第29話 再会と驚愕と諸々の決勝戦
ソロモンよ、私は帰って(ry !!
ようやく帰ってこれた。一週間が物凄く長く感じられましたよ……
これからはグダグダと安定した更新が出来ると思います。まあ、九月中にまた止まると思いますが(汗)
ではでは、どうぞぉ
あっという間の3日間だった気がする。
起こった出来事が多すぎてゆっくりした記憶がほとんどない。
特に昨日一昨日と、1日中と言っても良いほどに肉体的にも精神的にも忙しかった。
(誰のせいだと言われれば、自業自得なのですが……)
そんな事を考えながら、コロシアムの通路を歩く。
昨日は、結局あの後コロシアムに行ったらBブロックの試合は終わっていた。なんでもエリカの時同様一撃で勝負が決していたらしい。エリカが団長の所に行っていたのはせいぜい30分ほど、その短時間でエリカが作り出した半円クレーターを修復したと聞いて、それはそれでエリカの驚きを誘った。
(はあ、秘密を秘密のままにしようという気があたしにはあるんでしょうか……)
自分の後先考えない行動に心の中で舌打ちする。これでは、ジャックの事をどうこう言う資格も何もないではないか。
だが、そのおかげとも言うべきものも得た。
少なくともこの騎士団の仲間にエリカにとって危険因子になるような人物はいない、と信じたい。肉体に精神が引っ張られているのだろう、本来ならばそう簡単に他人を信用しないはずの龍が、わずか1週間かそこらしか共に暮らしていない彼らにこれほどまでに信頼を寄せている自分が不思議でならない。
近くにいて不快ではない。むしろ、故郷にいるような安心感を感じているような気がした。
矛盾しているという事は自分でも良く分かる。
ドラゴンスレイヤーの巣窟に安心感を得るなど、龍として狂気の沙汰であろう。
(今のあたしを見たら、父上、あなたはなんて言うでしょうか?)
笑うだろうか。
それとも、今すぐにでも連れて帰ろうとするだろうか。
「ここで、どうにかしてでも元の姿に戻って皆の所に帰りますからね。そのためなら、恥も外聞も捨てる覚悟はとうに出来ているはず」
元より、龍がヒトという、いわば自らよりも下等な生物になっていること自体、屈辱の極みなのだ。エリカはそこまで深く考えてはいないが、やはり心に引っかかる小さなトゲであることに変わりはない。
「ドラゴンが、ドラゴンスレイヤーになる、これ以上の皮肉は無いですね……」
通路の出口まで行くと、今日も相変わらずの眩しい日差しが外から照りつけてきている。雨の日は随分とこの辺りでは少ないのだろうか。
外からは歓声が地鳴りのように響いてきている。
その中に、エリカは歩いて出ていくと、その歓声はより一層音量が増した。
『さあさあ、ついに騎士団内選抜試合も決勝を向けました。今回の決勝戦は我らが忠誠を誓った国王、アーサー・アールドールン陛下、エルノア様、そして王女であるティティ様も来ております!!』
コロシアムにエリカが入ってきたのを見計らっていたようで、テルミはエリカが姿を現すと同時に声を張り上げて実況を開始した。
「一家で見に来ているのか」
「いつもは姫様って皆呼んでるのに、やっぱりこういう場所ではお名前で呼ぶんですね」
テルミを挟んで反対側にいた影が声をかけてきたので、何気なく返事をする。
準決勝でジャックを一撃で吹き飛ばしたジーンがそこに立っていた。その現場を見ていたわけではないが、相当痛烈な一撃を見舞ったらしく、ジャックは今現在もベッドで唸っているとか。
多少の同情はあるが、どちらかと言えばジーンを応援していたエリカは少しいい気分がした。何かある度に笑われていた気しかしないので、むしろいい気味だと思ったのも事実である。
「さて、どうやってジャックさんに負けてもらうよう頼んだんですか?」
「なんだ、分かってたのか」
「えっ、本当にそうだったんですか、かまをかけてみたんですが」
「……はあ、やられたよ」
とはいえ、ジーンがジャックに勝てると思っていたエリカではなかった。だから、昨日ジーンが勝ったと聞いて何かしらの作為的なものを感じた。
ジャック、ジーン、双方と一線交え、エリカは自分なりではあるが2人の力量を計っている。
だから、圧倒的な差が2人にあるのは明白だった。確かにジャックは力でのごり押しが多いが、そのごり押しで相手を倒すだけの技術も持ち合わせているのだ。ジーンは確かに力もあるし技術もある。ジャックと違って大剣を型に則って振るう。だが、それだけではジャックは倒せない。
ジャックは普段はああだが、歴戦の騎士なのだ。経験はジーンよりもはるかに多い。そんなジャックが一撃でやられるとなると、相当ジーンに有利な何かがあったことになる。
そこから何かしらの八百長まがいの事があったと行き当たるのにそう時間はかからなかった。
「ジャックに頼んだんだ。決勝でエリカと戦いたいからってな」
「よくジャックさんが了承しましたね……」
「そこは男同士の話だからな。想像に任せるよ。それでエリカ、1つ頼みたいことがあるんだ」
「はえ?」
テルミの声にかき消されつつも、ジーンはテルミには気づかれないように言った。
「もしこの試合で俺が勝ったら、俺の言う事を1つ聞いてもらいたいんだ」
「……なんですか、その下心丸出しな頼み事は」
ジーンがそう言った瞬間、エリカの顔から感情が消えたのは言うまでもない。さすがのエリカも嫌な予感しかしないその頼み事を何の根拠もなく信用する気にはなれない。むしろ滅殺したくなってもおかしくない。
「い、いや、別にそういう意味じゃないんだ。ただ、聞きたいことが1つあってな。それじゃあそれに正直に答えてくれるというのでどうだ?」
「内容によります」
「それじゃあ約束する意味がない」
随分と真っ直ぐな目でエリカを見つめるジーン。
その目は真剣にエリカの事を見つめている。どうも、それなりの理由があって言っているようだ。
「……はあ、分かりました。約束しましょう、ただし、あたしもそういう事ならそれなりに本気出しますよ」
「はは、俺よりも年下のはずなんだがなぁ、手加減されてちゃ形無しだ。とはいえ、この前の練習とはわけが違う、こちらも一切の油断なく行かせてもらう」
ジーンが大剣を構える。以前戦った時と同じ構え方だが、ジーンの身体から発せられるプレッシャーはその時とは比較にならない。
(そのくらいしてもらわないとこちらも戦い辛いですからね、好都合……)
手加減する、という言葉はあまり適切ではない。ジーン相手に手加減すれば手痛い攻撃を貰ってもおかしくはないのだ。
だが、エリカが本気を出せば確実にジーンを準決勝のマルコフ以上に手荒に扱う事になりかねない。つまり、ジーンに悟られない程度に力を抜かないと、ジーンに多大な怪我を負わせてしまうかもしれないのだ。
決して舐めている訳ではない。ジーンを気遣っての事なのだが、それはジーンにとって侮辱としか取られないだろう。言い方が変わろうと、エリカがジーンに手加減する事は事実なのだから。
ならば、ジーンが本気以上の力を出してくれればいいのだ。そうすればエリカもそれなりの本気が出せる。本気の前に「それなり」が付いてしまうのは仕方ない、とエリカは割り切り、刀を抜くと鞘と共に両手で持ってジーンに向き合う。
テルミがいつの間にか随分離れた場所まで歩いて退避している。
「エリカ、あそこだ」
「え?」
不意にジーンが視線である一点を示した。視線に沿って顔を動かすと、コロシアムの最上部とも言える場所に豪奢な布がかけられて特別席のようなものがこしらえてあった。その布にはこの王国、アールドールンの紋章が描かれており、そこにはエリカがヒトとして忠誠を誓った相手であるアーサー王と、笑顔のティティ、そして見慣れない金髪銀眼の女性がいた。状況から判断するにティティの母親、この国の妃であるのだろう。
「いいところを見せてやらないとな」
「そうか、ジーンさんはあたしがティティ様と知り合いになってるの知ってましたよね」
確か、一番最初に出会った夜、ジーンにそのことを言った記憶がある。
「前回は油断したが、今回は負けないからな」
「それはこっちも同じです」
「だろうな……、ったく、ジャックは遅いな、間に合わないかな……」
ふと、ジーンは周囲を気にするそぶりをした。
よく見れば、ジーンは大剣は持っているが、いつまで経っても構えようとしていない。どうも、ジャックの到着を待っているようだ。
「あれ、ジャックさんはジーンさんにやられて寝込んでいると聞きましたが」
「ああ、あいつがあれくらいでノックアウトされる奴じゃあないからな。問題なく動いてるぞ? それで少しお使いを頼んだんだが……」
「お使い、ですか……」
キョロキョロと周囲を見渡すジーンは、「間に合わんか……」と小さくため息をついた。
「実はな、本気モードという事で普段使っている大剣じゃなくて俺の父親が使っていた大剣を使おうと思ってな。何分使う機会が無かったんだが、エリカ相手なら使えるかと思ってな」
「……父親」
一抹の不安が脳裏を過った。
ジーンの名字がホーリネスだと知った時から、1つエリカの頭の中で未だに解決されていない疑問があった。
エリカの父親、イクシオンが騎士団長ヴァルトやバーバラたちと戦った時、1人だけイクシオンに一太刀入れた男がいると聞かされている。
イクシオンは白龍だ。世界で最も硬いと伝説にまでなっている鱗を持ち、強大な攻撃力を誇っている白龍相手に、鱗を貫徹する攻撃を放った男がいると、エリカは自分の父親から直接聞いたのだ。
その時の父親は随分と気分が高揚していたように思える。
自分と真っ向から戦えるヒトがいると、嬉しそうに語っていたものだ。
その男の名を、ホーリネスとイクシオンは言っていた。そしてそれは今から20年ほど前、目の前にいるジーンは18歳、きっとそういう事なのだろう。
「俺の親父もドラゴンスレイヤーだったんだ。ヴァルト団長たちと共に今のアクイラ騎士団の基礎を作ったんだが、俺が生まれる前にドラゴンとの戦いで手傷を負ってな。俺が生まれるまでは生きてたんだが、俺が1歳になる前に死んじまった。だから俺は親父の顔も覚えてはいない。だけど、親父みたいになりたいと思ってここまで来たんだ」
――――――ああ、やはり、そうなのか。
間違いない。
エリカは確信した。ジーンは、エリカにとって父親と戦った好敵手、エリカは、ジーンにとって親の仇の娘、とでもいう関係にあるのだ。
「親父が俺に遺してくれたものがあるんだ。それだけが俺の親父の証みたいなもんなんだがな」
「おおい、まだ始まってねえだろうなあ!!」
世間話でもしているかのように身の上話をしていると、コロシアムの観客席からもうすっかり聞き慣れてしまった野太い声が響き渡ってきた。声の所在をジーンとエリカ2人で探すと、ジーンが出てきた方の通路の上の観客席で大手を振って何かを喚き散らしているジャックの姿があった。その背中にはジャックのものではない大剣が背負われている。
刃の部分が白い布か何かで巻かれているようで、ジャックは2人が自分に気が付いたのを確認してその大剣の持ち手に手をやってそれを高々と持ち上げてみせた。
「ジーン! 今度なんか奢れよな!!」
ジャックはそう言うと大剣を持ってコロシアムに飛び降り、足早にジーンに近づいてきた。
『ちょ、ジャックさん何やってんですか、試合前ですよ!』
突然のイレギュラーの登場に焦ったのか呼び方も素に戻ったテルミが慌てながらジャックに走り寄った。
「いいじゃねえか、まだ試合開始してないだろ? ほらジーン、テルミもうるさいからさっさと受け取れ」
「すまんな、いきなり頼んでしまった」
「良いってことよ。それに俺もこれでお前がどんな戦いをするのか見てみたいからな。お前の親には代理で取りに来たと言ったが、信じてもらえてよかったぜ」
ジャックは持ってきた大剣をジーンに渡すと、それまでジーンが持っていた大剣を受け取った。
「そんじゃ、邪魔者はさっさと退散させてもらうぜ。頑張れよ、お2人さん」
エリカにも手を振っていくと、ジャックはそそくさと通路の方へと消えていった。そしてエリカの視線は自然とジーンの持っている大剣へと向けられた。
その大剣を見て、すぐに何か違和感を感じ取った。
(な、なんですか……懐かしくもあり、恐ろしくもある……)
そんな感覚に襲われる。
だが、エリカにとってそれは初めての感覚ではない。いつも、必ず感じていたものに限りなく近いものだ。
(まさか……)
「俺の親父が、戦ったドラゴンの鱗を元に鍛えた世界に唯一の大剣だ。これを使いこなせるようになれば俺も一人前っていうのが親父の遺言だったらしい」
ジーンはゆっくりと刃に巻かれた布を巻き取り始めた。
(そんな……こんなのアリですか……?)
エリカは心の中であんぐりと口を開ける。それほどの驚きがエリカを襲っている。
ジーンの大剣は何重にも布が巻かれているのだろうか、いくら巻き取っても見慣れた銀色の刃がその姿を見せない。すでに巻かれていた布はかなりの量が巻き取られているにも関わらずだ。
(違う。あれが元からの色なんだから……)
おそらく、そのことに気が付いているのは今のところ目の前のエリカだけだろう。
「親父が戦ったのはドラゴンの王とも言える存在だったらしい。そんなの相手に戦ってたなんて、俺は信じられなかったけどな。けど、この大剣を見せられて納得したよ」
全ての布が巻き取られた。
だが、大剣の刃は真っ白のまま……。
「白鱗、そう呼ばれているらしい。詳しい事は俺も知らないんでな。だが、これで斬れない物は無きに等しいとまで言われる硬度を持っているんだ」
そんな事、言われるまでもなく分かっている。
エリカの黒鱗を穿てるのは、戦略級魔法か、父親である白龍の鱗か牙くらいなのだから。
ジーンの持っている大剣は、まさしくその後者に符合していた。
(父上……)
我が親が、目の前に立ちはだかっているかのような錯覚に陥った。たとえその身を離れようとも、白鱗が放つ王たる存在感は失われていない。
美しく、曇りなき刃に鍛え上げられた白鱗は太陽の光を眩く反射している。決して豪華ではない装飾だが、その分実際に使うには申し分ないように作られている。
「さあ、俺の本気を叩き込ませてもらう。エリカなら、受け止められると信じてるぞ」
軽々とジーンはその白鱗の大剣を片手で持ち上げるとその切っ先をエリカに向けた。それだけでエリカは足が竦むような感覚に襲われる。
とはいえ、イクシオンを相手にしているわけではない。自分の父親の戦いぶりを見ているエリカとしては条件反射のように身体が戦うべきではないという警鐘を鳴らしていたわけだが、今は違うのだ。敵はジーンであってイクシオンではない。
(とはいえ、父上の鱗を鍛えた剣……、さすがにあたしの黒鱗も防ぐのは……)
もちろん、使い手にもよる。下手な使い手が振るったところでエリカの黒鱗はたとえ剣が白鱗でも切り裂くことはできない。
だが、目の前のジーンは十分すぎるほどの使い手だ。一撃でも貰えば黒鱗は意味を成さない。
この試合は殺し合う事が目的ではないから、ジーンも殺そうと思っては斬りかかってこないだろう。だが、当たり所が悪ければエリカだからこそ致命傷を負いかねない。
黒鱗で大概の攻撃を防げるエリカは対応が追いつかない攻撃に関しては黒鱗で受ける。そんな攻撃をあの大剣で受ければ、さすがのエリカも重傷は免れない。
「……お手柔らかにお願いします」
そう言うしかなかった。
そして、一切の油断なく、合切の抜かりなく、ジーンと戦う事を決心した。
「人一倍、いや二倍は頑丈なお前だからこそ、頼めることなんだ。頼んだぜ、エリカ」
「丁重にお断りしたいのですが、それも出来ない様子なのでお受けします。こちらも加減しません。死なないでくださいね?」
心の底から、ジーンを心配してそう言う。
本気を出す以上、自分がどこまで加減できるか分からない。もしかしたら、殺すつもりで戦うかもしれない。
「いざとなったら他の連中が止めに入る。そういう決まりだ」
「そうですか、なら、少しは安心して戦える、でしょうか?」
「俺も、死ぬ気はさらさらないしな。ま、精々足掻いてみせるさ。だから、前回の俺と同じだと思わない方がいい」
「……なんか、すっごく負ける人が言いそうな台詞です」
「言うな!」
『は~い、お2人とも、そろそろ良いですかあ? 陛下も見てらっしゃるんです、あんまり時間を取るのもあれなんですけど……』
物凄く居心地悪そうなテルミの声が響いてきた。さすがに時間を取らせすぎたようだ。
エリカとジーンはテルミに一応謝罪して、お互いの得物を構える。
『はあ、やっとあたしの出番……。では気を取り直して……。決勝戦、始めええええええぇぇ!!!!』
試合が大歓声と共に幕を開けた。
決勝戦、入りませんでした、すみません。
タイトル詐欺でしょうか、これ……。だ、大丈夫ですよね! 最後少し入ったし! それ以前に決勝直前のお話ですしね!!
ようやくフラグを一個回収、と。
え? いつのフラグですって? いやだなあ、……遠い昔のお話の、ですよ♪
ジーンの親父さんの名前……が、出てませんでしたね。まあ、一応そういう存在がいた、ということで……。
さてさて、次回も大変な事に……、はあ、書いていてなんでこんなに主人公っていろいろ話題に事欠かない事になってしまうのか……。
笑いが足りない……シリアスばっかり……
いやいや、そのうちふざけた回でも入れようかな……?
ではでは
ご感想などお待ちしております