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白石さんの微笑みは、今日も誰かを追い詰める  作者: 双鶴


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8/10

第8話 破綻の音が聞こえる

【朝・オフィス】


紗耶が出社すると、三枝がデスクで固まっている。

目の下のクマはさらに濃く、髪も乱れている。


紗耶

「おはようございます。三枝さん、今日は寝癖が元気ですね」


三枝

「……っ」


紗耶

「昨日より“跳ね方”が強いので、

 寝返りが多かったんだと思います」


三枝

(なんで寝返りの回数まで分かるんだ……!)



【総務部・デスク】


美咲が駆け寄ってくる。


美咲

「紗耶ちゃん……今日の三枝さん、完全に“壊れかけ”だよ」


紗耶

「そうなんですか?

 でも、昨日“自分の影に追われてる顔”でしたし……」


美咲

(その観察が追い詰めてるのよ……!)



【午前・会議室】


経理部長が三枝を呼び出す。


経理部長

「三枝くん、この数字……またズレてるんだが」


三枝

「そ、それは……」


紗耶が横から覗き込む。


紗耶

「あ、これ“上書き保存”じゃなくて“コピーして貼り付け”ですね」


三枝

「やめろおおおおお!!」


経理部長

「コピーして……?」


紗耶

「はい。フォントの太さが微妙に違うので。

 あと、貼り付けた部分だけ“位置が0.2ミリ上”です」


三枝

(なんで0.2ミリなんて分かるんだ……!)


経理部長

「三枝くん、説明してもらえるかな」


三枝

「……っ」



【昼休み・カフェテリア】


美咲

「紗耶ちゃん……今日のは完全に“致命傷”だったよ」


紗耶

「え? 何がですか?」


美咲

「0.2ミリの話よ!

 三枝さん、あれ聞いた瞬間、魂抜けてたよ!」


紗耶

「気づいたので……言っただけです」


美咲

(この子、天然の皮をかぶった精密機械だ……)



【午後・給湯室】


紗耶がコーヒーを淹れていると、経理社員が入ってくる。


経理社員

「白石さん……三枝さん、今日ずっと独り言言ってたよ」


紗耶

「そうなんですか?

 でも、昨日“自分の嘘を信じようとしてる目”でしたし……」


経理社員

(その表現が怖いんだよ……!)


紗耶

「コーヒー飲みます?」


経理社員

「い、いや……今日はやめとく……」



【夕方・オフィス】


三枝が紗耶のデスクに来る。

目は虚ろ。


三枝

「白石……お前……

 俺が何をしたか……知ってるんだろ……?」


紗耶

「え? 何をですか?」


三枝

「……全部だよ……!」


紗耶

「全部……?

 いえ、私、何も知りませんよ。

 ただ、見えるだけです」


三枝

(それが一番怖いんだよ……!)



【帰り道】


美咲

「紗耶ちゃん……今日の三枝さん、

 もう“壊れる直前”って感じだったよ」


紗耶

「そうですか?

 でも、誰かに相談すればいいのに」


美咲

(その“誰か”が紗耶ちゃんだと思われてるのよ……!)


紗耶はふと立ち止まる。


紗耶

「なんか……

 三枝さん、

 “自分の声が自分を追い詰めてる人の顔”でした」


美咲

「え、それどういう……」


紗耶

「分かりません。なんとなくです」


その“なんとなく”が、

三枝の破綻を決定づけていた。


――第8話 終わり


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