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第36話 夜中は音が響くので大きな物音は控えよう



何とか、書けた……。


いや、番外編書いていたらこっちがおろそかになってしまいまして……。


ゆっくりゆっくり、焦らない焦らない……なんて出来るわけがない不器用なハモニカはどうしても全部やりたくて仕方がない、という厄介な性格でしてね。


まあ、そんなことはどうでもいいですよね。


ではどうぞ



「はぁ、良いお湯だった……」


火照った身体を冷ますためにフィアの作り出す風に当たりながらエリカはため息を漏らす。


「私の魔法はこういう事のためにあるんじゃないんだけどなぁ。だけどまさかこんな使い方をするとは思いもしなかったわ」


緩やかな、清々しい風を浴びてエリカは気持ちよさそうな笑みを浮かべる。その笑顔につられてフィアもつい笑ってしまう。


「さて、何か食べてささっと寝ましょう? 明日も早いわよ」

「合点了解です。ですが、まだ少し寝るには早いような……」


まだ7時を少し回ったくらいだ。夕飯を食べ終わってもさすがに寝るには少々早すぎる。


そう考えると、フィアは少し思考を巡らせて、良い事を思いついたように人差し指を立てた。


「なら、簡単に魔法の使い方を教えるわ。夜だし、あまり大きな事は出来ないけど、手の平サイズなら問題ないでしょ」

「本当ですか? それじゃよろしくお願いします」


服を来てタオルを首からかけて立ち上がると、フィアとエリカは部屋に戻る事にした。エリカの髪は乾かすのに時間がかかるため、部屋に帰るまでの間、ずっとタオルで水気を取っていた。部屋に帰ってフィアにしっかりと乾かしてもらうためだ。


部屋に戻る前に、フィアは隣の部屋にいる2人に声をかけに行った。エリカの魔法の練習をする、ということと、明日の予定についての打ち合わせをするためだ。


その間、エリカは部屋でアレックスをモフモフすることで時間を潰していた。


<エリカ殿、魔法の練習をするのか?>

「まあね。同じ過ちを繰り返したくないのは、ジーンさんだけじゃありません。それに、あたし自身魔法はしっかりと使えるようになりたいですから」


病院と違って、ここではベッドの上でアレックスを抱いていても文句を言う人はいない。少し恍惚とした表情のエリカはアレックスの問いにそう答えた。


抱き付かれている為、アレックスは身動きが取れない。すでに脱出は諦めてなされるがままになっているが、隙あらば逃げ出そうと画策している。精神的にもこの状況が長く続くのは辛い。


アレックスがヒトの言葉を理解し、ヒトのような感情を持っていることを知っているのは、エリカとバーバラぐらいだ。だから、ほとんどの人間にアレックスの苦労は気づかない。むしろ、彼の待遇を羨ましがるところだろう。


だが、当の本人からしてみれば、代われるものなら代わってもらいたいくらいだ。


<とりあえず、この宿屋を吹き飛ばさないようにな>

「うっ、気を付けます……」


だから、余計な事を考えないように話題を必死に探している。


表面的には冷静を装っているが、内心滅茶苦茶心臓がバクバクしている状態なのだ。


<ご主人だって、ここまではなかった……>


小さくため息をつくが、エリカは気づかない。


そんな事をやっていたところで、部屋の扉が開いてフィアが戻ってきた。アレックスはこれ幸いとエリカの拘束から逃げ出して扉の近くで腰を下ろした。


アレックスは非常に器用だ。丸いドアノブでも簡単に回せる。おそらくそこに座ったのは何かあった時にすぐ逃げ出せるようにしているからだろう。


「ごめんなさい、待たせたかしら?」

「無問題です。アレックスと遊んでましたから。夕飯、どうします?」

「持ってきたものを適当にお腹に入れておきましょうか。こういう場所って外で食べるか持参するしかないから」


そう言うとフィアは荷物の中から出発前に詰め込んだ保存食を幾つか取り出した。エリカはそのうちの1つを出発前に味見したが、お世辞にも味の良いものではなかった。


病院食とどちらが良い、と聞かれたら返答に困るところだが、1日に必要な栄養源を全て取れる、と食堂のコックに推されては食べないわけにはいかなかった。いつも極上の食事を提供してくれている食堂のコックたちが長旅をする騎士たちの事を考えて考案した保存食、エリカとしても長期的に見て今後の改善を促したいところだ。


エリカは、すでにコックたちにとってこれ以上にないオブザーバーのような立ち位置に立っている。それは食堂での新作に対する評価だけでなく、こういった保存食にも及んでいる。


今回は実際に持ち運びして、その携帯性、保持できる期間などを調べる事になっている。もちろん、公式なものではなく、あくまでコックたちとエリカの独断とも言える。


どの程度味を保持できるのか、に関しては段階を踏む必要があり、短期的、中期的、長期的、どれに最もこの保存食が合っているかを見極める必要がある。いきなり長期保存して、開けてびっくり、なんて事態を避けるためにも、まずは数日程度の保存を調べるのだ。


これに関してはかなり予定が固まっているらしく、もし上手くいけば1か月後に迫る大会への道中での保存食にも採用される予定だそうだ。


つまり、エリカにとってこれは重要な事なのだ。自分が食べるものなのだから、真剣になるのも当たり前、全力を尽くして改善点を見つけ出す、とコックたちに約束しているのだ。


おかげでコックからの信頼はうなぎ上り、食堂のコックたちにとってエリカは女神に等しいのかもしれない。


「あら、見慣れない物ね」

「新作だそうです。これから改善点を見つけて改良を加え、美味しい保存食を作るそうです」

「……エリカちゃんって、結構知り合いの幅狭いかと思ったけど、食堂の人たちとは仲良いって噂だもんね」

「噂じゃなくて事実です。あれほどの料理を作る彼らは、尊敬に値するのです」


満面の笑みでエリカはそう言うと、包まれていた保存食なる物体を見る。


見た目は、少し焦げ目がついたおにぎり、と言ったところだ。もちろん、米で出来ているわけではないのだが。


手の平サイズのそれが2つに分けられて収められており、それを手に取るとまずは見た目をじっくりと観察する。


「……悪くないですね、運んでみてどうでした?」

「私たち、実験体モルモットだったの? ……はあ、そうね、気になるほどの重さじゃなかったわね。数も持てるし、やっぱり問題は――――――」


「「味ですね(よね)」」


ミリテル、と言うらしい。


正式な名称はまだ考えられていないそうだが、開発段階でこの保存食はそう呼ばれている。手の平サイズのミリテルを持つと、エリカはそれを口に入れてみる。


見た目とは裏腹に、ミリテルの触感は柔らかかった。少しモチモチとした食感で、口の中で咀嚼すると喉の奥へと送る。


「う~ん……、やっぱり味が単調ですね……」

「男どもなら気にしないだろうけどねぇ。グルメなエリカちゃんは許せないのかしら?」

「1日や2日なら大丈夫でしょうけど、やっぱり飽きると困るでしょうから……」


まだ、エリカは字が書けるほどヒトの文字を理解は出来ていない。そのため、後々説明するために出来るだけ頭の中で問題点を簡略化しておく必要がある。


「なら、『何とか味』、みたいに味の違うものを作って持ち運べば? 1個の量は多くないけど、モチモチしてる分長い時間噛んでいられるから少ない量でも満腹感を得られるんじゃないかしら。それなら同じ量でも味の違うものを入れておくのも良いかもしれないわね。栄養が少し減っても、問題ないんじゃない? 大切なのはメンタルであるし……」


「よ、予想外に具体的な説明、ありがとうございます」


フィアの言葉に呆気を取られつつも、エリカはフィアの言葉を自分の考えと比較し、考察する。


「味に関しては、まだまだ改善の必要があるようですね。バリエーションを増やして、と。とりあえずこれくらいですね。日持ちに関しては今すぐ分かるものでもないですし」


考えながら食べるのはあまり行儀が良い事でもないし、と呟き、エリカはミリテルの欠片を口に放り込む。


「アレックスの分もありますよ」


アレックスの近くに寄ると顔の前の床に置く。もちろん、床の汚れが付かないように包んでいた薄い紙を下に広げておく。


エリカはフィアの隣に戻って水を飲むと、残っていたミリテルを口に押し込んで早々に食事を切り上げる。エリカにとって食事よりも重要な案件があるのだから、気持ちがはやるのも当然といえば当然だろう。


「ちょ、エリカ、喉に詰まらせても知らないわよ?」

「んんーーーっ? んーんーんーーっ!」

「ごめん、分からないわ」


モチモチとしているだけに、飲みこむには存外時間がかかる。エリカは何とか飲みこもうと顔だけ四苦八苦させてミリテルを噛み続ける。


「んぐっ……、はあ、御馳走様でした」

「早いわねぇ。もう少し落ち着いて食べればいいのに……」


と言いつつも、あまり待たせるもの嫌なのかフィアも手際よくミリテルを頬張っていく。















「それじゃ、簡単な魔法の使い方から教えるわよ」

「お願いします」


特にこれと言った用意は必要ない。身1つで出来る事でもあるからだ。


ただ、念のため窓は閉めてカーテンをしておく。火災などと誤解されてはたまらない。


「とりあえず、あの1件からエリカちゃんは炎が出来る事は確認できたわ。だから最初は炎、特に火力の調整が出来るようにならないとね」


フィアはそう言うと自分の手の平を広げて小さな炎を手の平に灯した。


「推測ではあるけれど、あなたの魔力には調整弁のようなものがまだないのかもしれないわ。なら、それを作って魔力がまた過剰放出しないようにしないと……」


炎の大きさを変えながら、フィアはエリカにもやってみるよう促す。


「その、コツとか、無いんですか?」

「調整するのは集中力よ。炎や氷を発現させる魔法は主にイメージを具現化させるようなもの。つまり、手の平サイズの炎を頭の中で作り出そうと集中すれば、自然とそれに近いものが出来るはず、なのよ。普通はね。あなたはあの時何をイメージしたの?」

「えっ、えと、あの、そのぅ……」


言えない。


フィアの業火を想像したとは。


「と、とにかく自分が出来る最大限のイメージ、をしたと、思います?」

「だからね、嘘が下手なのよ、あなたは」


案の定と言おうか、嘘は簡単に見破られ、フィアはエリカの顔を見ながらため息をついた。


「ま、あんまり過去の事を根掘り葉掘りするのもなんだし、気にしないわ。あなたが見た魔法は、私とシルヴィアくらい……。あの様子だと、私の魔法を想像したんでしょ?」

「うう、すみません……」


まさしく言い当てられたエリカは少ししょぼんとして肩を落とす。


炎を操る魔法を見たのは、確かにフィアの魔法が初めてだった。もっと規模が大きく、破壊的な魔法を自分の父親の戦いぶりから見ていたが、あれは特殊、炎でも、氷でも、雷でも、風でもない、彼だけが使える魔法。


もとより、イクシオンは辺り一帯を焼き払うために魔法を使った。あんなものをコロシアムで使おうなどと考えるはずもなかった。


「もう、誰も巻き込まないために、上手く使えるようになりましょう?」

「も、もちろんです」


エリカは力強く頷くと、目の前でフィアが灯している炎を自分の手の上に作り出そうとイメージを固める。


魔力を魔法として具現化させる感覚は1回掴めば後はその感覚を辿ればいい。体内のどこにあるかも知れない魔力溜まりから魔力を手の平に流していく。


その瞬間、魔力が腕の中を大量に流れるような感覚に襲われ、鋭い痛みがエリカを襲った。


「っ! それ以上、行くんじゃ、ない!!」


あの時と同じだ。


だが、あの時とは違う。それがもたらす惨事を知っているし、押しとどめるという努力をするだけの余裕がある。


「エリカちゃん、魔力を逆流させては駄目。魔法を作り出す過程で魔力を放出するのよ。言ってる事は難しいかもしれないけど、手の平から全ての魔力を放出するんじゃなくて、腕から抜いていくのよ」

「は、はい……」


今まさに強引に押し込めようとしていたエリカはフィアの言葉を聞いて冷静に魔力を制御しようとする。手の平から魔力を放出しているのだから、腕から出すことも何とかやってみようとする。


パンパンに膨らんだ風船に小さな穴を幾つか開けて、ゆっくりと空気を抜いていく感覚だ。それによって手の平から放出される魔力の量が減り、結果、暴走は起こらない。


しばらくしてエリカの手の平に小さな炎が灯り、ユラユラと揺れる。


「どう? 大きさの調整はできそう?」

「やってみます……」


炎の大きさの調整、つまり放出される魔力の量を増やしたり減らしたりすることで調整するということだ。腕からの放出を少なくすればその分手の平に魔力が回って火力が大きくなる。逆に腕からの放出を増やせばその分火力は弱まる。


後はそれを意識しなくても、自然と出来るようになる必要がある。こればかりは練習に次ぐ練習しかない。


「炎はこんなものね。それじゃあ、他にも試してみましょうか」


フィアはそう言うと、炎を消して今度は反対側の手の平で水を作り出した。


「炎と違って、水には気体、液体、固体と形態が分かれるわ。最初は氷が一番いいわ。床をびしょ濡れにするわけにもいかないし」


フィアは水球を一瞬にして凍らせると、それを手に乗せる。


「冷たっ」

「何をやってるんですか……」


手の平で氷の塊を転がせるフィアに少しため息をつきながらも、同じことをしようと手を広げる。


(水、母上の魔法ですね……)


エリカの母親は水龍、水を操る、もしくはつかさどる龍だ。


(そういえば、母上の魔法を見たことが無いな……シルヴィアさんの氷の剣はすごかったな……)


水と氷を自在に操ってエリカを翻弄したあの技術は、かなりの鍛錬を必要とする。自分の親の魔法を使った事もない、いや、使えなかったエリカとしては、羨望に値する。


「炎の時とは逆に、辺りの空気を冷やす、というイメージが良いかもね。いきなり氷にはできないわ。一度液体という過程を通る必要があるわ」

「あれ? でも試合の時、シルヴィアさんいきなり足元に氷作ってませんでした?」


一度液体になる必要があるのなら、何らかの兆候があってもおかしくない。足元がひんやりするなどといった些細な事かもしれないが、そのくらい察知出来る。


「ああ、シルヴィアは多分地中の水を使ったのでしょうね。それならいちいち気体から始める必要もないわ。ついでに言えば、彼女の剣は常に凍っている状態を維持できるように魔力を馬鹿食いするのよ。だからいつも彼女が腰に下げているのは持ち手だけの剣だね」

「なるほど」


小さく頷きながら、自分の手の平でまずは水を作り出そうとする。


だが、いくら集中したところで手の平の少し上あたりで白い靄が浮かぶ程度。水になりそうな気配はない。


「う~ん、どうもあたしには水に関する素質が無いのでしょうか」

「そういう訳じゃないと思うんだけれど……。あと少しなんだけどねぇ。まあ、1日やそこらで出来るとは思わない事ね。誰でも得意不得意はあるものだし」


フィアは手の平で少し溶けて水になっていた氷の塊を炎で蒸発させる。瞬発的に大火力を作り出したようで生み出された炎は青白かった。


「まあ、今日はこんなもんでしょう。後は注意点ね。魔力は無限じゃないわ、知ってると思うけど。なくなれば体力を使い切ったくらい虚脱感に襲われて人にもよるけど数日は起き上がる事もままならなくなるわ。枯渇させる事だけはないようにね。魔力をたくさん消費する魔法はほとんど使われないのだけれど、魔力量が多い人は限度を読み間違えることもあるわ。気を付けてね」

「分かりました」


その後は、使えるようになった炎の調節をしばらく行い、明日に備えて就寝することにした。





携帯食糧、乾パンで良いや、なんて最初思っちゃったんですが、よく考えれば乾パンなんてあるわけがない、という事に気が付きやめました。


とりあえず、飯があるところにエリカ在り、なので、エリカも食堂のコックさんたちには頭が上がらないのかもしれませんね。フィアはそれ以前ですが。


魔法の説明ですが、結構詰めて考えてないので、何か変な点があるかもしれません。もしくは今後矛盾するような点が浮かび上がる可能性も無きにしも非ずです。


というか違う事書いてても気が付かない、という可能性すらあります。


まあ、そこまで突っ込んだ事は書く気はないので大丈夫かと思いますが。


前書きでも書きましたが、番外編はちょくちょく書いております。


なんだか、予定よりも普通な話になってしまいそうです。まあ、少しは崩そうと思ってるんですが、前回のようにネタが入るかは微妙なところです。


番外編ではありますが、少しばかり今後に絡む予定ありです。


ああ、あったなあ、こんな話、程度に思ってくれればありがたいです。


ではでは、またお会いしましょう。


ご感想などお待ちしております。



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