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第一話 お揚げダブルで稲荷付き

ダストスラム。

塵溜街。

ここは世界の最底辺。クズとゴミが最後にたどり着き集まる場所。

ここでは犯罪は無いと言っていい。

ここで悪とは奪う者のことではなく、奪われる者の弱さを指すものだからだ。

ただ、そんなところでも人々は必死に生きていこうとしている。

自らの肉体を売り払ってでも……。


目を覚ましたキツネは首をひねり大きな欠伸をすると指を二回鳴らした。

『残高は?』

キツネが聞くと安物AIが返事をする。

「ニジュウゴ、クレジット、デス」

『25!?ふざけんなよ!入金があっただろ!?』

「ニュウキン、アリマセン、ザンダカ、ニジュウゴ、クレジット、デス」

キツネは一気に目が覚め両手で顔を擦りAIに告げる。

『イマイの奴から入金があったはずだ!』

「ニジュー、ゴー」

無いものは無い。AIの答えも雑になる。

『じゃあ、イマイのヤツを呼び出せ!』

ふざけやがってあの野郎、踏み倒す気か!?たった2000クレジットをか?

「ツナガリマセン、デンゲンガ、ハイッテイナイカ、デンパノトドカナ・・・」

『黙れ!!!』

ポンコツの安物AIはくだらねえジョークで人をイラつかせるくらいしか能がねえ!

キツネはベッドから起き上がり苛立ちをサンドバッグにぶつけながら、苦情はイマイの電脳に直接ぶつけることにした。


「なんだ!?なんだこれ!」

『なんだじゃねえだろイマイさんよ、カクテルの代金が振り込まれてねぇんだけどよ』

「キツネか!?ふざけんなテメエ!勝手に人の電脳にアクセスすんじゃねえ!違法だろうが!」

『ふざけてんのはテメエだろ!違法だと?カクテルの代金を払わねえほうがご立派な違法だろうが!安ダイナーの安ウェイトレスを落としたくてオレ様に頭を下げたのをもう忘れたのか!?』

「テメエだよ!ふざけてんのは!!なにが即効でメロメロになるだ!俺はあのウェイターに唾を吐きかけられたぞ!あと一押しだったのにお前のせいで全て台無しだ!」

『はぁ!?ウェ?ウェイター!?』

「そう言っただろこの役立たずが!また勝手に俺の電脳にアクセスしやがったらテメエの腕をへし折って屑バイオ屋に売り払ってやるからな!」

イマイはそれだけ言って強制的に電脳へのアクセスを遮断した。

あいつ、ソッチ系だったのかよ・・・。


ヒトの血と肉の一部が安価な合成タンパクに置き換えられ、脳のニューロンとグリア細胞に量子細胞を追加し意識とサイバースペースとの境界があいまいになってもヒトの特殊な性癖は変わることが無いらしい。

キツネは舌打ちをし入金を諦めてまた指を二回鳴らす。

『依頼は?』

「・・・・」

AIは答えない。

『依頼は?って聞いているんだけどよ』

「コタエ、ナシ。ツマリ、ゼロデス」

キツネは舌を打ち特注かつ一張羅のレザーコートを羽織り編み上げのロングブーツを履き、マスカレードマスクを手に取った。


これは顔の上半分を覆う物だ。

遥か東の果て、さらに大洋を越えた越えた先にある神々の住まう国がある。そこには全ての物に神が宿っていると言われる地。その大地はもちろん山や川、そして海。そして空には空の神がいて、雨や風にも、雷やそれを発する雲にもだ。海の魚にも山の獣にも神が宿っており、その地には八百万の神々が住まうとされている。

そういう神話というか、御伽噺がある。

このマスカレードマスクはその神々の一つ、狐の神を模したものらしい。白い面に走る赤い文様、そして細く波打つような目。

この男がキツネと呼ばれる所以だ。


安物のクソAIのくせにオレ様を小馬鹿にする性能だけはトリプルSクラスだぜ。

しかし25クレジットじゃウドンは食えねえなぁ・・・。

キツネは手にしたマスカレードマスクを付け家を出た。


『マスター!一杯頼むぜ』

キツネは、とある雑居ビルの一階にあるなじみのウドン屋、明神の椅子に着いた。

「あ?キツネか。クレジットはあるのか?」

明神のマスターは腕を組んだままカウンターの中から言った。

ここウドン屋である明神は店というより雑居ビルの一階に張り付いている屋台と言った方が良いだろう。

シャッターを上げたらそこが店でドアすらないのだ。


『ケチケチしねえでくれよ今月の仕事がさっぱりでさ、ツケで頼むよ』

さすがに、イマイの野郎がゲイだったから払えないと言う気にはならなかった。

だがマスターは無碍に言う。

「ダメだ、そのツケがいくら溜まってるか教えてやろうか?」

『なあ、頼むよマスター。朝から何も食ってねえんだ』

「そうか。よかったな、まだ10時だ」

明神のマスターは腕を組んだままでウドンにも、稲荷にも手を伸ばすことは無かった。

『マスター、意地悪しねえでくれよぉカケでいいからさぁ』

「カケか。サイコロでも振ってみるか?」

『頼むよマスター!この通り!』

マスターにサイコロで勝てるわけがない。キツネがマスターを拝む様に両手を合わせ頭を下げていると背後が騒がしくなってきた。


遠くから怒号が響き聞こえたかと思うと、細路地から一人の少女が走り込んできた。

「オジサン!この辺にキツネって言う電脳探偵の男の人がいるって聞いたんだけど」

なんだ?このクソガキは。オレのメシの邪魔すんなよな。

『あ?電脳探偵のキツネ?そんなの男はこの世に存在しねぇよ』

「その仮面!?オジサンがキツネなの!?」

走り込んできた少女は驚きと希望を混ぜたような顔を向けキツネに言った。

『クソガキ、話を聞けよ。そんな男は存在しない、いいな?・・・あ?何だお前ら』

先ほどの騒がしい怒号の元だろう。細路地から男どもがなだれ込んできた。

人数は六人。


「あ!!」少女が怯え明神のカウンターの奥に身を隠そうとするが遅かった。

「もう逃げられないぞ、おとなしくしろ」

男どもが言った。

「オジサン!助けて!」少女は涙を浮かべた必死な目をキツネに向けた。

『え?やだよめんどくせぇ』

「おい男、ジャマをするなよ、失せろ」

『失せろ?オレは今からウドンを食うんだよ、アホ』

キツネは助けを求める怯えた少女に何一つ興味を持たなかったが、それを追ってきた屈強な男達にも同じく興味がなかった。

だが少女の一言で表情を変える事になる。

「オジサンお願い!クレジットならいっぱいあるから!」

少女がそうと言うとキツネは嬉しそうに顔を向けた。

キツネの顔は狐面で覆われていたがそれは鼻より上だけだ。ウドンが食えるとばかりに口角を上げている口元が覗いている。

『なんだよぁそう言うことなら先に言えよぉ』

ニヤけたキツネが指を1回鳴らした。

「おい、オトコ。チップはモっていってイいさっさとウセッロ」

男たちはキツネに目も向けずに少女の周囲を取り囲んだ。

「オジサン!お願い!!」

少女は必死にキツネに懇願する。だが・・・。

「オンーナをツカまえた……あァそうだ……リョウカイ……キカッンする」

男たちは虚ろな目つきになり背を向けて歩き去って行った。

「え?なに?え?」

少女は歩き去る男たちを見て驚いていた。

『何って助けてやったんだよ。あいつらにオレ様の特製カクテルをブチ込んでやってな、感謝しろよ』


『じゃあマスター!ウドン頼むぜ!』

キツネは待ちきれないとばかりに両手の指でカウンターを弾いた。

「あぁ?ツケを払ってからと言っただろ」

『いやいや、マスター今の見ていなかったの?おいクソガキ助けてやったんだからよ、頼むぜ!』

「お前、こんな子供にたかるつもりか」

『たかってないだろ!助けてやったんだから正当な報酬だよ。おいクソガキ早くしろよ』

「え?でも。え?」

『おいおいクソガキ。デモじゃねえよ。助けてって言ったろ?だから助けてやった。あいつらがデモに参加するために帰って行ったとでも思うか?』

「え、うん。えと、でも・・・」

『デモじゃねえっての。まあそうだなオレ様が何をしたか分からねえだろうな』

キツネはそう言って指を鳴らした。

『オレ様がこうやって指を鳴らせば大抵の電脳にカクテルをブチ込んでやれるんだよ』

「指を・・・鳴らすだけで?」

『そうだよ、オレ様はプロの電脳探偵だからな。いや。プロ中のプロってところだな』

「じゃあオジサンがキツネなのね!?」

あっとしまった。

『まあ、そうだ。だけどなクソガキ!オレはオジサンじゃねえ。まあ、まずは報酬を頂こうかな。』

「え、うん。えと、いくら?」

『ああ、えーと400いや500だ・・・・いや待て!六人も追っ払ってやったんだ一人100で600・・・待て待て!クソガキお前は初めてだからな、初回料込みで700だ!マスターお揚げダブルで稲荷付き!』

「え?700?」

『おいおい助けてもらった後に値切るつもりか?そういうのはよくねえと思うぜ、オレ様の特製カクテルは安くねえんだ』

「いや、あの・・じゃあこれで」

少女がおずおずとチップを明神のマスターに差し出した。

『そうそう、マスター早くしてくれ!』

「ふん、まあいけどなツケも忘れるなよ」

マスターが皿に稲荷を乗せ一玉のウドンを手にしつつチップを受けとるがその手が止まる。

「ちょっと待て、何だこれ」

『おいクソガキ何してんだよ!ケチってんのか?700だよ700』

「えっと、その・・」

マスターが少女から受け取ったチップをキツネに向ける。

『おいクソガキ、偽造チップか?チップの偽造は重犯罪だぞ分かってんのか?あ?これって、なに?え?ええ!?』

「ミリオンチップだ」

マスターは手にしたチップをリーダーにかざし、再び凝視しよく観察してからキツネに渡す。

「本物だな。このリーダーでは中身は見れんが、本物だ」

『ガキ!ちょ、ミリオンチップ?マジか?』

キツネは両手で神妙にチップを受け取り慎重に見つめた。

『マジでミリオンチップかよ、始めて見たぜ、中身は最低でも・・・』

「100万とプラス1クレジットだな」

明神のマスターは信じられんとばかりに小さく首を振った。

『最大だと・・・』

「そりゃあ、10億からマイナス1クレジットだろ」

『こ、これが・・・ミリオンチップ・・』

キツネは出来るだけ触れないように、だが絶対に落としたりしないように両手の指で挟み持ち、息さえ吹きかけないようにヒョットコのお面のように口を横に曲げた。

『って、クソガキ!なにしてんだよ700クレジットだよ!ミリオンチップなんてこんなショボいうどん屋で受けれるわけないだろ!カスみたいなリーダーしかねえんだからよ!変な嫌がらせするんじゃねえ!』

「え、でもそれしかないし・・・」

明神のマスターは皿に乗せた稲荷を戻し、鍋に入れかけたウドンも元に戻した。

『はあ!?なんだ、え?ええ!?ミリオンチップしか持ってないわけあるか!ちょ!マスターなにしてんの?早くウドンを!お揚げダブルで・・その・・・稲荷付き・・・で・・・』

「700クレジットだ。うちはショボいウドン屋なんでな」

『おいクソガキ!700だよ!700クレジット!ミリオンチップしかないなんてウソつくなよ!』

「で、でも、本当に・・」

キツネが少女とマスターを交互に見るがマスターは動かない。

『ああ・・・マスターおねがーい!ウドーン・・・』

「じゃあさ、キツネのオジサン、頼みがあるの。私を次の新月までかくまって欲しいの」

『ヤダよめんどくせえ』

キツネは腕を組み拗ねたようにそっぽを向く。

「もちろん報酬は払うわよ、それでいいでしょ?ね?お願い!」

女の子はキツネが手にしたままのチップを指さして言った。

『報酬はいいけどよ、次の新月?十日かそこらクソガキの面倒を見るだけでミリオンチップをくれるって言うのか?バカ言うなそんなうまい話があるわけないだろ』

「いや、その、さっきみたいな人達に狙われているの。だからお願い!」

『やーだね、オレはそんなバカじゃねえんだよ。クソガキの面倒見てミリオンチップってアホか。オムツを替えて欲しけりゃ他を当たんな』


少女は取り付く島もないキツネに少し落胆の色を見せたところでマスターが割って入った。

「キツネ、受けてやれ」

『マスター?』

「ツケがあるだろお前」

『マスター?ガキのお守りでミリオンチップを貰えるって本気で信じてる?』

「次の新月までなら、まあ5万クレジットくらいなら貰ってもバチはあたらんだろう?その時までに高額チップ用のリーダー用意しておいてやるよ。それでツケを払え」

『マジかよぉこのキツネ様がガキのお守りをするのかよぉ』

「じゃ、オジサンお願いね!」

『クソガキ、オレはオジサンじゃねえ!次にオジサンって言ったらそのたびに500クレジット追加だからな』

「じゃあいっぱい言って報酬を増やしてあげるよ!オジサン!」

「そりゃあいい頑張れよ、オジサン」

『マジかよぉこのキツネ様がクソガキのお守りをするのぉ?で、ウドンは?』

泣きそうな顔をするキツネに明神のマスターは笑顔で首を振る。

『お預け?マジ?ウドーン!』


「ねえオジサン、どこに向かってるの?」

『・・・・』

「ねえちょっと」

『ちょっと黙ってろよ、今は調べ物をしてんだよ』

「調べ物?ただ歩いているだけじゃない」

キツネは両手を腰に当て立ち止まりゆっくりと少女に振り返った。そして少女を指さして聞く。

『お前もオレと同じ電脳探偵様か?』

少女は差された指に対し、それはダメと手の平を向けゆっくりと横に動かした。

「違う」

キツネは悪かったと軽く頷き両手をコートに突っ込んで少女の背丈にあわせるように腰を折り言う。

『だろうな、そうだと思ったよ』

そして再び歩き始めた。

もちろん少女は少しも納得していない。

「ちょっとー!ちゃんと説明してよ!!」

キツネは見せつけるように大きくため息をつき、また振り返る。

『オレ様はプロの電脳探偵だ。やることはきっちりやるし、やっている』

少女は口をとがらせ不満を表してから、ポケットに手を入れチップを取り出しキツネに見せた。

『こんなところでそれを出すんじゃねえ!余計な仕事を増やす気か!!』

「説明して欲しいなあ」少女は素直にチップをしまう。

『分かった!分かったよクソガキ!ったく・・・』


二人は近くにあったバーのテラス席に着いた。

すぐにウェイトレスがやってきて二人の前に立つ。

「あらキツネじゃない?相変わらず暇そうね」

キツネはしまったと顔を逸らした。

『ウカかよ、暇じゃねえよ!仕事中!』

「へえーこんな女の子とぉ?何の仕事かしら」

少女はウカと呼ばれたウェイトレスに会釈した。

「可愛らしい女の子じゃない。キツネがこんな娘と仕事?アンタまさか・・」

『ちげえよバカ!このクソガキは・・その・・』

「その・・何よ」

ウカは不審そうな視線でキツネを見ていた。

『だから・・このクソガキは、マスターに子守りを頼まれたんだよ!』

「マスターに?明神の?子守りを?誰の娘?」

『知らねえよ!マスターに聞けよ』

明神のマスターを名を出されてはウカもそれ以上を聞こうとはしなかった。


明神のマスターと言えばダストスラムの裏の顔役だ。

もちろんダストスラムに表の顔役がいると言うわけではない。

この街で目立つことは厳禁だ。目立つ者は狙われる。ここは誰もが静かに、そして密かに過ごしていく街だ。

それでもこの薄汚い街で店を営んでいる者でウドン屋明神を知らない者はいない。

四方を塞がれ、手も足も出なくなり、絶体絶命となった者は最後の晩餐にと明神に行き、お揚げの乗ったウドンを頼む。

すると四方を覆っていた壁が取り払われ手足の拘束は解け、明日からもメシが食えるようになる。

・・・ことがある。

かもしれない。

と、噂されている。

噂だ。噂でしかない。

もし本当に助けられた者がいたとしてもそれを喧伝することはもちろん、感謝すら表にしてはならないからだ。


ダストスラムの裏の顔役、ウドン屋明神のマスター。

噂では超をいくつ並べても足りないほどの凄腕の電脳探偵だったらしい。

帝政直属の電脳紅衛隊長だったとの噂もある。

そしてキツネはその明神の一番弟子だとか。

そういう噂もある。

真実ではなく、虚偽でもない。

そう、全て噂だ。

そしてキツネがマスターに頼まれたと言うのであればそれもまた噂だ。

この街に真実は必要ない。あるのは欺瞞と虚飾と作為、それと噂だ。


「あっそ、じゃあ何飲む?マスターのとこから来たなら腹は膨れているんでしょう?」

「じゃあ私はベルガモットティーを」

少女は言ったがウカは怪訝そうな表情を向けた。

『ああ、このクソガキにブルーソーダを頼むよ』

キツネが慌てて注文する。

「アンタは?」

ウカがキツネに聞いた。

『オレはいい』

「オレハイイ?何か飲みなよ、ウチの椅子にタダで座って雨が降るまで待っているつもり?」

『ウカ・・仕事中なんだよ・・・』

その一言でウカは察した。

「はいはい、ブルーソーダを1杯ね。ったく貧乏探偵は・・」

ウカは舌打ちしながら注文を済ませ去って行った。

「えっと・・クレジットがないなら私が・・」

そう言って少女がポケットに手を伸ばすがキツネは即座にそれを止めた。

「止めろって!!新月まで!仕事が終わるまで二度とそれは出すな!」

キツネは天を仰いで大きく息を吐いた。


ウカがトレーを手に二人の元へとやってくるとストローの刺さったブルーソーダを少女前に置き、茶色い液体の入った湯飲み茶碗をキツネの前に置いた。

「25」

ウカがそう言うとキツネはポケットから小さなチップを差し出し、それを受け取ったウカは舌打ちを我慢するようにした唇を噛んで二人のテーブルから離れた。


「何これ?」

少女は光り輝く青い液体の入ったグラスを見つめながら聞いた。

『何ってブルーソーダだろうが。それともストローの使い方か?』

「それは?」

少女はキツネの前に置かれた茶碗を指さした。

『ドングリ茶だろ。そこらに生えている椎の木の実を焙煎して・・って知らないのかよ』

キツネがそう言って湯飲み茶わんに手を伸ばそうとすると少女が遮った。

「交換しよ!」

そう言ってブルーソーダをキツネの前に置きドングリ茶を手に取り口を付けた。

「美味しい!」

キツネは満足げな笑みを浮かべる少女の前に肘を突きそこに顎を乗せ聞いた。

『で、名前は?クソガキ』

「え?名前?私の?」

『お前以外に誰がいるんだよ、それとも名前が思い出せないか』

「あ、えっと・・。その・・ルーナ・・・です」

『そうか。じゃあクソガキあいつ等はなんだ?なぜ狙われている?』

「えっと、分からない・・」

『それはどっちの意味だ?』

「えと、両方・・かな?」

キツネはグラスを手に取りストローを咥えブルーソーダを一口飲むと上体を大きく逸らし呆れたようにハァッと息を吐く。

『つまりクソガキ。お前はあいつ等の事は教えたくない、なぜ狙われているのかも教えたくない。それに自分の事も教えたくないのか』

「その・・それは・・・」

キツネは再びテーブルに肘を突いてルーナと名乗った少女を見据えて言う。

『それは別にいい、気にすんな。オレは仕事は完璧にこなす、絶対だ。お前のポケットにそのチップが入っている限りはな』

今度はルーナが視線を反らし言った。

「う、うん。その、じゃあお願いします」

『ああいいぜクソガキ。その代わりオレ様が止まれと言ったら止まれ。走れと言ったら走れ。黙れと言ったら黙ってろ』

「う、うん・・・」

ルーナは一応はそう答えたが不満は隠せていないのは尖らせた唇から見て取れる。


『あのな、クソガキ。お前は次の新月までオレ様に護衛を頼みたいんだよな?』

「うん・・・」

『あと十日あるな。』

「うん・・」

『それまでオレの家で十日間引きこもっているわけにもいかないだろう。クソガキ、オレ様にはお前が何者か分からん。誰に狙われているのかも分からん。もちろんなぜ狙われているのかもな』

「それは・・・その・・」

ルーナは申し訳なさそうに顔を伏せるがキツネは気にせずに言葉を繋ぐ。

『それはいい、気にするな。それはオレ様が判断する。お前が何を言ったところでそれが真実とは限らないからな』

ルーナは憤然とした表情で顔を上げ口を開こうとしたがキツネはそれも遮る。

『そうじゃない。今ここで間違いない真実ってヤツはな。クソガキ、お前のポケットにすげえチップが入っている、それだけだ。クソガキ、お前が何を言ったところで判断するのはオレ様だってことだ。オレはプロの電脳探偵様だ。オレが調べてオレが判断する。あいつらがただのクソガキ好きのロリコン変態ストーカーならいいいんだけどな。クソガキ1人に6人も出してくる連中だ。次は10人かもしれないし20人かもしれん。それはお前の想像以上かもしれない。そんな相手に引きこもるのは危険だってことだ』

「じゃあ次の新月まで歩き続けるつもり!?」

『そうじゃない。相手が何者か分からない、だからオレは街中を歩いていたんだ』

「え?どういうこと?」

ルーナにはキツネの言っていることがまるで分らないが、キツネは嬉しそうな笑みを浮かべて言う。

『オレはクソガキの情報をバラまいて、それに反応するヤツらをピックアップしていたってことだよ』


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