくれるような男ではなかった。
荒い息をし、鋭い牙の間から涎を流しているその姿はまさに狼。獲物を狙う目で男たちの動きを抜け目なく見渡している。
(なんて男だ。6人がかりで一太刀も浴びせられないとは……)
彼らにとって今まで戦ったこともないタイプの相手だった。大抵の獣人は逃れるように距離を取るのだが、ムラミツは違う。距離を詰めてここにいる人間を皆殺しにしてから逃げるつもりなのだ。人狼自体が持つ高い先頭能力と殺人衝動、そして刀姫一刀流の使い手、刀こそなくともその実力は侮る事は到底できない。
男はムラミツを取り囲む仲間に一瞬視線を飛ばし、ジリジリとムラミツに攻撃を加えるタイミングを見極める。
「グルゥ……」
もはや、人語は話していない。だが、明確な殺意は痛いほど伝わってくる。
「グルアアアアアッ!!!」
「しまっ……!」
先手を取られた。
黒装束の男の1人に飛び掛かったムラミツは自らに振られた剣を素手で弾き飛ばすと男の喉笛に思い切り噛みついた。一瞬男の口から悲鳴が漏れようとしたが、すぐに血が口の中を塞いでくぐもった呻き声しか漏れなくなり、じたばたと抵抗する男の手足もすぐにダラリと力なく垂れ下がる。
仲間が殺された事で事態は一気に動いた。
喉笛を噛みつかれた時点で残りの男たちがムラミツの背中に向かって斬りかかった。ムラミツは咥えていた男の死体を飛び掛かる男の1人目掛けて投げ飛ばすと男たちの攻撃をすり抜けるように回避すると男たちの背後へ潜り抜ける。
「速すぎる、このままじゃ……」
男の1人が死体を見てたじろぐ。工房の中の仲間と合わせて2人を一方的に殺されたのだ。工房の中には椅子の足に頭を貫かれた状態の男が転がっているのを、彼らは飛び込んだ時に見ている。
「拘束して、そこを叩くぞ。全員拘束術式展開、四方捕縛用意」
動揺している仲間の前で弱音は吐けない。むしろ彼らを勇気づけるのが隊長である男の役割だった。冷静に事態を見極め、敵が自由に動けるままでは一向に事態が好転することはないと遅まきながらに気が付いた男は仲間に指示して再びムラミツを取り囲む。
「隊長、これは本来10人単位でやる捕縛魔法です。4人ではどうなるか……」
「一瞬動きが止められればそれでいい。手練れ同士の戦いではその一瞬が生死を分ける」
4人で数秒も止められるものではない事は隊長である彼が一番良く分かっている。だから、捕縛とほぼ同時に斬りかかるつもりだ。
狼と化したムラミツは、男たちが何かをしようとしていることに敏感に気が付くと警戒心を露わにして遠吠えのような叫びを上げている。
「展開」
バリッ!
電気が発生したような音と共にムラミツを取り囲む4人を繋ぐ光の帯が現れる。丁度4人の男を頂点とする四角形を作り出すと、帯は男たちを離れて内側、ムラミツへと向かって小さくなっていく。完全に拘束するにはムラミツにこの帯が巻きつかなければならない。
だが、それを素直に受け入れてくれるものとは最初から思っていない。距離があっても、ムラミツからしてみれば少し身体が重くなるくらいの影響はある。そして何より、回避する方向を絞る事が出来る。
ムラミツは拘束から逃れるために強靭な足を使って大きく飛び上がると拘束から脱出する。
しかし、その頭上に影が現れた時、ムラミツは内心できっと舌打ちをしただろう。
隊長である男がムラミツよりも高く飛び上がり真上から襲い掛かってきたのだ。空中で回避などできない。ムラミツは男の攻撃を防御するために腕を振って男の剣を叩き落とそうとする。
「甘いわあああああっ!!」
これくらい見切れなくては隊長の名が廃る。
振り回される腕には目もくれず男はムラミツの胴を狙って剣を突き出す。瞬時にムラミツが剣を打ち払うのが無理だと判断して腕を胴の前に回し、剣を受け止めるが剣は落下の勢いと男の体重を受けて易々とムラミツの毛むくじゃらの手の平を貫通して手の甲へと抜け、さらにムラミツの胸へと迫る。
「やったっ……なにぃ!?」
取った、と思って口元を歪ませた男の顔が驚愕に変わる。
手を貫かれたムラミツはそれを抜こうとも思わず、無事な方の手で男の肩を掴むと思い切り振りまわした。空中、もはや地面まで数メートルもない距離でそれをされたのだから、目も当てられない。男は地面に叩き付けられ、ムラミツは男の手から力が抜けたのを見計らって手に剣が突き刺さったままの状態で距離を取り、少し離れた所で剣を手から引き抜くと投げ捨てた。
「隊長!」
「大丈夫だ、くそっ、本当に化け物だな」
「そこまでだ!」
不意に、若い声が男とムラミツの耳に飛び込んできた。
見れば工房から母屋の方へと続く細い道に若い男女が立っている。男、いや青年は白い大剣を構え、少女は二振りの刀を手に男たちを睨み付けている。
エリカとジーンが、息を荒げながらもムラミツと男たちの間に割って入ると、お互いの背中を守る様に剣と刀を構える。ジーンは男たちに向けて、エリカはムラミツに向けて己の得物を構えている。
「ただの一般人ではなかったか……」
その様子から、男は仲間の手を借りながら立ち上がると小さく舌打ちをした。
「エリカはムラミツさんを止めてくれ。俺はこいつらをやる」
背中を合わせてお互いの死角を消し、ジーンは小さく呟いた。
ムラミツがすでに自我を失いかけているのは一目見れば分かった。わずかにでも人の意識が残っている事を祈りつつ、エリカはジーンに向かって頷く。
「1人も抜かれないでくださいね」
「伊達にデカい剣を振り回している訳じゃない。そっちは任せる」
そして、2人は全く逆の方向へ共に走り出した。
中身シリアスなのにタイトルふざけてるなんて言わないで!
本当にそろそろ話を進めないとタイトル考えるの苦しいんです!
次話投稿のところに入って投稿するまでの時間の半分くらいをタイトル決めに費やしてますからね!
いや、書いてるときは「龍旅〇〇」って感じでタイトル考えてないんですよ。かき始めてから話作りますから(笑)え? ダメ?
まあ、ジーンに出番が少なかったのは事実ですし、もう少しいい待遇をさせてあげないとボイコットされかねませんし……。
某剣道少女マンガじゃありませんが、どうも私は女性は結構大切に、ちょこちょこ出番をあげてるんですが、男共はヴァルトとか王様を除いて扱い酷い気がしますしね。
ジャックは存在自体がネタなので無問題なのですが、他の人たちは……アレ、もともとこの作品男少ないかも……。
ハッ(嘲笑)!
逆ハーなんて期待するんじゃありませんよ!
と、話が逸れました。
そんなわけで男共のカッコいい出番をもう少し増やしてあげないとなぁ、などと考える今日この頃です。
でわでわ、
この作品を読んでくれている読者様方に無類の感謝をお送りして、今日はこの辺で。
そして男共に幸多からんことを。
ご感想などお待ちしております。