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第35話 目指すは鍛冶屋


気づけばいつの間にか5万PVを大きく超えていました。具体的には2000から3000ほど。


いや、嬉しい限りです。


それはともかくとして、だいぶ時期を逸してしまいました。これでは『祝』にならないですね……


というわけで、単に番外編でもボチボチやろうかと思ってます。


とりあえず、ネタが尽きない事を祈っている今日この頃です。


では、どうぞ。


翌日明朝、城門の前に馬車が止められていた。


二頭立てのそれほど大きくもなければ、目立ちもしない、言ってみればお忍び用のようなものだ。正式な城の馬車はデカい上に横にアールドールンの国章がある。


今城の前にあるのは、普通の、その辺を走っていてもおかしくないような馬車だ。とはいえ、馬は城の中でも屈指の体力と速さを誇る馬であり、そこらの馬車馬とは一線どころか大河の彼岸と此岸くらいの差がある。


「首都からこの馬車で2日、と言ったところです。ではお気をつけて」


門番の兵士が敬礼すると、エリカたちもそれに返礼する。騎士団の団服の上から茶色いローブを身に着けたエリカたちは馬車の荷台に乗り込む。ジャックは御者を務めるので荷台には乗らないで手綱を握る。


刀鍛冶の元へ行くのは、もはやいつものメンバー、で括っても問題のない面子になった。


エリカ、ジーン、フィア、ジャック、そしてエリカの護衛兼モフモフ係となってしまったアレックスだ。退院したらバーバラの元に帰るものかと思っていたが、バーバラが何やら取り込み中らしくヴァルトから「もう少し借りてても良いそうだ」という連絡が入った。


それに気を良くしたのか、エリカもジャックの事は水に流した。背後にフィアの影があっては快く・・許さなくては命の危機に繋がる、と本能的に察したのもある。


遠出という事もあり、全員戦えるだけの装備はしている。いかに治安の良い国家であっても、中央から離れればそれだけ治安が悪くなるものだ。なまじ治安部隊のようなものを離れた場所に配置すると、その治安部隊が不正に働くという可能性もある。


いかに善政で知られるアーサー・アールドールンが国王であっても、下まで真っ白、という事はありえない。


また、国外から流れ込んできた盗賊の類がいない、とは言い切れない。さすがにアールドールン王国の北西から北にかけては龍の森がある事もあってそういう噂はさほど聞かないが、そうではない南や東、特に他国との重要な通商路である道沿いでは襲撃される危険性というものは決して低いものではない。


国内にそういう場所を縄張りとする輩が流れ込んでいてもおかしくない。街道沿いには警護の兵士が配置されているが、完璧というものは存在しない。


そういう事もあって、国内を行くわけでもエリカたちは戦えるだけの準備をした状態で馬車に乗り込んだ。


馬で2日、どこかで野宿という事も考えられる。予定ではしっかりとある程度の大きさのある街で休めるように予定しているが、馬車には野宿用の寝袋などが載せられている。


「その、トウキってどんな方なんですか?」


エリカは馬車に乗り込むと目の前に腰を下ろしたジーンに話しかけた。


試合の後から、ジーンは自分への戒めも兼ねてなのか、白鱗の大剣を使うようになった。それまではずっと家に大切に収めていたらしいが、二度と同じ過ちを繰り返さないためにも自分が使いこなせるようにならなければならない、という結論に達したらしい。通常の大剣と使い勝手の違う大剣だけに、エリカが入院している間も四六時中大剣を振っていたという。


「トウキっていうのは人の名前じゃないんだ。俺たちがあった爺さんが言うには、刀鍛冶にも流派があって、代々受け継がれるものらしい。トウキというのはその代の刀鍛冶を指す……階級、いや、代名詞みたいなものなんだろうな」

「因みにその爺さんっていうのはなんでも第23代トウキだそうだ。1000年の歴史を持つ名匠らしいが、今のご時世刀を使う人間がいないせいか、随分と細々とやっているらしい」


敵が同族同士であった時は、仕事がむしろありすぎて過労でぶっ倒れる事もあった、とジーンは付け加えた。


敵が龍になり、刀の細い刀身では龍の鱗を貫徹できず、またリーチの短さから牽制にも向いていない刀を好き好んで使う騎士、兵士は激減した。ジャックいわく、この大陸でも刀使いは両手の指で数えられるそうだ。


「同業者のほとんどが廃業して、生粋の刀鍛冶はこの国じゃトウキの一族しかいないんだ」

「なんと」


馬車が動き出す。


日よけの布の隙間から朝の涼しい風がエリカの頬をくすぐる。


「今のトウキも今年で87歳、正直、ギリギリだったかもな」

「ギリギリというと?」

「跡継ぎはいないと思うぜ? この間行った時も爺さんしかいなかったしな。跡継ぎがいなけりゃトウキの刀鍛冶もこの代で終わっちまう。そうなったら国内で嬢ちゃんの刀を直す手は大剣の鍛冶屋に行くしかなくなる。刀は大剣と違って細く、叩き砕くことよりも切り裂くことを主眼とした武器、作り手が違うだけでも出来上がりは相当変わっちまう」


さすがは、バトルマニアと言ったところか。武器などの話になると途端に饒舌になる。


「そういえばエリカちゃん、その袋は何?」

「あ、これですか……?」


フィアはそこまで聞いて、エリカが見慣れない皮の袋を随分と大切そうに抱えていることに気が付いた。それを指差しながらエリカに聞くが、エリカは目を泳がせながら、明らかに言い訳を探しているような表情をしている。


「……何が入っているのかしら?」

「べ、別に大したものは入ってませんにょっ」


噛んだ。


瞬間、エリカの顔が熟れたトマト並みに真っ赤になった。ジャックがエリカの視界の端で笑いを堪えているのが分かってさらにエリカは恥ずかしくなる。


「エリカちゃん、今なら悪いようにはしないわよ」


フィアが馬車の荷台で転ばないようにゆっくりとエリカに近寄る。フィアの手は身体の前でワキワキと不穏な動きをしている。


「だ、だから、本当に大したものは入ってないんですって! た、ただ鍛冶屋と聞いたので、鍛え直してもらう時に少し頼みたいことがあってですね……そのう……」


そこでエリカは言いよどむ。


フィアは期待していた答えではなさそうな事を察知すると、すぐに興味関心の色が顔から薄れ、冷静になるとさっきまで自分が寄りかかっていた場所に戻って腰を下ろした。


「頼みたい事?」

「それは……ついてのお楽しみ、です!」


言えないのには訳がある。


袋の中身は黒鱗だからだ。


随分昔に、エリカがバーバラに餞別代りに渡し、今はバーバラの剣となっている自分の鱗を参考に、自分の鱗を使って刀を鍛え直してもらおうと考えたのだ。


昨夜、こっそりベランダで腕に黒鱗を発現させ、刀の折れ目を引っかけて強引に剥がしたのだ。根本から剥がせば出血して翌朝フィアに気づかれるかもしれなかったので、ある程度黒鱗の半ばから程よい大きさの鱗を剥がした。


鉄板のような状態の鱗を数枚袋に入れて、エリカは馬車に乗り込んでいたのだ。


さすがにこれは気づかれると後々面倒になる。


比類なき硬度を誇る黒鱗とはいえ、バーバラの前例から加工が出来る事は分かっている。通常の鋼鉄に混ぜ合わせればより硬度を上げられるのではないか、とエリカは考えたのだ。さらに言えば、もう1つ、とある可能性にもエリカは目を付けている。


(ともかく、そのトウキという方の腕次第、ではありますけど……)


そんな事を考えつつ、エリカは馬車に揺られながら馬車の後ろに広がる街並みを眺めていた。















「おい、お前ら起きろ」


首都を出て随分と経った。


あっという間に話す話題は尽きて、ぼんやりと風景を眺めている間にエリカは眠りについていたようだ。上からジャックの太い声が投げかけられ、ようやくエリカは自分が寝ていた事に気が付いた。


「お前、ら?」


ジャックの言葉が気になって振り返ると、ジーンもまた深い眠りについていた。エリカもジーンも毛布のようなものをかけられているのは、おそらくフィアがかけてくれたのだろう。


「嬢ちゃん、悪いがジーンを起こしてくれ。町についた」

「早っ」

「早くねえ、嬢ちゃんたちが寝てたからだ。もう4時だぞ?」


馬車から空を見上げれば、少し赤みがかっていた。馬車は見知らぬ街の細い路地のような場所に止められているようで、太い通りが目の前に広がっている。人通りも多く、なかなかに活気のある街のようだ。


「ジーンさん、起きてください。宿屋についたそうですよ」

「ん……、そうか」


ジーンはすぐにモゾモゾと動き出して、起き上がった。それから横に置いてあった大剣を手に取って立ち上がると馬車から飛び降りる。エリカもそれに続いて馬車から降りると、辺りを見渡した。


「大きい街ですね」


通りには店が立ち並んでいる。宿場町のようで、宿屋が多く、生活感のある家や店は通り沿いには少ないように思われる。


「王国の南に行くなら、一度は通る街だからな。ああ、ここの宿屋に泊るぞ」


ジーンは大きく伸びをしながら1軒の宿屋を指差した。見たところ、結構な大きさを持つ3階建ての宿屋の入り口の上の方には『三叉路』と書かれた看板が取り付けられている。


その入り口の前に先に来ていたフィアが立っていて、こちらに気が付くと小さく手を振って招きよせた。


「ごめんね、2人とも気持ちよさそうに寝ていたからギリギリまで起こさない方がいいかなと思って馬車を裏に止めるまで起こさない事にしたの。すでに受付を済ませたから部屋に直行できるわ」

「すまんな、フィア」


宿屋の扉を開け、中に入ると、通り以上に人がいた。いや、人数は少ないだろうが密度が高い。


1階はどうやら酒場のような場所らしく、数多くの人が騒ぎながら酒を飲んでいる。エリカはその初めての「異様な」場所を眺めながら階段を上っていくジーンたちの後を追う。


2階からは個室が並んでおり、下の喧騒が僅かに聞こえるが、存外静かだ。フィアがそのうちの1室を指差した。エリカは最後尾にいたので、脇に寄ったジーンとジャックを追い越してフィアの後に続いてその部屋に入る。扉を閉める前にジーンたちにお休みを言ってから扉を閉める。アレックスは言わずもがなでエリカたちの部屋に連れてこられている。


「ふう、良い所じゃない」


フィアは荷物をベッドの脇に置くと、窓を開けて部屋を換気する。ベッドは2つあり、水回り関係は一切ない。個別ではなく、共同のものがあるようだ。


「夕飯は適当に作るから、その前にお風呂でも行く?」

「あるんですか?」


エリカがそう言うと、フィアが笑みを浮かべて扉に貼られた紙を指差した。エリカがそれに近づいて目を細める。


「ここの浴場は広い事でちょっと知られてるのよ。1つしかないから男女で入れる時間が決められてるから間違っても男の時に入らないでね」

「アレックスは入れても良いでしょうかね?」

<断固拒否する!>


アレックスが慌てた様子で首を横に振る。言葉こそ聞こえないだろうがフィアでもアレックスが相当焦っているのは分かった。


「ま、まあアレックスも嫌がってるし、部屋で荷物番してもらいましょう?」

「……ちっ」


(ちっ、って言ったよ、この子!)


アレックスの危機は回避された。


「ええと、女性は……6時から8時ですか。そして男性が9時から11時、と」

「浴場が1つだから間の時間でお湯を入れ替えるんですって。管理もしっかりしているから防犯もばっちりだから安心して入れるのよ」

「なんか、以前ジャックさんがぼやいてましたねぇ」


風呂の時間までは少しある。隣の部屋を取ったジーンたちは何やら騒いでいる様子だが、馬車の荷台で寝ていただけで疲れてしまったエリカはベッドに飛び込むとしっかりと洗濯された布団が心地の良い匂いでエリカの鼻をくすぐった。


「ちょっと寝ますので、フィアさんが入る時に起こしてください」

「ちょ、その恰好で寝ないで。布団が汚れるから」


フィアの最後の声は何とか聞こえたので、纏っていたローブを脱ぎ捨てて団服姿でエリカは再び意識を飛ばした。















「エリカ~、起きなさいな」

「……うぅ、はっ! 起きます、起きますから!」

「まだ何もやってないわよ……」


条件反射なのだから仕方がない。仮眠だったから起きられたようなもので、もし熟睡していたらどうなっていたか分からない。


「夕飯の前にお風呂行くんでしょう? さっさと行くわよ。見た感じ今は女性客私たちくらいだから、ほとんど貸切状態よ」


そう言うとフィアは荷物の中から着替えと数枚のタオルを手に取った。フィアは団服ではなく、私服に着替えている。目立ちたくないのだろう。エリカも団服の上だけ着替えておくことにした。下は正直見ただけでは団服だと気づかれる心配はない。


「はい、あなたの分」

「ありがとうございます」


タオルを手渡されてそれを脇に挟んで着替えを荷物から取り出す。着替えと言っても、未だにフィアの服を御下がり同然に使っている。


「エリカちゃん、昨日買ったのは?」

「フィアさんの服に愛着が湧いてしまいまして。ていうかあれは人前じゃ少し恥ずかしいし……。それじゃアレックス、留守を頼みますよ」


丸まっているアレックスにそう言うと、返事はなくただ尻尾が一度だけ振られた。


部屋を出ると、宿屋に入ってきた階段の方向とは逆の方向へ伸びる通路を進む。ジーンたちの部屋の前を通り過ぎて通路を進む。


下はすでに店を閉めたのか、先ほどまでの喧騒はなく、静かになっていた。もともと宿屋なだけに本業に差し支える時間帯までは酒屋も営業はしないようだ。


通路を突き当たると、もう1つ階段があった。


それを下ると水の音が聞こえてきた。


通りに面した建物の反対側、中庭のようになっている場所は外から一切見えないように窓が設けられていない。そしてそのスペースに大きな浴場が備え付けられていた。


「大きいですね。騎士団のほどじゃないですけど」

「ぶっちゃけるわねぇ。でもまあ、事実だけどね」


籠の中に着替えを入れて手早く服を脱ぐと、タオルを巻いて浴場へと向かう。フィアもそれに続き、浴場へ行くと、湯気が視界を覆う。


「ここはこの町で数少ない浴場のある宿屋なの。人気あるから空いてるか微妙なところだったけれど、運が良かったわ」


フィアは少し満足げに胸を張ると、タオルに巻かれた胸が揺れる。エリカはそれを見て少しジト目になる。


「……嫌味にしか思えません」

「あら、エリカちゃんだってまだまだこれからよ、きっと。第一あなたまだ16歳だしね」


エリカはいわゆる着痩せするタイプだと、以前言われたことがある。エリカ自身はそういう事に一切考えたこともなかったが、それを知ってからは少し意識するようになってしまった。


身近な女性が皆スタイル抜群なせいもあるのかもしれない。


フィアにしろ、バーバラにしろ、スタイルが良い。おまけに美人。女性ならば憧れるであろう体型をしている。エリカも、ヒトの身体になってからそういう事に考えを巡らせるようになっただけに、少ない知識で偏った反応をしてしまう事もままある。


「とりあえず、ゆっくり入って温まりましょう」


フィアは浴場のお湯を操って浴場に入る前に身体を洗う。そしてエリカの頭からお湯をかけると、エリカが気持ちよさそうに呻いた。


「うぅ、人に流してもらうのってやっぱり気持ち良いです」

「そう? そういえば試合の時はどうしていたの? 私忙しかったし」


石鹸でタオルを泡立たせてエリカの髪と背中を洗いながら、フィアは何気なく尋ねた。


「大体自分でやってましたよ。手の届かない所とかはその場にいた方と一緒に流し合ってましたし。ああ、一度シルヴィアさんともお話しながらやった記憶がありますね」

「ふふ、エリカちゃんも騎士団に馴染んできたようね。いろいろ面倒な事をしてくれたけど、保護者のような立場の私としては嬉しい限りよ」


エリカが騎士団入りする時に、推薦人となったのはジーンとフィア、ジャックだ。家なし子のような立ち位置のエリカには、そう言った感情があってもおかしくはない。


むしろ、エリカとしてはあんな出会いだったにも関わらず、ここまで真摯に向き合ってくれるフィアたちには感謝してもしきれないだけの思いがある。


そんなものを胸に思い起こしながら、エリカはフィアに背中を預けた。




二度目のお風呂シーンなので描写はかなり手薄です。ていうか二度も三度もいらないでしょう? え? もっと?


は~い、何も聞こえません♪


それはともかくとして、5万ですよ、5万!


ちょっと信じられませんよ、私。


話数が伸びているおかげでなんか一日のPVも1500越えしてるし……なんか、とてつもなく嬉しいです。


いやいや、これくらいで満足はしませんよ。目指すは完結ですから。


ふふふ、最近筆が進まない、という事は前回の後書きで書きました。ええ、結構毎日昼間修羅場ですよ。〆切ギリギリなのにネタが出なくて悩んだ末、挫折する人ですよ、私は。


そんな私ではありますが、今後ともご贔屓して頂けると嬉しい限りです。


そしてご感想、誤字脱字報告、なんでもかまいません。お待ちしております。








ああ、番外編ですが、そのうち投稿します。



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