第7話 三枝、勝手に孤立
【朝・オフィス】
紗耶が出社すると、三枝の席の周りだけ空気が重い。
誰も話しかけない。誰も近づかない。
紗耶
「おはようございます。三枝さん、今日も早いですね」
三枝
「……別に」
紗耶
「昨日より顔色が白いですね。
照明の反射ですか?」
三枝
「(違う……ストレスだ……!)」
【総務部・デスク】
美咲が小声で話しかける。
美咲
「紗耶ちゃん……三枝さん、完全に孤立してるよ」
紗耶
「そうなんですか?
でも、昨日“自分を守ろうとしてる歩き方”でしたし……」
美咲
「(その観察が原因なんだよ……!)」
【午前・会議室前】
経理社員たちがヒソヒソ話している。
経理A
「三枝さん、昨日の数字の件でまた呼ばれてたらしいよ」
経理B
「白石さんが言ってた“3だけ多い”ってやつ、
本当にズレてたんだって」
経理A
「白石さん、怖いくらい見てるよな……」
紗耶が通りかかる。
紗耶
「おはようございます。
あ、今日のネクタイ、色が揃ってますね。素敵です」
経理A・B
「(ひっ……!)」
【コピー機前】
三枝がコピーを取ろうとしているが、手が震えている。
紗耶
「三枝さん、紙が斜めに入ってますよ」
三枝
「っ……!」
紗耶
「昨日より震えが強いですね。
カフェイン、控えた方がいいですよ」
三枝
「(なんで震えの強さまで分かるんだ……!)」
【昼休み・カフェテリア】
美咲
「紗耶ちゃん、今日の三枝さん……
なんか“誰も信用できない”って顔してたよ」
紗耶
「そうなんですか?
でも、誰かを信用できない時って、
“自分のことも信用できない”時ですよね」
美咲
「(なんでそんな核心を天然で突くの……!)」
【午後・給湯室】
紗耶がコーヒーを淹れていると、経理社員が入ってくる。
経理社員
「白石さん……三枝さん、今日誰とも話してないよ」
紗耶
「そうなんですか?
でも、昨日“自分の嘘を信じようとしてる目”でしたし……」
経理社員
「(その表現が怖いんだよ……!)」
【夕方・オフィス】
三枝が紗耶のデスクに来る。
目の下のクマがさらに濃い。
三枝
「白石……お前……
俺のこと、どう思ってる……?」
紗耶
「どう……?
普通の上司だと思ってますよ」
三枝
「(普通……? 俺は普通じゃない……!)」
紗耶
「ただ……
最近、歩き方が“逃げ場を探してる人”みたいだなって」
三枝
「(やめろおおおおお!!)」
紗耶は本気で心配しているだけ。
【帰り道】
美咲
「紗耶ちゃん……今日の三枝さん、
もう限界って感じだったよ」
紗耶
「そうですか?
でも、誰かに相談すればいいのに」
美咲
「(その“誰か”が紗耶ちゃんだと思われてるのよ……!)」
紗耶はふと立ち止まる。
紗耶
「なんか……
三枝さん、
“自分の影に追われてる人の顔”でした」
美咲
「え、それどういう……」
紗耶
「分かりません。なんとなくです」
その“なんとなく”が、
三枝の孤立を決定づけていた。
――第7話 終わり




