見えなとキケン
やっと完成した。
私の長年の研究が実を結んだ。
これはすごい事になるぞ。
軍事にも使えるだろうし、警察でも有効だろう。諜報機関なんかは特に欲しがるんじゃないだろうか?
とにかく、マウスでは成功したのだ。あとは人間で試すだけだ。
人類初の快挙であるからには、私自身でこの成果を試すのが一番だ。
他の人間で試して、悪さをされてはたまらないからな。
博士は目の前に置かれている瓶を手に取ると、中にそ入っている液体を飲み干した。
よし、外にでてどれ程の効果が発揮されているか確認してやろう。
夜、車が走行していると衝撃が走り、ボンネット部分が破損した。
居眠り運転でもしてしまったかと、慌てて車を停めた運転手が外に出ると、辺りにはぶつかったような物は見当たらなかった。
わけがわからず立ち尽くしていると、微かに音が聞こえた。
神経が一瞬で張り詰め、音のした方を凝視する。が、そこには何もなかった。
聞き間違えか。そう思ったとき、再び音がした。
人の声?
緩みかけた神経が先にも増して張り詰める。
運転手は、恐る恐る声のした方向に進んだ。その速度は秒速1ミリと思える程にゆっくりで慎重だった。
と、つま先が何かに当たった。
しかし、そこには何もない。何もないのにつま先が『何か』に当たっている。
運転手は、動画を一時停止にしたかのように動きを止めていたが、意を決して手を伸ばした。
と、何かに触れた。
生暖かくて、柔らかくて、質量のある『何か』がここにある…。
自分の鼓動がうるさく鳴っている。
これだけ心拍数が上がっていれば、体は熱くなるはずなのに、指先は凍るように冷たい。
喉が渇く。唾を飲み込んだ。
そして『何か』触れてみた。
と、それは人間のようだった。
でも目には見えない。
そんな事があり得るの?
もしそうなら、私は人殺しじゃないか。
運転手は、しばらくたたずんでいたが、何がを思いついたように車に乗ると、その場を立ち去った。
私の研究は完璧だ。完全に透明になっている。
車にはねられ、冷たいアスファルトに横たわる博士の思考は、そこで終わった。




