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第1話 出会いはいつも突然!

サブタイトルはほとんど関係ありません。


ですが、こう言うほかありません、だってそうなんだもん!



「ここまでで良いよ」


道無き道、森の生き物だけが分かるであろう深い森の中で少女はそう言った。言葉は片言で、どこか言い慣れていないような感覚があるが、その言葉には強い決意の念が滲んでいた。


<本当に、良いのだな?>


背後で木が軋む音がする。

少女が振り返ると、彼女のように白い肌、いや白い鱗を持つ巨大な影が少女を見つめていた。巨大な翼を器用に折りたたんで、少女を優しく見つめる目が2つ、影の中で蠢いている。


「これ以上、父上も外に出るわけにはいかないでしょう? 私は大丈夫だから」


少女がそう言うと、影は少し戸惑ったようにその巨体を動かし、そっと顔を近寄らせる。


<おお、我が娘イ●●●イア。我はいつか、いつかお前が元の姿となり、我々の所に帰ってくる時を待っているぞ。その身の呪いを解き、あの優雅なお前と再び空を飛べる日を、我は待っているぞ>


少女の使う言葉ではない、常人には呻きにしか聞こえないような言葉で影が言う。

少女は影の顔をそっと手で撫で、その巨大な首に抱き着いてその感触を身体に覚え込ませようとするかのように身体を押し付ける。


「私も、また空を飛びたい……。父上や、皆と、あの空を……」

<今のお前は、我が仲間の中には置いておけん事が残念でならぬ。皆、お前を慕っておるし、その姿であってもお前であることには違いないのだ。なのに、どうして旅立つ?>


影も、少女を愛おしそうに折りたたんでいた翼でその身体を覆う。


「『ヒト』がいてはいけない場所なのよ、私たちの住む場所は。たとえ、私があの場にいても、戻れる保証もない。なら、私は自分で元に戻る方法を探す」

<寂しくなるな……>


影が翼を広げ、少女はその手を首から離し、後ずさって距離を取る。


「私もよ、父上。だけど、これは一時的なものよ、きっと。たとえ10年、100年経とうとも、私は皆の元に帰る。だから、今は『行ってきます』とだけ、言っておく」

<では、我も『さらば』とは言うまい。いつか再び会いまみえる時まで、…………ヒトはこういう時なんと言うのだろうな>

「ただ、『行ってらっしゃい』、と」

<ならば『行ってらっしゃい』とだけ。我が娘よ、龍の守りがあらんことを>


影が思い切り翼を広げる。突風で木々がしなり、白い影は空高く飛び上がった。そして少女はその姿が木々の間に消え、見えなくなるまでその姿を見送った。


「きっと、戻ります、父上」


少女は目を落として、辺りを見渡す。

いつもなら、空を飛んで簡単に行けるはずの場所も、今の少女の身体ではあまりにも遠く、ここまで来るのにも3日かかった。本来なら数時間で行けるはずの場所なのだが、今ほど元の身体を懐かしく思うことはないだろう。


「さて、と。とりあえず、『友』の場所へ行かないと……、って今の姿じゃ分からないかな?」


倒木の乗り越え、時折、背後から近寄ってくる猛獣に視線を向けては追い返し、木々の隙間から見える太陽だけを頼りに進んでいく。飛び跳ねる度に、美しい黒髪が風になびいて後ろへと流れていく。


ふと、ク~ッという可愛い音が少女のお腹から聞こえ、少女は腹に手をやった。


「そういえば、この身体になってから何も食べてなかったか……」


キョロキョロと辺りを見渡し、手近な木によじ登って赤い木の実をむしってその場で口に放り込んでみる。前の身体ならば、まず食べないだろう物、栄養価も低く、涎も垂れない小さな木の実だったはずが、今は不思議と当たり前のように食べることができた。完全に、元の身体とは作りが変わり、食べ物の好みまで変わってしまったようだ。


「……甘い、っていうのは、こういうのを言うのかな」


『友』がよく、少女にくれた木の実や、果物といった食べ物。彼女にしてみれば、そんな物よりも大型の草食動物とか、いっそのこと『友』の身体でもいいのだが、そっちの方が好みにあっていた。

だが、今ではそんなものを食べる余裕も、動物を捕まえることもできない。

今の少女の小さな身体では、むしろこの森では狩られる側になってしまう。そこいらの猛獣は少女と目が合った時点で彼女が何者なのか理解して逃げ去るが、いちいちそんなことをやるのもいい加減疲れてきた。


「父上の姿を見られるわけにはいかなかったけれど、もう少しついて来てもらえばよかった……」


木から飛び降り、両足で着地すると、木の実を口に頬張りながら先に進んでいく。












「…………迷った」


少女は森の中で頭を抱えていた。


上から眺めていた景色と、実際にその中を歩いてみるのとでは、あまりにも勝手が違いすぎたようだ。まっすぐ進んでいるつもりでも、いつの間にか同じ場所に戻ってきてしまっていたり、思った通りに進むことができなかった。


『友』がここに立ち入らない理由が少女には今、ようやく分かったような気がした。


「これじゃあ、日のあるうちにたどり着けないかも……」


そう自分で言うと、大きなため息をついた。

なにしろ、いくら木の実で空腹は凌げても、眠気には勝てる気がしない。前の身体の時は、寝ていても周りの気配は手に取る様に分かった。だが、今の身体でもそうとは限らない。しかも、夜は猛獣の動きが活発になるため、危険だ。暗いが為に少女が何者であるか気が付く間もなく襲いかかってくるに違いない。そうなれば、無防備な彼女はどうしようもない。


「鱗が欲しい……」


欲したのは、自らが身に纏っていた、いかなる牙も、爪も、通さない鱗。

無類の硬さを誇り、彼女を彼女たらしめていた黒い鎧。


それを願った瞬間、何かが擦れる音が腕から響いた。


「えっ……?」


見れば、腕が黒く変色していた。

細かい鱗がびっしりと腕を覆い、関節を動かすたびに鱗が擦れて軋む音が聞こえる。少女はその腕をしげしげと見つめると、腕を振り、近くにあった木に目掛けてその手を思い切り突き出した。


「はあっ!!」


ドゴンッ、というくぐもった音が聞こえ、腕が木にめり込んだ。勢いだけで突き出した腕が肘の辺りまで木にめり込んでいた。だが、手は自由に動く。身体だけ木を回り込んで反対側を見てみると、腕が木を貫通して木から生えていた。


木から腕を引き抜き、元に戻る様に念じてみると、腕が先ほどまでの細い、白い腕に戻った。


「これなら、なんとかなる、かな?」


手を開いたり閉じたりしてみる。

どうやら、この身体にも少女のかつての姿が反映されるようで、強く念じれば彼女のかつての鎧を作り出すことが出来るようだ。

それを確認すると、とりあえず先ほどから石や枝を踏んで痛かった足元を黒い鱗で覆ってみる。痛みがすうっと引いて強く地面に押し付けても痛みを伴わなくなったのを見て、少女は少し笑みを浮かべた。


「少し、重いけど」


足が少し重くなったが、まったく問題にならない程度だ。


「それじゃあ、腹ごしらえしないとね……」


日が傾き始めた頃、少女は無防備な姿をしながら森を歩き、彼女に襲ってくるであろう猛獣を求めて歩き出した。












「ん?」

「どうした、ジーン」


不意に振り返った青年は、中年の男に呼ばれるが、それを手で制して何かに聞き耳を立てる。そして鼻を利かすと立ち上がった。茶色く、短く切りそろえられた前髪は、目にかかるかかからないかのところで止まっており、青い目がキョロキョロと周囲を見渡す。


「おいおい、飯の時間になんだってんだ」

「血の臭いがした」

「なにい?」


ジーンと呼ばれた青年は、手に持っていた火の通った肉を置くと、近くの木に立てかけておいた剣を手に取り、背中に背負って手甲を付けて森へと歩き出した。


「ジャック、火を消してくれ。フィア、起きてくれ」


馬車の中を覗き、中で寝ていた女性に声をかけると、中から眠たそうなうめき声が聞こえて、もぞもぞと女性、フィアが起き上がった。


「なに、怪我でもしたの?」

「近くで血が流れている。様子を見に行く」

「はいはい~」

「ジャック、行こう」

「へいへい」


ジャックと呼ばれた中年の男が、食い損ねた肉を残念そうに見つめながら、松明に火を移してから焚火の火を足でもみ消す。そして横に置いていた剣を背負うとジーンの元にやって来た。

馬車の中でフィアがもぞもぞと動く音が聞こえ、フィアが着替えて馬車から降りてきた。エメラルドグリーンの髪が月の光を反射して妖しく光り輝いているようで幻想的な女性は、鎧を身に着けずに2人の前に立った。


逆に、ジーンとジャックは鎧を着ている。どこを見ても共通点はせいぜい赤い装飾だけだが、唯一全員が同じ紋章を肩につけていた。


龍を剣で突き刺す様子を描いた紋章が月明かりの中でも確認することができ、ジーンは2人を確認して森の中に分け入った。


「血の匂いを嗅ぎ分けるたあ、相変わらず驚異的な鼻だな」

「鼻だけ利いたって意味ないさ。だけど、嫌な臭いだ……、これは猛獣の血の臭いだ」

「猛獣? 共食いでもしてるんじゃないかしら」


フィアが「そんなことのために起こしたの?」と、不満げにジーンを見つめるが、ジーンは小さく首を振って倒木を飛び越える。


「共食いなら俺だって動かないさ。だが、これは違う。物凄い量の血が流れている」

「誰かが、狩りでもしてんのか?」

「あるいは、『何かが』」

「っ! そいつはまさか……」


ジャックが驚愕して言葉を詰まらせる。


「ここは公道に近い。下手をすると旅人にも被害が出る可能性がある」

「危険の芽は早いうちに摘んでおかないと、ってわけね」

「くっそ、せっかくいい気分でお国に帰れると思ってたのによう!」


ジャックが天を仰ぐが、ジーンも気持ちは同じだった。

だが、それ以上に彼らの使命が、3人を突き動かした。


「うっ、あたしも分かるわ。すごい臭い」


フィアが血の臭いに顔をしかめ、口元を手で覆う。


「近いぞ」

「おう、ってうわっ!?」


ジャックが返事をしようとして何かに足を取られてずっこけた。慌ててジーンとフィアが足を止めてジャックに駆け寄り、その足元にあった物を見て目を見開いた。


「いてて、ってなんじゃこりゃあ!?」


ジャックが足を取られたのは巨大な腕だった。大型の猛獣の腕”だけ”がその場に落ちていた。それを拾い上げてジーンはその切り口を観察する。


「刃物じゃない。引きちぎったんだ」

「おいおい、マジでやばいんじゃねえか? その腕からして、やっこさんは3メートルはあるぞ」

「夜中に戦う相手じゃないけど、今やらないと今度は何時来るか分からないわ」


腕は強引に引きちぎられたような傷跡がくっきりと残されていた。ジーンは腕を茂みに投げ込んで背中の剣を抜いて臨戦態勢に入った。ジャックも剣を抜き、辺りを見渡しながらゆっくりと歩を進める。


「ジャック、明かりを」


ジーンはジャックから松明を受け取り、目の前の暗闇を照らし、足元を見て歩を止めた。松明を地面に近づけると、そこには大量の血が飛び散り、地面に染み込んで赤黒く地面を変色させていた。


「フィア、戦いになったら掩護を頼むぞ」

「任せて。3人で戦える相手だといいけど」


その時、強烈な血の臭いが3人の鼻を襲った。木々がなぎ倒され、その折れた部分には血肉がこびり付いている。


「さすがの俺でも、分かる。なんて臭いだ……」


3人の視界が広がる。

木々がなぎ倒された場所を辿っていくと、開けた窪地に出た。広くて先が見通せないくらいの闇に覆われているが、その窪地から血の臭いが発せられていることは嫌と言うほど分かる。


「フィア、明かりを」

「ええ」


フィアが何事か小さく呟くと、ジーンの持っていた松明がその炎の勢いを増した。ジーンはそれを暗闇目掛けて投げ込み、松明が地面を転がる。


ほむらよ」


松明が火の勢いを増し、松明から飛び火して炎が窪地全体を照らし出す。


「これは……」


照らし出された光景を見て、3人は絶句した。


死体、死体に折り重なるように更なる死体が積み重ねられ、屍の山を築いていた。腕を千切られ、首をもぎ取られ、内臓を引き出され、累々と築かれた屍の下には血の海が広がり、わずかに月明かりを反射させている。


「酷い、いくら猛獣だからって……」

「相手が猛獣以上だったら、これくらい当たり前だろうが……」


ジーンの後ろの2人も言葉を失っている。

屍のほとんどは大型の夜行性肉食動物で、夜中に群れで獲物を追う習性のある奴らだ。歴戦の戦士でも1人では絶対に戦いたくない、と口を揃えて言う獰猛な猛獣が無残な姿でそこに横たわっていたのだ。


「すう……」

「ん?」


ジーンが何かを聞いて、そちらに振り向いた。屍の山を回り込むと、近くの木に寄りかかる影があった。ジーンが目を凝らしてその姿を見極めようした瞬間、後頭部に強烈な痛みが走って地面に叩き付けられた。


「痛ッ! な、なにすんだ、フィア!!」

「うるさい! 男2人は後ろ向いてなさい!!」

「はあ!?」


訳が分からないと、フィアの顔を見上げると、もう1発食らった。ジャックが悶絶するジーンを抱き起して、先ほどの影とは逆の方向を向かせると、小声で言ってきた。


「見たら殺されるぞ」

「なんで」

「いいから」


フィアが背後で何かを呟いているのが聞こえてくる。どうやら、治癒魔法か何かを使っているようだ。その後、布が擦れる音が聞こえて、2人に背後から静かに近寄ってきた。2人には死神の足音にしか聞こえなかったのは、また別のお話。


「もう良いわよ」

「まったく、いったいなに、が……?」


振り向いてフィアを見ると、フィアが何かを抱えている。フィアが羽織っていた布に巻かれていて、フィアがゆっくりと布を捲ると、そこにはジーンと同じか、少し若い程度の少女が収まっていた。見れば布から白い足がはみ出している。


「な、なんでこんなところに……って血だらけじゃないか!」


顔を見て驚いた。

暗闇の中、フィアの灯した炎が少女の顔を浮かび上がらせる。穏やかな寝息を立てている少女は、その顔を血で染めていた。ジーンは慌ててフィアに治療を頼もうとするが、すでに治したと言われて安堵のため息をついた。


「だけど、この子自身の怪我はほとんどなかったのよ。ほとんどが、こいつらの血よ」


そう言ってフィアは屍の山を指差した。


「それじゃあ、この子がこれをやったのか?」


ジャックがずいっと身を乗り出してくる。

確かに、この大量の死骸をこの少女が積み上げたのなら、いろんな意味で彼女には聞かねばならないことが増える。


「とにかく、私たちの馬車に戻りましょう。この子が起きたら詳しい事情を聞きましょう?」

「そうだな、もし彼女じゃなかったら、俺たちもあまり街道から離れるのは危険だ」

「ええ、これだけの事をやれる生物など、限られているしね」


フィアが真剣な表情で言うと、抱える少女をしっかりと持ち上げて今まで通ってきた道を戻っていった。


「ジーン、俺たちも帰ろう」


ジャックがその後を追おうとし、振り返ってジーンに呼びかける。


ジーンは死骸の山の横、おそらく少女が倒れていただろう辺りにしゃがみ込んで地面に出来た無数の抉られた後をしげしげと見つめていた。


「5本足……、相当鋭いな……」


ジーンはポツリと呟くと立ち上がり、ジャックのいる所まで戻るとフィアの後を追って少し早歩きで歩き出した。


「5本だ、『奴ら』じゃない……」


歩きながらジーンはあまり響かないように声を小さくしてジャックに話しかけた。

ただでさえ夜は音が響きやすい。

おまけに『奴ら』の主食が近くに積み上げられているのだから、危険な事は明らかだ。


「『奴ら』じゃなければ、いったい……」

「それも含めて、あの子に話を聞かないとな」



怖い……


周りの反応が怖い……





はっ!


チキンになったまま帰ってこれなくなるかと思いました……


え~、そんなわけで始まりました。


ゆっくり、ゆっくりとやりたいと思います。


誤字脱字報告や、ご意見、感想など頂けると感謝の極みなのです。


メンタルがEマイナスの作者ですが、どうぞよろしくなのです。






補足ですが、よくある設定として龍の言葉の中には人間が発音できない、聞き取れない物があります。●●●はそういう感じですので……


あと、人間以外の台詞は<・・・>を使います。


主人公は「今」人間なので普通のカッコを使います。

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