第6話 天然のひと言が致命傷
【朝・オフィス】
紗耶が出社すると、三枝がプリンターの前で固まっている。
紗耶
「おはようございます。三枝さん、プリンター止まってますよ」
三枝
「……分かってる」
紗耶
「昨日の夜、更新されたファイルが多かったので、
プリンターが混んでるのかもしれませんね」
三枝
「(な、なんで“更新された”って知ってるんだ……!)」
紗耶
「共有フォルダの“更新日時”が全部深夜だったので」
三枝
「(見てる……全部見てる……!)」
【総務部・デスク】
美咲が駆け寄ってくる。
美咲
「紗耶ちゃん、経理がまた騒いでるよ。
“数字が合わない”って」
紗耶
「そうなんですか?
あ、でも昨日、三枝さんが“本当の最終版”を作ってましたよ」
美咲
「(その情報、言わない方がいいやつ!)」
【午前・会議室】
経理部長が三枝を呼び出す。
経理部長
「三枝くん、この書類……前回のと数字が違うんだが」
三枝
「そ、それは……」
紗耶が横から覗き込む。
紗耶
「あ、これ“上書き保存”じゃなくて“別名保存”になってますね」
三枝
「(やめろおおおおお!!)」
経理部長
「別名保存……?」
紗耶
「はい。ファイル名の末尾に“_修正版”がついてるので。
昨日の深夜に保存されてます」
三枝
「(なんでそんなことまで……!)」
経理部長
「三枝くん、説明してもらえるかな」
三枝
「……っ」
【昼休み・カフェテリア】
美咲
「紗耶ちゃん……さっきのは完全に“トドメ”だったよ」
紗耶
「え? 何がですか?」
美咲
「別名保存の話よ! 三枝さん、顔真っ青だったじゃん!」
紗耶
「気づいたので……言っただけです」
美咲
「(この子、天然の皮をかぶったスナイパーだ……)」
【午後・給湯室】
紗耶がコーヒーを淹れていると、経理社員が入ってくる。
経理社員
「白石さん……三枝さん、今日かなり追い詰められてたよ」
紗耶
「そうなんですか?
あ、でも昨日のファイル、数字が微妙にズレてましたよね」
経理社員
「ズレてた……?」
紗耶
「はい。前回より“3だけ多い”ところがありました」
経理社員
「(3だけ……そんな細かいとこまで……)
ありがとう、参考になる」
紗耶
「いえ。コーヒー飲みます?」
【夕方・オフィス】
三枝が紗耶のデスクに来る。
顔色は限界。
三枝
「白石……お前……俺を追い詰めてるのか……?」
紗耶
「え? どうしてですか?」
三枝
「……お前、全部知ってるだろ……!」
紗耶
「全部……?
いえ、私、何も知りませんよ。
ただ、見えるだけです」
三枝
「(それが一番怖いんだよ……!)」
【帰り道】
美咲
「紗耶ちゃん……今日のはマジでヤバかったよ」
紗耶
「そうですか?
三枝さん、疲れてるみたいでしたね」
美咲
「(疲れてるんじゃなくて“追い詰められてる”のよ……)」
紗耶はふと立ち止まる。
紗耶
「なんか……
三枝さん、
“自分の嘘を信じようとしてる人の目”でした」
美咲
「え、それどういう……」
紗耶
「分かりません。なんとなくです」
その“なんとなく”が、
三枝の不正を確実に暴き始めていた。
――第6話 終わり




