第9話 自滅
【朝・オフィス】
紗耶が出社すると、三枝の席は空。
しかし、書類が散乱している。
美咲
「紗耶ちゃん……三枝さん、今日は遅刻らしいよ。
珍しいよね」
紗耶
「そうなんですか?
昨日“自分の声に追われてる顔”でしたし……」
美咲
(その表現が怖いのよ……!)
【午前・会議室】
三枝がようやく出社。
髪は乱れ、ネクタイは曲がり、目は虚ろ。
経理部長
「三枝くん、昨日の数字の件で話がある」
三枝
「……っ」
紗耶が横から覗き込む。
紗耶
「あ、これ昨日のファイルと“更新時間が1分だけ違う”ですね」
三枝
「やめろおおおおお!!」
経理部長
「1分……?」
紗耶
「はい。昨日の23:58と、今日の0:59です。
あと、貼り付けた部分だけ“影の濃さ”が違います」
三枝
(影の濃さ……!?)
経理部長
「三枝くん、説明してもらえるかな」
三枝
「……っ」
【総務部・デスク】
三枝が戻ってくる。
顔色は死人のよう。
紗耶
「三枝さん、大丈夫ですか?
今日、歩き方が“足元が崩れそうな人”みたいでした」
三枝
「(やめてくれ……もうやめてくれ……!)」
【昼休み・カフェテリア】
美咲
「紗耶ちゃん……今日の三枝さん、
もう“壊れた後”って感じだったよ」
紗耶
「そうですか?
でも、壊れた後って、
“本当の自分が出る前”ですよね」
美咲
(なんでそんな哲学的なことを天然で言うの……!)
【午後・監査部からの呼び出し】
三枝が監査部に呼ばれる。
社内がざわつく。
社員A
「ついに……」
社員B
「白石さん、全部見抜いてたんだな……」
紗耶
「え? 何がですか?」
社員A・B
「(ひっ……!)」
【監査部・会議室】
監査部長
「三枝さん、これまでの経費処理について説明をお願いします」
三枝
「……俺は……
俺は……悪くない……!」
監査部長
「では、この数字のズレは?」
三枝
「それは……その……」
紗耶が静かに口を開く。
紗耶
「三枝さん、昨日“自分の嘘を信じようとしてる目”でしたよね」
三枝
「やめろおおおおお!!」
監査部長
「……嘘?」
三枝
「違う! 違うんだ……!
俺は……俺は……!」
しかし、三枝の声は震え、
言葉は崩れ、
ついに――
三枝
「……もう無理だ……」
その瞬間、
三枝は自ら“不正の一部”を認めてしまう。
監査部長
「……そうですか。
では、詳しく聞かせてもらいましょう」
【夕方・オフィス】
三枝は席に戻らない。
社内は静まり返っている。
美咲
「紗耶ちゃん……
三枝さん、今日で終わりかもしれないね」
紗耶
「そうなんですか?
でも……
“自分の影に追われてる人”は、
いつか影に追いつかれますよね」
美咲
(紗耶ちゃん……怖い……)
【帰り道】
紗耶はふと立ち止まる。
紗耶
「なんか……
三枝さん、
“自分で自分を追い詰めた人の顔”でした」
美咲
「え、それどういう……」
紗耶
「分かりません。なんとなくです」
その“なんとなく”が、
三枝の自滅を決定づけていた。
――第9話 終わり




